防衛七十七回目
剣戟の音が幾度となく響き、通路を反響して遠くまで響き渡る。
相手の持っている剣は・・・エストックか。
なるほど、道理で鋭すぎる突きが連続で来るわけだ。
息が少しずつ上がってきたのに、相手の女は全く息が上がっていないように思えるのは気のせいではない。さすがドワーフ。タフ過ぎるだろ。
額を流れる汗が、目に入ったタイミングで距離を詰められ剣を突き出される。胴体目掛けて突き出されたエストックを済んでのところで弾くことには成功した。その際鎧の表面を掠めたのだが、簡単に一部が削られてしまう。こりゃあ直撃を食らう以前に、素材が何でできているかが気になる。
この鎧には一応ドラゴン素材が使用されているんだがな。
「くっ!」
眼前に突き出されたエストックから逃れるために後方に大きく跳ぶことで避ける。しかし、背中に壁の感触がする。
くそ、追い詰められた。
俺を壁に追い詰めても尚、油断せずに淡々とエストックで切りかかってきているのがやりづらくて仕方が無い。
「おらぁっ!」
鋭い突きを掻い潜り、相手の小柄な体にタックルを決めて地面に転がしてやると上がる息を無理やり抑えて全力で逃走を開始する。
・・・くそ、振り切れない。
「邪魔だ!どけぇ!」
先ほどまで打ち合っていた剣戟の音を聞いて来たのだろう。
ドワーフの一団がいたが、通行の邪魔になる奴だけ蹴り飛ばして逃げ道を確保した。しかし、その間にも距離を詰められてしまう。
相手の女は味方に当たることを一切考慮せずにガンガンと攻撃してくる。実際に敵のドワーフがエストックに貫かれて消えていく。
「敵味方お構い無しかよ!っ!?」
顔のすぐ横を、風切音と共に振るわれたエストックを避けると、肩に熱い痛みが走った。
痛みの走った場所を確認すると、いつの間にか小さな針が何本か深々と突き刺さっている。
刺さっている針を無理やり引き抜くと今まで以上に激しい痛みが走った。針を確認すると、先端に返しが付いており、この針を引き抜こうとしたら周囲の肉がゴッソリと持っていかれるのだろう。てか、持って行かれた。
痛みで剣を取り落としそうになったので、逆の手に持ち替えようとしたが、それに失敗して取り落としてしまう。
あれ?今失敗する要素なんて・・・!?
足から力が抜けて受身も取れずに顔を床に叩きつけてしまった。
体が・・・痺・・・れ・・・・・・る?
「・・・殺ス」
「ああ、待った待った。その人殺しちゃだめだよ。まだ使い道あるんだから」
エストックで俺の体を突こうとしていた相手を静止したのは、ドワーフではなく、一人の人間の青年であった。
「・・・ナゼ?」
「素で君とまともにやり合うことが出来る人材だぞ?こいつを素体に実験をすればとても優秀な戦闘人形が作れると思わんかね」
「?」
「ああ、別に理解しなくてもいいぞ。君の仲間が増えると考えてくれればいいさ。まあ、君の知能にそこまで期待はしないけど。全く、君の元のレベルが弱すぎるのがいけないんだ!クソ!その点こいつには来たいできる。強化した君とまともに打ち合えるレベルだからねぇ。楽しみで楽しみでしょうがない!あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
壊れたように笑い始めた青年を、仲間であるはずのドワーフ達ですら遠巻きに、気持ち悪そうに見ている。
激昂したり笑ったり忙しい奴だ。
麻痺で体が動かないせいなのか関係ないことを考えてしまう。
「ほら、早くコイツを運べ!お前なんぞよりよっぽど優秀な個体になる予定なんだ。丁重に運べよ。どこかに傷があったらお前解体するからな!まったく。本当に使えねえやつだな」
罵倒されても無表情で頷いた女は、俺の足を掴むと引きずり始めた。
後頭部に何かがガンガン当たってる感触がするんだけど、これって段差を移動してるとかじゃないよな?引きずられてきた道を見るのが怖いんだけど。
とりあえず、頭の中で引きずられてきたルートを作っていく。これで脱走に成功したときにはスムーズに脱出できるはずだ。
そう思っていたら、急に体に浮遊感が訪れ、視界が地面を転がっているかのようにグルグルと回る。意識が・・・途切・・・れ・・・る・・・。
●●●
目を覚ますと、ボロボロの服に着替えさせられており、両手をバンザイの形で壁に貼り付けられていた。
「・・・はぁ、どうやって脱出しよう」
「・・・・・・」
鉄格子のハメられた入り口を見やると、先ほどまで戦っていた女が、ボーっとした顔でこちらを見てくる。
あまりにも感情が抜け落ちたそれに恐怖すら感じてしまう。あのクズ野郎が言っていた通り、まさに人形と言った感じだ。
あれか?さっきのクソ野郎の言ってた実験を受けたら俺もあんなふうになっちまうのか?
意地でも脱出しなくちゃいけないな。
腕に力を籠めても、ガシャガシャと腕をつないだ鎖が鳴るばかりである。
壁を壊せないかと壁を蹴りつけても足に衝撃が帰ってきて痺れただけだ。
あれ?今気が付いたが普段より力が出ないな。きっと何かの魔法的な処理がなされてしまったのだろう。
・・・どうしろというんだ!八方塞りじゃねえか!
「・・・・・・」
「なんでこっち見てるんだよ」
「アナタヲ監視スルヨウニ言ワレタカラ」
「そうかい」
こいつに何かを求めるのはダメだな。下手したら俺もこうなりかねん。
・・・しかし、こいるはどこかで見たことあるきがするんだよな。どこだったけな。いろいろあったから忘れちまったよ。
●●●
悪あがきとして何度も鎖を引っ張っていたせいか、HPが少し減ってしまっている。
「ははは、気分はどうかね実験動物君。準備ができたから迎えに来てやったぞ。感謝でむせび泣くことを許してあげよう。むしろむせび泣け」
機嫌よく現れたクズ野郎を睨み付けると、鉄格子の隙間から鉄棒を鳩尾目掛けて突きこんできた。
両足を持ち上げてそれを挟むと、捻って奪い取る。
同じ軌道を逆再生するように鉄棒をクズ野郎目掛けて突くも、人形女に防がれてしまう。
「そんな悪あがきで俺に傷を付けられると思ったのか?ははは、これはお笑い種だ。君、ピエロの才能あるよ。改造が終わったらピエロのメイクをしてあげよう。感謝したまえよ」
こいつのニヤニヤ笑いを歪めたくてたまらない。
唾を吐きかけてやると、顔を苛立ちの表情に変え、牢の中にズカズカと踏み込んできた。そうそう。その鮮やかとも言える表情変化を見れて満足だよ。
「この俺に唾を吐きかけやがってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
握りこんだ拳を何度も俺に振り下ろすが、レベル差があるのと、コイツ自身の素人過ぎる動きのおかげでほとんどダメージはない。マッサージかよ。
「クソ!クソが!おい人形!この実験動物を引きずって来い!改造したら生意気な口聞けなくしてやる!」
「ふふふ。ダメよぉ。そんなに乱暴に扱っちゃね。その人は私達の仲間になるんだから」
「・・・スタリブか。実験動物をどう扱おうが僕の勝手だろう?」
「別に他のならどうでもいいんだけどね。その人はダメ。ねえ、ウェイルズさん。人間を裏切って私達の仲間になる気は無いかしら?一緒に楽しく世界を滅びへと導きましょう」
そんなことをのたまう灰色をポンチョを纏った女から手を差し伸べられた。
「ハッ!そんなトチ狂ったことを言ってくるやつらの仲間になると思ってんのか?寝言は寝て言え」
「ふふふ。本気よ。それに、あなたが私達の仲間になってくれれば、あなたの精神に安らぎを与えることができるわ。今みたいに気を張り続けなくてもいいの。あなたと同じ秘密を共有しているのだから」
「同じ・・・秘密だと」
「そうよ。あ、詳細はあなたがこの手を取って首を縦に振ってからよ」
・・・同じ秘密って・・・まさかリセットのことか?いや。まさかそんなことがあるはずが無い。あの現象の記憶が残ってるのは俺だけのはずなんだ。他にいたとしたら自然と噂話が耳に届いてくるはずだ。
まてよ。仮に前回のリセットから記憶が残ったとしたら?そしたら2週目はまだ大したことが出来ないはずだから噂話は耳に届いてこない?
本当にリセットされる前の記憶を持っているとしたら何でこの世界を滅ぼそうとする?滅ぼすメリットは?
俺は・・・どうするべきなんだ?
いや、俺はあいつらを、アリシアを守ると決めたんだ。こいつらの目的とは違う!
「迷っているのかしら?そうね、あなたの守りたい人たちを守るのに私達も協力してあげるわ。こちらサイドにいるほうが死なないんじゃないかしら?ウッドロックにいるのでしょう?このままだと蹂躙されちゃうわよ?冒険者がどれだけの役に立つのかしらねえ」
・・・俺は・・・俺は・・・・・・。
中途半端でしょうが、ウェイルズ君の回答は次回です。




