防衛四回目
目の前で突如始められた決闘に目を白黒させるしかない。
開始前に表示された表示枠に書いてあったNPC側の金髪の男の名前に反応したマドイさんに色々聞こうとしたら、この決闘が終わってからと言われてしまった。
しかし、黒髪の男のほうが一方的に押されてしまっている。あっちの金髪のほうがレベル高いのかな?でもNPCって基本的にレベル低く設定されてるんじゃなかったけ?
「ねえねえマドイさ「今は決闘に集中」スイマセン」
しかし、金髪の持つ赤い光が胎動を続けているかのような大剣が、黒髪のがら空きになった男の体に吸い込まれていった。二人の名前が表示されている表示枠は、決闘をしている二人には見えていないみたいだ。なぜなら金髪の男は勝利を確信したかのような笑みを浮かべているが、実際は表示枠に表示された名前の下にあるHPゲージが、黒髪の方はまだ半分まで削れていないからだ。
油断した金髪のスキを突くかのように、黒が手にしていた剣を投げつけた。しかし、金髪は余裕をもってその剣を弾いたが、目を驚愕したかのように見開いた。金髪の目の前に黒髪が突き出した盾が迫っていたからだ。
「最低でも一矢報いらなきゃこっちはやってらんねえんだよ!」
なすすべがなかったのか、盾は金髪の顔面に直撃した。しかし、何が起きたのか黒髪のHPゲージが一気に赤になってしまった。なぜ?
答えは黒髪の肩にあった。先ほど金髪が上空に弾き飛ばした黒髪の剣が落ちてきて、それが持ち主の肩に深々と食い込んだせいである。
ここで黒髪のHPが半分を切ったので決闘は終了である。
「クッソ、NPCに負けたなんて」
黒髪…ダグロはそう叫ぶと、肩の剣を引っこ抜いてから、地面に大の字で寝っ転がってしまった。いつの間にかいるギャラリーには目もくれていない。
金髪…ウェイルズがダグロに近づき、倒れている彼に手を差し出して助け起こすと。
「NPCが俺たち町の住人を指す言葉だということは知っているが、そういう言い方されるとさすがに傷つくな」
「んん?ああ、すまないな、そういうことを嫌がるやつだったか」
「それにこっちは1年間必死に自分を育ててきたんだから、まだ鉄装備をしている奴には抜かれたくないな。それに誇ればいい、鉄装備で俺に一撃入れたのは、最近半年ぐらいだとお前だけだぜ」
「なあ、参考までにお前のレベル教えてくれねえか?」
決闘が終わったみたいだしマドイさんにあのNPCのこと聞いてみよう。
「マドイさん、あの金髪のNPC知ってるの?」
「防衛戦のランキング見てないの?」
たしか防衛戦があるたびに、個人の働きによって出る貢献度がたしか高い順にランキング形式で表示されるんだっけな。NPCもそれに表示されるとか。
「概要とかシステムしか見てないから、ちょっとわからないかな」
「確か、参加したら必ずランキングのトップに君臨する唯一のNPC」
「え?あの金髪の男が?」
「そう、おかげでネットでは運営からの八百長とか言われてるけど、運営もNPCは平均レベルが10になるように設定したって返答してる」
その辺まったく見てなかったから全然知らなかった。そうなんだとしか言いようがないけど
「はあ?なんだよそのレベル、嘘じゃないんだよな?」
「当たり前だ、自分のレベルをごまかしたっていいことないだろうが」
「そうだよなあ、まあいい、次やるときはもっとましな戦いしてやんよ」
「普段ならお断りだ、というところだが、お前はその辺にいる冒険者よりましだと判断できる。だからいつでもかかって来い」
「かー、なんだよその上から目線、次の勝負でボコボコにしてやりたくなるだろうが」
「有言実行できるようになるこったな」
「くそお!フォックス行くぞ」
「分かったよ」
ダグロはフォックスと呼んだ灰色の髪の男を連れると、そのまま町の門の方へと歩いていった。ダグロはHP回復してないけどいいのか?
「そろそろ移動しよ」
「うん、そうだね。ところで何するの?僕何も聞いてないんだけど」
「そうね「ちょっと話しいいか?」え?」
僕達に先ほどの決闘の勝利者であるウェイルズが話しかけてきた。それも僕の方には目もくれずに…PKすっぞこら。
「かまわない」
「おう、ありがとな」
「それで何」
「あんた俺とどこかで会ったことないか?」
何このNPC実はナンパ師なの?夜道には気をつけるように忠告しようかな。
「ナンパはお断り」
「違えよ、ちょっとしたお誘いだ」
「私はこの人と一緒に行動する予定」
ウェイルズは俺のほうをチラッと見ると、
「そうか、わかった。町にクソモンスター共が来たら、ちょっとパーティーを組んでもらえるかの打診だけだ」
うん?それだったらいいんじゃないかな。防衛戦だったらきっと二人より三人のほうがいいだろう。
「マドイさん、それくらいだったらいいんじゃない?」
「そうね、それじゃあお願いします」
「俺はあんまりこの町から出る予定はないから、この町が襲われたときに頼む」
ウェイルズはそう告げると、町の門があるほうへと歩いて行った。あれ?連絡手段は?
「じゃあ、早速クエスト受けよう」
「まだ僕戦闘に関して何も教わってないけど?」
「大丈夫、これから受けるクエストは、一日に先着で十人までしか受けられないお使いクエストだから、受容は少ないはず」
「何か素材とか集めて来いってやつだね」
マドイさんはうなずくと、すぐ目の前にあり、待ち合わせにも使った花屋に入っていく。ってここかい。
「何か欲しいものとかありませんか?」
とマドイが店の中にいたNPCに聞くと、
「ごめんなさいね、実はついさっき欲しいものを取ってくるように頼んじゃったの」
NPCのお姉さんが実に申し訳なさそうに謝ってくる。
「いえ、それなら大丈夫なんです」
「あ、じゃあ代わりと言っちゃうのもあれなんだけどね、最近この辺で、ゴブリンとかの目撃例があるみたいだから町長さんが調査の依頼してたわよ」
「じゃあちょっと行ってみます。町長さんはどこにいますか?」
おかしいな、基本的なお使いクエストを受ける予定が、明らかに討伐系になりそうなクエストにシフトチェンジしちゃったぞ?
そうか、きっと僕なら出来るはずだという、マドイさんからの期待なのかもしれない。そう思うと、やる気がみなぎってくるのがよくわかる。決して、こうやって考えなければ憂鬱になってしまうかもしれない。とかではない。
「今の時間だと町の西にある畑にいる確立が一番高いわね、ここの町長さんはちょっとお茶目だから、すぐに分かると思うわ」
「西ですね?ありがとうございます」
マドイさんはNPCのお姉さんにお礼を言うと、僕の手を取って、無理やり引っ張って町の西へと向かっていく。僕の意思はどこにいってしまったんでしょうか?まあ、悪い気はしないから良いけど…。
「じゃあ、行って来てくれるかのう」
『散策クエスト【ファルフラムの森の調査】を受諾しました』
「分かりました、それでは行ってきます」
「僕に拒否権は?」
「そこで色々教えるから」
リアルだと基本的に自分から行動することは少ないのに、ゲームだとほんとに積極的になるんだなあ。と、僕が軽く現実逃避をしているうちに、また引っ張られてとうとう、僕は町の外へと連れ出されることになった。
「その装備だと魔法職でもするの?」
「やっぱり、ファンタジー要素のあるゲームをやるんだったら、魔法職をしなきゃもったいないでしょ」
「じゃあ手持ちには何色の魔法媒体があったの?」
僕は持ち物から【青の粘土棒】を取り出してマドイさんに見せると、
「青か、設定はしちゃったの?」
「まだしてないよ。けどなんで?」
「純粋にMPの効率が悪すぎるの、だから、最初の方に手に入る媒体だと、単発しかこめないのがいい」
なるほど、確かに一発魔法を使ったらそのまま何も出来なくなる魔法使いなんて、邪魔以外の何者でもないしね。
…二つ目以降手に入れたらロマンを求めてみよう。
「へんなこと考えてる」
「いやいや、そんなこと何も考えていませんヨ?」
「ロマンを追い求めるかのような、目の輝きだったから」
「うそ、顔に出てた!?」
マドイさんは頷くと、
「分かりやすすぎる。きっとNPCでも看破できる」
僕ってそんなに感情が表に出やすい人だったっけ?うーむ、自分の顔のことなんてわからん。
「とりあえず魔法の設定したら、その装備してる杖にインストールして」
「インストール?」
杖ってパソコンか何かなの?
「インストールは、魔法や、特技の書き込まれた媒体を、自分の使う装備にセットすること。多分その杖のどこかに、さっきの魔法媒体をセットできるところがある」
へー、そうなってるのか。僕は杖を眺め回すと、確かに持ち手の辺りにくぼみがある。
僕は少し時間をもらって魔法の設定を行い、それを杖にインストールした。自分で設定すると、そのまま魔法に名前をつけることが出来た。どうやらこのゲームは自分オリジナルの魔法が作れるみたいだ。
でも意外と魔法職の人間は少ない。理由は簡単である。魔法を作成するのに、とんでもない集中力と想像力を使うのだ。しっかりとしたイメージが出来ない状況で魔法の作成をすると、媒体が壊れてしまうのだ。
「マドイさん、準備終わったよ」
「じゃあ早速その辺にいるスライムと戦闘」
どうやら、町の周囲に広がる草原にポツポツと緑色のゼリーみたいなものがうごめいているが、町の周辺にいるということでノンアクティブ――――非好戦的なモンスター――――となっているらしい。
こうして僕のVRゲーム初の戦闘が幕を開けるのであった。スライムごときに負けられないぞ!
NPCがモンスターのことをMOBと言っていたので訂正