防衛七十二回目
要塞の中が意外と入り組んでいて、あっという間に迷子になりました。
階段で上ったり下りたり。下りたかと思ったらさっきまでの道とは繋がっていなくて後ろに下がろうとしたらシャッターみたいなのが下りてきて下がれなくなったりと散々だよ。
それでね、ただいまドワーフのいない一室に飛び込んで息を潜め、大量の足音が通り過ぎるのを待っております。
とりあえず、部屋の中にあったロープでドアノブを縛って開かない様に社しているけど、ドワーフの力を持ってすれば簡単に開けられてしまうと思うんだよね。てか、ドワーフ用に設計されているからなのか、ドアノブの位置が低すぎるよ!!
迷子の原因?さっぱりだよ。
巧妙に隠されてたスイッチを押した気がしたけど、僕は触れただけで押してはいない。だからきっとセーフ。僕は戦犯じゃない。
自分にはそう言い聞かせても、マドイさんからの疑惑の目はなくならない。
そりゃあ、触れたときにちょっと力が入ったかもしれないけど、カチッて何かを押し込む感触が手のひらから伝わってきたかもしれないけど・・・。あれ?完全に押してるじゃん。
そこまで考えたところで、僕は悟った。
このイベントで僕って余計なことしかしてない?
要塞の中では迷子になり、出入り口の攻防戦では前衛の方々を敵ごと薙ぎ払う暴挙。
とどめに後詰の、十分一緒に侵入できたかもしれない人たちの妨害。
・・・完全に戦犯じゃんよこれ!?
いや、まだ現段階なら十分取り返せれるはずだ。・・・はずだよね?
「行ったかな?」
「もう少し」
うーん。それはいいんだけど、このままここで無為に時間を潰すわけにはいかないよね。
この部屋を物色することにした。
けど、あんまり見るところはなさそうだ。
なんせ、背の低い棚と2段ベッド4つしか置いてない空間だからね。きっとここはドワーフ達の部屋なのだろう。
ということは、ここは居住区かな。それだと便利なものなんてほとんど無いんじゃないかな。
まあ、居住区だからこそ今現在はドワーフがほとんどいないんだろうけどね。
この部屋を漁っても大した物が出るわけでもなく、ランクの低い回復薬が数本棚の中にあっただけだ。なぜか危ない内容の本が数冊、ベッドの下に置いてあったのは見てみぬ振りをした。僕も男だ。その気持ちは分からなくも無い。
何かの役に立つかもしれないからありがたく貰っておこう。
「んだよ忘れ物って。時間ねえんだからとっととしろよな」
「分かってるよ」
足音が近づいてきた。てか、明らかにこの部屋を目的に来ているような・・・。
「隠れる」
「え?隠れるってどこに」
部屋を確認しても、人間のサイズで隠れることの出来る場所が見当たらない。
マドイさんは少し考え込むと。
「・・・奇襲?」
「なんで疑問系?まあ、それには賛成するけど」
僕は杖を構え、マドイさんは弓に矢を番える。
「ん?おかしいな。扉が開かないな」
「何してんだよ。冗談はいいから早くしろ」
「本当に開かないんだって」
「ちょっと退いてみろ俺がやってやる」
ガチャガチャと音を鳴らしてドアノブが回されるも、開く気配がない。
結構頑丈に縛ったからかな?このまま諦めて帰ってくれるといいんだけど。
「クソが!なんで開かないんだよ」
「アレじゃないか?さっき変な氷があっちこっち跳ね回ってただろ。たぶんあれがこっちの方まで来て扉を歪めたんじゃないか?」
「・・・何万分の一の確立だよそれ。めんどくせえから開けるのは後にして、先に援軍に行かねえ?」
「ダメだ。アレはどうしても必要なんだ」
「・・・アレってなんだよ。まあいい。じゃあブチ破るぞ」
「あー、後で直すのが大変そうだね。迷惑をかける」
「直すのはお前だよ」
「デスヨネー」
「んじゃ、やるぞ」
扉にドンと何かがぶつかる音がしたかと思うと、扉が大きくたわむ。
この部屋を大雑把に探してみたけど、そんな重大そうなものなんて無かったよ。せいぜい目に止めたくない本があった程度だけど、それもわざわざ戦場に持っていってまで隠したい物ではない。
再びぶつかる音。
ミシミシ音をたてて歪む扉を見て、僕達の緊張感は嫌でも高まる。
おそらくもう1回体当たりを受けたら扉は壊れるだろう。
「・・・よし、もう1回」
「応。って待て待て、よく見たらここって俺らの部屋じゃねえぞ」
「GO!え?」
「だからここじゃねえって、1つ上の階だ」
「・・・なんで?」
「ほれ、さっき防衛装置が動いただろ。たぶんそんときだ。防衛装置の中に通路のシャッフルがあっただろ」
「・・・それじゃあ俺達も目的地にたどり着けないんじゃ」
「ちゃんと言われたことの確認はしておこうぜ。通路のシャッフルにはパターンがあるんだから、今回は俺が先導するから、今日中にしっかり把握しておけよ」
「あー、すまん」
足音は遠ざかっていった。
足音が聞こえなくなると同時に、僕とマドイさんは大きく息を吐き、その場に座り込む、こんな緊張感は二度と味わいたくないと心の底から思うよ。
とにかく、しばらくはドワーフは来ないみたいだから、少し休憩をしよう。それにしても、通路が変わるのか・・・どこかで変わった後のパターンがが分かる紙とかってないかな?
こういったときほど警戒を強めなくてはならないということを、平和な現代日本で育った僕達は知っているはずも無く
ゴシャア!
油断していた僕達の意識の外からそんな音が聞こえてきたかと思うと、その直後には歪んでいた扉がマドイさんを巻き込みながら目の前を通過していった。
反射的にそれを目で追うと、扉の下敷きになって、僕からマドイさんの様子は伺えない。
「ハッハー!バカが!あんなあからさまに敵意を向けられて気がつかないアホがいるわけねえだろうが!」
「うん?1人だけ?2人いるかと思ったんたんだが」
・・・扉が死角になってマドイさんのことが見えてないのか。よし、ここは僕が囮になって、マドイさんには暗殺者張りのヘッドショットをしてもらおう。
「ふ、ふん。僕1人でもお前達2人程度相手に出来る!」
「へえ、魔法使う奴がこんな近距離でドワーフと戦えると思ってんのか。おめでたい頭してんな」
「『アイシクルスピンジャベリン』」
不意打ち気味に魔法を放つも、上から叩きつけられた斧の一撃で砕け散ってしまう。
力技が過ぎるよドワーフさん。
もう一度同じ魔法を使うと、同じようにして壊されてしまった。
ここだ!
斧を振り下ろした体勢で一瞬硬直するのを見逃さずに、アイシクルスピンジャベリンを叩き込む。
しかし、僕はドワーフがもう1人いたことを失念していた。
斧を持つドワーフの目の前に大剣が突き刺さり、僕の魔法は途中で止められた。
大剣自体には綺麗な穴が開いたのだが、推進力を失い、グルグルと拘束で回転し続ける。
「ガンザイ!油断してんじゃねえよ」
「す、すまん」
「んじゃ、油断ならない相手と分かったところで、さっさと片付けるぞ。そんで俺達も早く前線に援護に行くぞ」
「応よ!」
うーん。ここは時間を稼ぐ方向で。
「『アイスタワー』」
僕が魔法を唱えると、僅かに腰を落として、どのような事態にでも対応できるように警戒を強めるドワーフ達。
残念この魔法は使い方しだいでは相手を倒せるけど、基本的に防御用なんだ。
目の前の床が僅かに光ると、氷の円柱が複数せり上がってきて、壁のようになって立ちふさがる。
この魔法は、使うたびに円柱が出る場所や速度、数や硬さなど、複数の項目を即興で調整できるようにイメージしながら作った、今まで僕が作った魔法の中でも最高傑作と言っても過言じゃない。まあ、消費MPは結構増えたんだけどね。
円柱群の向こう側からは氷を割る音と、逃げ場は無いぞ!みたいな感じの怒声が聞こえてくる。
さあ、次の布石を打ちたいんだけど・・・どうしようかな。




