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最強は自我を持つNPC?  作者: 現実↓逃避
第2章 種族間の問題と移動要塞
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防衛五十七回目

 目を閉じた状態で頭にVRをつけたまま体を起こすと、頬を叩かれる感触と音がした。

 目を開けると目の前には目の奥に火が灯っている幻想が見える程度には怒り狂ってる姉さんの姿があった。


「姉さん急に何するのさ」

「私のアイテム全部なくなっちゃったんだけど」


 うわ、すごい平坦な声!表情と全くあってなくて滑稽な感じすらする。口にしたら制裁という名の暴力に晒されるから言わないけど。


「しょうがないね。消耗品なら少しだけ買ってあげるよ」

「装備一式は?」

「元々僕が無理やり買わされた奴じゃないか。次は自分で買ってね。一応お金貯まってるでしょ」

「全ロストした原因はあんたにあるんだからあんたが買いなさいよ!」

「今までのはチュートリアルだと思えばいいじゃないか。大抵チュートリアルで貸し出された武器防具は没収されるものだよ」


 僕は姉さんの方を見ないようにして頭からヘッドフォンを取ると、首からチョーカーを外し、ベッドのそばにある棚に載せる。そして、そのまま机の上のパソコンを起動。起動するまでの時間でケイと葵さんに謝罪のメールを送っておく。


「ねえ、ちゃんと顔見て話しましょう」


 姉さん。それは無理な相談だよ。

 だって、たぶん今姉さんの顔見たら失神しちゃうかもしれないから。

 失神しないまでもまともに話せなくなってしまうかもしれない。


「やだなあ、そんなに人を射殺すような顔をされたら姉さんの顔なんて見れないよ。そのままだと常に表情が怖くなってケイに嫌われちゃうよ」

「そこはあんたが口を出していい問題じゃない。この顔はあえてしているのよ」

「こうして姉さんは年齢=彼氏いない暦を更新していくんですね」


 遠い目で画面をスクロールしていっていると、頭を思いっきり叩かれてしまった。脳細胞が一気に死んでいく感触がした気がする。


「その余計なことを言う口は縫い合わすべきかしら?やったわね勇人。口無し人間になれるわよ。ギネスに名前が載るわ」

「何サラッと恐ろしいことを言ってるのさ!」

「女に彼氏がいないとか言っちゃだめだからに決まってるじゃない」


 腰に手を当ててふんぞり返る姉さんに言いたいことは色々あるけど、今回は僕が悪いみたいなので言わないでおこう。


「それで、何の用?もう姉さんは寝る時間じゃないの?」

「文句を言いに来たのよ」

「はあ、これで夜更かしをした姉さんは肌が荒れ、その責任も僕に押し付けようという魂胆なんだね」

「私がそんな言いがかりみたいなことするわけないじゃない。そんなことより、よくも私を見捨てて死に戻りする手伝いをしたわね!!」


 ビシッと指を突きつけて睨み付けて来るのをチラッと見てパソコンの画面に視線を戻す。画面にはDWAの公式ページが開かれている。


「ちょっと、いい加減にしないとそのパソコン壊すわよ」

「より高スペックの物に買いなおしてくれるなら考慮しようかな」

「ふざけたこと言ってるとぶん殴るわよ」


 その言葉はブーメランだよ姉さん。呆れた表情をしているであろう僕の視界に、気になる文字が飛び込んできた。


『イベント発生』


 背後でごちゃごちゃ言っている人は放っておいて、この文字をクリック。ページを開いて内容を見ていく。

 全部見終わって内容を要約すると、一部のプレイヤーがイベントクエストのトリガーとなる行動をしたため、イベントが進行。新しい防衛イベントが3日後の19時より開始されるといったものだった。

 葵さんやケイから返信された別に気にしていないというメールの返信として早速知らせてみると、ケイはともかく、葵さんがすごい勢いで食いついてきた。

 まさか送ってから5秒ほどで詳しくと書かれたメールが来るとは思ってもいなかったよ。

 しばらくメールのやり取りをしたけど、最終的には葵さんから自分で情報を集めるといったメールが届いた。

 このメールが届くまで約10分ほど。

 葵さんともう少しメールをしたかったが、情報収集の邪魔をしてはいけないと思ってあきらめた。姉さん?ケイ経由でイベント情報を届けるように頼んでおいたので、僕がケイと葵さんに情報を教えてからすぐに僕の部屋から出て行ったよ。

 壁に耳を当ててよく聞くとまだ話し声が聞こえてくる。

 ケイ・・・なんでメールじゃなくて電話で教えることにしたんだろう。それは完全に自殺行為だというのに。

 電話の向こうでは涙目になっているはずのケイに、心の中で敬礼してからベッドで横になる。

 今日はいい夢を見れるかな?



 ●●●



 まだ眠気の残る頭を抑えながらいつも通りの朝の行動を終え、朝食をお腹に詰め込んでいる最中に気がついた。姉さんがまだ朝食の席に来ないことに。


「結城遅いわね・・・勇人、呼んできてくれない」

「分かったよ」


 部屋の前へとゆっくり歩いていきノックするも中から反応はない。まだ寝てるのかな?

 とりあえずノックもしたことだし、扉を開けて中に踏み込んで行くと、ベッドに胡坐をかいて座っている姉さんが、携帯を握り締めて何事かを話していた。

 朝食も食べずに電話とは・・・。呆れた表情をする僕に気がついていない姉さんはまだ話し続ける。


「それでね、軽野君。今度一緒に――」


 待て、今姉さんはなんて言った?軽野?それってケイのことだよな。まさか今の今までずっと話してたって言うのか!?

 僕はゆっくりと部屋から出ると、自分の部屋のパソコンを立ち上げ、ケイにメールを送った。

 すると、すぐに返信が来て、そこにはひらがなで助けてと書いてあるだけだった。

 僕は母さんのところに走っていくと、姉さんが来ない理由を告げる。

 それを聞いた母さんはユラリと擬音聞こえてきそうな立ち上がり方をすると足音を立てずに静かに、尚且つ迅速にリビングを出て行った。そして、そのわずか十数秒後には怒声と何かを叩く音、壊れるような音が響き渡る。

 僕はそれを震えながら聞いていることしかできなかった。



『俺今日はログインしないわ。てか無理。葵さんにそう伝えておいてくれ』

「ケイごめん。今度何か奢るからさ」

『過去お前が散々結城さんはやめとけとか言ってたのが要約理解できたよ。あれって頭がイッてるなんてレベルじゃねえぞ。正直話すだけで寒気がするようになった』

「うん。本当にごめん」


 今度葵さんを含めた3人でどこかに出かけようという話になったけど、本音で言えば葵さんと2人でどこかに行きたい。きっとケイも似たような考えだろう。てか、勝手に決めちゃったけど大丈夫かな・・・ここからは頑張って交渉をしなくちゃいけないのかな。


『そんじゃ。また明日な』

「うん。今日の成果とかは夜にメールするよ」

『ホイホイ』


 電話が切れた僕の耳にはいまだに説教を続ける母さんの声が聞こえてくるが、それを気に留めずにイベントの情報を集めることにした。



 ●●●



「ちょっと時間が余っちゃったな」


 少し早めにログインしすぎてしまったため、集合時間まで時間がある。

 ちょっと一人で近くを探索でもしてようかな。すぐに戻れる場所なら別にかまわないよね。

 そう判断し、町の外へと出て行った。



 前衛のいない後衛なんて近づかれたら一方的にやられちゃうと思った?残念!僕には相手を足止めできる魔法があるから一人でも狩はできるのさ!!

 まあ、効率は落ちる上にMPが切れた瞬間に足の速いMOBに捕まってフルボッコにされるんだけどね!!

 なんでこんなことが言えるかって?今現在僕は死に戻りで戻ってきたからさ!どうだ!実感が篭っているだろ!

 なんて感じで現実逃避をしなければやってられない。なんせ、折角ドロップしたレアアイテムが死に戻りの生贄になったのだ。

 はあ、やる気が著しくダウンしたな~マドイさんが来るまでログアウトしようかな~。

 転移石の設置してある広場のベンチにぐったりと座りながらそんなことを考えていると、ポンポンと肩を叩かれた。

 ゆっくりと顔を上げると、そこには姉さんが腰に手を当てて立っている。


「姉さんなんか用?てか、よく徹夜でログインできるね」

「好きな人と電話できたのよ?徹夜なんて気になるわけないじゃない。それと今日は烏丸君はいないの?」

「・・・電話については何も言うまい。烏丸は今日はログインしないってさ」

「じゃあ私も今日はログアウトするわね。そろそろ宿題も終わらせなくちゃいけないし。ヤマト、あんたもちゃんと終わらせなさいよ」


 姉さんは一方的にそういうと、そのままログアウトしていった。

 確かに宿題は大事だけど、その辺の調整ができてないはずはないんだけどな・・・一応あれでも姉さんは風紀委員長だからシッカリとしてるはずだし。

 はあ、おかげで今日は前衛無しか・・・マドイさんが上手いといっても、後衛職2人じゃ限界があるしな~。

 ・・・2人きり?

 うわぁぁぁぁぁ!!今日はマドイさんと2人きりで探索!?え?本当に?

 先ほどまでの落ち込みようはどこへやら、僕のテンションは一気に舞い上がっていった。



「そう。ユイシロさんも来ないのね」

「うん。どうしようか」

「イベントの準備」

「じゃあそれと軽く戦闘してレベル上げようか」

「ん」


 前衛の人と臨時パーティーを組むわけでもなく、2人でレベル上げと資金調達に赴いた。広場の掲示板のようなものに張ってあったクエストの内、後衛だけでもできそうなものだけを受けていった。

 夕方にはそれなりの素材とお金を手に入れることができた。そう、今回は僕は死に戻りをしなかったよ!!

 妙な感動を味わっていると、マドイさんが昨日調べたのかイベントの情報を僕に話し始めた。


「イベントの場所はウッドロック」

「へえ、確かまだそこには行ったことなかったよね?明日烏丸達がログインしたら一緒に行く?」

「行くのは少し待ったほうがいいかもしれない」

「え?何で?早めに行って準備をしておいたほうがいいんじゃないの?」


 もっともな疑問を口にしたけど無言で首を横に振られてしまう。他にも何かあるってこと?


「移動中を叩くことができる」

「それってイベントBOSの出現場所が離れててウッドロックに来るまでに時間がかかるから、それまでに好きにダメージを与えられると。まるで某狩りゲームの巨大な敵を爆弾や弓で攻撃する見たいな感じだね」

「私たちはそれに近いけど、前衛の人たちは接近しなきゃダメ」

「死に戻りに回数制限があるのかどうかでとる手段が変わってくるけど・・・」

「そこは前日発表」

「念のため復活場所をウッドロックにして置いたほうがいいんじゃない?普段の防衛だと少し前に門が閉まっちゃうからさ」

「ん。明日2人と合流したら行こう」

「分かった。今日はもう解散?それとも夕食とか終わったら集まる?」

「今日は解散で」


 結局今日のところは解散。ケイと姉さんには僕が連絡することになった。

 夕食を食べ終えた僕は、再びログインして今日の成果を整理する。

 すると、メインアームである桜の杖の強化素材が手に入っていたので、工房を探してさまよい始めた。しかし、ここはメタルガド。鉄などの鉱石を使う武器防具を強化、作成する場所はあっても、木製の杖を満足に強化できる場所がなかった。

 普通の杖ならまだ満足できる結果になりそうだったけど、桜の杖みたいに特定MOBのドロップは失敗する確率がそれなりにあったので強化を頼むのは止めておいた。こういう時って大抵失敗してひどい目に合うのは今までの人生で散々学んできたからね!!

 こんなことは誇れないと思う。

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