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最強は自我を持つNPC?  作者: 現実↓逃避
第1章 初めてのVRゲーム
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防衛七回目

今回は少し少なめです。

 二回り大きいゴブリンは、どうやらゴブリン将軍(ジェネラル・ゴブリン)というらしい、このファルフラムの森の複数いるボス級MOBの内の一体だとマドイさんから聞いた。そして、もしNPCがボス級のMOBと戦う場合は、二十人以上の大人数で戦った上で、勝てるかどうか半々、勝っても半分以上はやられるんだとか何とか。しかし、そんなボス級を一人で相手取ることのできるあのNPCは、LVが何なのか気になる。


「マドイさん、援護したほうがいいのかな?」

「きっと必要ない」


 マドイさんが言ったとおり、ウェイルズはジェネラルを一人で圧倒して見せている。確かにこの戦いに下手に介入すると足を引っ張るかもしれない。

 そう思ってみていると、ボスのHPゲージが半分を切ったところで、ボスの取り巻きとも取れそうな、通常固体よりも、少しだけいい装備をしたゴブリンが、合計で五体ほど、どこからともなく現れた。


「これって僕達も戦ったほうが…」

「大丈夫そう」

「へ?」


 ウェイルズは新手を見ると、ニヤッと笑い、体を捻りながら大剣を体の横に持ってきて、居合いの体制をとった。動かなくなったウェイルズを見て、これを好機と見たゴブリンたちがいっせいにウェイルズに向かって襲い掛かる。


 今まさに攻撃を受けるというところで、

断閃(だんせん)一之太刀(いちのたち)廻転(かいてん)!!」

 ウェイルズの特技が発動すると、構えた大剣が持ち主とともに、素早く二回転して、その軌道を描き残すように、緑色の光が走り、消えていった。

 特技を受けたゴブリンは、慣性の法則にしたがってそのままウェイルズに衝突するが、HPの残っているものはいなかった。


「あれ?死体の消滅を見越したんだけどな、失敗したか」


 ウェイルズは大したダメージを受けていないみたいで、頭をボリボリ掻きながら大剣を自分の背に戻していく。

 そして自分の前で腕を少し動かすと、


「お、いいもん落としてるな。これはとりあえず換金かな」


 どうやらドロップした品を見ているみたいだ。嬉しそうな顔でドロップ品を見ている目が、ふと僕達と目が合ったが、まるで何も見なかったように元の作業に戻っていった。って今日だけでいったい何回遭遇したっけ?


 何事もなかったかのように帰り始めるウェイルズに、マドイさんが声をかけようとするが、声をかけられる前に走り去ってしまった。一体なんだったのだろう。


 僕達は順調にMOBを蹴散らしながら町に戻ってきた。おかげでまたLVアップすることが出来た。

 町に戻った僕達は町長さんのところに行って報告することにした。


 町長さんは自宅で、何か書類に書き込んでいたが、僕たちが来たことに気がつくと、

「おお、無事に戻ってきたか。それでちょっとこっちに近づいてきてくれないかのう」

「「?」」


 僕達は町長の前に立つと、町長さんが僕達の額に手のひらを向けてくる。何をするつもりだろう?

 向けられた掌がボンヤリと光ると、町長さんが、ムム、とか、ウホゥ、とか、怪しすぎる声を発し始めた。町長さんこの人でいいの?


「調査をしてくれて感謝するぞい」

 何事もなかったかのようにお礼を言ってくる町長さん。さっきの奇声のことを聞きたいけど、聞いて後悔しそうだから聞きたくない。でも気になる。


「先ほどの声はなんでしょうか」

 聞いたあぁぁぁ!?ゲームだからグイグイいくの?それとも、これが本来のマドイさん!?

 町長は、ちょっとまじめそうな表情をすると、

「実はお主らの記憶を覗き見ておったんじゃよ」

「記憶?」

「そうじゃよ、おかげであんなことやこん…冗談じゃからその弓をしまってくれんかのう。当たったら痛そうじゃしの」


 マドイさんが、目にも留まらぬ速さで弓に番えた矢を、町長の眉間に押し当てていた。何時の間に?

「冗談?」

「本当に冗談だからそれを早くしまっとくれ」

「再度確認する。冗談?」

「なんか信頼されとらん!?本当だから勘弁しておくれ」


 マドイさんは警戒したまま、矢を矢筒に戻した。それを見た町長さんは、

「先ほどの声はここまで持っていくための布石だったんじゃ」

 清清しいまでのドヤ顔である。しかし、急にドヤ顔を止めてまじめな表情になると、

「しかし、お主らの調査記録を見ると、ゴブリンの数が多くなってきておるみたいじゃのう。草原から森に入るところにすでにいたとなると、おそらくじゃが一週間以内に襲撃があるかもしれん。そこで頼みなんじゃが、ゴブリン共が攻めてきたときにお主らの力も貸してくれんか?戦力は多いに越したことはないんじゃ」


 真摯な態度で僕達にお願いをしてくる。僕達はまだLVが低いことわかっているんだろうか?


「参加はしますけど、僕達はまだLVがそんなに高くありませんよ?」

「たとえ戦えなくても、冒険者の知恵を貸してもらえるだけでもありがたいんじゃよ。なんせ我々には出来ない柔軟な作戦を思いつくものもいるからのう。それにゴブリン共は、一体一体の力は弱いが、その代わりに狡賢いんじゃ。だから、その狡賢い作戦にも対応できるだけの人数が欲しいんじゃよ」


 どうやら僕達の力が借りたいわけではなく、数合わせがしたいみたいだ。


「それに戦闘の面では心配する必要はあまりないぞい。なんせこの町には最強がおるからの」

「ウェイルズ?」

「おお。すでに知っておったか。そうじゃよ、この町の守護神じゃ」

「あいつそんな大層な呼び名で呼ばれてるの?」

「あいつの戦い方を見たら、自然とその呼び名が頭に浮かんでの、本人が嫌がるから面と向かっては言わないがの」


 え?ちょっと待てよ?確かあいつ俺達に防衛戦でパーティー組んでくれって言ってたよな。そんな奴のパーティーに入るの!?

 僕が混乱しているうちに、

「そうそう、調査お疲れ様じゃ。少ないじゃろうがこれが報酬じゃ」

 町長さんがクエストの終了を伝えてきた。


 町長さんの言葉が終わると共に、僕の視界の端にテキストが表示された。


『散策クエスト【ファルフラムの森の調査】をクリアしました』


 その下に報酬が載っている。この報酬が、高いのか低いのか分からないけど、それなりのお金が手に入った。


「ゴブリンの動向がこれで少し分かった。ありがとう」


 うん、ストレートに感謝されるのは、あまりなかったから素直に嬉しい。たとえ言ってきたのがコンピューターに制御されたAIのNPCであっても…。負け惜しみじゃないよ?


「こっちも報酬もらってる」

「たとえそれでも、こっちは感謝しているんじゃよ」


 町長さんはそう言うと、そのまま自分の作業へと戻っていった。



 町長宅を出ると、日がもう沈みかけていた。メニュー画面から見ることのできる時刻を確認すると、もうすでに19時を回っていて、一度ログアウトする必要が出てきた。


「僕は一回落ちるけど、マドイさんはどうするの?」

 僕がそう聞くと、マドイさんは少し考えると、


「もう少しだけ、狩りしてから落ちる。多分今日はもうインしないと思う」

「わかったよ。さっきみたいなこと起こるかもしれないから、気をつけてね」

「君は私のお母さん?」

「違うよ、純粋に心配だっただけだよ」

「大丈夫、じゃあまた明日」

「うん、じゃあね」


 マドイさんと少し話すと、僕はそのままメニュー画面を操作してログアウトの文字に触れた。ログアウトに触れてから、一度(まばた)きをすると、僕の視界には見慣れた自分の部屋の天井が飛び込んできた。

 初めて経験したログアウトの感覚は、夢を見ているときに唐突に目が覚めてしまった時の感覚に似ていた。自分はまだ夢の中にいる。そう錯覚してしまっているのだろうか。それとも(VR世界)から現実に戻ってきてしまった物悲しさなのか。この感覚には詳しく詳細をつけることは出来ないような気がする。


 僕は料理を作っている母さんと姉の手伝いをすることにした。ここで手伝っておけば晩飯が早くできる。早くできればその分早くDWAにログインでき、寝るまでの時間長く遊ぶことができる。そんなことを打算的に考えていたが、


「そういえば今日、お父さんが早めに帰れるそうだから、お父さん帰ってきてから食べるよ」

「へえ、何時ごろに帰ってくるのさ」

「いつも食べ始めるぐらいの時間だって」

「・・・」


 僕の打算は、家族の手によって粉砕されてしまったみたいです。風呂とか入っても21時頃にはログインできるものと考えていたのに。それに、父さんは時間にルーズだからなぁ…。

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