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最強は自我を持つNPC?  作者: 現実↓逃避
第1章 初めてのVRゲーム
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防衛五回目

 俺はアリシアから頼まれた物を集めるために、町周辺の草原を駆け回っている。ハガミ草は、草原のあっちこっちに点在する形で生えているので、町の周辺をうろうろして、スライムを倒して冒険者になりたての奴らや、町の自衛団になりたての奴に経験を積ませるみたいだ。


「お、あったあった」


 ハガミ草を入れるために持ってきた袋には、もういっぱいになってしまいそうなほどハガミ草が詰まっている。上がったレベルと、臨時でつけた装備の力で、駆け回った結果、短時間でこんなに集まった。それに、ハガミ草が生える場所は全部把握しているため、初めてやったときの十数倍の速度で終わらせることが出来そうだ。


「うわ、MP切れた!?」

「乱発しすぎ」

「しょうがないじゃないか、MP回復させる暇もない連戦だよ」

「さっき休憩を提案した」

「はやくLV上げたいじゃん」

「無謀な狩は寧ろマイナスになる」


 んん?さっき分かれたばっかりのはずの二人組みがスライムと相対しているのが見える。男の方はMP切れなのか、手にした杖で必死に近づいてくるスライムを叩き続けている。女の方はそれは傍観している。手を出す気はなさそうだ。確かに、パーティー組んでても一応経験はつめるけど、やっぱり一番活躍した奴と、止めをさした奴が経験を多く積めるのは当たり前のことだから、傍観するのは当然か。

 てか、ほんとにあの赤髪の奴初心者以下かよ。まあ、この辺のモンスターにやられる奴なんて早々いないはずだし、大丈夫だろう。


「やった、MP溜まった。くらえ僕の魔法グフゥ」


 あ、杖を掲げた瞬間に体当たりくらってる。馬鹿だな、格好つけないで早く魔法唱えてりゃダメージ食らわなかったかもしれないのに。


「よくもやったな、くらえ『アイス』!」

 …食べ物?まあ、杖を振りながら唱えた魔法は、青みがかった氷の塊がスライムに向かって飛んでいくが、ものの見事に外してる。普通にしてれば魔法は命中することの方が多いのに、あの赤髪は何してるんだろう、銀髪の少女もため息を吐いている。


「あるぇー?なんで当たらないの?まさかバグ!?」

「単純にへたくそなだけだろうが!」

 やべ、ついうっかりツッコミをしてしまった。驚いた表情でこっちを見るのは別にかまわないが、あーあ、やっぱり反撃食らって転がってるよ。あいつはやっぱり馬鹿なのか?


 お?手からすっぽ抜けた杖が…。


「うわあああ増えたあああああ!」

 うん、ちょっと離れたところにいたスライムに杖が当たって、それで敵対者と判断されて襲われ始めた。まあ、俺からは、次にここが襲われるときまでにはもう少しましになってるといいな。としかいえない。そのまま俺は最後の採取ポイントへと足を進めた。赤髪?知らんな、俺は何も見ていない。



 意外と早く赤髪の結末を知ることが出来た。


 頼まれたハガミ草を集め終えたから花屋に行くために広場に入ると、噴水の縁に腰掛けてうつむいている赤髪(バカ)がいたからだ。手に杖は持っていない。そのまま落としたみたいだ。

 逃げ帰ってきたのなら杖を持っているはずなので、これは冒険者が死に戻りと呼んでいる現象だろう。――――ちなみに各町の神官たちは、彼らのことを神の加護を持つ、神の使いと言って信仰の対象の一つになっている――――どうやらアイテムをいくつか犠牲にして、最後に訪れた町に戻ってくるみたいだ。だから冒険者は死ぬことを恐れない、初めてモンスターに相対した奴でもひるまずに攻撃をする。これだから冒険者はウザッたい。

 俺達町人が護衛してもらいたいと言って別の町に行こうとしても、無謀な突貫をして死に戻り(バックレヴィバル)を起こす。そのせいで町人が何人もモンスターの犠牲になってしまっている。

 まあ、何はともあれ見つからないうちに立ち去るに限るな。


「あ、さっきの金髪さん」


 …うわぁ。バカに見つかった。金髪なんて回りにも少しいるから、俺じゃないって事にして立ち去るか。


「あれ?聞こえてないのかな?そこの黒い鎧を着た金髪の、えっと確かウェ、ウェ、ウェー。ウェルスさん」

「誰だよ!俺はウェイルズだ」

「なんですか、聞こえてるじゃないですか」


 クッソ反射的に応じてしまった。

「人の名前ぐらいちゃんと覚えろ」

「じゃあ僕の名前もちゃんと言えますよね」

「教えてもらっていない名前をどう言えと…」

「じゃあ僕の名前を教えますよ。ちゃんと聞いてくださいね」


 さて、さっさとアリシアにハガミ草を渡して会話でも楽しむかな。やっぱり自分の好きな奴と話すのは、それだけで楽しいものだからな。俺は花屋へと足を向けて歩き出そうとした。が、赤髪のバカが服にしがみついてきやがった。マジで邪魔だコイツ。


「ちょっと、ちゃんと聞いてくださいよ」

「俺にそんな暇はない、そもそもお前がどんな名前だろうが知ったこっちゃない」

「冷たい!この人すごい冷たいよ!名前を教えるぐらいいいじゃないか!」


 さて、俺には何も見えなかったし、ここには何もいなかった。これがみんなが幸せになる一番の近道だからな。


「俺には用事があるんだ。これ以上関わらないでくれないか?相手するの面倒だし」

「今本音を言ったよね。最後の面倒が関わりたくない理由だよね!?」

「チッ!」

「舌打ちしたよね、図星だったんだよね?」


 何こいつ、マジでウザいな。


「用事があるって言っただろ。ホレ、お前はそこで腐りかけの果実のごとく落ち込みながら相方でも待っていろ」

「言葉が辛辣すぎるよ」

「楽しそう」

「どこをどう見たら楽しそうに見えるんだよ…」

「そうだよ、今のは僕が一方的に攻撃されてただけだよ。ワンサイドゲームだよマドイさん」

「そう」


 目の前の銀髪の少女は、自分の主観と当事者の本心が違ったのに落ち込んでしまっているみたいだ。表情は変わっていないが少し俯き気味になってしまっている。ん?少女…!?


「「!?」」

「?」


 俺とバカが驚いて慌てて少女をもう一度見る。俺たちの反応を不思議に思ったのか、首をかしげている。待て待て待て、

「いつの間にいるんだ」

「実は通信した時から隠れてみてた。すごい楽しそうに話してた」


 通信ってなんだ?よく冒険者の連中が使っているがそれが何かわからない。きっと手紙のようなものなのだろう。

「いたんなら早く出てきてよ。僕の心は言葉のナイフでボロボロだよ」

「それよりはい」

「あ、僕の杖。回収してくれたんだ。ありが「スライム程度で慌てるなんてまだまだ」うう」


 バカのお礼の途中でダメ出しをするとは…この少女は教官になる素質がある。ダメ出しは人にものを教えるときに有効な手だからな。それで本人の自覚していないところをそいつに教えることができることもあるしな。


「アイテム何がなくなった?」

「ログでポーションが三本ほどなくなったって書いてある」

「所持金は?」

「ほとんどないよ」


 赤髪はドヤ顔をしながら答えていたが、ドヤ顔するところじゃないだろこれ。


「じゃあまた行こう」

「ええ?もう少しだけ休みたいんだけど…」

「肉体的な疲労はないはず」


 銀髪の少女に引きずられるようにして赤髪のバカは連れられていった。連れて行くときに、少女のほうが俺に対して、本当に分かるか分からないかぐらいで、軽く頭を下げてきた。なるほど、少女の方は赤髪の少年よりかは人間出来ているみたいだ。


「…そろそろ行くか」


 たとえ少女のほうが人間で来ていても、赤髪のせいで疲れたことには変わりない。今日はやたら絡んできたし、あいつは俺の疫病神かなんかなのか?

 俺は赤髪に対する怒りを募らせながら花屋へと向かった。



「あ、お帰りなさい。どう?集まった?」

 花屋に入ると、アリシアが声をかけてくる。ぶっちゃけこれだけで一日の元気が補充される気分だ。


「ほらよ、こんだけあればいいか?」

「もう十分よ、ありがとね」

「いや、こっちが好きでやってることだから、お礼とかいいよ」


 アリシアは頬を膨らませると、

「なによ、私は感謝してるんだから、ちゃんと言わせなさいよ」

「でも俺は戦闘初心者用のを勝手にやっちまってるんだが?」

「ああ、そういえば今日二人組みの冒険者の方が受けに来てたわね」

「へえ、そうなんだ、冒険者だったら別にいいか」


 彼女はため息を吐くと、

「あなたのその冒険者嫌いって、どうにかならないの?」

「こればっかりはどうにも出来ないね」

「いつからこうなったのかしら。昔は、僕は冒険者になってアリシアちゃんを守るんだ。って言ってたのにねえ」

「今でも守る気満々だぜ、冒険者にはなる気ないけどな」

「でも今のあなたって、どちらかというと冒険者よりよね」

「・・・」


 分かってるよそんなこと、でもこうでもしなきゃ守れるほど強くなれないんだよ。


「どうしたのよ急に暗い顔しちゃって。ほらそんな時は笑顔よ笑顔」

「え?俺今顔に何か出てた?」

「そういえば」


 …なんか露骨に話を変えられてる気がする。


「今日来た二人組みの冒険者にね、町長さんがファルフラムの森のゴブリンの分布や状態を調査する人を探してたわよ。って言ったら意気揚々と行っちゃったんだけど、片方明らかに初心者用の装備だったのよね」

「・・・」


 いや、まさかなあ、きっと勘違いだろう。でも念のために確認しておこう。

「まさかその冒険者って、赤い髪をした魔法使いと、銀色の髪をした弓使いじゃないよな」

「あれ?知り合いだったの?」


 まさか当たっているとは…。


「それでね、ちょっとあの二人だけじゃ心配だから、誰かに、あの森にいるはずの中型の統率固体を狩ってくれればあの二人の安全が確実になると思うんだけどなあ」

 そう呟きながら、俺の方をチラチラ見ている。はあ、しょうがないな。


「わかったよ、行ってくればいいんだろ」

『討伐クエスト【ファルフラムの森の部隊長】を受理しました』

「ありがとう、じゃあお願いね。報酬の方はちゃんと町長の方に掛け合っておくからね」

「じゃあ行ってくる。…今夜は肉でもガッツリ食べるかな」

「あなたの奢りだったら、この前見つけた店に案内するわよ」

「是非」


 これで帰ってきたときの楽しみが増えた。もしあの少女を会ったら一緒に食べに行こうかな。でも赤髪が付いて来るんだろうな。

 …やっぱり一緒に食事をして親睦を深めるのは別の機会に持ち越しますか。

 変更点

死に戻り(バックレヴィバル)』→死に戻り


無理やりなオリジナル要素の削除をいたしました。

今後もよろしくお願いします

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