防衛七十六回目
どうも、ウェイルズだ。
俺は今再び移動要塞に侵入を果たしたところだ。
いや、入り口周辺はエルフ軍が押さえてたから侵入と言っていいのかは分からないが、出てくるドワーフがまばらになっている。
おそらく冒険者連中の攻撃をしのぐのが大変なのだろう。
普段の物言いは腹立つことが多いが、こういう数が必要なときは頼りになってしまう。そこがまた腹立たしい。
と、扉を蹴破りながら現れたドワーフの胴体に拳を叩き込み、出てきた扉にそのまま返してやり、通路を曲がった瞬間に振り下ろされた斧は、手首を蹴り上げて手放させた後、斧の持ち手の全身を剣で切りつけて倒す。
「・・・なんというか規格外ですね」
「ん?なんか言ったか?アシュカ」
「いえ、これって僕がついてくる必要あります?」
「ねえよ。だが、お前はメシュリカから命じられたんだろ」
「はい、いい経験になるはずです。と言われて送り出されました」
なんか再度中に突入しようとしたときに、メシュリカが1人だけだと失敗したときにカバーが出来ないとか何とかで無理やり押し付けてきたんだよな。今は俺の後ろからついてきているだけだが、ここから先ドワーフの数が増えたときに少しは役に立ちそうだ。
おっと、足元から槍が飛び出してきたのを跳躍することで躱し、天井に足を着けて通路の奥からワラワラと沸いて出てきたドワーフ達の中心に飛び込む。
驚いて動きの止まった敵集団の手近な1人を切り倒したところで、我に返ったドワーフが口を開く。
口を開き指示を出そうとしているドワーフを標的に定め、そいつとの間にいる奴の首を刎ねて退かすと、上段から切り下ろす一撃を頭に加える。
しかし、その攻撃は、頭上に掲げられた両手斧の柄で防がれてしまう。
一瞬動きの止まった俺めがけて、四方八方から攻撃をしてこようとしているから、武器を手放して俺の攻撃を受け止めた両手斧の柄を使ってジャンプした。
タッチの差で攻撃を躱す。
ドワーフの頭を蹴り飛ばし、その反動で元の場所に戻り、武器を構えなおす前に頭部に拳を突きこみ、身を沈みこませて足を払う。
一連の行動の中で、先ほど手放した剣を拾い上げ、背後に立つドワーフを切り上げて少し宙に浮いた体を力いっぱい蹴り、数人巻き込んで吹き飛び、広い空間を得ることに成功した。
その空間に身を滑り込ませると奥へ奥へと足を進める。
「ウェイルズさん無茶しすぎですよ!着いていくのが精一杯じゃないですか!」
「お前が本気を出せば着いて来ること位は余裕だろ」
「簡単に言わないでください。平地を走るのとは違うんですよ」
「邪魔な奴は皆排除してあったはずだぞ」
「排除と言ってもすぐに補充が入るでしょう」
「タイミングよく入ってくれば大丈夫さ。あれだけの動きをできるお前ならな」
「・・・はあ、分かりましたよ。やってやりますよ!」
やけくそ気味に叫ぶアシュカに、満足げな顔で頷いてやると、小さくチクショウと呟いていた。よし、さっさとドワーフ達が復活している場所を壊しちまおう。早くアリシアの所に戻りたい。
「待て!背を向けて逃げるのか!流石森以外では腰抜けな臆病者に、薄汚い数だけの種族だな!」
「貴様!我々エルフを侮辱するか!」
「事実を言って何が悪い!実際に今無様に背を向けて逃げているではないか!」
「泥臭いチビが!」
「は、貴様ら負け犬に何を言われようが気にもならんわ!」
「はいはい、落ち着け落ち着け。前向いて走れアシュカ」
「ウェイルズさんも言われているのに悔しくないんですか!」
あの安すぎる挑発にのるなんて、アシュカが凄い青臭いなぁ。
実際に俺たち人間という種族は数で他種族より有利に立っているという点だけは確かだしな。他にも知恵がありそうだが、これはエルフに軍配があがる。
「あんな安い挑発に乗るなよな。あれってただの負け犬の遠吠えだからな。俺たちを殺せないのが悔しくて悔しくてしょうがない、ただのわがままなお子様だよ」
「ああ、なるほど」
「なんだと貴様!」
俺の純粋な気持ちをアシュカに伝えたところ、なぜかドワーフの皆様が怒り始めた。まさか、あれで図星をさされちゃったとかじゃねえよな?もしそうだったら大声で笑いたくなる。
「ハッ!貴様ら程度じゃこの要塞は落とせない!そしたらそこの貴様の住んでる町を滅ぼしてやろう!お前の親しい人はより苦しめて殺してやる!」
・・・今このクソ野郎はなんて言った?殺すだって、俺の知り合いを?そうかそうか、俺の町を潰すとか言ったよな。
立ち止まり、動きを止めた俺を、アシュカが訝しげに見るが、何かを察知したのか反射的に半歩下がっている。だが、今はそんなことどうでもいい。あのクズ野郎を始末してやる!
俺の怒気を感じ取れない一部のドワーフを除き、他のドワーフは小刻みに震え始めた。
「どうした、走るのを止めて。ははは。絶望でもしたのか」
先ほどから挑発をしていたのは一部のバカだったみたいだ。
腰に収めた剣を再度抜くと、怒りの篭った目で睨みつける。しかし、それでも気がつかずに火に油を注ぎ続けてくる。
ここまできたら逆に何か狙いがあるのではないかと疑うレベルだ。
「なあ、お前さ、さっき言ったセリフ。もう一回言ってくれないか?」
「はぁ?なんでお前みたいな奴に言わねばならんのだ?ほれ、さっさと逃げるがいいぞ。仲間を見捨てる臆病者」
瞬間、俺の中で何かがキレた。
空気が一段と冷え込んだのを察したアシュカは、青い顔をしながらも下がり、巻き込まれない位置を確保したようだ。
先ほど俺の怒気に気がつかなかったバカ共も、今度は流石に気がついたみたいで、冷や汗をダラダラと垂れ流している。
「・・・楽に死ねると思うなよ?」
俺が一歩踏み出すと、蜘蛛の子を散らすように背を向けて逃げ始めた。
「逃がすわけ無いだろうが!」
走って追いつくと、背を向けている奴らの背中を剣で切り裂き地面に転がすと、四肢を切り落として動けないようにしてから、すぐに次の獲物へと移る。
結果、全員を動けなくするまで5分かからなかった。
「いいかアシュカ。相手が死に戻りして再度攻めてくるのであれば、殺さずに縛り上げればいいだけだ。分かったな?」
「・・・そうですね。確かに対応としては正しいかとは思いますが・・・あれはやり過ぎでは?」
アシュカが俺の背後を見るため、俺もそちらを一緒に見ると、先ほどまで俺たちの目の前にいたドワーフ達は、四肢のどこかを欠損した状態で壁に張り付いていた。
「アシュカ君や。あれはこの要塞の中にある通路を装飾しているオブジェクト。間違えちゃいけないよ。しかし、ドワーフ達って意外と悪趣味なんだな」
「もうそれでいいです」
俺たちは、趣味の悪いオブジェクトの横を通って通路の奥へと向かう。
うめき声が聞こえた気がしたけど、これはオブジェクトだから空耳だよな。うん。
決していまだ生きているドワーフ達の声じゃねえよ。
しばらく進んでは見たものの、大したものも無く居住区に繋がっていた。
部屋を一つ一つ空けて確認しても大したものは無い。一部屋には溶けかけた氷柱が乱立していた部屋があったが、きっと誰かが戦闘をしたのだろう。
居住区らしき場所の最後の部屋を確認し終わったとき、悪寒が走った。
「おい、アシュカ。お前はメシュリカんとこに報告に戻れ。今すぐにだ」
「え?でも」
「いいから行ってこい!」
本能の感じたまま剣を抜くと眼前に構える。
剣の腹に、相手の剣先がギリギリと押し付けられていた。
「なぁ!?」
「早くしろ!こいつ結構強いぞ!」
「だったら僕も「足手まといなんだよ!」っ!?」
壁を蹴りつけ、三次元的な動きで四方八方から襲い掛かってくる相手の剣を勘で捌いていると、悔しそうな顔をして背を向けて走り始める。
「・・・逃ガサナイ」
「!?アシュカ退けぇぇぇぇぇ!!」
ゾッとするぐらい底冷えした相手の女――――声の質からして女だろう――――の声を聞き、アシュカに警告を発しながら投げナイフをアシュカ目掛けて投擲した。
しかし、俺の警告は聞こえなかったようで、退くそぶりを全く見せない。
投擲した投げナイフはアシュカの肩に突き刺さり、体勢を崩させてしまう。しかし、その体勢を崩して倒れこんだアシュカの首が先ほどまであったところに、銀の刃が突き出されていた。
・・・うん。結果オーライだからいいか。
「お前の相手は俺だろうが!」
剣を叩きつけ、注意をこちらに逸らしてやり、その間にアシュカが逃げるのを待つ。
角を曲がって姿が見えなくなったところで、俺は攻撃を止め、向かい合う。
フルフェイスの兜の中の顔がどうなっているかは知らないが、目が合った気がした。目が合った瞬間俺たちは剣をぶつけ合い、命の削りあいを始めた。




