防衛三回目
今はすでに気温が一番暑くなる時間帯である。そんな時間に俺は目を覚ました。どうやら明け方まで狩をこなしていたので、疲れてこの時間まで寝てしまったらしい。
「ハラ減ったな」
そこそこ広い家には俺の声が虚しく木霊す。やっぱり広い家に一人で住むもんじゃねえな。飯食っておくか。
飯を適当にハラに収めて、食後のマッタリとした時間を楽しんでいると、コンコンと窓が叩かれた。
…誰だよ俺の食後の時間を妨害したクソ野郎は。そう思いながら窓に近づくと、窓の外には、いかにも冒険者の初心者です。っといった感じの装備をしている赤髪の少年が立っていた。俺はクソっ垂れみたいな冒険者に妨害されたかと思うと、無性にムカムカしてきた。
だから俺は、思いっきり窓を開きながら、
「人様の自宅の窓をノックするなんて、いつから冒険者様はそれだけ偉くなったんですかねえ!?」
そう言ってやった。
すると、予想通りに冒険者の奴ビビッてやがる。その姿を見ると、少し落ち着いてきた。
「えっと、実は迷っておりまして、広場までの道を教えてもらえませんか?」
「なんだよ、ただの迷子かよ…金はいくら持ってる」
明らかに初心者の装備だけど、きっと今日の晩飯分ぐらいは持ってるだろう。
「装備を買ったらなくなっちゃって」
「本格的に俺にメリットがないな」
何これ、ほんとにコイツ冒険者かよ、もしかしたら少し違うのかもしれないな。冒険者がこんなに間抜けなわけねえしな。
でも普通に案内するのは癪に障るからな…。
そういえば、アリシアにお願いごとされてたな。店は広場に構えてあるからな。ちょうどいい、俺についてこさせる形で案内するか。
「しょうがねえ、俺は広場に用事がある、だから来るなら勝手について来い。見失っても責任はとらん」
「え?はい。ありがとうございます」
「お礼はいらない、お前は俺に後についてくるだけだ。俺も案内はしない、ただ目的地が広場なだけだ」
うむ、我ながらちょっとワザとらし過ぎる気もしないでもないが、まあいい。遅れそうだからちょっと早めに歩いてくか。
そのまま俺は広場を経由して、そのままアリシアのいる花屋へと向かった。広場に着いたときに、ふと後ろを向いたら、赤髪の少年はステータスを開いているようであった。まあ、もう関わることもないだろう。
花屋に入ると、様々な花の香りが花についた。
「アリシア、居るか?」
「はーい」
奥から出てきたのは、緑色の長い髪がふんわりと広がっている、青い目をした、可愛らしいとも、綺麗とも取れる女性だった。
「何?また来たの?あなただったら、もっといいところで依頼を受けられたりするんじゃないの?」
「ああ、いいんだよ。俺がここで受けたいだけなんだから」
「でも、なんで私のところなのかしらね」
「そんなもの決まってる。俺がお前のこと好きだからだよ」
「フフフ、ありがとう、気持ちだけ受け取っておくわね」
ああ、やはり本気には捕らえてくれないみたいだ。ほんの三週間ぐらい前まで俺達は付き合っていたはずなのに。あの忌々しいリセットが発生しやがった。この町は確かに守っていた。けど他の町が滅ぼされたみたいだ。そのせいで俺達の関係はまたリセットされてしまった。多分こんなことが後一度でも起きてしまったら、俺の精神は粉々に砕けてなくなって、偶然手に入れたこの自我も手放すことになるだろう。
「で、何かないか?」
「あなたに頼むのは気が引けるのよね」
「それでもかまわない」
「正直に言うと、冒険者になりたての子に頼むものなんだけどね、【ハガミ草】を出来るだけ集めて欲しいのよ」
「はいよ、分かったよ」
すると、ポーンという音が、直接頭に響き、
『お使いクエスト【ハガミ草の収集】を受諾しました』
というメッセージが流れた。
「いつも悪いわね」
「なに、問題は無いさ。なんせいつも暇なんだからな」
「そんなんで、よくそれだけ強くなれるのかしらね、しかも短期間のうちに」
実は何度もリセットされた世界を生きているなんて言えない。いったら何が起きるかなんて目に見えている。一度リセットされてしまった後にそれをアリシアに言ったら、目の前で粒子になって消滅してしまった。要するに俺はすでに二度彼女を殺していることになる。
「それは企業秘密ってやつだ」
「もうあなたはこの町どころか、全部の町の戦闘できる人たちに勝てるんじゃないかしら」
「それは買いかぶりすぎじゃないか」
「なによ、私の人を見る目に疑問でもあるのかしら?」
少し怒ったかのような表情で顔を近づけてくる。そんな表情もかわいく思えてしまうから困ったものだ。
「いや、ないよ、元気出た、ありがとう。」
「ふふふ、どういたしまして」
これは中々いい雰囲気じゃないのか?と俺が思い始めたとき、花屋の外から
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
という情けない声が聞こえてくる。なんだ、喧嘩か?この店の前ではしないで欲しいな。
店のドアにはガラスが張ってあるため、そこから外の様子が伺える、外の様子を伺うと、黒い髪の毛と灰色の髪の男が、銀髪の少女とさっきの赤髪の少年が絡まれているみたいだ。
「そっち二人とも後衛装備じゃんか、なら、俺達前衛二人なんだからバランスよくなるだろ」
どうやら男二人の方が銀髪と赤髪に食い下がっているようだ。見苦しいな。
「あらあら、喧嘩かしら、家の前では止めてほしいわ」
「ああ、客足が遠のくもんな」
「それにしても銀髪の子なんて珍しいわね」
「そうだな」
銀髪、何か引っかかる。俺はあの少女とどこかで会ったことあるのか?だめだ、思い出せない。
まあ、このままこいつらに居座られるとアリシアに迷惑がかかるだろうから、そろそろどかしに行かないとな。
「じゃあちょっと行ってくるよ」
「え?何しに?」
「なに、ちょっと営業妨害をしてる奴らをどかしに行くんだよ」
「別に大丈夫なのに」
「いいんだよ、俺が邪魔だと判断したからどけてくるだけだ」
アリシアはしょうがないという表情をすると、バッチリ俺に釘を刺してきた。
「あまり派手にやって店の評判まで落とさないでね」
俺は手を振ってそれに答える。そんなこと俺がするわけないだろ。じゃあ、行きますか。深呼吸を一度してからドアを開ける。
「おいおい、冒険者って奴は、とことん見境ないみたいだな」
なるべく不愉快そうな表情をしながら店の前で騒いでいる奴らに言葉を投げかける。
「なんだよ、お前には関係ないだろうが!」
「関係あるぜ、お前らがそんなところでいざこざ起こすと、店に迷惑がかかるだろ」
「あの人は…」
「さっきのNPC?マドイさんは知り合い?」
「きっと気のせい」
絡まれてた方がボソボソと何か言っているがよく聞こえない。それよりも多分原因はこの男達だろう。
「今はこっちも大事な話を」
「こっちは商売なんだよ、パーティー申請は、他の誰にも迷惑をかけないやり方でやりやがれ」
「そもそもお前はこいつらの何なんだよ!」
「逆ギレか?たいそうなご身分なこって」
黒髪の方が顔を面白いぐらい真っ赤にして怒っている。このぐらいやればそろそろ…。
「じゃあ決闘で決着だ、俺が勝ったら、俺達の行動にもうケチをつけるんじゃねえ」
「ちょっと待て、落ち着けよ、まんまと乗せられてるぞ」
「うるせえ!こんなにコケにされたらもう引くに引けないんだよ!」
おお、面白いぐらい引っかかるな。
「いいぜ、その決闘受けて立とう」
「後悔すんじゃねえぞゴラ」
「そんだけ頭に血が上ってたら、簡単に勝ってしまいそうだな」
「ぜってえぶっ殺す」
黒髪は多分祭りのときとかに見かける、般若仮面と同じくらいやばい顔つきになっている。隣に立っていた灰色の髪の男が必死になってなだめているが、効果はあまりないようだ。
相手が冷静になる前に決闘申請でも送っておくか。
余談だが、決闘申請は俺達NPC同士でも自己鍛錬のために行うことがあるため、出来るようになっている。ちなみに俺達を作った創造神は何を考えているかは分からないが、ステータスも開くことができるし、冒険者にしかないはずのLVの概念が俺達にもある。しかし、この世界が作られたものであると知っているのは、やはりリセットを経験したことのある俺ぐらいだろう。
「申請しておいたぞ」
「ああ今来たって、お前はNPCだったか。戦えるNPCといえばこの町の衛兵でもしてるのか」
「そんなことは関係ないだろう、俺が何であれやることに変わりはないんだから」
俺は背中に括り付けられていた大剣を一振りしてから構えると、視界の端にカウントが表示される。30あるものが0になったら決闘の開始である。
相手の黒髪の男は幅の分厚い片手剣を抜いて、盾を構える。見た感じあの片手剣は切ることを目的としたものじゃなさそうだ。こっちの大剣と同じように叩き切ることを主眼にした武器かな。
カウントがどんどん減少していくのを見ながら、戦略を組み立てていると、俺と黒髪の間に表示枠が出現した。
プレイヤー:ダグロ VS NPC:ウェイルズ
HP半損決闘
「あの名前ってどこかで見たことあるような…」
「やっぱり」
「え?知ってるの?」
外野が何かを言っているが、今は決闘に集中だ。
「どうりゃあああぁぁぁ!」
カウントが0になると同時に、相手が剣を振りかぶりながら突っ込んできた。先手必勝でも狙ったものなのか?
俺はその斬撃を大剣の腹で受け止めると、そのまま剣の柄から左手を離し、そのまま黒髪の顔面をぶん殴り、バランスを少し崩したところに無理やり大剣を跳ね上げる。黒髪はそのまま剣を手放しはしなかったが上に弾かれた形になる。
すかさず大剣を振り下ろすが盾で受けられる。盾で受けてもダメージは多少なりとも通るみたいで、黒髪は表情が苦々しいものになるが、関係ない、追撃を仕掛けるぞ。
そのまま強引に振り切ったから、体が全体的に下がってしまっている。これを好機と取った黒髪が剣を横向きに振りかぶっている、甘いな、俺はニヤリと笑いながら特技を発動する。
「アッパー・クラッシュ」
跳ね上がるように振り上げられた大剣が、赤い残光を残して黒髪の体に吸い込まれていった。
中途半端になってしまった気がしないでもないです