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最強は自我を持つNPC?  作者: 現実↓逃避
第2章 種族間の問題と移動要塞
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防衛五十五回目

「何よ・・・あれ」


 姉さんが声を絞ってそんなことを呟く。

 今僕達ははしごのある場所から移動して、なんとなく全員息を潜めて木箱の陰に潜んでいる。

 クエスト画面を開くと、パーセントは100になっていて、次の内容が出ていた。それによるとバレないように観察を続け、パーセンテージを100%しなきゃいけないみたいだ。

 そして、姉さんが絶句している理由は簡単だ。

 僕たちが観察しているものはとても巨大な何かなのだから。

 それを建設?するのにあっちこっちで大きな音がしており、何をどこへ持っていけという指示の大きな声が飛び交っている。

おかしいな。これって人探しのクエストじゃなかったっけ?

混乱する思考を押さえつけ、今は仲間とどうするべきかを相談することにしよう。


「どうする?バラけて観察を続ける?」

「いや一緒にいたほうがいいだろう。このクエスト内容だとパーティーの中の一人でも見つかればアウトなのか、誰かが見つかっても他の奴が見つかってなければパーセントが貯まり続けるのかだ。実験しようにも一度失敗したら無くなる類のクエストかもしれないしな」

「どうしようかしら?」

「もう少しここに潜んで様子を見よう。マドイさん。バレないように木箱の中身を覗いてくれない?それか木箱に番号書いてない」

「ちょっと待って」


 マドイさんはそっと顔を出して様子を伺うと、こっそり木箱を回転させて番号が書いてないかを確認し、ついでに中身を覗く。


「番号は6038で、中身は鉄製の歯車」

「・・・忙しそうに働いてるドワーフ達の会話をよく聞こう。近い番号が挙げられたら場所を移動しよう」

「だったら他の木箱の番号もある程度確認しておくべきじゃないかしら?近い番号を言われて移動したら、その番号が移動した先にありました。なんて展開は嫌だもの」


 ケイは頷きながら、それもそうだな、と言うと周囲を物色し始めた。それを僕達も手伝う。

 これで何か木箱の番号の法則が見つかるといいなあ。

 しばらく色々と見てみたけど、僕たち周囲にある木箱は6000番台であることが分かった。


「これだけじゃわかんねえな。ちょっと別の木箱も見てくるわ」

「烏丸君気をつけてね。なんなら私も付いていくわよ」

「いや、大丈夫。一応盗賊をロール使用としている俺からすれば、この程度のこと一人で出来るべきだと思うんだ」

「その割には格好が派手だよね。絶対に隠密にボーナスどころかマイナス効果だよねその装備」

「ヤマト、気にしたら負けだぞ」


 いい笑顔でそんなことを告げたケイは、スッと音を立てずにこの場を離れる。

 しかし、少しすると怒声のような音が僕の耳に届いた。

 まさかとは思うけど、バレたんじゃ・・・。

 最悪のことを想像して顔を青くするけど、耳をすませるとどうやら侵入者関連ではないみたいだ。誰かがミスをしたみたいでそれに対しての叱責のようだ。

 ホッと胸を撫で下ろす。


「何?まさかあんたは烏丸君がバレたとでも思ったの?」


 キツイ目で僕を睨んでくる姉さんと、いつもどおりの無表情でいるマドイさんを見て、心配をしていたのは僕だけだったと気がつかされた。


「まさか烏丸君を信頼してないとかじゃないでしょうね?」

「だって、あのタイミングでの怒声だったらだれでもそう考えるはずだよ」

「声でかい。バレる」


 淡々と言われたことに、僕と姉さんはお互いを一度睨み付けただけで大人しくケイの帰りを待つ。


「もういい!お前はさっさと6089番を持って来い!休憩はないものと思っておけよ!」


 そこで怒声は途切れる。お叱りタイムはようやく終わりかな?・・・って、


「どうする?ケイまだ戻ってきてないけど近くまで来そうだよ」

「一旦移動して、木箱が運び出されてから戻ってくればいいじゃない」

「ん。賛成」


 行動の指針が決まったところで、移動を始めようとするとケイが戻ってきた。なんてタイミングだ!!


「どうしたんだ?」

「誰かが近くまで来そうで、一旦移動しようって話が纏まったとこなんだ」

「番号は何番だ」

「6089」

「よし、それじゃあこっちが安全だ」


 手招きをするケイに付いていくと、確かに木箱の番号が遠ざかっていく。


「法則は分かったのかしら?」

「どうだろうな。場所を少し把握した限りだと、今俺たちの向かってる方向が数字の桁がが少なくなってるな」

「もし使う順番が小さい数字からだったら危なくない?」

「いや、逆に考えてみよう。小さい数字の方はすでに使用し終わっていて、人があんまり近づかないと」

「流石烏丸君。皆聞いたわね。行くわよ」

「・・・確かに現状からだとそうするしかないんだろうけど、なんか釈然としない!」

「逆らうんだったら今日の晩御飯。あんただけ唐辛子(1本)ね」

「ご飯を盾に取るとは!それでも人間か!」


 姉さんのあまりの言い分に思わず大きな声を出してしまったが、周囲の喧騒のおかげでバレることはなかった。代わりに全員に頭を叩かれましたとも。


「大きな声出してんじゃねえよ。バレたらどうする気だよ」

「う、ごめん。つい反射的に」

「はあ、しょうがねえ。バレなかったからよしとしよう」

「全員に何かご飯奢って」

「それはいい案ね。ヤマト、あんたの財布の中身を空っぽにしてあげるわ」

「え?いつの間に奢る流れに?」

「罰」

「・・・はい」


 僕の懐はただでさえ寒いのに、氷河期に突入してしまうみたいですよ?臨時収入があるといいな・・・。ないだろうけど。あははははは。

 僕が変な笑いをし始めたのを見て、距離を置かれた。


「さて、昼飯が一食豪華になるのが確定したところで、そろそろパーセンテージが全部貯まるな」

「そうね。意外とこれって辛いのねジッとしてなくちゃいけないのって苦痛ね」

「なんだ?今話し声が聞こえた気がするぞ」


 瞬間、全員が話を止め、静かになった。もちろん僕も笑うのを止めた、いや、正確には止めさせられたと言ったほうが正しい。マドイさんに手で口を塞がれたのだ。ああ、なんか知らないけど幸せだ~。


「・・・気のせいか」


 そう言って足音が遠ざかっていく。が、


「行かせるわけないでしょ」


 静かに飛び出した姉さんが足音の主の首に手を回し、僕たちの隠れている物陰に引きずり込んでしまう。

 僕たちの姿を確認したそのドワーフは、目を大きく広げて声を上げようとするも、先に意識を刈り取られる。

 どこぞのバレないように進入、遭遇した兵士を気絶させ、空に解き放つゲームだ!!


「姉さん何してんのさ」

「バレなきゃいいんでしょ。問題は何もないじゃない」

「それもそうだな」

「じゃなくて、戻ってこなかったこの人の様子を見に誰か来るかもしれないじゃないか」

「気にしたら負けよ。どうせさっきのところに戻るんだから」


 なるほど。納得。じゃなくて!


「この人が見つかって目を覚ましたらどんな反応すると思う?」

「きっと全部忘れてるわよ」

「都合がよすぎる!?」

「あれだろ。目を覚ましたこいつのせいで俺たちの捜索に移られるかもしれないってことだろ」

「大丈夫でしょ?もう後十数秒しないうちに貯まるはずよ」


 なんでもないように言って来る姉さんに、僕たち3人は否定するように手を前で振る。


「「いやいやいや‼そんなに甘い訳がない‼」」

「あ、貯まった」

「ほら見なさい!私が正しかった!」


両手を高く掲げ、自分が正しかったと吠える姉さん。


「何が正しいって?」

「私の作戦よ!バレる前に気絶させればいいのよ!」

「へえ、俺たちの仲間を気絶させたと、いつまで経っても戻ってこないからおかしいと思ってみれば」

「ヤマト、あんた何トチ狂ったこと言ってんのよ」

「僕は何も喋ってないけど?てか、何で真っ先に僕を疑うのさ!」

「こいつを仲間だみたいな頭のおかしいこと言うのあんたぐらいだと思ってたから」



なぜケイじゃなくて僕なのさ!そもそも一人称が『僕』じゃなくて『俺』だったじゃないか!

姉さんの代わりにケイを睨むも、ケイは僕や姉さんではなく、他の一点を凝視している。

マドイさんを見てもケイと同じ方向、姉さんの頭上を見ているので、そちらに視線を移動させると、ニコニコといい笑顔をしている豊かな髭を蓄えたドワーフのお爺さんが立っていた。


「急に黙りこくってどうしたのよ。こいつみたいに頭のネジ無くなっちゃったの?」

「頭のネジ外れてるのはあんたの方だと俺は思うんだよ。普通、出会い頭に問答無用で気絶させるか?」

「なんですって‼・・・ヤマトじゃないなら誰よ」


ようやく疑問を抱いたのか後ろを振り返る姉さんの視界には、きっと角度的に髭と鼻しか見えないだろう。

 ニッコリと笑みを浮かべるドワーフのお爺さん。そんなお爺さん相手に姉さんも思わず苦笑い。


「おーい皆!侵入者だ!」

「「予想通りだよチクショウ」」

「逃げる」


 侵入者という単語に反応して、あっちこっちで怒号があがり、生かして返すなといった声も聞こえてくる。


『クエストが更新されました』


 目の前にクエストの更新を告知する文が浮かび上がるも、それを確認する暇がない。


「姉さんのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「捕まえろぉぉぉぉぉぉ!」」」


 後ろからは愉快なドワーフの皆様方が青筋を浮かべ、斧や槌、剣なんかを振り回しながら追い立ててくる。


「クエストが更新されました?確認してる暇があるかぁぁぁぁぁ!!」

「ヤマト君。手を貸して」


 マドイさんは僕が何か返事をする前に手を取ってきた。え?手を貸してって物理的な意味で!?

 とにかく逃げなければいけないので、足元に気をつけつつも手を引き続ける。


「ん。もう大丈夫」


 僕の手からマドイさんの手が離れていく。


「どんな内容だったんだ」

「脱出」

「脱出?そんなもの今してるじゃない」

「ルールがある。ヤマト君がやられたら失敗。ユイシロさんに至っては捕まると武器防具が全ロスト」

「はぁ!?何でよ!」

「ペナルティ」

「きぃぃぃぃぃぃ!!」


 姉さんのペナルティ厳しすぎると思うんだけど・・・やっぱりドワーフの皆様は攻撃しちゃいけないんだね。


「そういえば何で僕がやられたら終わりなの?」

「このクエストのトリガーを作ったからと、ユイシロさんが名前言ってたから」

「完全に巻き添えだ!!」

「そんなことはどうでもいいが、脱出しようにも出入り口のはしごはとっくに封鎖されてるはずだし、そこから出たとしても俺たちは落とし穴から降りてきたんだ。出る手段がねえぞ」

「たぶんどうにかなるんじゃない?運営も出来ないクエストを出すわけがないし」

「バグの可能性も・・・」


 ・・・そんなバグまみれのクエストをイベントとしてはやらないと思うけど、何が起こるかわからないしな。


「気になったんだけどさ、あの落とし穴って本当に正規ルートなのかな」

「なんでだ?」

「正直あの落とし穴って気がつかない人のほうが多いと思うんだよね。だから別のルートがあるんじゃないかって」

「出口は別にあるんじゃないかってことか?」

「たぶん」

「たぶんって・・・間違えてたらこのクエスト失敗になるぞ。まあ、どのみち出口は無いからそれしか方法がなさそうだけどな!」



 呆れながらも僕の意見に賛成してくれたケイは、投げナイフを追いかけてくるドワーフの足めがけて投擲。先頭の足を止め、詰められていた距離を離す。


「マドイさん。今ので俺にペナルティを課されたか確認してくれるか?」

「ん」


 ケイ、ナイスプレーだよ。再び僕の手にマドイさんの手が繋がれる。こんな状況じゃなければ僕の顔を笑みが凄いことになっていたはずだ。


「ペナルティなし」

「やっぱり追われてるときは反撃してもOKなのか。ただ、倒したりしちゃったらダメなんだろうな」


 時折ケイが背後にナイフを投げ足止めをしているが、ドワーフ達のHPが危なくなったらそれもできなくなるということか。

 出口の場所も分からない、後ろからは大量のドワーフの追手。しかも、倒すことが出来ないオプション付き。運営の考えに悪意を感じる!!


「あ、ナイフ無くなった」

「うおぃ!!補充してたじゃんよ!あれはどうしたのさ!」

「全部投げちゃった♪」

「烏丸は囮決定ね」

「そんなこと私がさせるわけ無いじゃない!」


 ケイの足を引っ掛けて転ばそうとするも、姉さんに阻止されてしまう。


「姉さん、邪魔しないでよ!」

「仲間割れダメ」

「烏丸ごめんね」

「手のひら返し!?」


 僕達は仲良しの大親友さ。


「くそ、納得いかねえ」


 ケイがなにやらぼやいているが、聞かなかったことにしよう。

 とここで僕の背中に衝撃が走った。

 言い合いとケイを囮にしようとしている内に追いつかれてしまったみたいだ。


「ウォーターウォール!」


 僕とドワーフ達の間に水の壁を張るが、MOBと違って優秀なドワーフたちは迂回して接近してくる。おかげで距離は少し開いたけど。

 さて、僕達クエストクリアできるのかな?てか、このクエスト難易度高すぎじゃない?

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