防衛三十八回目
影にたいまつの光を当てると、そこには身長が僕の腰より少し高い程度、先日戦ったゴブリンよりは高い。大体身長1メートル程かな?見た目が完全にロリ系である。だが、十分な栄養を確保できていなかったことが伺えるほどやせ細っている。
栄養素が足りてないはずなのに、体の一部が盛り上がっているため、女性だということが分かる。サイズが・・・身長と不釣り合いだ・・・。
顔は汚れていないところを探す方が難しく、髪も長くボサボサ。擦り切れて切れそうになっているゴムで一まとめにしてあるみたいだけど、大して意味なさそうだ。
何より特徴的なのは、僕たちを怯えているような、それでいて敵愾心をみなぎらせた目で睨んできている。
怯えているのはきっと、姉さんが鬼のような形相で追い掛け回したからだろう。けど何で敵愾心?自分の領域が侵されたからなのかな?分からない。
「お、お前らはなんだ?あたいをどうする気だよ!」
見た目と一人称のギャップがすごすぎる。これは・・・ギャップ萌え?いや、そんなわけ無いか。
そんな考えをしている内に、僕の顔面に手斧を叩きつけられた。きっと僕の顔は、ケイと似たような感じになってしまっているだろう。、動かなくなっている僕に代わって、マドイさんが前に出る。
「害は与えない」
「そんな保障がどこにある!あたいが少ない素材で作った扉を壊しておきながら!このままだとあいつに!あのクソモグラに殺される!」
クソモグラ?きっとメタグラのことかな?マドイさんもメタグラを連想したみたいで、僕を顔を見合わせている。正直ケイや僕のHPを、一撃であれだけ削れるなら、真っ向から勝負しても十分勝てると思うんだけどなぁ。防御の方が足らないのかな?
マドイさんが敵愾心より恐怖の方が大きくなったのか、おびえた目をしている少女に、弓を地面に置いてから歩み寄り、手を差し伸べる。僕もそれに習って、杖を置いて近寄る。
マドイさんが弓を置いても、少女の方は警戒を解かず、自分の目の前に差し出された手を弾き、手斧を構える。
「それ以上あたいに近づくんじゃない!」
「外のモンスターは倒した」
「嘘だ!!アレがそう簡単に倒せるわけが無い!あたいの仲間も皆殺されたんだ!中には腕の立つ奴だっていたのにだ!」
そう言いながら少女の振り回した手斧が、僕の顔面に直撃した。今度はケイみたいに縦向きではなく、横向きだ。やったね。顔に切り傷だよ。これで僕も明日から人気者!!
現実逃避気味に変なことを考えていたけど、姉さんが笑う声で現実に戻された。姉さんを睨むと、必死になって笑いをこらえているけど、少し吹き出したかと思うと、再び声を上げて笑い始める。ケイは笑われる僕を微妙そうな表情で見てくる。やっぱりケイも顔面に手斧喰らったもんね、きっと理解されているのだろう。
そんな僕たちの様子を、少女は困惑した表情で見てくる。
そりゃそうだ、少女の投げた手斧でダメージを負ったのに、負った人間が怒り始める前にその仲間であるはずの人間が大爆笑を始めたんだからね。そんな状況に僕も怒りよりも別の感情が出てきて、思わず苦笑いしてしまう。
「本当に敵意は無い?・・・いや、でもあのモグラ野郎をどうにかできるわけない!」
少女は信じようとはしない。まあ、僕もこんな風に顔に手斧突き立てられても、へらへらしている人間は信じられないかもしれなけど。というよりも、怪しすぎる。
「大丈夫。守るから。外に出よう?」
「そんな単語を並べられても、あたいは騙されないぞ!」
「違うよ!マドイさんはそんなつもりで言ってるんじゃないはずだよ!ただ、ちょっと言葉が足らないだけなんだ!」
「ちょっと黙って」
「え?でも」
「黙って?」
「はい。わかりました」
マドイさんから注意された。あれ?僕何か間違えた?
「えっと?仲間割れ?」
僕たちが何言っているかわからないという顔で、少女が全くの見当違いのことを言っている。仲間割れなんて・・・僕とマドイさんに限ってそんなことが起こるわけないじゃないか!!・・・起きないよね?
いつの間にか、少女のほうから敵意がなくなってきている。
信じてはいないみたいだけどね。
「とにかく、一緒に行く?」
マドイさんはそう言って、少女に再び手を差し伸べる。少女は一瞬迷うそぶりを見せたが、ゆっくりとマドイさんの差し出した手を掴む。
僕はそれを確認すると、ウォーターウォールを解除して道を通れるようにする。
「じゃあ、行きましょうか。早くここを出て休みたいわね」
「何故に、僕を笑うことしかしなかった姉さんが仕切り始めるのだろうか?別に構わないけど」
「諦めろ。今日一日で、お前がユイシロさんに迫られても、全力であしらってくれと泣きながら頼んできた意味が、少し分かった気がする」
「・・・それはよかったよ」
こうして僕は姉さんの恋が片思いで終わることが確定したことを・・・じゃなくて、僕たちはクエストが終わったことを報告するためにファルフラムの町に戻る。
ファルフラムの町に戻る道中、最初は無言だった少女が、ポツリポツリと色々なことをしゃべった。
少女の名前はナグサといい。彼女はドワーフ族で、小さい見た目とは裏腹に、僕らと同い年らしい。それを聞いたとき、ケイはやたらテンション上がっていた。やはりゲームのNPCとはいえ、ファンタジーな別種族としゃべれることが嬉しかったのかな?姉さんがすごい形相で見てたけど。
ナグサは、父親のお使いでファルフラムの町に行き、用事に少し時間がかかるみたいで、待機時間はアルドミド鉱山から、鉱石を町の人と一緒に運ぶことになっていた。町の自警団の人たちと一緒にアルドミド鉱山に行った所まではよかった。採掘している深部まで潜ると、休憩中なのか雑談している坑夫達がいたらしい。そこでもって来たお弁当を配ったところまでもいつも通りだったらしい。
午後の作業を坑夫が開始してナグサも自警団の人と一緒に鉱石を手押し車に乗せたところで、何かが叫ぶ大声が聞こえ、MOBが大量に湧き出したらしい。
しかし、その場にいたのは屈強な坑夫に、町の自警団。その場にいた人たちは倒せるとふみ、攻撃をし始めた。実際にMOBを倒すのは2~3人がかりで危なげなく倒したらしい。しかし、メタグラが出てから戦況が一気に不利になり、1人ずつ倒されていってしまった。
生き残った中の一部の人が決死の思いで時間を稼いでいる間に、残りはさらに奥に潜っていき、天井を支えるために使う予定だった木材でバリゲードと扉を作成。これもすぐに壊されるだろうと怯えていたけど何時まで経っても壊される気配が無いため、メタグラは扉よりこちら側にこれないと仮説を立てた。
その後はナグサを除いた生き残りが一か八かでメタグラに戦いを挑んだということである。ナグサがまだあそこにいたことから、きっと全滅したのだろう。広間のようなところにあったクレーターは自警団の中にいた魔法使いがやった後だそうな。
「同情はしなくてもいいんだ。あたいはあの辛さが誰かに分かるとはとてもじゃないが思えないんだ。そんな奴に同情されても殴りたくなるだけだ」
「そう・・・町が見える」
ようやく僕たちはファルフラムの町に戻ってきた。なんだか体感的に3~4日ぶりに来た感じがする。ナグサは町を見て安心したのか、涙が頬を伝って地面に落ちている。
そんなナグサの頭を姉さんが撫でている。僕はそうとう久々に姉さんが姉っぽいことをしているところを見た。
ナグサは姉さんの手を跳ね除けると、目をこすって涙を拭い、僕たちを促して一緒にファルフラムの町へと入っていく。クエストの報告もあるし、町長のところに行くべきかな?
「どうする?僕としては町長に報告してからログアウトしようかと思ってるけど」
「それでいいんじゃねえか?」
「この状況で報告せずにログアウトって・・・ちょっと中途半端すぎるわね」
「・・・」
マドイさんからジイっと見られている。
「えっと?何かなマドイさん」
「報告の後も少しやりたかった」
なんだと?マドイさんからのお誘いだと!?僕は知らないうちにマドイさんからのフラグをへし折ったというのか!?
「じゃあ俺いけますよ!一緒に狩りでもしますか?」
ケイが若干前のめりでマドイさんに狩りのお誘いをする。あ、ケイこの野郎!
「いい、宿題する」
「・・・はい」
ケイは見事に断られたな。え?僕には狩りのお誘いをして、ケイからのお誘いに断るということは・・・まさか!?
って、そんなことあるわけ無いか。マドイさんの母親の前で断られまくったもんなぁ・・・。
「とにかく町長のところ行かないのかしら?この子も戸惑ってるみたいだし」
姉さんが背後に黒いオーラを立ち上らせながら、笑顔でそんなことを言ってくる。怖いって姉さん。姉さんがナグサの肩に手を置いてるけど、ナグサ思いっきり怖がって小刻みに震えているじゃないか。まあ、確かに僕らの発したログアウトという言葉に少し疑問を持っているみたいだ。まあ、その辺は機会があったらだね。
「僕は悪い夢でも見てるのかな?」
「私も見える」
「俺にも何かが見えるな。見えるものについては・・・あまり考えたくない」
「あれって追い討ちすればいいのかしら?」
「姉さんストップだよ!!そんなことしたら死んじゃうかも知れないじゃないか!!」
「ここで仕留めるのが今後のためになるかもしれないじゃない」
「え?っえ!?」
ああ、ナグサも混乱しているみたいだ。
そりゃそうだろう。なんせ、町長らしき人が、ふんどし一枚しか着用していない状況のうえ、直立不動の体勢で床に頭がめり込み、時折ビクンビクンと痙攣しているのだから・・・。僕も何を言っているかわからない。純粋に目の前に展開されている光景を、そのまま言っただけだ。
僕たちは本来なら町長が座って作業するであろう事務スペースを占拠している、町長の奥さんに話を聞くと、女性冒険者の尻を追いかけていたところを目撃、制裁を加えたらしい。
女性の尻を追いかける町長だが、それにあのような形での鉄拳制裁を加える奥さんも奥さんだ。うん。これ以上この問題に関わらないようにしよう。
「なんじゃ。えらく時間がかかったのう。何かあったのかね?」
町長が復活している。どれだけタフなのだろうか。これがギャグパワーかな?防衛線の前線がギャグ満載のところだったら町長最強じゃないかな。
「クエスト終了」
窓遺産がそう言って、アイテム欄から今回採掘したものを取り出していく。町長のほうもクエストの履歴を見ているのか、マドイさんの手をつかんで凝視している。
『採掘クエスト【物資不足】をクリアしました』
「ふむ、ごくろうじゃった。二つ伝えたいことがあるのじゃがよいかのう?」
「内容は?」
「一つは謝辞、二つ目はそこに立っているドワーフの少女じゃ」
「じゃあ、ナグサの事からお願いします」
反射的にそう答えてしまった。
「やはりナグサじゃったか。よくぞ無事で・・・どうやって生き残っていたかを聞くのは後回しにして、とにかく生きていた事を祝おうぞ。ナグサの親御さんにもちゃんと連絡しておくぞい。あとは、ササも呼んでおこう」
「え?え?」
なんかここに来てからナグサが戸惑いっぱなしだな。あの乱暴な口調が一度も出てない。
「そうじゃそうじゃ、ワシも配慮が足らなかったのう。久々の外なのだから、身だしなみを整えたほうがよかったかのう」
「あ、そちらもしたいのですが「誰かナグサに湯あみをさせてやってくれないかのう?」人の話を聞く努力をしろクソジジイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ナグサは奥さんに引きずられてどこかに連れ去られてしまった。
「さて、お主等にはちょっと頼みたいことがあってのう。ナグサを助けてくれたことに感謝するのじゃ。それのついでといってはアレなのじゃが、ナグサを故郷に連れて行ってやってくれんかのう」
「別にそれぐらいならいいけど、場所は?」
「その辺は正式に決まってからじゃから、おいおいじゃな」
「彼女が頼まれたお使いっていったいなんだったんだ?」
「それはワシも把握しておらんのじゃ」
「何それ、しっかりと把握しておきなさいよ」
「返す言葉もないのじゃよ。確認を怠ったワシのせいじゃからのう」
町長は項垂れてしまっている。鉱石を運ぶ手伝いを向こうから申し出てきて、それを町長は了承した形になるのか。お使いの方は、直接町長に関係があったのではなく、工房のほうの用だったらしい。
「謝罪とは?」
実は僕も気になっている。何か謝られるようなことあったっけ?
「済まなかったのう。実は、お主らに渡したピッケルなんじゃが・・・」
う~ん。嫌な予感がするなぁ。
「めっさ新品じゃったんよ。いや~本来は耐久値が半分切ったものを渡すんじゃがの。ハッハッハ」
僕たちは無言で顔を見合わせると、奥さんが消えた方を見る。なんだかGOサインを出されている気がする。これはきっと気のせいじゃないだろう。
「なんじゃ?なんでそんなに死んだ魚の目でワシに近づいてくるんじゃ?無言怖いやめて、せめて何かしゃべ―――あぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
町長は僕たちの手による、怒りによる暴力の嵐を受け、伸びることとなったのであった。
次回からウェイルズのターン。の予定です。中途半端だなんていわないでくださいな




