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あの日  作者: あり
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彼女が彼女の名前を呼ぶとき

矢田と出会った日は今でも鮮明に覚えている。

私の学校は中高一貫の女子校だ。矢田は高校からの入学生だった。しかし、クラスは違い、知り合ったのは矢田が私の所属するクラブに入ってからだ。


*志乃は桜のクラブ共通の友人


「なぁ、桜」


「どうした、志乃」


「うちのクラスにさ、大人しそうな子が入って来たんよ。」


「へぇ。」


「なんかボランティアクラブ入りたいらしいよ。」


「ふーん。」


「どうせ、内申上げるのが目的でしょ。それしか思い付かん。」


「そんなに僻むなよ志乃。もしかしたらめっちゃいい子かもしれんよ。」


なんて言いながらもそれほど興味もなく、私はその話があったことすら忘れてしまっていた。


そして、ある日矢田に出会ってしまった。


「高校から入って来ました矢田 雫です。中学では雫ちゃんとかシズルンとか呼ばれてました。どうぞよろしくお願いします。」


とても、綺麗な子だった。肌の白さと優しげな眼差しが印象に残る儚い美しさだった。


一目見て心が奪われた。


「「よろしくー!」」

と、クラブの子達が叫ぶ。


「シズルンー、こっちこっち!」


「あれ、志乃仲良くなってるじゃん。」


「まぁ、同じクラスだしね。あんたの言った通りそんな悪い子じゃなかったし。」


「そうか、悪い子じゃないのか。」


矢田 雫が走ってくる。


「志乃ちゃん、今日は一日よろしくね。クラブのこと教えて!」


「うんうん、分かってるって。それよりちょっと紹介しとくよ。この人うちらの同級生で2組の長谷川 桜。一応副部長だし、私よりはクラブのことに詳しいから聞いてね。」


「よろしくねー。」


「こちらこそよろしく。」


「あっ、なんか顧問の杉内に呼ばれてるー!桜!シズルンをよろしく頼むよー!」


「え、ちょっまっ」


志乃が行ってしまった。

二人きりか…とりあえずクラブの説明でもしよう。


「活動日は週3日の月、水、金。内容としては、まぁ幼稚園の手伝いが一ヶ月に一回、そんで他は募金活動や…」


「へぇ、幼稚園の手伝いがあるんだー。」


「興味あるの?」


「うん、子ども好きだから。」


「そっか。」


「長谷川さんは子ども好き?」


「あんま好きじゃないかな。うるさいし手がかかるからな。」


「随分正直なんだね。ふふ。

あっ!そうだ、長谷川さんのこと桜ちゃんって呼んでいい?」


「いいよ。」


「桜ちゃんもさ、私のこと好きなあだ名で呼んでね。」


「あだ名か。」


「そんなに悩まないでもいいんだよ。雫とかシズルンとか。」


「わかった。じゃあ、矢田。」


「矢田かぁ。えっ、矢田!?」


「うん、矢田。」


「苗字で呼ばれることなんて先生以外なかなかないよ。ふふ。やっぱ桜ちゃん面白いね!」


そのとき私の心を占めていたのは、少しの独占欲だったのかもしれない。


皆と同じようにあだ名なんかで呼びたくなかった。なんでもいい、彼女の「特別」が欲しかったのだ。


そうして今でも私は彼女を矢田と呼んでいる。

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