澄丘幼稚園
矢田が同じクラブで活動すると、当然一緒に過ごす時間が増えた。そして、私は彼女に救われることがしばしばあった。
「今日は幼稚園か。」
「楽しみー!」
「そうか、良かったな。」
「桜ちゃんも楽しもうよー。
一ヶ月に一回しかないんだよー。」
「違う。一ヶ月に一回もある。」
こんな事を言っているうちに今回手伝いをする幼稚園に着いてしまった。
杉内「今回手伝わせて貰うのはここだ。」
澄丘幼稚園と大きな字で門に書いてある。私はゲンナリしながら部長で3年の中山に聞く。
「部長…今回はどのくらいの手伝いをすればいいんですか。私は子どもと遊ぶのではなく、雑用全般でいいです。」
「長谷川、お前本当に子ども苦手だな。子どもと触れ合うのもクラブの大切な活動の一つなんだよ。ほら、雫ちゃん見てごらん。」
見てみると、矢田はいち早く子どものもとに駆け寄り一緒に遊んでいる。
「すごいな、矢田…」
「はい、長谷川副部長も行った、行ったー!」
「ひぃ、部長!」
子どもがわらわらと近付いてくる。
こうなったら、仕方がない。
品定めさせていただく。
…よし、あの大人しそうな女の子と遊ぼう!決めた。
その子のところへ行こうとすると、やんちゃそうな男の子がわたしの道を遮った。
「おねぇちゃん、鬼ごっこしようぜ!おねぇちゃん鬼ね!」
「ちょっ、わたし運動は…」
「みんなー!このおねぇちゃん鬼ー!逃げろー!」
やばい 面倒なことになった。
どうしよう。でも、ここは参加しないとダメか…
「ま…まてー」
「キャーーー!」
子どもたちが走り回る。
まるで捕まらない。
とりあえず、誰かにバトンタッチしないと…そう考え必死に走る。
そこに逃げ遅れた女の子がいた。
あの子に代わってもらおうと思い、追いかける。
すると、その子はつまづいたのだろうか、大きくこけてしまった。
「え…はっ!大丈夫!?」
大きく泣き出す女の子と動揺する私
怪我をさせてしまった。
いたいけな女の子に…
混乱と罪悪感で動けない
どうしよう。
私まで泣きそうだ。
とりあえず、怪我を治さないと…
すると
「どうしたの!?大丈夫?」
独特な安心感のある声がした。
「矢田…どうしようどうしよう
怪我させちゃった。血が出てるよ。どうしよう」
「焦らないで、桜ちゃん。とりあえず先生呼んできて。」
矢田は全く泣き止まない子どもに話しかける。
「痛かったね。大丈夫だよ。すぐに先生が来るから、その前に足を綺麗にしようね。」
矢田が子どもを抱えはしる。
私は先生を呼んだ。
先生「ちょっと擦りむいていただけでした。大丈夫ですよ。あなたも大変でしたね。」
「いえ、私が…私のせいで本当にごめんなさい。」
「ははは、こんなことはよくあることだからそんなに気を負わなくてもいいんですよ。」
先生はそう言ってくれたが自分の情けなさを感じて苦しくなる。
ちゃんとあの子に謝りに行こう。
見てみるとあの子は矢田と一緒に遊んでいる。
「あ、あの。」
「あ、桜ちゃん。」
「その子に…」
女の子がこっちを向く。
「さっきはごめんね。怪我させちゃって。」
「ううん、いいの!おねぇちゃん遊んでくれてありがとね!」
なんて、いい子なんだ。
涙が出そうになる。
「え、桜ちゃん?泣いてる?」
「泣いてない。
そうだ、矢田…助けてくれてありがとう。」
「そんな、お礼なんていいんだよ。」
と矢田はとびきりの笑顔をくれる。
そのあと子ども達と遊んで、忙しいながらも充実した一日を過ごすことができた。
「おねぇちゃんたちまた来るよね?」
「また来るよ。」
「また一緒にあそんでね。」
「うん、約束する。」
幼稚園が遠ざかって行く。
子ども達はまだ手を振っている。
「それにしても桜ちゃん子ども慣れしてないね。今まではどうしてたの?」
「雑用とかしてた。」
「もったいないなー。そもそも桜ちゃんってどうしてこのクラブにしたの?高1で副部長だし。」
「このクラブに入ったのは誰かの役に立ちたかったから。人と話すのは苦手だし、目つきが悪くていつも怖がらせてしまう。だけど、直接話さなくても手伝いはできる。
あと副部長は基本誰もやりたがらない。うちのクラブ、会計や書記いないから雑用は全部副部長に回される。だから、3年生はもちろん誰もやらないし、激しい押し付けあいになる。」
「押し付けられたの?」
「うん、まぁ、そうかも。でも、予算を計算するのも企画を決めるのも人数分配するのも慣れたら苦じゃない。雑用は得意だし、それくらいしか役に立てない。」
「そんなことないのに。」
雫がボソッと呟く。
桜にはよく聞こえなかった。
「それにしても今日は桜ちゃんの色んな顔が見れて楽しかった!」
「なんだそれ。」
「焦ってたねー。桜ちゃん。あんなに動揺している姿が見られるとは
!」
「やめろや。」
「桜ちゃんって勉強も出来るし、クールなイメージあったからさ。まぁ、運動できないけど。焦ってるのがちょっと可愛いなって思ったよ。」
「運動は関係ないだろ!
矢田はしっかりしてるけど、時々抜けててとんでもない事しでかすよな。あと、運動が得意、勉強全然できないけど。」
「私中学までは一応運動部だったから!勉強出来ないのは言わなくていいの!」
「お馬鹿矢田ー」
「もう!桜ちゃん!」
そう言い争いながらも二人はくすくすと笑い合った。