針葉樹の床は硬く傷つきにくいが冷たく感じる。でも、杉の床は柔らかく傷付き易いけど暖かい。
針葉樹の床は硬く傷つきにくいが冷たく感じる。でも、杉の床は柔らかく傷付き易いけど暖かい。
私の古い友人が結婚しまして、二人はまだ若く、仲間と始めた仕事はまだまだで、お金に余裕は無かったので、安くて古いアパートの二階を借り、新たな新婚生活をはじめたわけです。
古いと言っても、リフォームされていて、傷一つ無いフロリーングの部屋二つと少し手狭な台所、風呂とトイレのそこは、二人にとっては充分な愛の巣でありました。
二人は傷一つ無いきれいな床が気になったので、新婚でもあるし、防音対策も兼ね、少し気張って、厚めのカーペットをひいたのです。
それから一月程たった頃、真夜中になると、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタと板の床を裸足で歩きまわる音が聞こえてくるようになりました。
それは、あたかも、小動物か子供の足音のようでした。
隣か、下の部屋に子供がいて、その足音なのだろうと、二人はさほど気にはしないでいたのですが、こんな時間まで小さな子供を夜更かしさせるなんてと 、いぶかしく思っていました。
毎夜、その足音は続きました。
しばらくすると、どうも、その音は自分達の枕元や布団の回りから聞こえるようだと、二人は気づいたのです。
まあ、二人は鈍いのか、のん気なのか、子供好きだったこともあり、自分達に子供ができたら、こんな風に走り回るんだろうなと想像したりして、さほど気にはしなかったのです。
やがて、仕事も軌道にのり、売り上げや、利益も増え、もっと広いマンションに越せるようになりました。
引っ越しの日に、荷物を全て運び出して、最後に残ったカーペットを剥がしました。
すると、そこには、フローリングの床いっぱいに、足跡が付いていたのです。
とても可愛い小さな足跡が。
そのあまりに可愛く小さな足跡に、それを不気味だとか怖いとかは思わないませんでした。
「これだったんだ」
と二人で顔を見合わせて微笑みました。
マンションに越してすぐ、二人は、赤ちゃんを授かりました。
男の子でした。
今、その子は元気にマンションの床を走り回っています。
もちろん、カーペットをひいていない、フローリングの床の上を。
二人はこう信じています。
あの足跡の主は、産まれるのが待ちきれなったこの子が走り回っていたんだと。