防衛四十六回目
「ふふふ、おはよう」
「・・・え?」
目が覚めたら目の前にアリシアの顔がある。
・・・何でアリシアが!?
思わず飛び起きてしまう。
「急にどうしたのよ」
「え?あれ?へ?」
慌てて周囲を見回すと、自分の部屋ではないことがよく分かる。それにより、軽くパニックにおちいる。
頭がしっかり冴えるにつれ、昨日のことを思い出していき、今自分がササ対策にアリシアの家に避難という名目で泊まったことを思い出していく。
そして、思い出すにつれて、だんだんと冷静になることができた。
「思い出したかしら?」
「ああ、すまないな」
「別にいいのよ。さあ、朝ごはん作ってあるから早く起きなさいな」
アリシアはそう言って部屋を出て行く。
俺も二度寝の誘惑を振り切り、アリシアの後をついて行くとテーブルの上に朝食が用意されていた。
下にベーコンが敷かれている目玉焼き、刻まれたキャベツにこんがり焼かれたトースト。中央に置かれた皿に果物が置かれている。実に美味そうだ。
朝食はすごく美味かったです。ええ。店で食べるより美味かったかもしれない。
食後のコーヒーを飲みながらのんびりしていると、ありしあが頬杖をついて俺を見ていることに気が付いた。
「なんだ?」
「今日からウェイルズは遠出をするんでしょ?」
「唐突だな。ま、町長から受けた依頼をこなすためには、ウッドロックまで行かなきゃいけないからな。向こうに行ったらしばらくは戻ってこないと思うぜ」
「私も行っていい?」
「・・・へ?」
思わず変な声を上げてしまった。
「だから、私も行きたいんだってば」
「え?なんで?」
「私も用があるのよ。でも、一人で行こうとしても危ないから、護衛を頼まなきゃいけないでしょ?知らない人に護衛されるよりも、見知った人が護衛してくれる方がいいじゃない」
「確かにそうだな。護衛側もやりやすいだろうしな」
俺が納得すると、アリシアはやや俯きながら上目遣いで俺を見てきて、
「だからウェイルズに守ってもらいたいな」
「任せろ!一生守ってやるよ」
何も考えずに返答した。
だって思っていた以上にダメージがでかいんだぜ。可愛い!!
「あら?大きく出たわね。じゃあ一生守られちゃおうかしら」
「おう、任せとけ!」
前々からの、リセットに巻き込まれなくなってからの決意を本人の前で新たにする。
ここで一つ気がついたことがある。
「あれ?そういえば昨日の依頼を受けさせたのってこのための・・・」
「ふふふ、すごい偶然ね」
・・・あー、これは狙ってたな。
だから回収した素材の一部が俺のものになるって言ってたのか・・・。
先ほどまでの決意をした心境はどこへやら、騙された気分になった。
「じゃあ準備してくるから待っててね」
「ちょい待ち、俺も準備する必要があるから、1時間後ぐらいに東の門で待ち合わせはどうだ?」
「うん。わかった。じゃあ1時間後ね」
そう言って自分の部屋に引っ込んでいった。
さて、俺も自分の準備を始めますか。
まずは噴水広場の出店を確認していく。
「あれ?アンタは確か・・・」
声をかけてきたのは、確かヤマトに装備を売っていた奴だったな。
こいつも冒険者。一応警戒はしておこう。
「なんだ?俺に何か用か?」
「いや、とくにはねえけどさ、そうだ、掘り出し物を探してるんだったら、俺の店で探すといいぞ。店を開く頻度が少ない変わりに、いろんなところで色々なアイテムを集めてくるからな」
「いや、待ち合わせがあるから。もっと他の奴を探せば」
「そうか。いやー、この前潜ったダンジョンに綺麗な装飾の腕輪があったんだけどなー。効果の方も良かったし。誰が買ってくれるか楽しみだ」
ハッ!その程度の揺さぶりで俺が買うと思うなよ。その程度の品いくらでも見つけられるんだからな。
しかし、俺の意思とは反対に、足が1歩もその場から動かなくなっている。なんでだ!動くんだ俺の足!
「そうそう。彼女や好きな人に送ったら好感度上昇待った無しだろうな」
「見るだけ見てやろう」
「いやいや。無理しなくてもいいってば。なぁに、用事が終わってから来ればいいさ。俺がいる保障はねえけどな」
「待ち合わせまではもう少し時間があるのでな。見せてくれないか」
「・・・しょうがねえな」
品物を取り出すためにアイテム欄を操作しているのか、指を虚空で忙しなく動かしている。
だが、俺は見逃さなかったぞ!お前のそのチョロイなコイツみたいな表情を!!
「ホレ、これだこれ」
そう言って取り出されたのは、太陽の光を受けて燦然と輝く、白金の腕輪であった。
表面には細やかなレリーフが施されており、不思議と神聖な感じがする。
そして、魔法の品らしく、装備をする人間の腕のサイズに自動で合わせられるようだ。
アイテム名は【ミスガルドの腕輪】というみたいだな。
効果は・・・使用回数があるが、装備している奴のHPを6割ほど回復させる効果があるみたいだ。他にもステータスもそれなりに上昇するみたいだ。
・・・ただのアクセサリにしては強すぎじゃねえか?この冒険者が行けそうなダンジョンにあるとは思えないぞ。
俺が何かを疑うような表情をして冒険者の男を睨むと、視線の意味を理解したのか、
「なんだ?こんないい物を俺が手に入れられるはずがねえってか?」
「そうだな。お世辞にも手に入れられる姿が想像できないからな」
「ハッキリ言うな。まあ、実際そうなんだけどよ」
あっさりと手に入れられないと告白する冒険者に更なる疑いの視線を向ける。
「おいおい、別に盗んだわけじゃねえぜ。知り合いの強い奴等と一緒にダンジョン潜っただけだ。その過程で偶然レアドロップを手に入れることが出来ただけだよ」
「・・・」
「かー。どこまで疑うんだよ」
「一応信じよう」
「信用0!?」
なにやら喚いているが、これだけの品だときっと相当な値段になるに違いない。俺の手持ちじゃ買えないから、今回は諦めるしかないだろう。
「それで?買うのか買わないのかどっちだ?」
「残念ながら手持ちが無いから買うことは出来そうにないな」
「今なら値段相応の素材アイテムと交換も受け付けてるぜ」
・・・なんだと?
「詳しく教えろ」
「何で上から目線かね。まあいいが、素材をこの町で取引されてる値段に換算して、不足分を補うことができるシステムだ。ただし、素材交換の取引の方が若干お高くなるぞ」
「大丈夫だ。素材なら使わないものがたくさんあるからな。大量に余ってるやつがあるぜ。それで、いくらだ?」
値段の方を尋ねると、冒険者は笑みを浮かべながらゆっくりと、もったいぶるようにスッと指を一本立てる。
「・・・10万か?」
「いやいや、これの価値をなめちゃいけねえ。100万だ!」
凍りついた。
何がって?
俺の表情だよ!!
「ちなみに先手を打っておくが、まける気は一切無いからな」
「うぐ」
結果だけで言うと、買ったよ!高い金払って買ったよ畜生!手持ちの潤沢であったハズの素材が、量が元々あったものは半分近くに、希少であったものもいくつか無くなっている。
これでよかったんだ。これで・・・。
自分の背後でホクホクとした笑みを浮かべているであろう冒険者に若干の苛立ちを覚えつつも、確かにこのアクセサリにはそれだけの価値があることも分かるため、いい買い物をしたという感情もある。
取り急ぎ必要な物をそろえてアイテム欄に放り込むと、待ち合わせ場所である東門に向かう。
途中噛ませ犬に絡まれたが、そばにいたフォックスのおかげで事なきを得た。いやぁ、フォックスも大変だな。あんな奴が合い方なんて。まあ、本人もどこか楽しそうにしてるしいいか。
東門に着くと、町からでる冒険者とダンジョンなどの探索を終えたのか、戻ってくる冒険者とでごった返している。
この中からアリシアを探すのは骨が折れそうだ。
「「よし、今日はよろしく頼むぜ」」
「あれ?ササまで付いて来るの?」
「当たり前だろ?そろそろ師匠にも会いたいしな」
「ササの師匠?」
「おうよ」
・・・見知ったやつの会話が聞こえてくる気がするな。きっと気のせいだろう。アリシアと一緒にいる姿を見られるわけにはいかないからな。まあ、まだ見つけてないんだけどな。
「あら?ササじゃない。こんなところで何をしてるの?」
「うん?アリシアか。これから師匠の所に行くところだ」
「じゃあこっちの冒険者さん達はササの護衛?見たことのある子がいるみたいだけど」
「はい、そうです」
「ついでに、ナグサの護衛でもあるぜ」
「ちょっと待てよ!あたいの護衛でお前がついでだろ!?」
「細かいことは気にするなよ」
へらへら笑っているササに食って掛かるナグサ。
そんな二人を、アリシアは微笑ましいものを見るような目で見ている。
「おい、なんだその目」
「何でも無いわよ?」
「・・・いいけどさ。アリシアは何でここにいるんだ?お前は大抵町長のところか、自分の店にいるだろ?」
「実は私もちょっと他の町に用事があるのよ」
ん?このままの会話の流れだとやばい事になるんじゃないか?
「戦闘を出来ないお前が他の町に行くって事は護衛でも頼んだのか?」
「もちろんよ。一人でモンスターのいる場所には出られないもの」
「それで?護衛はどこにいるんだ?多分そこら辺にいる冒険者の中の誰かだろ?」
「それはね――」
待つんだ!言ったらササの機嫌が急降下、町に戻ってきたときに何が起こるか分からなくなってしまう!しかも、ササを護衛してくれるマドイ達に迷惑がかかるだろ!
俺はそう判断すると、アリシアが言わないように祈りを捧げようとする。
「――ウェイルズよ」
あっさりと言われてしまった。
祈る前に。いや、あの二人が会った時点でもうダメだったのかもしれない。
「・・・へー」
目に見えて分かるほど不機嫌になっていくササを見て、もう天を仰ぎ見るしか無い。
なんでこんな目に会わなきゃいけないんだ。
多分今の俺は、第三者が見たら全てを諦めたような濁った目をしているはずである。
アリシアの元へ向かおうとすると、マドイとパッチリと目が合った。
マドイは俺の濁った目を数秒見ると、
「行こう?」
「そうだな。多分このままだと目的地に到着できないで夜になりそうだ」
「アリシア。もう少しであのアホは来るのか?」
「そろそろ待ち合わせの時間だから来るんじゃないかしら」
ササがマドイにもう少しだけと頼んでいるが、一言ダメと言って、ササの背を押して無理やり町の外へと出て行く。
その際、こちらを一度振り返ってサムズアップをしてきた。
・・・今度機会があったら礼をちゃんと言おう。
ササ達の姿が見えなくなってから、しばらく様子を見て、安全だと判断してアリシアの前へと姿を現すと、ニッコリと笑みを浮かべて出迎えられる。その笑みにホッとしながらも話しかける。
「すまない、待ったか?」
「ううん。こっちも来てからそんなに時間経ってないわよ」
「そうか。それはよかった」
内心冷や汗が止まらない。
不機嫌になっていくササの前に出ることが出来なくて隠れていましたなんて、口が裂けても言えない。
だから、その全てわかっていますよ。みたいな顔は止めてくれ。心臓に悪い。
「じゅ、準備はもう完璧だな?」
「当たり前じゃない。もうバッチリよ。でも旅慣れてそうなウェイルズに確認をしてもらおうかしら」
「あ、ああ。分かった」
渡されるアイテムを確認していく。
必要な物は大体そろっているのを確認できた。
「大雑把な確認だったが、食糧に水。予備の武器等、大体OKだと思うぞ」
「そう。それはよかったわ」
「ただ、服はもう少し動きやすい方がいいと思うな」
「あら?もちろん買ってくれるのよね?」
「・・・はい」
ああ、こんなところにも金を食らう虫の魔の手が・・・。
多分今までの生きてきた人生の中でも一番金回りが悪いと言えるだろう。
それでもちゃんとアリシアの服を購入したけどな。
どんな下着がいいかの意見を求められたときはどうしようかと悩んだが、無難な物がいいだろ?みたいな事を言っておいた。断じてそこに私情はない!!
・・・誰に言い訳してんだろ・・・。
「これで準備完了かしら?」
「・・・そうだな」
「なんでそんなに憔悴した顔になってるの?」
「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
心配するアリシアに笑みを向けて対応をする。
そういえばアレを渡してなかった。
「アリシア。どっちでもいいから腕を出してくれないか?」
「何をするつもり?」
訝しげな表情を浮かべながらも、素直に突き出されたアリシアの右腕に、先ほど大枚はたいて買ったミスガルドの腕輪をはめてやる。
「ウェイルズ?これは一体なにかしら」
「ああ、さっき見つけた。見た目もいい上に、効果の方も有能だからアリシアに上げようと思ってな」
「でもこれ高かったんじゃない?」
「問題ねえよ」
俺がアリシアから視線を逸らしながらそう言うと、アリシアが腕輪に左手で触れながら頬を染めて
「ありがとう。大事にするね」
と、呟くのを視界の端に収め、東門から町の外へと先行してでる。
さあ、アリシアも喜んでみたいだし行くとしよう。出来れば今日中に目的地に到着したいからな。
ほのぼの?回ほど書くのに苦労します。
え?キャラがかぶってる奴らがいる?
ナンノコトダカサッパリヨ。
今回もお楽しみいただければ幸いでございます。
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