防衛六十八回目
ダグロとフォックスの2人に助けられた僕は、一緒に森の外まで退避することに成功した。
森から出た僕達をまだ追いかけてくるトレント達。
そんなトレント達に遠慮なく矢の雨を浴びせるマドイさんの表情は、すごい嬉しそうな顔である。
「えっと、マドイさん?」
「・・・」
せめて何か反応をしてくださいよ!!反応無しって怖すぎるよ。
「ん?あの後ろの奴ってトレントマンじゃないか」
「ササはあれを知ってるの?」
「ああ、前に何かの資料で見ただけだけどな」
「何か特殊な能力とか持ってんのか?」
「周囲にいるトレントを操ったりしてくる面倒な敵だったはずだぜ」
あのトレントは操られてるだけなのか・・・さっき戻っていったのも斥候だったからかね。
それより、愚かにも森から出てきた奴がダグロとフォックス、マドイさんの手で次々と駆逐されていく。。なんか胸がスッとする光景ではある。
「よっしゃ残りトレント1体だ。片付けるぞ」
「援護よろしくお願いします」
「任せて。その代わり」
「山分けだろ!分かってんよ」
そんな会話の僅か十数秒後には、フォックスのアッパーカットで最後のトレントが崩れ落ちた。
まだ森から出てこないトレントマンはこちらの様子を伺っているみたいだけど、マドイさんは矢を射ることをやめない。もう見ているこちら側のSAN値が音を立てて削れていく幻聴まで聞こえる。
ん?トレントマンって確か・・・。
「ササが作ってる試作弓の素材だっけ?」
「ああ、正確には素材を落とすんだがな」
「だからあんなに獲物を狙う目で矢を撃ち込んでいるということ?」
「・・・たぶんそうじゃね?急に武闘派になるとは思えないし」
そうかそうか、試作弓の素材がドロップするのか・・・全力で狩ろうじゃないか!!
「マドイさん、フォックスさん。手伝います!」
「分かりました。では、援護をお願いします」
「・・・ありがとう」
「あれ?俺は?」
なんだか煩いのもいるけど、マドイさんのありがとうが聞けたんだ。これだけでトレントマンなんて簡単に凍り付けに出来るよ!相性なんてものは関係ないんだ!今の僕になら余裕で出来る!
僕が戦うことを察したのか、姉さんが呆れた顔をしつつ、付いて来てくれた。普段は僕をボロクソにするけど、やっぱり姉弟だから助けてくれるのかな?普段の恨みはあれど、嬉しいことは嬉しい。
「よっしゃ、俺もいっちょやったるか」
「烏丸君、一生ついていくわ」
・・・僕の感動は在庫処分のバーゲンセールをしているらしい。
こちらの殺る気を感じ取ったのだろうか?トレントマンはこちらを向いたままゆっくりと後退し始める。
「あいつ逃げようとしてやがる!」
「あ、ちょ、ダグロ!?1人で行かないでください!」
フォックスの静止も聞かずに、1人で飛び出したダグロだが、待ってましたとばかりに出てきた周囲の木々の枝葉により拘束をされてしまう。
「やべ、ミスった!?」
「・・・だから言ったのに」
「あれってどうにかならないんですか?毎度毎度あれだとフォックスさんも大変でしょ?」
「諦めるべき」
「動画サイトにこの様子をアップしましょう」
「あれ?皆心配とかしないの?」
その様子に心配するのはケイのみという愉快な状態になっているけど、フォックスさんはもう完全に諦観の姿勢だ。やっぱり今までも迷惑をかけられ続けてるんだろうね。そんな彼にはドンマイと声だけをかける。
さて、僕やマドイさんみたいな後衛を守ってくれる盾役の人が減るのは流石に拙いので救出作業をしたいんだけど、マドイさんの矢じゃあの枝は切れないし、かといって僕の魔法だと効率が悪い上に下手したらダグロを巻き込んでしまう。
「なんだこれ、体をまさぐられる!?気持ちわりい!!」
・・・そういうのって普通女の子がかかったらするもんじゃないの?これって誰得さ!男性勢は皆して口元を押さえて吐き気を堪えている。
女性陣は、マドイさんがそんな光景目に入らないとばかりに、トレントマンめがけて矢を放ち続け、ササは僕達と同じく吐き気を堪えている。姉さんは・・・下を向いてプルプルと震えている。
あ、嫌な予感が・・・。
「そんな気持ち悪いものを見せるんじゃないわよ!!」
ササから受けとった槍を高速回転させながらダグロを縛っている枝に接近すると、片っ端らから切り落としてしまう。
ダグロごと。
呆けるフォックスは置いておいて、姉さんのある意味いつもどおりの行動に溜め息を吐きつつも、アイシクルスピンジャベリンでトレントマンを狙う。
見事に避けられてしまったが、諦めることなくもう一度魔法を使っていく。すると、今度は1発のジャベリンが肩を掠めるようにして当たった。
僅かにふらついたところを、静かに接近していたケイが肩の傷口を広げるように2度、3度と切り付け、すぐに離脱する。
その攻撃で敵愾心がケイに移ったのだろう。先端が鋭く尖った木の槍を突き出され、それを走って躱し、こちらに戻ってきた。
それに追随してくるトレントマンに魔法と矢を浴びせてHPを削る。だが、そんな攻撃を物ともせずにケイを追い掛け回している。
やっぱり炎系統の魔法触媒を探しておこうかな。こういうときに便利そうだ。けど、桜の杖じゃ威力下がっちゃうしな・・・。と、考え事をしている場合じゃなかったね。すぐ近くまで接近してきたトレントマンに対処するべく、杖を前に突き出すも、次の瞬間に槍が顔にあたる場所に突き立てられてた。
「烏丸君に何をしていたのかしら?」
「・・・トレントマン逃げて!超逃げて!!」
怒れる姉の、トレントマン処刑タイムが始まってしまう。
もうこっから先は記憶に留めない方が精神衛生上いい気がしたので見ないふりをしておいた。
追加として、なぜかダグロがキラキラした目で姉さんを見てたんだが、嫌な予感しかしない。
「やっと着いた。ウッドロックの町だ!!」
「・・・なんで移動だけでこんなに濃い時間をすごさなくちゃいけないのさ。てか、移動のたびにMOBに襲われて逃げてる気がするんだけど」
「気のせい」
思い返せばMOBに襲われて逃げるなんてマネをしたことが無かったときもあったもんね。ゴブリン将軍とか。
・・・ウェイルズさんが戦ってなかったら逃走するハメになってたね。なんで僕の周りにはトラブルが発生するんだよ!
「ユイシロさん。ちょっといいですか?」
「・・・何よ」
ダグロが急に姉さんに丁寧な口調で話しかけ始めたんだが、先ほど感じた嫌な予感が再び背筋を駆け抜けた。
その何かを感じ取ったのか、マドイさんはふらりと姿を消し、ケイは武器の調達をしてくるといっていなくなってしまった。
「あの時助けられたときにあなたを見て思いました。一目惚れです!!俺と付き合ってください!!」
こんな公衆の面前で告白されたにも関わらず、戸惑うようなことも無く迷惑そうな表情をした後、ゴミ虫を射殺さんばかりの目で睨み付けて無造作にダグロの足を払うと、
「お・こ・と・わ・り・よ!!」
一言ごとに威力をあげながら顔を踏みつけ始めた。
街中だからダメージは入っていないみたいだけど、衝撃は十分伝わっているみたいで、ダグロの口からヤバイ声が漏れちゃってる!?一通り踏みつけてボロボロにすると、爽やかな顔をしながら、
「ごめんね烏丸君。ちょっとやりすぎちゃった♪」
しかし、ケイはこの場からすでに離脱してしまっているため、本人にこの危ない女の声は届いていないのは幸いなことだったのだろうか・・・。
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ゲーム内にも関わらず、背筋を悪寒が駆け抜け、体が反射的に震えてしまう。
俺の目の前にいる店番をしているエルフの女の子に、心配そうな顔で大丈夫?と尋ねられたが、体に悪いところがあるはずも無いので、大丈夫と答えておく。
・・・またユイシロさんかなぁ・・・正直あの人怖いんだよ。本性を知る前にもそれらしきことは言われていた。そのときは別に付き合ってもいいかなとは思ったが、そのたびにヤマトから止めておいた方がいいと何度も言われた。嫉妬かと思っていたんだがまさか素で心配だったとはな。
っと、買うもんも買ったし、集合場所・・・決めてなかったぁぁぁぁ!!ヤマトに連絡を・・・。
「ヤマトか?集合場所『ごめんしばらく合流できない。マドイさんにも伝えといて、姉さんにはこの恨み晴らさずにはいられないと伝えておいて』え?何があったんだ?」
ああ、またユイシロさんが何かをやらかしたのか。ヤマトも本気でキレればいいのによ。
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「いきなり告白されて舞い上がるのは分かるけど、これはちょっとやりすぎじゃないの!?」
「一目惚れって何よ。もっとましな理由をもってきなさい。そもそも現実じゃないのに付き合おうという魂胆が気に食わないわ。リアルで正々堂々来なさい。同じように踏んづけて川に流してあげるから」
「・・・フォックスさん、すいません」
「いや、ダグロもいきなりだったから自業自得って事でいいんじゃないかな」
「あの・・・このままだとこの町の兵士にしょっ引かれるか事情聴取で時間を取られるかと・・・」
「・・・うん。覚悟の上だよ」
その後こちらに来た警備の人に連れられて、僕とフォックスさんは詰め所にドナドナ。たっぷりと1時間ほど時間をとられ、最後にはこってりと絞られた。姉さん?ちゃっかりと姿くらましてたよ。
途中でケイから連絡があったときに、ケイの口から恨み言を言うように頼んだから、多少なりともダメージを受けてるといいな・・・。
説教を受けながらも、その事を考えて木を紛らわすのであった。




