交換の館
重い鉄の扉が、軋みつつ開いた。
ここは交換の館。
自らの何かを代償とし、自らが欲するものを得るための館。
今日、私が来たのは、私のためではない。
彼氏のためだ。
「さあ、待っていたわよ」
建物はひたすら廊下だけしかない。
外の見た目は京都の鰻の寝床のような感じであるが、明らかに建物何個分かという長さを歩いている。
声が聞こえたのは、疲れを感じ始めた頃だ。
突然、無限に続いていると思った廊下の左手に扉が現れた。
「お入り」
声からだけでは、女性としかわからない。
そんな声に導かれるように、一人での扉が開く。
私は意を決して、その扉を開けた。
中は6畳ほどの部屋になっていた。
わずかに何かの香料の香りがする。
「さあ、そこに腰掛けて」
部屋の中は椅子2脚に机1台だけだ。
あとは天井から裸電球が1つぶら下がっている。
「今日はどんな用件なのか、もう私は知っている。彼氏のことだね」
ニタァとしかめっつらな笑顔を見せ、その人、この館の主人は言った。
「はい」
恐る恐る椅子に座る。
全く座る人のことを考えていない、とてつもなく冷たく、硬い椅子だ。
「あなたは、最愛の彼氏を、現代医学では救えないと信じている。そして確信している」
「はい」
誘導尋問のようだ。
でも、自然と答えてしまう。
「ふぅむ、なるほどねぇ」
男女の交わりは、いつでも楽しいものだねぇと、その人は言った。
「それで、繊維性筋腫、それも劇症型、だねぇ」
「はい」
それが何かは私は知らない。
でも、病院で言われた診断名をそのまま言われたものだから、彼女ならという気持ちが湧き出てくる。
「これは不治の病の一つと言われているねぇ。そもそも筋腫のようになった後、それが繊維となり血管内へ流入ぅ。全身くまなく発症するっていうシステムさぁ」
知らない私のためだろうか、でも独り言のように言い続ける。
「これはちょっと大きい願いだねぇ。代償も大きくなるよぅ?」
「構いません」
私はそのときようやく彼女の顔を見た。
黒いフードの下は見えない。
だが、全身黒色、皮膚でしら、漆黒で覆われている。
「よろしぃ、では今回の代償は」
君の腕だよと彼女は言った。
そこからの記憶はない。
私はベッドの上で横たわっていたからだ。
車にはねられたらしい。
相手は逃げ、見つかっていないそうだ。
そして、不思議なことも起こった。
彼氏の病気がみるみる間に回復したのだ。
医者も匙を投げるところだったので、どうして回復したのかわからないという。
私はというと、車の事故の際に、利き腕の逆の左腕が、肩関節からすっぽりと抜けてしまった。
リハビリをしているが、それは彼氏と一緒にしてもらっている。
どうして助かったかは彼氏には言っていない。
交換の館は、本当に交換してくれたようだ。
私の腕を代償にして、望みを叶えてくれた。




