防衛四十七回目
先ほどから木々が多くなってきて、今では森の木々の間にできているけもの道から外れないように歩いている。
そんな中、どこからともなく粗末な装備をしたゴブリンやオーク、モンスターが飛び出してくる。
実際に、目の前から粗末な棍棒を振り回す醜悪な顔のゴブリンが迫ってくる。
もう何度切り殺したか分からないほど狩っているモンスターだ。
今までと同じように切り殺して進む。
その際に歩みは一切止めない。時間の無駄になる。
そんな俺の後ろをついて来ているのは、ぶっちゃけ可能なら今すぐ結婚したいアリシアだ。
先ほどからほとんど休んでいないにも関わらず、一切呼吸が乱れていない。どこでこれだけの体力を身につけたのか気になるが、深くは詮索しないことにしよう。
きっと花を鉢植えから花壇に移したりしている内についたのだろう。そう思うことにした。
「そろそろ休憩するか?昼からほとんど休んでないだろ?」
「まだまだ大丈夫よ。それに早めに目的地に到着すればゆっくりできるじゃない」
アリシアは笑顔でそう言うと、俺の前に立って歩き出した。危ないぞ。
「おい、どこから何が出てくるかわからないんだからあんまり先に行くなよ」
アリシアの注意を促したその瞬間。真横から何かが飛び出してきた。
赤い帽子をかぶった、豊かなひげを蓄えたゴブリンよりも小柄なモンスター。
素早い動きで接近し、斧で頭を勝ち割ったり、鋭い爪で喉元を切り裂くことで敵対者を葬るモンスター。
レッドキャップ。
奴らは普段廃墟に巣くっているはずでなので、アリシアを送ってアラクネ達の住処に行くときに寄って見よう。もしかしたら廃墟にお宝が転がっているかもしれない。
そんなことを考えながら、鎧の隙間から取り出した投げナイフをレッドキャップの頭部に命中させ、よろけたところを接近して切り伏せる。
突然の自分の命の危機と、目の前で奪われた命を見て、その場にへたり込んでしまっている。
後続が来ないかを警戒すると、案の定遠くの方から合計で10体ほどが接近してくるのが木の陰になっていてもなんとなく分かった。
「アリシア、ここを動くなよ?今度はどうなるか分からないからな」
「え、ええ」
アリシアに注意をしてから壁になるように立ちふさがり、恐ろしい速さで接近するレッドキャップ達を見据ると剣の先が地面に向けて自然体となる。
そんな俺をただの臆した獲物と判断したのか、さらに加速するレッドキャップ。
1体目が俺の攻撃半径に入った瞬間に、剣で切り上げる。そして、流れるように手首を返すと2体目を袈裟切りにしてHPを消し去る。
3体目と4体目は同時に襲い掛かってきたので、タイミングを見計らって両方の胴体を深々と切り裂いて絶命させた。
5体目は高く飛び上がりって上空から襲い掛かってきたのを、突き殺す。剣に深々と突き刺さったレッドキャップはもちろんHPが無くなっている。それを確認すると剣を振ることで胴体が抜けて地面に叩きつけられる。
僅か数秒で仲間の半分がやられたため、その場でたたらを踏む奴らを睨み付けて一歩踏み出すと、それにあわせてレッドキャップ共は一歩下がる。
「去ね!!」
大声で威嚇すると、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。そこで背後にアリシア以外の気配を感じ、振り向き様に投げナイフを投擲。背中を向けて逃げる奴らを囮にして、元々背後に潜んでいた敵が襲い掛かってきていた。
斧を振りかぶっていたレッドキャップは、額に深くナイフが刺さってHPが全損。振りかぶった体勢のまま仰向けに倒れ、光の粒子を巻き散らかして消えていく。
奇襲に失敗したレッドキャップ共は今度こそ本当に全員逃げ出した。
剣を一度振ると、ゆっくりと鞘に収めて、もう大丈夫であることをアリシアに告げる。
「・・・強くなったのね」
「そりゃあ、自分の手の届く知人くらいは守りたいからな」
「私もその知人に含まれるのかしら?」
「当たり前だろ?むしろどこにいてもピンチになったら駆けつけてやるよ」
「大げさね。私はファルフラムの町からほとんど出ないんだから大丈夫よ」
「万が一があるからな」
アリシアはクスクスと笑いながら、過保護ね。と言うと、今度は俺の横を歩き出す。
流石にまた先行していく気は起きないみたいだ。
もう太陽が傾き、夕方となっているため、森の中だと薄暗い。
アイテム欄からランタンを取り出すと、火を着けて辺りを照らして視界を確保する。
多分だが、町まではあと少しだと思うんだよな。
道さえ間違えてなければ・・・。間違えてないよな?
急な不安にかられ、地図を取り出して確認する。
魔法屋に頼み込んで作らせた魔法の地図はこんなとき便利だとつくづく思う。
なんせ、地図に自分の現在地が表示されるからな!
地図の倍率も上げられるから、初めて町の外に用事が出来たときに無理言って作らせた物だ。
依頼を出したとき、魔法屋はすごい涙目だったな。
流石に二日後に出発するというのに、新しい魔道具の作成はやりすぎだったか?
いや、受け取りに行ったときヘラヘラ笑ってたから大丈夫だろ。なにやら頬を透明な雫が流れ落ちてたけど、それはきっと汗だろう。
それはともかく、地図を確認してみると、後30分ほど歩けば町につくみたいである。
「もう少しで到着みたいだぞ?一気に行こう」
「私他の町に行くの初めてだけど、こんな森の奥に町なんてあるの?」
「あるさ。ただ、そこに住んでる奴らは、友好的だが気難しい奴らばっかなだけだ」
「そうなの?」
あれ?なんで疑問系?
「お前の用事ってエルフからじゃないの?」
「そうよ。エルフってそんな種族だったのね」
「いや、意外と知られているものだとばかり思っていたんだが」
「バカね。道具とか魔道具。武器防具を扱う商人ならいざ知らず、私なんてただの花よ?ウワバミ草が無かったら一生会うことは無い相手よ」
「そういうもんか?ちなみにアリシアの持つエルフのイメージってなんだ」
少しの間、指を顎に触れさせながら考えていたが、考えを纏めたのだろう。
顎から指を離して話し始める。
「そうね。自分の種族以外は排他的で、魔法の才がある人が多いのかしら?後は自然な環境を大事にするから、ドワーフ族とは仲が悪い・・・が私のイメージね」
「アリシアのイメージはある意味正しいな。いや、正確には一部を除いて正しかっただな」
「どういうこと?」
「まあまあ、それは着いて実際に触れ合ってからのお楽しみって事で」
なによそれ。と呟くアリシアを宥めながら歩く。
目的地は近い。
アリシアと取り留めの無い話をしながら歩いていると、俺の耳に僅かな異音が届いた。
何か、大きな物が倒れるような音と、足に地面が僅かに振動しているような感覚が届く。
自分の中の感覚が、嫌な予感として警鐘を鳴らしてくる。
「アリシア、しっかり掴まってろよ」
「え?どうし――きゃっ!?」
アリシアを無理やり背中に背負うと走り始める。
全力で走ったらアリシアの体が持たないだろうから、全力で走ることができない。それがもどかしい。
ゆっくりと走っていると、最初は僅かだった音が段々と大きくなってくる。ここでようやくアリシアも事態を理解したみたいだ。暴れるのを止めておとなしくなった。
背後からのプレッシャーが強くなってきて、ついにそいつが姿を現した。
木々をなぎ倒し、巨大な体を揺さぶりながら現れたのは、大きな木製の棍棒を握り、見るものに不愉快な感情を与えるであろう風貌の巨人。
この前ファルフラムの町に攻めてきたジャイアントとはまた違ったモンスターである。
トロール。
このモンスターの厄介なところは、その巨体の膂力から繰り出される攻撃は全てをなぎ払い、壊しつくすところと、そのタフすぎる体力。その上再生能力まで高い。
厄介すぎて俺も真正面から戦いたくない。攻撃を真っ向から防げる保障が無いしな。
現に今俺の背後で木々がなぎ払われて、道が太くなっている。
トロールの姿を見て、アリシアが固まってしまったようだ。
逃げる。ひたすら逃げる。
俺一人だったらきっと戦うだろう。
多分勝てはすると思う。きっとアイテムがそれなりに必要になるし、この森は更地になってしまうだろう。
それに、人を一人守りながらは戦えない。
だから俺は逃げる。
目的地までたどり着くことができれば、そこの住人にアリシアを任せ、反撃に打って出ることができるから、それまで耐えて逃げる。
「あれ何!?」
「トロールだよ!しゃべると舌噛むぞ!」
「でも、このままだと追いつかれちゃう!」
「分かってる!町に着くまでの辛抱だ!そしたら打って出る。それよりも、少し速度上げようと思うが大丈夫か?」
「え、ええ」
少しだけ速度を上げたが、それでもトロールの方が早い。そりゃあ、あの巨体で足も相応に長いから一歩辺りの歩幅がこっちよりも大きいからな。
少し関係ないことを考えていると、木々の隙間からチラチラと明かりが見える。
「アリシア!お前一人で町まで行けるか?」
「ウェイルズは?」
「足止めだ。町の兵士でも何でも呼んできてくれ」
「・・・気をつけてね」
「誰に向かって言ってるんだ?余裕だよ。むしろこの町の奴らに出番は無いかもな」
背負っていたアリシアを降ろしている間に、追いついてきたトロールが棍棒を叩きつけようと振りかぶってきていた。
アリシアを降ろしてから、トロールに向かって飛び上がり、振り下ろされた棍棒の横腹を剣で殴って逸らす。地面に叩きつけられた棍棒の威力で地面が揺れ、割れた。
うまく地面の割れていないところに着地し、地面を這うような前傾姿勢で接近し、足を素早く3度切り裂いてすぐさま離脱をした。
距離を取りながら観察すると、大して聞いていないみたいだ。
攻撃を加えた足も、薄皮から少し深く切った程度の傷しか見受けられない。
さて、どう攻略するか・・・。
とりあえず簡単にヒットアンドウェイで攻めてみよう。
接近しては足を切りつけて離れるのを繰り返し、足にダメージを蓄積させていく。今のところ与えるダメージが回復するダメージを上回っているが、敵が激しく暴れ始めたら手が付けられなくなり、回復されてしまう。
暴れるトロールのせいで、森が更地になってしまいそうな勢いである。
エルフの皆様に叱られてしまいそうだが、避けなきゃやられるしな。
トロールのHPが減るにつれ、攻撃がだんだんと加速し、苛烈になっていく。それに伴って森林破壊が進むが、それは後で考えよう。
それよりも、なんでこんなところにトロールがいるんだよ!!
町の近くにこんな強いモンスターが来る確率はほぼ皆無のはずだろうが!!
このまま下がりながら戦うと、アリシアの逃げる時間を稼げないと判断して、その場から1歩も引かずに受け流してカウンター攻撃でダメージを与えていく方向に切り替える。
戦闘方法を切り替えては見たが、HPの減りが激しくなった。
トロールの本来の攻略方法は、攻撃が届かない範囲から魔法を使えるやつがバンバン撃ち込むことが一番簡単な方法だ。
俺は魔法を一切使えないから相性が悪い。悪すぎる。
特技を使ってもダメージが僅かに増える程度だろう。
そんな無駄なことするぐらいだったら、時間をかけても確実に倒す。これしかないだろう。
町に近づいたら勝手にUターンして帰るか、町の冒険者や自警団のような組織が潰しにかかるかの二択であることは想像に難しくない。
エルフには魔法を使える人材がたくさんいるので、時間をかけることもなくあっさりと倒せるはずだ。
引き返すかどうかは・・・Uターンするかな?こいつバカだし、しない確率のほうが高いな。
考えながら戦っていたらHPが半分を切っていた。
アイテム欄を操作し、上回復薬と鉤付きワイヤー、猛毒な液体がたっぷりと塗られた針を取り出すと、トロールの足元をくぐり、肩にワイヤーの鉤を引っかけて素早く上り、その途中、腰のあたりに深々と針を突き刺してから肩の上まで登りきる。そして肩の上で上回復薬を口にした。
こんな肩の上にいて、簡単に振り落されるんじゃないかと思うだろう。最初は俺も思った。
だが、こいつはバカだ。
案の定、こいつは俺を見失ったみたいで、一瞬痛みを感じたはずの腰を叩きながら体ごとキョロキョロと周囲を見回し、首をかしげている。
トロールは物理関係に強い。それは皮膚の分厚さもある。そのため鈍い。だから肩に乗っかる程度だと何も感じていないのだ。
その上、自分から毒針を体の奥深くへと侵入させている。これのおかげでトロールのHP自動回復能力が毒によって相殺。トロールのHPは回復しなくなる。だから別にここでゆっくりしても問題はない。
いや、問題ならあるな。
ただひたすら臭いのだ。
離れていれば気にしなくてもいいレベルだが、ここまで近づくと、鼻が曲がりそうである。
しかし、ここしか休憩できる場所がないので、我慢することしかできない。
HPが回復するのを待っていると、何を思ったのか急にチラチラと見える町の外壁に設置されている松明と平行に走り始めたのだ。
森の中を全力で。




