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交換の館

作者: 尚文産商堂
掲載日:2015/10/31

重い鉄の扉が、軋みつつ開いた。

ここは交換の館。

自らの何かを代償とし、自らが欲するものを得るための館。

今日、私が来たのは、私のためではない。

彼氏のためだ。


「さあ、待っていたわよ」

建物はひたすら廊下だけしかない。

外の見た目は京都の鰻の寝床のような感じであるが、明らかに建物何個分かという長さを歩いている。

声が聞こえたのは、疲れを感じ始めた頃だ。

突然、無限に続いていると思った廊下の左手に扉が現れた。

「お入り」

声からだけでは、女性としかわからない。

そんな声に導かれるように、一人での扉が開く。

私は意を決して、その扉を開けた。


中は6畳ほどの部屋になっていた。

わずかに何かの香料の香りがする。

「さあ、そこに腰掛けて」

部屋の中は椅子2脚に机1台だけだ。

あとは天井から裸電球が1つぶら下がっている。

「今日はどんな用件なのか、もう私は知っている。彼氏のことだね」

ニタァとしかめっつらな笑顔を見せ、その人、この館の主人は言った。

「はい」

恐る恐る椅子に座る。

全く座る人のことを考えていない、とてつもなく冷たく、硬い椅子だ。

「あなたは、最愛の彼氏を、現代医学では救えないと信じている。そして確信している」

「はい」

誘導尋問のようだ。

でも、自然と答えてしまう。

「ふぅむ、なるほどねぇ」

男女の交わりは、いつでも楽しいものだねぇと、その人は言った。

「それで、繊維性筋腫、それも劇症型、だねぇ」

「はい」

それが何かは私は知らない。

でも、病院で言われた診断名をそのまま言われたものだから、彼女ならという気持ちが湧き出てくる。

「これは不治の病の一つと言われているねぇ。そもそも筋腫のようになった後、それが繊維となり血管内へ流入ぅ。全身くまなく発症するっていうシステムさぁ」

知らない私のためだろうか、でも独り言のように言い続ける。

「これはちょっと大きい願いだねぇ。代償も大きくなるよぅ?」

「構いません」

私はそのときようやく彼女の顔を見た。

黒いフードの下は見えない。

だが、全身黒色、皮膚でしら、漆黒で覆われている。

「よろしぃ、では今回の代償は」

君の腕だよと彼女は言った。


そこからの記憶はない。

私はベッドの上で横たわっていたからだ。

車にはねられたらしい。

相手は逃げ、見つかっていないそうだ。

そして、不思議なことも起こった。

彼氏の病気がみるみる間に回復したのだ。

医者も匙を投げるところだったので、どうして回復したのかわからないという。

私はというと、車の事故の際に、利き腕の逆の左腕が、肩関節からすっぽりと抜けてしまった。

リハビリをしているが、それは彼氏と一緒にしてもらっている。

どうして助かったかは彼氏には言っていない。

交換の館は、本当に交換してくれたようだ。

私の腕を代償にして、望みを叶えてくれた。

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