防衛三十九回目
ウェイルズのターンです。
この前の防衛戦から2~3日、ようやく壊された門の修理が終わった。
両開きの門は、修理ついでに今までの物より分厚さを増して、重厚になっている。正直門を開け閉めする機会が少ないとはいえ、実際にするとなると大変そうだ。今までのだって十何人の人間が門と連動している鎖を巻き取る仕掛けを回し、閉めていたのだ。それが今では自警団の半分ぐらい使わなきゃ閉められるかどうか分からない。
片方の門を閉じる作業は俺の仕事らしい。
・・・ちなみに門に使う木材は、ファルフラムの森の巨木からとってくるのだが、一人で運ばされたのは記憶に新しい。というより、さっきまで運んでいた。しかも一本丸々原木状態でだ。
自分でもあのサイズの物まで運べるとは思っていなかったので、安請け合いをするんじゃなかったと。メチャクチャ後悔した。
その際に赤髪の冒険者。ヤマトと目が合ったが、ヤマトはスッと目を逸らすと、何事も無かったかのように歩いて行きやがった。
確かに奴にこれを手伝えるとは思えないが、声をかけるぐらいしてくれよ。そうすれば休める口実が出来たのに!
途中で遭遇したササは、笑うだけ笑って去って行った。おい待て、この前のことはまだ話が終わって
「ウェーイルーズく~ん、早く運ばなきゃ昼飯は抜きだと思えよ~」
「運ぶよ。運ぶから、それすげえきつい。勘弁してくれ」
「お前が門の中に入らなきゃ、後の人間が入れないだろ~」
首を後ろに回せないから確認できないが、確かにつっかえているみたいで、親方の冗談に便乗した奴らのおふざけの注意と野次が飛んでくる。クッソぉぉぉぉぉぉぉぉ!!分かってるよ、分かったよ!
門の中に原木を運び込むと、瓦礫の撤去された空間に置き、原木に飛び乗って腰掛ける。よくここまで俺が潰れずに持ってこれたな。やはり高レベルだと色々出来るな。
支給された昼飯を原木に腰掛けて食べていると、見知った顔が手にバスケットを提げて近寄ってくる。
「アリシアどうしたんだ?店の方は大丈夫なのか?」
「ああ、そっちは大丈夫よ。それとはい、これ」
そう言ってバスケットを突き出してくる。俺は飛び降りると、バスケットを受け取って無造作に開ける。すると、ボフン、と何かが爆発するような音がして煙が出てくる。俺は思いっきりその煙を吸ってしまう。
「ウェホッ、ゴホッ、これなんにゅあ?」
おかしいな、意識が曖昧になって体が熱くなってくる。足元もおぼつかなくなり、旗から見たらまさに酩酊状態だっただろう。ステータスにも、酩酊と出てきた。
ボーッとし始めた頭で行き着いた答えは、俺はあの煙のせいで酔っ払ってしまったということだけだった。どんな煙だよ!というよりも、どこで手に入れた!!
フラフラと、自分が立っているのかどうか分からなくなってきて、ついにその場で転倒してしまった。
「あれ?倒れちゃった?連日の疲れでも溜まってたのかしら?すいません。ちょっとウェイルズを家まで送っておきますね」
「アリシアちゃん一人で大丈夫かい?なんなら今休憩中の連中2~3人つけるぜ」
「いえ、たぶん一人でも大丈夫です」
「そうかい、じゃあ気をつけてな。それと、ウェイルズに今日休んだ分明日キリキリと働いてもらうからな、って伝えておいてくれ」
「分かりました~」
あやふやな意識の中で、確かにそんな会話を聞いた気がした。。親方、俺まだ働けるぜ?だから明日の作業をこれ以上過酷にするのは止めてくれないか?
意識がそこで途切れた。
見慣れた自分の家の天井が目に飛び込んでくる。体を起こそうとするが、頭がズキズキと痛み、思わず呻いてしまう。おかしいな。二日酔いでもここまで酷い症状になったことは無いぞ?
「あら?もう起きたの?」
視界の端にアリシアが映りこむ。音が耳に入るだけで頭痛が発生する。
「なん・・・で・・・・・・こんな・・・ことを・・・?」
聞くだけで頭が痛むということは、しゃべるのはもっと辛い。そのため言葉が途切れ途切れになってしまう。
こんな度数の高い酒なんてあったか?というより、俺が吸い込んだのは煙のはずだろ?っていうか、これ本当に二日酔いか?毒って言われたほうが納得できるぞ。
「ごめんね、これ飲めば少し楽になるから。話はそれからね」
アリシアは例のバスケットの中から、緑色の粉末を取り出すと、水と混ぜ合わせて、俺の口元に持ってくる。
緑色の液体が俺の口の中に流れ込んでくる。そのまま口の中で溢れさせて溢すわけにもいかないので、溜まっていくのを咽下する。緑色の液体はすごく苦い上に、訳の分からない甘みの歪んだハーモニーを奏でてきた。吐きそうだ。
しかし、吐きそうになりながらも全部飲んだかいはあった。先ほどまで音を聞くのも辛かった頭痛が、ある程度引いたのだ。普通の二日酔いと同じレベルまで。
確かにまだ頭痛は残っている。だが、どうしようもないほどではない。これだけ効く二日酔いの薬をどこで手に入れたのだろう?それより、あの煙の正体が本当に気になる。何を使ったんだ?
「えっと、もう大丈夫?」
「普通に会話ぐらいなら出来るぞ。それで、アレはいったい何なんだ?」
「ちょっと実験のつもりだったの。まさかこうなるとは思わなかったわ。まあ、目的の半分は達成したから結果オーライね」
「何が結果オーライだよ。はぁ、で?」
俺が目を細めて聞くと、アリシアは少し気まずそうな顔をして目を逸らす。そんなに言いにくいことなのか!?
「実は昨日、泥酔状態のお医者様がね、ウワバミ草に、ウワバミだったら酒に強いだろう。って言いながら、治療用の度数の高いアルコールをかけたのよ。そのときはお医者様を店から叩き出すだけで終わったんだけどね、1日経ったら、ウワバミ草からアルコール臭がしたのよ」
ウワバミ草とは、綺麗な薄青色の花を咲かせる花で、根の部分が結構長い。だいたい、短くて1メートルぐらいはある。その根を綺麗に洗ってすりつぶすと、簡易的な酔い覚ましの完成だ。
「それで?」
「魔法屋に持っていったのよ。もしかしたら錬金とか触媒になるかも知れないから。そしたら、顔を近づけて匂いを嗅いだ店主さんが酔っ払っちゃって・・・」
「はぁっ!?」
魔法屋の店主と言ったら、酒は相棒。ただの水と一緒だぜ。とか言っているのを聞いたことあったんだが。そんな奴が1発でダウン!?実は口だけという可能性もあるが、酒宴の席でビンに入った酒をラッパ飲みしているのを見かけたことあるぞ。最近だと酒が切れるだけで手が震えてくるんだとか・・・。
あの魔法屋の店主体大丈夫なのか?
ともかく、そんな店主が一発で倒れるぐらい強力なのかよ!!それよりも、ウワバミ草に酒を与えるとそんな恐ろしいことになるとは・・・。
「魔法屋の店主さんが倒れたのを見て、もしかしたらモンスターにも聞くかもしれないと思って・・・。ほら、この前のことで、自分自身の身を守る術ぐらい用意しておこうと思ったの。だから、ちょっとあなたで実験しようと思って・・・」
「そこで何で俺を実験台にしたんだよ」
「えっと、ほら、最近ウェイルズずっと働いてるじゃない。だから少しでも休めるようにと思って・・・」
言葉がどんどん尻すぼみになっていく。いや、心配してくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり方法がちょっとな、それを本人も自覚しているから、少しずつ顔が俯いていっていたのだろう。
けど、実験というところが納得できない。これはやはり実験協力として何かを請求するべきか?
「心配してくれるのは嬉しいんだが、俺で実験するなよ」
「だって、生半可なレベルの人だと、毒性があったりしたら死んじゃうじゃない。その点ウェイルズだったらレベルが高いから毒性があっても大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃねえよ!!万が一があるだろうが!!それと、実験協力として何か報酬を要求する。物品だとなおよい」
「ごめんなさい。それと報酬は・・・今晩あなたの家で厄介になるっていうのは?もちろん晩御飯も作るし、なんだったら背中も流してあげるわ」
え?マジ?本当?
「え?マジで?」
おっと、ついうっかり口にしていたみたいだ。咳払いを一度すると、
「いや、そこまでは悪いからいいよ。たとえ酔いが醒めてなくても自分の体ぐらい自分で洗える」
「あら?そうなの?残念ね」
アリシアはあっさりと引き下がった。うん、俺をからかっていただけだとすぐに推察できたよ。顔がずっと笑ってるからな。
今までのリセットしてからの生活で、毎回少しずつ話す内容とかは変わるけど、大抵は同じ内容のはずなのに今回はいきなり強いモンスターが来るわ、アリシアが変な発見をするわで、大きく変わってきている。どういうことだ?
考えても現段階じゃ分からないと判断して、思考を別の方にもっていく。
「ああ、とりあえずお前が泊まるとかは後回しにして、その泥酔爆弾の方を詳しく教えてくれよ。具体的にはどうやって作ったんだ?」
「あ、作り方は簡単よ。アルコール臭を発してるウワバミ草を、すり潰して、火薬を使って開けたらウワバミ草の粉末が飛び散るようしたら完成ね。たぶん誰でも簡単に作れる代物よ」
「じゃあ、なんで粉末じゃなくて煙だったんだ?」
「遊び半分で水も一緒に入れたら、ね。なんか爆発が思っていた以上の威力になっちゃって・・・」
「おい!そんなんで死んだらシャレになんねえだろうが!!」
「私も少し反省してるから大丈夫」
「少しかよ!!」
アリシアの行動はともかく、この泥酔爆弾は何かに使えそうだよな。近くのモンスター共で一度試してみるか。そうとなったらアリシアに大量に作るように頼まなきゃな・・・。
「アリシア、さっきお前はお詫びに俺の家に泊まり込みで色々すると言ったな?」
「あら?やっぱり背中流してもらいたくなったのかしら?」
アリシアが左手を口元に持って行って妖艶な笑みを浮かべる。違う!その提案も大変魅力的だが違うんだ。
・・・今度お願いしようかな。
「それは機会があれば・・・じゃなくて、それをしなくてもいいから、泥酔爆弾の方をたくさん作ってくれないか?」
「あら?そんなことでいいのかしら?めったに無いチャンスだと思うけど?」
「そんなからかい半分の申し出に乗ってたまるか。泥酔爆弾の方はモンスターにも効くかどうかをちょっと試してみたいんだ」
「それじゃあ私がウェイルズの家に泊まるのを止められないわね。だって私の方から頼む気だったことだもの」
ニヤニヤした表情をしながらそんなことを言ってくる。なに?向こうも俺のこと好きなのか?ここはカマ掛けてみるか?
「いや、それだけじゃなくて、モンスターにも効くと分かったら大量に欲しいんだよ。効かなくても欲しいしな。それと俺のこと好きなのか?」
「モンスターに効かなかったときに、何に使うかは聞かないでおいてあげるわね。ウェイルズの事は大好きよ」
「根掘り葉掘り聞かれたら返答に困るところだったから助かるよ。それと俺たちは相思相愛ということか。付き合ってくれ!」
素直に嬉しい。顔がニマニマするのが抑えられているのか不安になってきた。最後の方は結構真剣に言ってみた。
「お断りします」
ものすごい笑顔で断られてしまった。ナニコレ心折レチャイソウ。
「え?なんで?俺のこと好きじゃ・・・」
「ごめんなさい。言葉が足りなかったわね。あなたのことは大好きよ。友達として。――こっちのお願いもしっかり聞いてくれるうえに、頼ったりもしてくれるから、一緒にいてすごい楽なのよ」
俺の耳には友達としてのところしか聞こえなかった。続きは俺の精神が聞くのを拒んでいるかのように聞こえない。アリシアが口パクで何かを言っている。という情報しか分からない。
なぜか再発した頭痛に呻きながらベッドに横になって掛け布団を頭までかぶる。アリシアが掛け布団の外から俺を揺すってくるけど、俺には反応する気はない。心を弄ばれた男のめんどくささを経験するがいい!!
しばらくすると揺するのを止めて離れていくのが気配で分かった。これは俺の勝ちか?・・・虚しくなってきた。
家を出た感じではないので、家の中で何かをしているのだろう。ガチャガチャと何かを弄る音が聞こえたかと思うと、扉を開く音が聞こえ、音が聞こえなくなる。
出て行ったかな?
ろくに休んでいなかったからなのか、急速に眠気が襲い掛かってきた。腹も減ってはいるが、それより眠気の方が勝ったため、意識が落ちていく。
どれぐらい寝たか分からないが、なんとも良い匂いがしていることに気がつき、腹が鳴る。あれか?腹が減りすぎて目が覚めたのか?ん?今この家には俺だけしかいないんじゃ・・・。ハッ!?
思考回路が正常に戻るにつれて、生まれた疑問を解消するために、掛け布団を跳ね除けて起き上がると、アリシアがエプロン姿で料理を作っていた。
俺が起きたことに気がつくとニッコリ笑ってお、おなか減ったでしょ?とか言ってきた。正直惚れ直しそうになった。
え?モンスターに効かなかった時の泥酔爆弾の使い道?内緒だ。人間や冒険者で試すとか考えてねえよ?
最近更新ペースが落ちていますが、なかなか書く時間が取れなくて・・・
次こそは早く挙げられるように頑張ります。
↑フラグかな?




