自分、ロリコンですから
いかにも貴族といった初老の男が、憤怒の表情で怒鳴り散らしています。
その声に従い、御付きの兵士が私の両腕を掴んで城の外まで連行します。
「出ていけー!!」
「神は死んだ!? いえ、お慈悲を!!」
「うるせーー!!」
私、バスで出社する途中、異世界勇者召喚で魔王を倒す勇者として召喚されましたごくごく普通のサラリーマンです。
チートですか? いえ、勇者ボーナスですかね? よく分かりませんが、≪結界作成≫≪治癒魔法≫というスキル? そんなことができるようになっていました。他の方も私同様、様々なスキルを手に入れていたようです。
あ、召喚されたのは私を含め、20人ですね。人数が多いのは「たった数人で倒せるほど魔王は弱くないから」だそうです。20人でも少ないのですけど、呼び出せる上限がこれだけだったとか。
で、私はこの世界の現状を知るにあたり、同好の志を集めるべく動いていたのですが……なぜか城を追い出されました。
ロリコンにならないかと、布教していただけなのですが。
異世界は思想制限が厳しいのですね。ロリコンが増えても王政には影響ないと思いましたのに。
さて、初めて見て回る異世界の街並みですが、江戸時代村のような風景です。木造家屋が建ち並び、中世ヨーロッパ風異世界などではありません。街行く人の服装も江戸時代を思わせるもので、西洋風ではありません。
それと異世界語翻訳能力のおかげでしょうか? 見える文字、聞こえる言葉はすべて日本語や簡単な英語になります。人名まで日本語準拠になり、王様の名前が「山田 太郎12世」だった時は思わず吹き出しそうになりました。ちなみにこの国の名前は「山田王国」です。何人かは堪えきれずに噴き出していましたよ。
そんなわけで、観光地に来たような気分になってしまいます。
追い出されたとはいえ、多少の金銭は頂けました。あと、「しばらくここで世話になるように」と宿の手配もしていただけました。
しばらくは生きていけそうです。
そうして王城を追い出され街を歩いて彷徨う事、約2時間。ようやく目的地に着きました。
「ここが王国直轄の孤児院ですか」
周囲と同じく、木造の住居が目の前にあります。周囲に比べ少々古いといった印象を受けましたが、造りそのものが悪いという事はありません。まぁ、日本の住居と比較してはいけないし、木造建築に詳しいわけでもないのでなんとなくで言っていますがね。
玄関先には看板が付いているので間違いありません。
きっと話は通っているはずです。とりあえずドアをノックし、中の人に出てきてもらいましょう。
「すみません! どなたかいらっしゃいませんか?」
「はーい、少々お待ちくださーい」
ドアを叩くと何やら壊れそうな感触があったので、声を上げて呼びかけます。
すると中からすぐに返事がありました。若い女性の声です。
「あらあら、見ない顔ですがどちら様かしら?」
「私はお城の方から、本日よりここのお世話になるように言われた楠木 正一と申します。お話は通っているでしょうか?」
「ええ、ええ。聞いていますとも。さ、中へお入りください」
出てきた女性は大和撫子といった言葉の似合う黒髪美人さんです。歳は私と同じぐらいで20代半ばでしょうか? 素敵な笑顔の女性です。
ただ、この孤児院の経済状況はあまり良くないのでしょうか? 着ている物がぼろい感じで、やつれた感じがしますし、髪や肌の具合も良くありません。あと、口にはしませんけど、ちょっと臭いです。
中に入れて頂きましたが、お茶などは出てきません。当たり前ですね。中世ヨーロッパ系ファンタジー世界のネタではお約束ではありますが、近代以前はお湯を沸かすだけで一苦労なのです。お茶など出せるのは王侯貴族ぐらいでしょう。
土間などではなく、畳の様な物が敷かれた部屋に通され、私達は向かい合って座布団の上に座ります。
「まず、よくおいで下さいました。私はこの孤児院で院長の花村 幸恵です」
「ご丁寧に、どうも」
相手が頭を下げたので、私も頭を下げます。
「まず、私どもの方でも貴方様の事情は聞き及んでいます。なんでも、異世界より参られたとか」
花村院長さんは私の状況を説明されているようです。
色々と省略しますが、私が孤児院に回されたのは私がロリコンだからのようで、王様はちゃんと性癖を考慮してくれたのですね。
で、私を引き受ける代わりにこの孤児院は資金援助を受けるようです。どの世界でも孤児院は資金繰りの厳しい状態でして、渡りに船だったようです。
城の方は勇者として支援するよりもこちらに資金援助するほうが経費が安く済み、孤児院は臨時収入を得て、私は幼女たちの傍にいられる。誰も損をしない、素晴らしいお話ですね。
あと、私は城から追い出された訳ですけど、月に1~2回、城の方から仕事を受けるように言われています。これについては資金援助をしていただいているので当然ですね。仕事をして、給料をいただく。社会人なら当然の事です。無職にならず、ほっとしました。
さて、状況把握が終われば次は顔見せです。待望の幼児&幼女たちとのご対面です。
……が、私は少々失望を覚えてしまいました。
「こんにちは、おじさん!」
「よろしくお願いします……」
「……」
願った通りの、4~10歳ぐらいの子供たち8人がいます。
が、一様に痩せこけていて、子供特有のプニプニ感が失われています。元気がない子の方が多く、幸せそうには見えません。
……いえ、これは日本人の生活レベルを異世界人である彼らに求めてしまっていますね。
これは私の我儘でしょう。この世界の子供たちが日本の子供たちのような環境にないのは当然なのです。ここは日本ではありませんから。
ですが、我儘を通すための力が今の私にはあります。
勇者として得た力。
≪結界作成≫と≪治癒魔法≫です。
これらを駆使して子供たちを、もっと幸せにしてみせましょう。
それが出来ず、何のためのロリコンか。
ロリコンは、世界を救うのです。
手っ取り早く幸せを手に入れるなら、一番分かりやすい方法はお金です。資金援助がどれほどの物か確認しましょう。
「――というわけで、満足な食事を用意することができます」
花村院長さんは笑顔で私にいろいろと教えてくれました。
これまでが辛かった分、救いの手が差し伸べられたことが嬉しいのでしょう。その笑顔はまぶしいと思えるほど輝いています。
満足な食事を用意できなかった今までの屈辱が払拭されるのです。辛い事が減った、食事が増えるという「環境の変化」は分かりやすい幸せですからね。慣れてしまい「日常」になればより上を見てしまうものですが……いえ。幸せの定義などは、今、関係ない話ですね。
ふむ。
まず栄養関係の問題は、私が手を付ける必要がありませんね。任せてしまっていいでしょう。
他の事についても聞いてみます。
「建物の事で困っている事ですか? そうですね、最近は雨漏りが――」
基本的な幸せ計画のうち、大事なのは「衣食住」です。
「食」はお任せするとして、「衣」も後回し。私は「住」に手を出すとしましょう。
とんてんかん。
金づち片手に、屋根の修理をしています。足場は結界ですよ。
最初は屋根の上に結界を張る事も考えたのですが、残念な事に、私の作る結界は時間経過で消えてしまうようなのです。なので、足場として使いますけど屋根にはできません。
それとは別に、お布団を新調しました。中に綿の詰まった、ふかふかのお布団です。子供たちは大はしゃぎしていました。
物で釣ったような形になってしまいましたが、子供たちとの距離が一気に近くなった気がします。
「おにーさん」
「「「ありがとーございます!」」」
天使たちの無垢な瞳に宿る感謝の気持ち。
最高ですね!
……とくに、「おじさん」から「おにーさん」にランクアップしたことが!!
孤児院に来てから一ヶ月が経過しました。
たまに勇者のお仕事で街周辺の魔物掃討に手を貸し、それ以外の時間は孤児院の為に使っています。
私は料理があまり得意ではありませんので、そこはもっぱら花村さんにお願いしています。この世界の調理器具ではお菓子を作ってあげる事すら出来ませんので。……オーブン無しでクッキーを焼く技量など、私には無いのですよー。がっくり。
孤児院内での私の仕事は子供たちのお相手が半分ですが、もう半分の時間でお風呂を作っています。
作っているのは木桶に湯沸かし用の鉄製底板を付けた、いわゆる五右衛門風呂ですね。本家本元とは少々形が違うでしょうが、会心の出来だと自負しています。
余談ではありますが、日本の樽とヨーロッパ圏の樽は形がかなり違います。
日本の木桶や樽が平板を組み合わせて作られるのに対し、ヨーロッパ圏の樽は真ん中が膨らんだ板を組み合わせて作っているのです。
球に近い方が、力学的な面から頑丈な物が作られます。ですが、日本の技術力は平板を組み合わせるだけでそれと同等の強度を持った樽を作ることができるのです。日本の技術力は素晴らしいという事ですね。
「きもちいぃー」
「あついー。あたまがぐるぐるするー」
出来たての湯舟でお風呂を皆で堪能します。
残念ながら私はその場にいませんが。
当たり前ですが、五右衛門風呂は木桶の下で火を焚く以上、相応の危険が伴います。子供たちだけで入るなど以ての外です。
そして孤児院にいる大人は、私の他には女性の花村さんだけ。
どちらが一緒にいるべきか、考えるまでもありませんね?
そんなわけで、お風呂を楽しむ子供たちの声を部屋の外から聞くだけに留めていますが。反応を考えるとおおむね好評のようです。
あとはお湯を用意する手間を軽減できればいいのですけど。残念ながら、それは私の能力の範囲外なのですよね。
頑張って、いずれは魔法でお湯が出せるようになりたいものです。
「あーちゃんのぬいぐるみ―! かえしてー」
「やーだよー。かえしてぐへっ!」
「たーくん!?」
「何をやってるのかな?」
ここに来てから、三ヶ月が経ちました。
資金的に余裕が出てきたということで新しく子供を引き取ったこともあり、孤児院はにぎやかです。
ですが、新しい子供が増えるという事は問題も増えるという事です。
今も6歳の女の子を、8歳の男の子がイジメていました。
無論、鉄拳制裁案件です。
「いたいぃぃーー!! うわぁーーん!!」
「他の子から物を取り上げてはいけません。滅、ですよ」
「うわぁーーん!」
「返事は?」
「うぅ……。ごめんなさい……」
「はい。もうこんな事、しちゃいけませんよ」
頭を叩かれた男の子が大声で泣き出しました。
当たり前ですね。泣かなかったら泣くまで叩くつもりでしたし。
こういった教育、躾けは全力でやるべきです。痛みを知る事、悪行には相応の報いがある事を教えるのも大人の務めです。
もしも幼女が同じように悪さをしたならば、やはり私は同じように振る舞うでしょう。
幼女が悪の道へ行かないようにする。
それもまた、紳士の使命なのです。
こうやって折檻をすると、一時的にですが子供が離れていきます。
ですがほとんどの場合はその日のうちに、また構って欲しいと寄ってきます。
もしも私が悪い事をしていれば離れていってそれまでかもしれませんが、愛情を忘れなければ関係の修復は容易なのです。子供は無垢な生き物ですからね。
異世界に来て、おおよそ1年が経ちました。
私は相変わらず、孤児院に身を置いています。
王様か誰か知りませんが、私はこのまま孤児院においておいた方が都合が良いと判断されたようです。
私の仕事が街周辺の安全維持を中心にしていますので、他の方のように遠方の仕事をしなくていいというのも現状維持が出来る一因です。
もしも少数でこの世界に呼ばれていれば、全員一丸となって魔王退治をしなければいけなかったでしょう。ですが大人数ですので、このように役割分担も可能なのです。戦力の分散などと言ってはいけません。適材適所、致命的な弱点をカバーしつつ相手の急所を突くのは基本戦術です。攻撃極振りで防御無視など、自殺行為なのですよ。
その日の私はいつものように勇者のお仕事を終え、孤児院に戻るところでした。
すると、孤児院の玄関先で花村さんが大きな声で身なりのいい男と言い争っていました。
「ですから! そのような申し出を受けるつもりはありません!」
「貴族に逆らうのか! この平民風情が!!」
どうやら、偉い人の無茶振りのようですね。貴族様ですか。
「一体どうしたんです、天下の往来で」
私は言い争う二人の間に割って入ります。
「何だ貴様は! 関係の無い奴はとっとと消えろ!! それとも何か? そこの女に良い格好をしようという下卑た考えでも持っているのか?」
「そんな考えがさらっと出て来るあたり、育ちの悪さが見えますよね? 野良犬はさっさと路地裏にでも姿を消すといいですよ」
「な! 貴様、この私を愚弄するというのか!」
「必要ありませんね。何もしなくとも、恥を晒し続けていますし。……ああ、申し訳ありません。貴方が今行っている事が、一般的に恥でしかない愚か者の行いと、理解する頭が無いのですね。
無茶を言って申し訳ありません。残念ながら、一般教養を身に付けていない方と喋るのに、私では役者不足のようです」
「き、きっさまぁぁ!!」
男の方が噛み付いて来たので、軽くご挨拶をしてみました。
服はいいものを着ていますが、中身が残念すぎますね。仮にも貴族の従者か何かでしょうに、沸点が低すぎます。きっと大したことの無いお家の方なのでしょう。
「正一さん、挑発のしすぎじゃないですか?」
「いえいえ。挑発の意図など」
目の前で顔を真っ赤にして起こっている男を見て、花村さんの気持ちも落ち着いたようです。人間は自分と関係ない所で怒っている人を見ると、周囲の感情に飲まれるか目の前の人間の反応に一気に醒めるかの2パターンの反応を示しますからね。花村さんは元々落ち着いた方ですし、思った通りの反応を示してくれました。
で、挑発されて激昂する目の前の男が剣を抜きました。
「一応警告です。この場で刃状沙汰は貴方の首を締めますよ」
「煩い!!」
馬鹿男は、抜身の剣で私に切りかかってきました。はい、アウトです。
私は結界で剣を受け止め、相手の首を握ります。
私、外でモンスターの相手をしているのですよ? 素人さんに負けるはず、無いじゃないですか。
「ぐぎぎぎ……」
暴れられるのも面倒ですので、そのまま絞め落しました。
あとで衛兵にでも引き渡しましょうね。
「こいつだ! こいつが私の部下を襲ったのだ! 早く殺せ!!」
「うわぁ。真正の馬鹿ですね。あ、真性の馬鹿でしょうか?」
「侯爵家に! 不敬罪だ!!」
馬鹿男を衛兵に引き渡し、何があったのかを確認してみました。
端的に言えば、ペド野郎が、孤児院にいる子供の一人を寄越せと言ってきたのが始まりだそうです。
この孤児院の子供たちはみんな元気ないい子たちです。
収入が増えたことに加え私が健康状態に気を配るようになり、子供たちは子供特有のプニプニ感を得ています。風呂へ定期的に入るようになったこともあり、見目はかなり良くなりました。
その愛らしさに対し、愚かにも劣情を抱いたペド野郎が目を付けたようなのです。
全滅すればいいのに、ペド野郎なんて。
問題は相手が侯爵家と、それなりに高い地位にいた事。
この国の法律では貴族が平民を相手にするとき、わりと無茶をしても通るようなのです。
今回の件も「憐れな孤児に救済を与える」という名目で引き渡しを命令したようです。
ですけど、平民の中で噂になる程に侯爵の評判が悪く、実際に帰ってきた子供を見ればそれが正しいことは周知の事実で。侯爵家でなかったら当の昔に処罰されているような下衆でした。
そんな奴に、花村さんが子供を引き渡すはずが無かったのです。
今は衛兵を引き連れ、私を暴漢として告発しています。
馬鹿ですね、本当に。
「不敬罪は成立しませんよ、お馬鹿さん」
「ふざけるな! 侯爵家に逆らってタダで済むと――」
「あ、私は勇者ですから。不敬は貴方の方ですね」
「な!? 勇者だと!」
侯爵の連れてきたのは衛兵。つあり私兵ではない、公僕な方々です。つまり、法的に正しい人間の味方でして。
ついでに私達勇者は王様直属の最強戦力であり、いくつもの特権を有しているのですよ。ちゃんと働いていますからね、当然かどうかは分かりませんが、王様直々に認めた権限をいくつも有しているのです。
衛兵さんは顔見知りなので、私の事を知っています。と言うかですね、衛兵さんたち、今は侯爵を捕まえたくてうずうずしていますよ。どんだけ恨みを買っているんですか。
「勇者として証言します。そこの侯爵の使いは、事もあろうに私に切りかかってきました。こちらは平民ではなく勇者であると伝えようと、警告しようとしたのですが、言い終える前に切りかかられまして。
とりあえず、先ほどの男に勇者に対する殺人未遂。ならびに使者程度が無礼を働いたという事で、不敬罪が成立しますよね。
ついでにですが、私を殺せと言っていた男には国家反逆罪を適用します。殺人教唆もそうですけど、部下の失態の責任を取る形で追加で罰を与えておきましょう」
勇者は国が召喚した、貴重な戦力です。
それを殺そうとした場合は、死刑台直行の国家反逆罪が適用できます。もちろんこちらに落ち度があればその限りではありませんが、今回はもう死刑を回避不可能ですね。
いやぁ、権力って怖いですよねー。使う分には頼もしいのですが。
「ふ、ふざけるなぁ!」
勇者相手に馬鹿をやってしまった侯爵は、ブチ切れて私に爆発の魔法を使おうとしました。結構強力な奴で、衛兵たちが取り押さえようとしますが、障壁を展開してそれを阻みます。
それなりに戦えるじゃないですか。ああ、処分されなかった理由の一つは戦力としてカウントされているからですか。お供がいないのも、自分の力に自信があるからですかね。
でもね?
「≪反転結界≫」
こちらは異世界から呼ばれた者なのですよ。それも勇者として優遇されるほどの。
この世界の人間より下の筈がないじゃないですか。弱かったら適当に飼い殺しですよ。
私は古い漫画で見た、結界を応用して作る捕縛陣で侯爵を捕えました。相手中心に壁を作る奴ですね。漫画は防護服を拘束服にする使い方でしたが。
ついでに侯爵が使おうとした魔法も陣の内にしたので、侯爵は自分の魔法で自爆しました。半死半生です。
私が侯爵を無力化したので、衛兵たちは喜んで侯爵を拘束します。お縄ですね。魔法封じの特殊な縄を使っています。
回復魔法である程度傷を癒し、ドナドナされて逝く侯爵を見て、私はやるべき事を思いつきました。
私は衛兵に声をかけ、ちょっと待ってもらう事にしました。上手くいけば、減刑の嘆願も辞さない所存です。
「≪治癒魔法≫」
私は合わせた手を組み、人差し指を立てます。
「ロリ魂――」
指先に魔力を集中。
いえ、ロリ魂ですね。穢れた心を癒す、聖なる力です。
「――注入!!」
「ヒィィーーーー!!??」
そして集めた正しい心を、侯爵のケツの穴に突き刺します。
私の指は寸止めですとも。付きいれたのは、ロリ魂だけです。
ロリ魂を注入された侯爵は倒れてビクビクと震えていましたが、次第に落ち着きました。しかしこれで終わりではありません。ロリ魂はまだペド野郎の邪悪な心を打ち消すほど馴染んでいません。
だから最後の仕上げに、私は足を振り上げ――
「浄化!!」
「!!!!????」
――侯爵の不浄を全力で踏み抜きました。
侯爵は声にならない悲鳴を上げましたが、穢れた魂が打ち砕かれ、清らかなる魂が注入されたのです。その程度の苦痛は、代価として耐えるべきでしょう。
成熟した女性と心を通わせたうえでの使用は認めますが、幼女相手に暴力のまま振るわれる「それ」なんて、存在価値はありません。
幼女性愛変質者死すべし。
心清き幼女愛好家に生まれ変わりなさい。
その後王様に対し、私自身は被害が無かったからと、侯爵の減刑を願い出ました。
罪状が溜まっている、つまり過去に被害者がいたわけですが、それについて私からどうこういう事はありません。私、関わっていませんからね。私が断罪したのは、私が関わった範囲のみです。
今なら訴え出ても、何かされるという事は無いでしょうし。
そうやって決まった刑罰は、お家は問題児を追放するのと罰金で終わりで本人は戦闘奴隷という事で死刑にはなりませんでした。
本来ですとお家断絶、本人は処刑が妥当だったのですから、ずいぶん甘い裁定です。
ですが、甘くてもいいのです。
ペド野郎が死に、1人のロリコンが生まれた。
その方がより多くの幼女を救うことができるのです。それでいいじゃないですか。
この孤児院の衣食住の三要素はずいぶんよくなりました。
また、私達の孤児院を参考に、他の孤児院の運営状況も良くなっています。私が直接手を貸すこともありますし、彼らが自発的にいい部分を見習っていたのがその理由です。一度余裕が生まれれば、そこから少しずつ余裕を増やし、劇的ではありませんけど、着実に改善を積み重ねていけるのです。
他にも、外で頑張っている同僚――私以外の勇者様方ですね――の頑張りにより、モンスターの被害が減っているのも要因でしょう。
そんなわけで、私は安心して子供たちと遊ぶことができます。
もちろん、休みの日の話ですよ?
「にーちゃん、もういっかいー」
「ずるいー! わたしのばんなのにー!」
「じゅんばんー」
子供たちはスキンシップが大好きです。
例えばですが、肩の上に載せて走り回ると大はしゃぎです。ジェットコースターのような感覚なのでしょうね。私もつい張り切って両肩に子供を載せて走り回ってしまいます。
こっそり結界を使っているのは内緒です。さすがに何人も載せて走り回るのは、体力的に厳しいのですよ。若い頃のような無尽蔵と言える体力など無いのです。
これをやるにあたり、問題が一つ。
順番待ちです。
私は一人。
一度にお相手できるのは二人。
子供たちは、たくさん。
一度に全員が寄ってきても、対応できないのです。
本当に全員が来ることなど無いのですが、それでも五人六人と集まってこられれば順番待ちが発生します。できるだけみんなで遊んでいるようにと工夫をしていますが、それでも私の肩の上は人気があります。たまに、喧嘩になります。
こんな時、一度決めた順番は絶対です。女の子がワガママを言って男の子を困らせたとしても、男の子を優先しています。ロリコンは幼女を愛していますが、どんなワガママでも無制限に聞き入れるのは良くない事です。そこはちゃんとします。
ワガママに慣れた女は醜悪ですからね。妥協で堕落させるのはいけないのです。
中には年長者が年少組に順番を譲ってあげたりと、年上の貫禄を見せてくれることもあります。
そんなときはちゃんと頭を撫でて褒めるようにしています。譲ってもらった子にはお礼を言わせるのも忘れてはいけません。感謝を形にするのは大事です。
そんなふうに上手くやっているつもりなのですが、それでも問題は起きるモノなのです。
「そこのアナタ! ワタシにバンをゆずりなさい!」
「ふ、ふぇぇ」
「いいわね! ほら、つぎはワタシのバンよ! はやくしなさい!!」
順番飛ばしをしようとしたのは七歳の幼女。五歳の幼児を押しのけて私の前に立ちました。
金髪幼女が江戸時代ルックというのも違和感が凄いですよね。勝気なツリ目が特徴の、元気いっぱいな子です。
この子は亡国の王女で、それはもうワガママに育てられた幼女です。
モンスターに対処できなくなり国が滅びたのは私達が召喚される前だったのですが、この孤児院には私がいますからね、押し付けられてしまいました。
今日も元気にワガママ放題ですので、教育的指導が必要ですね。
平らな胸を張って自己主張する幼女の頭の上に手を置き、少し力を入れます。
「順番は、守りましょうね」
「あ、や、イタイイタイ」
「貴女は年長者でしょう、下の子を泣かしてはいけません」
「ちょ、やだ、やめて!」
大して力を入れていませんから、そこまで痛くは無いでしょう。御老人への肩もみの方がよっぽど力を入れていますし。
金髪幼女は涙目になり、ギブアップしました。
「ちゃんと後ろに回ってくださいね。並んで、待って。順番飛ばしをせずに自分の番になった時の方が楽しいですよ」
「うぅぅ。ワタシ、おーじょなのに……」
「はっはっは。王女だろうと貴族だろうと、ルールは守るものですよ。いえ、王女だからこそ、他の誰よりもルールを守らなきゃいけません!」
大人しく後ろに回った金髪幼女に一声かけて、順番を飛ばされそうになった幼女を肩に担ぎます。
担がれた幼女ともう一人の体を固定し、人間ジェットコースターの始まりです。きゃーきゃー叫びながらも笑顔の子供たち。実に楽しそうで、こちらも思わず笑みがこぼれます。
その後も人間ジェットコースターを繰り返し、順番が回ってきた先ほどの金髪幼女にも同じことをします。
先ほどまでの我慢を吹き飛ばすような勢いできゃーきゃー言っていました。私の耳がちょっと痛かったのは秘密ですね。
異世界に来て、何年か経ちました。
小さかった子供たちも大きく育ち、孤児院を出ていくことになりました。
卒業? 卒院? 12歳と小学生のような年齢の子供を外に出すのは不本意ですが、彼らはこれから商人の所で丁稚奉公をして、社会で生きていく術を身に付けなければいけません。私の常識でそれを邪魔するのはいけない事だと思います。
今生の別れという訳ではありませんが、それでも離れ離れになる事を悲しみ、みんな泣いています。私も少し涙が溢れそうな気配という奴です。本当に泣いているかどうかは、ご想像にお任せしますですよ。
花村院長については、離れていくことが哀しいと同時に嬉しくも誇らしくもあるのでしょうね。彼女はみんなの母親なのですから。
「「「あおーげばーとうーとしー」」」
巣立つ子供たち全員で「仰げば尊し」の合唱です。花村院長の涙腺が決壊しました。
日本では唄われる事も少なくなったと言いますが、私はこの歌の事を名曲だと思っています。古臭いと言われるかもしれませんが「それが良いんだよ」です。
「「「いざーさらーばー」」」
「うえぇぇん!」
花村院長の口からは、もはや意味のある言葉が出てきません。何か言いたいのかもしれませんが、もうぐっちゃぐちゃです。
気持ちは分からなくも無いのですが、送辞は無理ですね。斯く言う私も、正直、無理です。涙をこらえるので精一杯です。仕掛けた側ですけど、これほどの破壊力があるとは思っていませんでした。
ちょっと離れて、鼻をかんできましょう。
けして涙を隠すためではありません。
場を離れた私が戻ってくると、花村院長の周りに子供たちが集まり、みんなで彼女を慰めています。何というか、どちらが子供か分からなくなるような状態です。
それを見守っていると、子供たちが私に気が付きました。
「おにーちゃん、こっちこっち!」
大きな声で呼ばれたので、苦笑しながらもみんなの所に行きます。花村院長は私の姿を見ると大いに慌て、頬を赤く染めました。
……はて? 一体どうしたというのだろう。
「おにーちゃんは、ちっちゃい子にはぁはぁするへんたいさんじゃないんだよね?」
「当然です」
幼女に欲情するなど、人として間違った感情です。性欲というのは子作りに起因する本能であり、未成熟な体に欲情するのは非生産的であり、法的にもアウトです。
同性愛については産まれてくる性別を間違ったという性同一障害でしたか、ちゃんと理由のあるものなので、私を巻き込まない限りセーフなのですけど。
とにかく、私は変態紳士であって性犯罪者ではありません。
「じゃあ、おヨメさんにする人は、オトナの女の人なんだよね?」
「ええ、そうですね」
質問にはとりあえず答えていますけど、卒業式とは関係が無い話なので、なぜこのような事を聞かれているのか分かりません。
ただ、私の答えを聞いた子供たちは笑顔になり、花村院長は顔を真っ赤にして俯いてしまいました。
「おにーちゃんは、ずっとこのこじいんにいてくれる? みんなのおにーちゃんでいてくれる?」
「ははは。そうですねー、その心算でいますよ」
「じゃあじゃあ、わたしがおっきくなったら、おヨメさんにしてくれる?」
「あーちゃんがおっきくなったら、ね。その時の私に恋人がいなければ、お願いしますね」
経験上、子供というのは大人の異性に惹かれるものです。しかし何年も経てば同年代を求めるようになり、私への慕情は無償の愛を求める、保護者を求めるような感情であると気が付くのです。
この娘以前にも同じようなお願いをしてきた娘はいますが、10歳を数える頃にはそういった事を言わなくなります。
ですので、「今は駄目ですよ」とだけ付け加え、話を有耶無耶にします。
私の答えに満足した幼女は、ここでクリティカルな質問を重ねてきました。
「じゃあ、もうおっきいオトナのいんちょーせんせいなら、もうおヨメさんになれるよね!」
「……お嫁さん、お婿さんになるには、愛が必要なんですよ。ですから、恋人同士ではない花村院――」
「じゃあだいじょうぶだよ!」
ようやく話が繋がったのですけど、実に答えにくい質問をされてしまいました。
なんとか有耶無耶にしようとしますが、子供たちは「愛があれば大丈夫」と答えだけ聞ければ満足だったようです。私としては話が繋がりきっていないのですけど、子供たちはこれで話がまとまったと決めつけています。
正直、花村院長さんは良い人です。
私のようなロリコンは、偏見の目に晒されるのが常なのです。いくら変態犯罪者とは違うと言っても、容易にそれを受け入れられないのです。同一視し、犯罪者扱いするのです。
ですが花村院長にはそれが無く、私に対しても微笑みかけてくれます。
私には、過ぎた人だとばかり思っていました。
花村院長――いえ、花村幸恵さんは、子供たちに囲まれ逃げることも叶わず、羞恥に顔を赤く染めて私の方を見ました。
期待して、いいのでしょうか。
ここまでお膳立てされ、何も言えないようでは勇者ではありませんよね。
私は意を決して幸恵さんに手を伸ばします。
「花村幸恵さん。私の妻に、なってもらえませんか?」
いきなりプロポーズして、どうするんですか私は!
その前に恋人からでしょうが!
唐突すぎますし、言うにしてももっと空気を読んで場を整えて、ああもう! パニックですよ!!
「はい。喜んで」
ですが、私のそんな言葉にも幸恵さんは応えてくれました。
私の手を取り、包み込んでくれます。
子供たちの「きゃー!!」という歓声ももう聞こえません。私の頭は一杯一杯で、すでに施行放棄状態です。いえ、思考放棄状態です。
思わず幸恵さんを引き寄せ抱きしめてしまいましたが、そこから動くことができません。なんとか「ありがとうございます」とだけ言えましたが、それ以上は無理です。
子供たちよ、そこで「きーす、きーす!」と唱和されても応えませんよ。ええ、応えませんとも。
衆人環視の中でキスするほど、私の恋愛経験値は高くないのです。
「これからも、一緒に子供たちを見守っていきましょうね」
幸恵さんの声が、私の耳に届きました。
ええ、そうですね。
だって私は――ロリコンですから。