緊急攻城戦一回目
更新遅れました。
すいません。
今回は番外編で本編とは一切関係ありません。
「はい、『ドキッ!夏の怪談会!ポロリもあるよ』を勇人の部屋で開催したいと思います。メンバーは私結城と軽野君、葵さん以上3名でお送りします」
「え?僕は?てかなんで僕の部屋!?」
「あら?いたの?4人目のメンバーの愚弟です」
「自己紹介が雑すぎる!それに僕達今イベント中じゃなかったの!?」
「そんなものとっくに終わったじゃない。寝ぼけてるんだったらもう一回寝てきなさい、そしてそのまま夏が終わるまで起きて来ないことを進めるわ」
「ちょっと言い過ぎじゃないんですかね!それにここに至るまでの流れはどうしたのさ!」
「ああもう、うるさいわね。こういうときはご都合主義っていう便利な言葉があることを学びなさい!これは普段とタイトルが違うんだから、察しなさいよ」
「ちょっ!姉さん!?」
誰かこの暴走するバカ姉を止めてくれ!ケイ!君にしか止められないよ。
ケイをチラ見しても目を逸らされるばかりである。
じゃあ葵さんだったら何とか・・・。うん。葵さんは姉さんから隔離しよう。近づけちゃいけない。最近なんだか悪影響が目に見える形で出てきてる気がするんだよね。これは気のせいじゃない。なんせ、敵性NPCにも容赦ない攻撃を加えるようになって来たし。
「はーい、それじゃあ早速始めましょう。まずはルール説明で~す。発案者である軽野君に丸投げしましょう」
「考えたのケイかよ!」
「だって家で1人は寂しいの、ウサギは寂しいと死ぬんだぜ」
「じゃあ私の胸の中で存分に寂しさを紛らかして!さあ!さあ!」
涙目でヘルプを求めてくるところ悪いんだけど、あれは完全にケイが墓穴を掘っただけなので助ける気は無い。葵さんも目を逸らして僕の部屋の漫画を物色して・・・待った!そこはダメだ!その漫画の裏側には。
「そ、それじゃあルール説明をするぜ」
ケイGJ。たとえその理由が姉さんから逃れるためだとしても。
葵さんは手に取ろうとした漫画から手を離すと、自分の元いた場所に戻った。
ホッと胸をなでおろしている僕を見ている葵さんの視線がすごい気になるけど、きっと何も起きない。大丈夫。これはフラグなんかじゃない。
「ルールは簡単だ。1人1人怖い話をして、終わったら他の人から評価を貰う。その評価が一番低かった奴が負けだ。一番低かった奴は、一番評価の高い奴の命令を一回聞くというものだ。評価はそれぞれが最大で10点入れられるから、最大30点満点だな」
「というか、それって僕も強制参加なの?」
「あたりまえだろ?この日のために皆怖い話を考えてきてるんだ」
「僕圧倒的に不利じゃないか!」
「罰ゲーム楽しみ」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
なんで葵さんまで容赦の無い感じになってるのさ!やっぱり姉さんは葵さんに悪影響なんじゃ・・・。
「それじゃあ最初は「私からやるわ」・・・それじゃあ結城さんから時計回りでいいよな。ちょうど勇人が最後になるし」
「分かった」
「じゃあ、早速始めるわね」
コホンと咳払いを一度すると、ケイを見てにやけていた顔が真剣なものに変わり、声を低くして話し始めた。
「これは私の友達が、その友達の友達に聞いた話らしいんだけどね、まあ、この子を仮にD子さんと呼ぶことにしましょう。
このD子さんは、付き合って1年になる彼氏さんがいたらしいのよ。リア充爆発しないかな。
それでね、深夜に本を読んでいたときに彼氏さんから1本の電話が来たらしいわ。その電話内容なんだけどね、彼氏さんの声がどこか切羽詰ってて色々と言ってきたらしいんだけど、最後に助けてくれって言葉が聞こえたみたいね。そんな電話があったからD子はいても経ってもいられずに着の身着のままで彼氏さんの家に行っちゃったみたいなのよ。
そんな時間に押しかけても相手にされる訳が無いのにね。
次の日、普段なら一緒に登校するために来てくれる彼氏さんが予想通り時間になっても現れなかったの。だから、クラスメイトに尋ねて回ったそうよ、そしたら親しい人も含めて全員が彼氏さんのことを知らないと言ったらしいわ。彼氏さんのいたはずのクラス名簿を確認しても名前が見当たらない。混乱のあまり倒れてしまったようね。
D子さんが目を覚ますとなぜか周囲は真っ暗で、保健室の時計を確認するとすでに午前0時を回ったところだったの。
起こしてくれなかった保険の担当医に憤りながらも廊下に出たら視線を感じて、なんだろうってそっちを見たの。
そしたら暗がりで顔が良く見えないけど、少し特徴的な立ち方が彼氏さんによく似ていたのと、同じ学校の制服を着ていたから安心して近づいていったらしいよ。けどね。どれだけ近づこうとも顔に靄がかかったように見えないのに、おかしいな?って思い始めたの。
その疑問を持ってしまったせいで安心感はなくなって不安感と恐怖が頭を埋め尽くして、昇降口まで走って逃げて、外に出ようとしたのに扉がどれだけ力入れても開かない。ならガラスの部分を割って外に出ようとするも、まるで鋼鉄の板を叩いているかのような感触がしてガラスが割れる気配も無い。
昇降口から出ることを諦めたD子さんはガムシャラに校内を走り続けたの。それで、気がついたら普段はは扉に鍵がかかってて入れない屋上に立ってたらしいわ。
「どうして逃げるんだ?」
彼氏さんの声でそんな言葉が耳元で囁かれた直後に体が動かなくなって、今の今までD子を追いかけてた存在が視界に入ってきた。
それは、確かに服装とか声が彼氏さんで間違いは無かったんだけど、顔は中途半端に腐った肉が残っていただけで頭蓋骨が殆ど露出してた。
次の日D子さんは学校のグラウンドで発見されたわ。全身のあっちこっちの骨が折れた状態でね。
病院に担ぎ込まれたD子さんの体はもう何年も経っているのに当時のまま治る気配が一切無く、毎夜毎夜悪夢に苛まれる人生を送ることになりました。今でも病院の一室で寝たきりの生活をしているとか・・・以上よ」
・・・なんだろうこの不完全燃焼感は。
「中途半端」
「ちょっとなー」
「・・・うん」
どうやら姉さんに対する評価は総じて中途半端であったらしい。
葵さんは3点、ケイは4点、僕も4点の合計11点だ。
話の内容をもうちょっと煮詰めてしっかりと雰囲気を出せればもっと高評価だったと思うな。
姉さんが端っこの方でいじけ始めてるけど、まあ、サクサクと話を進めよう。
「うっし。それじゃあ次は俺だな。これは昔の話なんだがな――――」
ケイの怪談はどうやら『おいてけ掘り』みたいだ。それなりにオーソドックスで展開も読めているからそれなりであった。
あくまでそれなり。
あんまり怖くは無かった。
「さすが軽野君凄く怖かったわよ」
「・・・アレンジが欲しかった」
「うーん。いろんなところで聞いたことあるしね」
「ぐふぅ」
姉さんは8点、葵さんは0点、僕は1点の合計9点の評価だった。
自信満々に語り始めたケイのおいてけ掘りは、僕の評価の前に葵さんの評価を聞いた時点でダウンしていた。きっと僕の評価は耳に届いてないと思われる。
さて、次は葵さんの番だ。どんな話をしてくれるのかちょっとワクワクしている。
「私の番」
ボソッと呟いたあと、部屋の気温が一段と下がった気がする。ケイを見てもちょっと強張った顔をしているのが分かる。
「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが居ました」
んん?
「捕らえられた狸はおばあさんに同情を――――」
「ちょっと待った。葵さん。それって『かちか○山』じゃ・・・」
「そうだけど?」
「これって怖い話をするんじゃ」
「ん。だからしてる」
もうなにも言うまい。葵さんの好きなようにやらせてしまおう。
「ゴリゴリ、ゴリ。
狸は殺したおばあさんの死体を嬉々として解体して、次々と鍋に放り込んでいきます。
畑仕事を終えたおじいさんは、おばあさんに扮したいたずら狸が差しだした狸汁をすすり――――」
・・・あれ?僕の知ってる『かち○ち山』とは違うような・・・いや、童話は残酷な話が多いってどこかで聞いたような。
「――――背中に大火傷を負った狸に、兎さんは「この薬は少し沁みるから動けないように押さえ込もう」と言って狸を押さえ込み、唐辛子を粉末にしたものを味噌にたっぷりと混ぜ込んだ物をこれでもかと傷口にすりこみます。「痛い痛い」と大声を出して暴れる狸を押さえ込んで、壷いっぱいに用意したからし味噌がなくなるまで塗り込み続けます。――――」
想像するだけで凄く痛い!え?背筋に冷たい汗が流れるんだけど!
「――――「助けてくれ!助けてくれ兎どん!」沈む泥舟から助けを求める狸に冷たい眼差しを向けた兎は、おばさんの仇だと叫び!木の櫂でバンバンと狸が溺れ死ぬまでたたき続けました。狸が物言わぬ死体になった頃には狸から流れ出た血が、川を赤く染めていました。こうしておばあさんの仇を討った兎さんは傷心のおじいさんの元で一緒に暮らしましたとさ」
僕の知っている童話と葵さんの知っている童話に差がありすぎて背筋が凍る思いをしています。
まさか葵さんは小さい頃からこんな御伽噺を聞いてるとかじゃないよね?もしそうだったら葵母の教育方針がもう僕には分からない。
「・・・実に独創的な『かちかち○』ね」
「・・・一体どこでそんな話を聞いたんだろう」
「葵さんはそれを母親から聞いたの?」
「違う。お父さんから。教訓として相手の嫌がることをしたら数倍になって帰ってくるって」
何その教育方針。父親は一体何に心配してそんな教育をしているんだろう。
「後、男は皆狼って」
葵さんの父親の娘を思う気持ちはよく理解できた、でも、きっとそれは逆効果になってしまっていると思うんだ。じゃなきゃいきなり僕を自分の家に泊まらせたりはしないはずだもんね。
評価のほうは姉さんが7点、ケイが10点、僕が9点の合計26点だった。
「よ、よし。次は勇人の番だな。ちゃんと話は考えたか?」
「一応ね。まあ、たぶんビリにはならないと思うよ」
「へえ、それは実に楽しみだ」
余裕の顔でニヤニヤと僕を見るケイの様子は、自分が負けることは絶対無いと語っている。
よし、その余裕を滲ませた顔を歪ませてやる。
「これは僕のネットでの知り合いが言っていたことなんだけどね、その人にはY美さんって言うお姉さんがいるんだって。そのY美さんには片思いの相手がいるんだけどその人はその片思いの相手、このばではKさんにしておこうかな。そのKさんと付き合わせる気はないみたいなんだよ。理由は簡単で、Y美さんの愛が重すぎてKさんを殺しかねないからなんだって。
ある日、その人が深夜にY美さんの部屋の前を通りかかったときに部屋の中からくぐもった笑い声が聞こえてきたから気になって覗き込んだんだ。
そしたら、Y美さんがパソコンで通販サイトを見てたんだ。
そのとき映っていた画面には手錠や拘束ベルト、鞭と言った傍から見たらもう拷問道具じゃないか?と恐怖を覚えるラインナップが表示されてたんだよ」
葵さんは何かを察したのか表情が少し硬くなり、ケイはまだ笑みを浮かべたまま。姉さんは小声でそのY美さんと気が合いそうねと楽しげに呟いている。
「Y美さんはボソボソと何事かを呟きながら商品を見ていて、その人は何を呟いてるのか気になってこっそり近づいたみたいだよ。
そしたら、「Kさんと冬に雪山に行って・・・ふふふこの計画で行けば絶対に既成事実を・・・ならこれとは別にあの道具が必要ね」と病んだ顔で言っていたみたいだよ。
そこでその人の存在に気がついたみたいで般若のような顔で「ミタナァァァァァァァァァァァァァ!!」と叫んでその人に正拳突きを決めて部屋から追い出したみたいだよ。
その時点でその人は理不尽さに涙したものの、いつものことだから記憶の奥底に閉まって放置していたんだ。
そしたら、その年の冬、一時期Y美さんはいなくなり、その人と仲良くなっていたKさんとは連絡がつかなくなった。
2~3日もすると二人とも帰ってきたんだけど、Y美さんは機嫌が終始よかったんだけどKさんはY美さんと見るたびに顔色を土気色に変え、そんなKさんに気がついたY美さんは嬉しそうにおなかを撫でていたんだとか・・・」
僕の話はこれで終わりなので周囲の反応を見ると、姉さんは危なげな笑みを浮かべて、実力行使の既成事実・・・その手があったわねと呟き、ケイの顔色は青くなっている。
葵さんが強張った顔で首を僅かに傾げながら姉さんを指差す。
僕はそれに少しうなずくと、そのやり取りを見ていたケイの顔色が青色から土気色の今にも死にそうな顔に変わった。
「そこまで怖くなかったわね。むしろY美さんの気持ちがよく分かるわ」
「・・・現実にならないことを祈る」
「・・・・・・」
姉さんは3点、葵さんは7点、ケイは10点の合計20点だった。
「さて、これで全員の評価も終わったわけだが、一番評価の高かったのは葵さん。次に勇人で3番目に結城さん。ビリが俺だ。さあ、葵さん。好きなように命令してくれ」
顔色が悪いままだが、葵さんなら無茶な指令も来ないだろうと少し安心しているのが分かる。
ていうか羨ましい。この結果が分かっていたのなら僕が一番低い点数を取ったのに!!
いや、葵さんの評価を聞いた時点で思考を柔軟にすればよかったんだ!惜しいことをしたな。
僕の様子に気がついたケイが、完全に顔色を元に戻してドヤ顔をしてくるのが非常にムカつく。
そんなムカつくケイから視線を逸らすと、姉さんと葵さんが顔を合わせて僅かにうなずき会っていた。一体なんだろう。
「さあ、葵さんの命令は何だ?何でも応じよう。まあ、罰ゲームだから俺に拒否権は無いんだけどな」
クソ!あの嬉しそうな顔が恐怖で歪めばいいのに!!
「それじゃあ、軽野君は『明日から3日間結城さんの性関連以外の要望を何でも聞く』という罰ゲームで」
一瞬でケイの顔が無表情に変わった。
先ほどの話がリアルにならないことを僕は神に祈ることにしよう。
●●●
~夏の怪談会開始数十分前~
「ねえ葵さんちょっとこれから行われる怪談の罰ゲームについて話があるの。ちょっと相談に乗ってくれない?」
「?」
「もしあなたが1番で軽野君がビリだった場合、あなたの願い事を『結城さんの願いを何でも聞く』みたいな感じにして欲しいの。もちろん今はまだ常識の範囲内になるようにしてくれて構わないわ」
「見返りは?」
「私が1番で勇人がビリだった場合は『葵さんの願いを何でも聞く』にするわ」
「・・・」
「あまり考えている時間は無いわよ」
「・・・了承」
「よし、契約は成立ね。もしあなたが要望道理にしてくれたら、どんな手を使ってもあなたの願いを一度だけ叶えるわ」
「ん。分かった」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・。
やっぱり慣れないことは前もって準備しておく必要がありますね。
お盆期間にふと思いついて決行しました。
怪談未満の話しか書けませんでしたが、ホラー関係はこれで精一杯です。
楽しんでいただけたのなら幸いでございます。