接客
入り口には小さな車いすに乗った女の子がいた。顔も腕も細く、痩せこけていた。枝のような腕を必死に動かし、車いすをそのままレジの前へと進めてくる。額に玉のような汗をかき、息を切らして。その顔には見覚えがあった。四年前にごみ箱の近くで転んだ女の子だ。背は少し伸びていた。女の子はしばらく俺の顔を見続けた。まるで、幽霊でも見ているかのように、目を丸くして口はポカンとあいていた。
俺もじっと見返す。懐かしい。それと同時に、なにか欠けていたものが埋まっていくような気もちになる。探していた。ずっと求めていたような。そんな奇妙な感覚。四年ぶりのはずなのに、彼女が近くにいることに、全くと言っていいほど違和感はなく。
ただあったのは静かな安定感だけだった。
彼女は言葉を探すように、視線を泳がす。口を開いてはなにかを言おうとするが、何も言わないまま、口は閉じ、俯く。
俺もなにかを言おうとした。けれど何を思い浮かべても、納得のいく言葉は見つからず、同じように口がぱくぱくと金魚のようになってしまい、おかしくて噴き出してしまった。女の子も同じようにくすくすと笑う。
しばらくお互い笑いながら、先に言葉を発したのは彼女だった。
「腕、大丈夫だった?」
そういえば、重要なことを確認していなかった。
店長は『娘が死んだ』とは、一言も言っていなかった。
目の前の彼女は笑顔だった。俺は今にも泣き出してしまいそうだった。
あわてて後ろを振り向く。奥歯をかみしめ、涙腺が緩まないように必死だった。なにかを答えようにも涙声になってしまいそうで、煙草の棚をひたすら睨みつける。今、目の前にあるのはあの一カ月の中で一番思い出深い番号の棚だった。ゆっくりとそれへ手を伸ばす。多分、今の自分の顔は、とても見せられたものではないだろう。
そう言えばポテトが安かったんだ。財布には今いくら入っていただろう。
そんなことを考えながら、八十一番の棚をつかみ、かたんと動かした。