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最強は自我を持つNPC?  作者: 現実↓逃避
第2章 種族間の問題と移動要塞
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防衛四十八回目

 私は離れたところから戦闘の様子を観察する。

 目の前で鈍重なトロールと戦っているのは、トッププレイヤーの冒険者ではなく、本来なら大した力を持たないNPCであるはずの男。

 素早い動きでトロールの足を攻撃してHPを削っていくのが見える。

 仮に私があのNPC。ウェイルズと戦うと仮定して脳内でシミュレートするが、勝てる見込みがまったく無い。

 それほどにまで圧倒的な力を秘めているということだ。

 そもそもトロールに剣一本と僅かなアイテムで挑むことができるのが、プレイヤーを含めても片手で数えられる人数いるかどうか。

 だというのに、なんでウェイルズというNPCはあれほど、物資も足らない状況で善戦できるのだろう。

 援軍が来ることを期待して既に全力戦闘をしている?いや、まさかそんな確実性の欠けることをするはずがない。


「やっぱり彼は・・・私の思想に乗ってくれるかしら?」


 誰に言うでもない、ただの独り言を、心配するような声色で呟くと、背後に突如現れた人影が話しかけてきた。


「大丈夫ですよ。きっと彼は我々の陣営に加わってくれるはずですよ。なんせ彼もあなたも同じく孤独だから」

「・・・私はともかく、彼の周囲には人が集まっているのだと思うのだけれど?」

「所詮彼のことを理解できない。いや、したくても出来ない人たちの集まりですからね。自分の重大な秘密を誰にも明かすことができずにいる。あれって意外とつらいんですよ」

「・・・そう」


 トロールの肩に乗ったウェイルズが、何かを口にして動きを止めた。きっと回復薬でも飲んだのだろう。


「そろそろエルフの援軍を送らなきゃ怪しまれるかしら?」

「そうですね。では、トロールの討伐隊は私が呼んでおきましょう」

「お願いね。私はあのトロールを適当なところに誘導するわ」

「・・・はぁ、あなたはとことん悪役には向かないというのに。あのトロールに多少なりともこの町の外壁にダメージを与えてもらえば今後の計画が楽に進むというのに」

「甘いわね。アレの前では壁なんて何の意味もなさないのよ。トロールごときが与えるダメージは雀の涙ほどよ。まあ、接近する前にエルフ達の魔法で倒されるだろうから無駄になるだけよ」

「それもそうですね。じゃあ私はここで・・・」


 背後の気配が消えたが、そちらは一切確認することもなくウェイルズを見続けていると、なぜか走らせているトロールの肩から転げ落ちていた。



 ●


 予想外である。

 誰がこのバカモンスターが急に走り出し、木々の密集している方に行くと予想するんだ!!

 バカの行動が読めるわけ無いだろうが!!

 急接近する森の枝葉に顔が当たり、俺はトロールの肩から地面へ落ちる。

 ダメージが発生して上回復薬によるHP回復が途切れてしまった。

 高い効果の回復薬が無駄になったよチクショウ。

 地面に転がっている俺をトロールが凝視をしてくる。

 なんで気がつくんだよ!!肩に乗ってるのには気がつかないのに音に反応してんじゃねえよ!!

 獲物を発見したトロールは、笑みのようなものを浮かべ、棍棒を高く掲げながら接近してくる。

 振り下ろされた棍棒を背後に跳ぶことで回避し、持ち上げられる前にトロールの腕へと跳躍。飛び乗って駆け上がる。

 思った以上にゴツゴツして走りにくく、滑って落ちないか心配だ。

 腕を登ってくる俺を確認したトロールが、捕まえようと手を伸ばしてくる。

 伸ばされた手の指を剣で切り飛ばすと、痛みで体ごと手を振り回され、振り回された腕が頭上に持ってこられたときに、しがみ付くのを止めて真っ直ぐトロールの頭へと落ちる。

 そのまま剣を振りかぶると、こちらを間抜けな顔で見ているトロールの目に深々と突き刺した。

 流石にここを攻撃すれば物理に対する体勢の高いトロールでもダメージがしっかり入るみたいだ

 頭上の残っていたHPバーが、最大値の2割以上削れたようで、先ほどよりも激しく暴れて俺を振り落とそうとしてくる。


「こなくそ!!」


 振り落とされないようにしっかりと剣の柄を掴み、顔に足を食い込ませる勢いでしっかりと耐え続けておく。

 早く離脱すればよいのだろうが、顔を攻撃するチャンスはそうそう訪れない。

 ロープ等を使っても接近は出来そうだが、流石に目の前に出てこられたら反応して攻撃してくるだろう。

 肩から顔を攻撃すればいい?こいつ皮膚は全部鎧みたいに硬いんだよ!!


 背筋に何かが這いずり回るように嫌な予感がし、剣を目から引き抜いて離脱をした直後、自分の顔の邪魔なものを排除しようとしたのだろう。

 自分の顔に手のひらを叩きつけて傷口を指で触り、傷を広げてさらに暴れ始めた。

 今のうちに不定期な地団駄を避けながら足を切りつけていると、動きがピタリと止まったため、それを訝しげに思い距離を取ると、目をギラギラと真っ赤に染めて睨みつけてくるトロールの姿があった。

 メチャクチャ怒っていらっしゃる!?

 完全に俺をターゲットに認識したトロールは、足で執拗に踏みつけてこようとしてくる。

 知能が鶏の半分以下と呼ばれるトロールにしては学習したのか?手を出してきたらもう一度飛び乗って顔まで接近しようと思っていたのに!!トロールとは戦ったことあるが、こんな行動をしてきたのは初めてだぞ。

 止まることなく上げ下げされる足に攻撃を中々加えることができない。

 このままだとトロールの自動回復で与えたダメージが無意味になってしまう。

 それに対して焦ってしまった。

 胴体に向かってジャンプ。剣で切り裂こうとすると、それに素早く反応したトロールの横なぎに振るった棍棒の一撃が俺を捕らえた。

 声を上げることもできずに木に叩きつけられ、それでも勢いが止まらずにぶつかった木をなぎ倒して飛び、次の木に当たったところでようやく止まった。


「か・・・ゴフ・・・・・・ゲホ、ゲホ」


 止まった呼吸を落ち着けながらHPバーを確認すると、危険域までHPが無くなっており、気絶の状態異常を示すマークが出てきていた。


「・・・クソ」


 やはり準備不足だったのがいけなかったのか?それともどこかでトロールを侮りすぎていた?確かにバカだと思い、予想外の動きはほとんどしないだろうと油断していたのだろう。

 このトロールはもしかしたら頭がいいのかもしれない。予想外の、こちらの意表をついて来る攻撃ばかりしてきているように思える。


 ゆっくりと近づいてくるトロールの足音を聞きながら、思考だけが動けない体で加速していく。

 モンスターを操ることのできる人間がいる?いや、それだと最初肩に乗った時にトロールが気がつかなかった理由が分からない。

 ならなぜこんな近くに町があるところまで出てきた?

 待て、刺した毒針に気がつかないで叩いてくるバカさ加減は健在だぞ?


 だが――――それなら――――。


 足音が・・・止まった。


 両手でゆっくりと振り上げられる棍棒を見上げていると、体が動くようになっていることに気がつく。

 投げナイフを数本取り出し、潰れていない目に向けて一度に全部投げつける。

 鬱陶しそうに片手で投げナイフを全部弾いてしまった。だが、その間に少し離れた位置の木の裏側に隠れて上回復薬を口にして様子を見る。

 これでほとんど迷わずにこっちに接近してきたら、あのトロールは操られているか、どこかで知恵を手に入れた。または学習できることが確定する。

 匂いや音で発見される可能性は無いに等しい。それで気がつけるのであれば、肩に乗った俺に速攻で気が付くはずである。

 憤怒らしき顔で俺を探しているトロールを木の陰から顔をのぞかせて伺っていると、グルンと音がしそうなほど首を回してこちらを注視してきた。

 慌てて顔を引っ込め、呼吸を抑える。

 バレた?いや、まだ決定じゃない。偶然見ただけかもしれない。


 そんな現実から目を逸らした考えはすぐに打ち砕かれる。足音が一直線にこちらへと向かってくる。

 これでこのトロールは操られているか知恵があるかのどちらかであることが判明した。

 今ここで判明してもまったく嬉しくねえ!!


「ロック!!」


 トロールの背後からそんな声が聞こえてきたかと思うと、周囲に生えていた木から細く鋭利な枝が伸び、トロールを四方八方から串刺しにして固定する。


「そちらにいるのはウェイルズ殿で間違いないか?」

「その辺は後だ!!このトロールは普通のとは違う!!」


 魔法でトロールを拘束したエルフの青年達は、俺の違うという言葉に戸惑っているようだが、それを無視して動くことができなくなっているトロールに切りかかる。

 だが、切りかかる前に拘束から抜け出したトロールは、振り返って自分を拘束してきた集団を睨むと、接近し始める。


「隊長!トロールが接近してきます!」

「バカな!トロールは近くの生物を襲うはずだぞ!離れて魔法を使った生物を攻撃するなんて聞いたことないぞ!!」

「だから言っただろうが!!こいつは普通とは違う、て!!」


 トロールに追いついて膝を切り付け、注意をこちらに向けさせ、それを確認するともう一度切りつけて離脱する。

 しかし、トロールの足は止まったが、俺を一切気にすることなくエルフ達を睨み続けている。


「俺が全力で足止めする!!回復と魔法での攻撃を頼んだぞ!!」


 一方的にそう告げるとトロールの前に回り込み、ひたすら攻撃を加えていく。

 途中で痛む体が楽になっていったので回復魔法を使われたことが分かる。

 背後が明るく光り、炎弾がトロールの顔めがけて襲い掛かって行くが、顔を振ることで半分近くを躱し、残りの半分もかすらせる程度で済ませられてしまう。

 トロールにとっての脅威は背後のエルフたちのほうが高いらしく、俺を完全に無視して前進しようと足を踏み出して来たので、予備の剣をアイテム欄から取り出して踏み出された足の甲に全体重をかけて突き刺す。

 3分の1ほどが刺さったところで折れてしまったが、残った剣先はしっかりと肉に埋め込まれた。

 そのままそこを足場として、トロールがこちらを見るころには胴まで跳び上がり、剣を1閃、2閃して傷を作り、傷つけたところを蹴りつけて離脱する。

 だが、地面に着地するタイミングを見計らって繰り出された蹴りをモロにくらう。

 ボールのように飛ばされていると、痛みが引いていく。回復してくれたみたいだ。

 地面を転がりながら勢いを殺すと、すぐさま起き上がって攻撃を加えに向かう。

 背後から魔法を唱える声が聞こえ、今度は水弾と炎弾が織り交ぜられている。

 俺はトロールの攻撃を避け、受け流し、時に真っ向から受け止め、自分の体を張ってエルフの青年達の下に抜けないように立ちふさがり続ける。

 いらいらしてきたのか段々を攻撃が大降りになっていくのを冷静に見ながら対処していく。

 大降りになってるから対処しやすくていい。


 頭に血が上っていたはずのトロールが、急に動きを止めて立ち尽くすと、背を逸らしながら叫び始めた。


「なんだ?何が――」


 叫び始めたトロールに戸惑いを隠せず、思わずといった感じで呟いた青年が消えた。

 正確には高速で飛来した棍棒に押しつぶされ、影も形もなくなってしまったのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 消えた青年の隣りに立っていたエルフが、恐慌状態へと陥る。

 そりゃあ、一瞬前まで隣りに立っていた奴が形も残さない形で殺されたのだ。平然と出来る奴は頭がおかしい。

 トロールの叫ぶ声が聞こえなくなったので確認すると、手から棍棒がなくなっている。やはりアレを投げたみたいだな。

 獲物を手放したトロールに駆け寄り、腕を三度切って背後に回りこむように動く。


「騒ぐな!お前らはあの人間の援護!手の空いてるものは俺と一緒に攻撃魔法でトロールをしとめるぞ!」

「「「は!!」」」

「分かったら返事はいいからとっとと動け!」


 隊長である男の発破を受けたエルフ達は機敏に動き始め、魔法を使い始める。

 エルフ達の援護魔法を受けると、膝の裏に剣を振るってダメージを与え、エルフ達へと視線を向けるトロールの前に立ちふさがり、足に攻撃を加えていく。


 本格的なエルフ達の援護を受けてからしばらくするとトロールは力尽きたようで光を巻きながら消えていった。


 トロールが消えたのを確認すると、その場で体を投げ出し、地面に寝転がった。

 地面に寝転がっている俺の元に、エルフの隊長さんが近づいてきて話しかけてきた。


「・・・トロールの討伐、協力感謝する」

「いや、俺のほうこそ礼を言わなきゃな。あんたらが来るのが遅かったら多分死んでた。それよりも、巻き込んだ形になっていて申し訳ないな」

「いや、最近この道を通る冒険者や行商人が激減していてな。こちらに何かが出るのではと言われていたんだ」

「それがあのトロールか?」

「可能性としては・・・な」

「調べるのか?」

「当たり前だ。俺の隊の人間が殺された上に、あのトロールは学習しているようだった。ということはそれを促した人物がいるはずだ。少なくとも自然に生まれるものじゃない。そいつを見つけてだして部下の恨みを晴らさせてもらう」


 目に黒く濁った怒りの炎を灯しながらエルフの青年はしゃべり続ける。


「この役目だけは絶対に譲らねえ」

「取る気ねえよ。そのバカを見つけたら知らせるだけで十分だ」

「・・・すまないな」


 その後少し話していたが、MPとHPを回復させたエルフの青年達が、死んだ奴の遺品を探し出し、一緒にエルフ達の住む町へと入れてもらう。


「ま、あんたは悪い奴じゃなさそうだ。入っていいぞ」


 確認もそこそこに入ってよいと言われる。


「いいのか?」

「なんせトロールを一緒に倒したからな」

「そうか。あ、そういえばここに髪の長い女って来なかった?トロールの情報を出してくれたのはそいつだろ思うけど」

「ああ、来たぞ。彼女がどうかしたのか?」

「俺の連れなんだよ」

「なるほど、だから異常なほど焦ってたのか」

「やっぱり心配かけたみたいだな」

「あんまり心配かけてやるなよ?まあとりあえず」


 兵士はそこで一度咳払いすると、


「ようこそウッドロックへ」


 とにこやかな笑顔で言ってきた。

ここから茶番でございます。



↓「はい。今回のゲストはVRワールドから強制召喚させてもらいました、ウェイルズ君です」


ウェイルズ(以後ウェ)「おい、ここどこだよ」


↓「ささ、こちらに来て説明してもらいましょう。トロールに殺されそうになったウェイルズ君や」


ウェ「なんで知ってるんだよ。まさかあのトロールはお前の差し金か?」


↓「ここではそんなこと気にしたら負けるぜ」


ウェ「・・・はぁ」


↓「心労かい?溜め込みすぎは体に良くないぜい」


ウェ「お前のせいだ」


↓「さてさて、トロールに負けた理由をはよ。はよ」


ウェ「うるせえ。なんだその言い方。ムカつくな」


↓「ほほう。純粋な力不足でしたと。なるほどなるほど。・・・あれだけ大見得切ったのに」


ウェ「ちげえよ!!トロールには物理攻撃はほとんど効かねえんだよ!むしろ剣だけであれだけ戦った腕を褒めてもらいたいぐらいだ」


↓「・・・はぁ。しょうがない。今回はここまで」


ウェ「おい」


↓「そんな青筋立てて怒るなよ。何が話したい?それが終わったら帰っていいよ」


ウェ「なんだその扱い!!」


↓「たまには俺が有利な環境で物事を進めたいじゃない。質問はそれか?じゃあ終了」


ウェ「おい、ちょっとま――」








今回も読んでくださりありがとうございます。

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