防衛四十九回目
ヤマト達プレイヤーのターン
『それで、明日は何時に集合だ?』
「ああ、それで急に電話してきたのね。一応マドイさん・・・何時も葵さんとは13時ごろを待ち合わせにしてるけど。多分明日も同じ時間じゃないかな」
『OK分かったぜ。意地でも行くからな!!いいか、待ってろよ。待ってるんだぞ!!』
そう言ってケイからの電話は切れた。
・・・置いていきたくなってきた。
「ねえ、明日も軽野君来るって?」
背後にいる、目をランランと輝かせた姉さんがもう怖すぎる。
本格的に明日行きたくなくなってきた。
葵さんと愛の逃避行・・・有りだねコレ。
早速葵さんに連絡を。
「答えなさいよ。ね~え~」
早く連絡を・・・。
「答えなさいて言ってるでしょ!!」
背中に衝撃が走り、前のめりになって倒れてしまう。
僕は反抗的な目をしていたのだろう。
振り返った僕の視界には目に見えて不機嫌になっている姉さんの姿。
反抗心なんて一瞬でなくなってしまった。
「姉さん?」
「だから明日は軽野君が来るかどうかを教えなさいと言ってるのよ!!」
「わかった。わかったから落ち着いてよ!!」
襟首をつかまれて揺さぶってくる姉さんに僕はそういうしかなかった。
「それで?来るの?」
「そのことなんだけどね、成功するかわからないけどちょっと取引しない?」
「それは私にとって得になることなのかしら?」
「成功すればね。多分ケイと――」
「詳しく聞かせなさい」
まだ全部言い切っていないのに、ケイの名前が出た瞬間にドン引きしてしまうほど身を乗り出して話を聞く体勢になった姉さんの姿を見て、ため息を吐きながら携帯を手にとる。
「その携帯でどうするのかしら?」
「下準備。これが成功すれば姉さんにはとてもお得なことになるかな」
「死んでも成功させなさい」
「向こうしだいだから無理だよ」
「じゃあ無理そうだったら私に電話を変わりなさい」
「・・・メールにしよう」
後ろで、何でよ!!と叫んでいる姉さんは放っておいて、葵さんにメールを送る。はたして返信はどうなるかな?
送ってから僅か15秒足らずで返信が帰ってきた。さて、何が書いてあるかな?
『却下。戦力皆でクエストを受けたんだから待ち合わせはちゃんとするべき。それと、明日は時間がかかりそうだから朝から行く』
うん、やっぱりダメか。
僕は携帯を置くと、自分の部屋に行くべく階段を上ろうとしたが、姉さんに肩をガッシリ掴まれてしまう。
「計画を話してもらおうかしら?」
「ごめん。ダメだった」
「計画を話してもらおうかしら?」
「だからダメだったってば」
「・・・死ぬ気で交渉した?」
「正論をぶつけられました」
姉さんは舌打ちをすると、自分の部屋に引っ込んでいった。
釈然としない思いを抱きながら自室に戻り、ケイに連絡してから寝ることにした。姉さん?きっと僕がログインしたら勝手にログインしてくるだろ。
今日も待ち合わせ時間前に来てしまったので、噴水を見て時間を潰す。
さすがファンタジーな世界のゲーム。
ずっとこの噴水を見ていても飽きない。
うん。すばらしい。
僕の背後にひっそりと忍び寄ってる影さえなかったら僕の気分は最高であるままだったのに。
ゆっくりと振り返ると、今にも僕を噴水に突き落とそうとしていたのだろう、手を突き出そうとする中途半端な格好で固まっている姉さんが立っていた。
姉さんはつまらなそうな顔をすると、僕を力いっぱい突き飛ばした。
やっぱり戦闘職には力の面でかなわないようで、噴水に落ちる。
今回は身構えることができたので溺れることはなかったが、愉快そうに僕を見る姉さんの姿に苛立ちは余裕で覚える。いや、こんなことされて苛立たないやつは頭がおかしいかドMかの二択だと心底おもう。
「・・・何?」
「どうした少年。濡れ鼠ではないか」
・・・僕はそろそろ姉さんに対して本気で怒ってもいいと思うんだ。
「ねえ、楽しい?」
「もちろん」
近くを通りかかったプレイヤーや、NPC達が2度見をするレベルの綺麗な微笑を浮かべながら答えてきた。
「・・・何やってるの?」
聞きなれた声が聞こえ、姉さんの背後にマドイさんが立っていることに気がついた。
見られた!?
僕はゆっくりと噴水から上がると、背中を向けて全力で駆け出す。
「――――」
何か声をかけられた気がするが、見られたショックの方が大きくてその場を離れる方が優先してしまう。
おかげで何を言われたか分からない。内容によっては死にたくなるかもしれないから足は止めない。
現実から目を逸らすために僕は走り続けた。
「・・・迷った」
現在僕はどこかの路地裏を徘徊し、絶賛迷子中である。
だって、どこをどう走ったかなんて覚えてるわけ無いじゃないか!!
ひっきりなしにフレンド通信がかかってくるが全部マドイさんなので、出るに出られない。
この町の地図を使えばいいじゃないかという考えが浮かぶも、いきなり逃げ出してどの面を下げて会いにいけるというのだろうか。
どうすればいいの分からず途方にくれ、外したはずの称号である【迷子】があることに気がついてお帰りなさいと思わず考えてしまう程度には余裕はある。
・・・これは余裕だよね?
「そこのお兄さん。ちょっと占っていきませんか?」
路地裏の奥まったところから声をかけられた。
声をかけてきたのは、小さな木箱に腰掛けてフードを深々と被った人物だった。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。なに。少々のお金をいただければいいのですから」
「僕手持ちがちょっと・・・」
「なら無料で構いませんよ?」
・・・NPCじゃないのかな?まあ、無料だというんだったらやってもらおうかな?
その占い師らしき人の対面に置かれた木箱に腰掛けると、お願いします。と言って待つ。
「ふむ、もっと顔を近くに」
顔を近づけると、フムフムと頷きながら観察してきた。
ひとしきり観察を終えたのか、今度は手を出すように言われたので手を突き出す。
占い師は僕の手を両手で柔らかく包みこんできた。
1分ほど経つと、手を離して、フードの奥からのぞく目に真剣な光を宿して僕を見つめてくる。
「あなたは今・・・恐れてますね?」
「・・・」
「そう、仲間でしょうか?その女性に嫌われることが怖いのですか?」
「・・・」
「あなたは今後重大な選択を迫られるかもしれません。そのときに選択を誤ると、大事な仲間が死んでしまうかもしれません。よき選択が出来るよう祈っておきますね」
「・・・あなたはこの町の住人なんですか?それとも、プレイヤーですか?」
僕が聞くと、口元に笑みを浮かべ、
「ただのNPCさ」
そう呟いて目の前から消えていった。
いったいなんだったのだろうか。ステータスには、微弱ながらMPとINT上昇のパフがかけられている。
・・・マドイさんのところに戻ろう。
「・・・」
「あの、えっと」
「知らない」
マドイさんがメチャクチャ怒っていらっしゃる!?
「えっとですね」
「・・・」
脹れてるマドイさんも中々可愛い。じゃなくて、
「その、すいませんでした」
「・・・別に怒ってない」
いやいや、ならなんでそんなに脹れてるんですか。なんでそっぽ向いてるんですか!!
「ヤマト、最低ね」
「やっちまったな」
姉さんがさげすんだ目で、ケイがニヤニヤ笑いながらそんなことを言ってくる。
「早く行こう」
僕から視線を逸らしたまま、マドイさんは町長宅へと足を向ける。
僕は話しかけることも出来ず、後ろをついていくことしか出来なかった。
「よろしく頼むぜ」
町長宅で護衛クエストを受けたあと、ナグサがいる工房に案内された。ナグサの横にはなぜかササが立っていた。
武器を担ぎ、道具を入れてある袋を腰にぶら下げた状態で・・・。
「ササ、鍛冶してたの?」
「いんや、私も行くんだよ」
マドイさんの表情が珍しく変化してる。まあ、困惑の表情だけど。
「コイツの故郷に私の師匠がいるんだよ」
「それで?ササが一緒について来る必要は」
「久々に挨拶に行きたいが、護衛を雇うのに金かかるだろ?だからまとめてだな」
「・・・分かった」
「おし、私達の準備はもう終わってるが、そちらはどうだ?」
「まだ」
「じゃあ準備が終わったら東門の方に来てくれるか?」
「分かった」
「んじゃ先行ってるからな」
ササはナグサを引き連れて工房から出て行った。
僕らは顔を見合わせると、
「じゃあ私と烏丸は先に門に行ってるわね」
「え?俺はマドイさんと必要なものの買出しに」
「じゃあ早く来なさいよ~」
姉さんは何かを言おうとしていたケイの襟首を引っつかむと、引きずるようにして工房から出て、町並みの雑踏へと消えていった。
後にマドイさんと一緒に残された僕はどうすればいいのでしょうか。ケイの身の安全、貞操を心配すればいいのでしょうか?
「えっと・・・何が必要になるかな?」
「・・・」
「遠征には何が必要かな?やっぱり回復薬は必要だよね」
僕のほうを向かずに頷くだけで答えるマドイさんを見ると、大分落ち込んでしまう。
「マドイさん?」
「・・・何?」
「出来れば怒ってる理由なんかを教えていただけると・・・」
「怒ってない」
「でも「怒ってない」・・・」
ダメだ、埒が明かない。どうやったらマドイさんの機嫌が直るだろうか・・・。
素直に謝る?さっき謝ったときは態度を硬化させただけのような気がする。
じゃあ、このまま?論外に決まってる!
それならば何かプレゼントする?ゲーム内外どちらも金欠気味なうえ、マドイさんが何を欲しがるか分からない。
あれ?本当にどうしよう。
僕がどうしようか考えているうちに、回復薬などの消耗品を扱っている店についてしまった。
「今日はなんのようだ?」
ここの店員って、常時目の下に濃すぎる隈を貼り付けてるんだよな。NPCだから急に変わることも無いだろうしね。
「回復薬をください」
「いくつ欲しい?」
「15本」
「はいよ。ちょっと待ってな」
棚から回復薬を取り出してカウンターに置いていく店員。
マドイさんは店員の差し出したカードのようなものに手を当てると、チャリーンと音がして、マドイさんの所持金が減ったことが分かる。
そしてそのまま自分のストレージへと放り込んでいく。
結局一言も話せないままに買い物は終わってしまった。マドイさんは僕を一度も見ることなく、僕の前を歩いて待ち合わせ場所である東門へと行く。
「あの・・・マドイさん?」
「・・・」
「そのですね。えっと・・・」
「何?」
「連絡を無視してスイマセンでした!!」
「・・・」
マドイさんは、頭を下げた僕を無表情で見つめてくる。
そのまま少しすると、マドイさんが動く気配がした。
・・・やっぱりダメかな?
そう思った瞬間、頭に衝撃が襲い掛かってきた。
「ブグ!?」
顔を地面に叩きつけられ変な声がでた。
「え?」
痛みは無いけど、間抜けな声が漏れた。
思わず顔を上げると、表情を呆れたものにしているマドイさんが視界に入ってきた。
「私は怒ってないって言ってる。謝れるいわれはない」
「でも」
「悪いと思ってるんだったら、ちょっと手に入れたいアイテムがあるから、ダンジョンに行くのを手伝って」
「え?それだけでいいの?」
「重いのがいいの」
「いえ、手伝わせていただきます!!」
「・・・よろしい」
そうだよ、謝ったときぐらいからマドイさんは許してくれてたはずだ。
なんせ脹れてたのがすぐに治ってたし、無言だったのは元々あんまりしゃべらないからだ。
知ってたはずなのに、余裕を忘れてそんなことすら忘れていたとは、恥ずかしいうえに、マドイさんが多少なりともイラつくのは当たり前だろう。
「マドイさん。早く行こう。二人とも待ってるよ」
「うん」
マドイさんの前に出て歩き始めるが、ポツリと呟いた。
「そういえば何で噴水の中に入ってたの?」
「・・・」
そういえばあの場をダッシュで離脱したのはそれが原因だった。
またマドイさんから冷たい目を向けられる訳にもいかないので、起こったことを詳しく話す。
歩きながらも静かに話を聞いていたマドイさんだが、話を聞き終わったときにポツリと一言。
「もう怒っていいよ」
「だよね。でも、情けないことに小さい頃から色々とやられてたせいで、逆らえないんだよ」
「試しにぶつかってみればいい」
「・・・そうだよね」
若干その場の空気に流された感があるけど、こんどリアルで姉さんと母さんに抗議をしてみようと思う。
僕はそう決意しながら東門へ行き、ケイや姉さんたちと合流して、ササの師匠やナグサの故郷である町、メタルガドへと向かう。
出るときに花屋のアリシアさんと会い、ササと話していたが、そのせいで少し・・・スマン少しじゃない大分不機嫌になったササを引きずっていくことになった。
どうしてこうなった。




