防衛八十回目
「どこにいたんですか!心配したんですよ!」
「そうかアシュカ。そんなどうでもいいことは後でいい。戦線はどうなっている?」
「どうでもいいって何ですか!こっちは捜索隊まで出して死に戻りした人員もいるんですよ!」
「すまんな。で?戦線は?」
「あああ!もう!・・・はぁ、戦線の詳しい状況はメシュリカ様に聞いてください。情報が集中して指示を出しているのはメシュリカ様ですから」
溜め息を吐きつつもしっかりと情報をくれるアシュカ礼を言うと再び溜め息で帰ってきた。
首をかしげながらアシュカの後ろを付いていくと、少し立派な天幕に案内される。
「よかった。無事でしたか」
「今の戦況ってのはどうなってるんだ?」
「はぁ、最初に聞くことがそれですか。心配をかけてごめんなさいぐらいは言えないんですか?」
「心配かけてすまない。で戦況を教えてくれ」
「・・・今の戦況は冒険者の方はよく分かりませんが、私達は先ほど外まで押し戻されてしまいましたね。今は狭い出入り口で戦闘をせざるを得なく、相手の方が地の力は強いのでなかなか突破できない状況です。魔法の援護をしようとすると長物の武器で要塞内からけん制をしてきています」
「OK。蹴散らせばいいんだな」
「違います。あなたはここで少し休んでいなさい」
手をパンパンと叩きながらそう言うと2人のエルフに押さえ込まれ、魔法で強制的に眠らされることとなった。確かに自分では分からない程度には疲労が蓄積していたみたいだったが、もう少しやり方って無かったんですかね。意識を失う直前まで要塞内の出来事が頭をよぎって全力で警戒を続けたじゃねえか!
もろもろの文句は起きた後メシュリカに告げることになった。
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「で?俺が寝てる間にどうしたって?」
「・・・」
「黙ってたら分からんだろう?さあ、どうしたって?メシュリカ様」
「・・・に・・・した」
「聞こえんな」
「戦況を見誤って部下が次々と死に戻り。戦線が後退しました!」
剣戟を交わす音や、魔法の爆音、人の悲鳴や怒号がメシュリカのいる天幕まで聞こえてくる。
20分も寝ていなかったはずだ。その僅かな間でここまで戦況が悪化するとは・・・。
「前線に強い敵でも出てきたのか?」
「いえ、なぜか抵抗してくるドワーフの数が急に増えたようで、数の有利による特攻戦術で攻めてきましたね。これがドワーフじゃなくて他の種族であれば魔法で一掃出来たのですが。ドワーフは体力耐久共に高いですから」
「しかもどこかで復活してるみたいだからな。死に戻りに回数制限のあるあたりがずいぶんと不利だな」
「けど1対1での戦闘ならばこちらに分がありますが、多数対1ですと次の魔法を使うまでのインターバルでやられてしまう方が多いですね」
一部を除くと、大抵のエルフは打たれ弱いからな。
そのうえ、魔法を使うにはそれなりに集中しなくちゃいけないらしいから接近戦をしながらだと難しいらしい。
気の弱い奴だと接近してくる敵を見ただけでテンパってしまい魔法が使えなくなるとか。
天幕に慌しく入ってきたエルフの男女が良くない報告を次々としていく。もはやここが堕ちるのも時間の問題だろう。
まあ、囚われるとかじゃなければあの死に戻りが出来るアイテムでウッドロックの町まで撤退が出来そうだが。
「メシュリカ様!そろそろこの場を引き払いましょう!このままだとドワーフ達に飲み込まれてしまいます!」
「・・・ではティーアの部隊はこの拠点にある物資を町の中へと運んでください。他の方々は時間稼ぎをしましょう」
「ティーア、メシュリカ様を無事ウッドロックの町まで送ってくださ――」
「いえ、私もこちらで足止めをいたします」
逃げるよう促す男の言葉を遮り、kの場に残ると宣言したメシュリカに、周囲のエルフ達は止めるための言葉を投げかけているが本人の意思が固くどうにもならない。
エルフの秘宝とやらで死に戻りが出来るんだから好きなようにやらせればいいとは思うんだがなぁ・・・。
「わかりました。妥協案としてメシュリカ様はウェイルズ殿の指示に従ってください」
は?なんか急に巻き込まれたんだが。
困惑しているうちに話はどんどん進んでいってしまい、最終的にはアシュカとその上司のライトル、メシュリカとパーティを組まされていた。
「なあ、なんで俺が巻き込まれてるんだ?」
「実力的な問題です。報酬はちゃんと弾みますよ」
「違う。問題はそこじゃない」
「そうです。彼は私達の軍の者ではないのですから、本来は従う義務はないのですよ?それなのに強引に・・・」
「それもそうだな。じゃあ俺はこの辺で」
「ウェイルズさんお願いします!頑固なメシュリカ様はもうどうしようも無いので、護衛をしなくちゃいけないんです!ここは町を守ると思って手伝ってください!」
アシュカに凄い勢いで泣きつかれてしまった。正直町が崩壊しないでアリシアを守れればいいのだが、死に戻りも出来るんだし問題はないだろう。
「死に戻り出来るんだろ?だったら問題ない」
「・・・ウェイルズさん」
メシュリカに呼ばれたため振り返ると。口を俺の耳元に寄せて、
「実は、ウェイルズさんを探すとき、捜索隊にけっこうな被害が出たんですよ。幸い全員に【蘇生珠】を持たせていたため死人は出なかったのですが、【蘇生珠】を作るのもただじゃないんですよ」
「・・・かかった料金分働けって事か」
「理解が早くて何よりです。大丈夫ですよ。ちゃんと護衛をしてくだされば帳消しにしますし、報酬も支払いますから」
浮かべた笑みをそのままに天幕を出て行くのをライトルとアシュカの二人が慌てて追いかけて行くのを見送ってから、ゲッソリとした顔でしぶしぶついていくのであった。
「ふん!」
振りかぶった両手剣を振り下ろし、防御のために掲げられた斧を強引に破壊しながらドワーフの脳天へと叩き込まれる。
取り出した予備の武器防具は今まで使っていたものとは比べ物にならないぐらい性能が落ちてしまっているため、ドワーフは気絶したがまだ息があるようだ。
素早くロープで縛り上げるとその辺に転がしておく。
転がした奴は物資運搬中の奴らが捕虜として運んでいっている。
たまに流れ弾で傷を負っているようだが、今のところ死に戻りした奴はいないみたいだな。
「『ソーンスプラッシュ』」
鋭い棘のついた茨が濁流のようにドワーフ達に押し寄せると次々に絡みつき、傷を作りながら押し流す。
茨が消えた後には、立ち上がろうとするボロボロになった鎧を着たドワーフ達の姿。
そんな格好の的を見逃すわけも無く、矢に頭を射抜かれるか各種魔法で消し飛ばされるかして一掃された。
「今のうちに回復しなさい!次はすぐに来ますよ」
しかし、ドワーフ達は波が引くように次々の要塞の中に戻っていき、それの援護のために一掃銃弾を放ってくる。
弾き損ねた一発がメシュリカの髪を何本か引きちぎりながら後方へと飛んで行き、アシュカとライトルがよりいっそうメシュリカの周りを固め、危害が及ばないようにしていた。
「あなた達は前に出すぎです!私もしっかりと前に出してください」
「メシュリカ様!わがままを言う場所を考えてください!」
メシュリカが何かを言おうと口を開いたが、それが言葉になる前に後方から大きな叫び声が聞こえてきた。
思わず振り返ると、レッドキャップの集団が背後から強襲を仕掛けてきている。
護衛に残したはずのエルフは肩を噛み千切られ、体を爪で引き裂かれて地面に転がる。一応物資を運んでいるメンバーをその身で守り抜いているみたいだ。
「アシュカ。ライトル。この場は任せたぞ」
返事を聞く前に大剣を構えながらレッドキャップの集団めがけて走り始めた。
集団の中央に飛び込みながら大剣でなぎ払い、暴れまくる。
すぐに戦意を喪失したレッドキャップ達は散り散りになって逃げ去っていく。
その中の一体が突如大きな足で踏み潰され、光の破片を撒き散らして消えていった。
大地を踏みしめる巨大な足を見上げると、醜悪な顔を持つジャイアントの全貌が視界に収まる。
木々をなぎ倒しながら図体のでかいモンスターが姿を現し、逃げるレッドキャップを蹂躙。魔法で攻撃を加えたエルフも踏み潰しなぎ払う。
エルフの足を掴み、楽しげな顔で振り回すトロールの顔面に大剣を叩き込んで仰け反らす。
仰け反ったトロールはまだ健在なエルフ達の魔法によって消えていった。
「物資を運ぶのは今もっているものだけにしなさい!他のものは破棄します。他は全力で物資を運ぶものを守りなさい『バインドソーン』」
メシュリカの指示に従って迅速な行動をとり始める。
拘束されたモンスターは後回しにして、いまだ暴れまわっているのを優先して倒し、拘束が解けるころには暴れまわっていたのは大体片付けることに成功した。
拘束から開放されたモンスター達が動き始める前に魔法を叩き込んでいるエルフが1人急に倒れ光に包まれて消えてしまった。
凍りついた空間に響く銃声。
ドワーフ連中が要塞の中から飛び出し、雄たけびを上げてこちらに接近して来ていた。




