防衛三十七回目
意外と最後があっけなく、じゃっかん消化不良気味のボス戦だった。それは他の3人も同じようで、微妙な表情をしている。
「とにかくさ、奥に進んで採掘ポイント探そうよ」
「そ、それもそうだな」
ケイの同意を得て先に進む道を見るが、すでに姉さんとマドイさんがその道を歩いていっていた。僕とケイはそれを見て、ため息を吐きながら追いつくために走る。合流してから5分ほど奥に進んでも、採掘ポイントに続く道はどこにも無かった。それどころか・・・。
「壁?」
「いや、扉みたいだな。下のほうに小さくだが鍵穴がある」
「ここの情報ってあるのかな?」
「突破した話は聞かない」
「マドイさん情報集めたんだ」
「ん」
マドイさんはうなずくと、扉を細かく調べるためか、あっちこっちを撫で、下のほうをよく見るためにしゃがみ込む。しゃがんだことで突き出されたお尻を見てしまい、なんだか恥ずかしくなった僕はマドイさんから視線を逸らす。逸らした先に立っていたケイは見てないふりをしながらバッチリ見てたけど。
とりあえずケイを殴ってから、僕も何か無いか、周囲の岩壁を触ったり叩いたりする。しかし、こういった何かを探る系統の行動を取ってこなかったため、それ関係の称号や、アイテム、特技があるわけなく、発見することは出来なかった。
「クソ、どこにもないじゃねえか!」
「一度掘った採掘ポイントが、もう一回使えるようになるのにどのくらいかかるのよ」
「えーっと。僕はその辺あんまり見てないからうろ覚えだけど、1日ぐらいじゃなかったけ?」
「たしかそう」
僕たちの間に重苦しい空気が漂い始める。あ、この後の展開って、たいていこのクエストを受けた人間が糾弾されるんだよね。現に姉さんが僕を大分険しい顔で見てくるし。
「ってことはアレ?明日になるまで次のクエストを受けられないってこと?」
「そう」
「とりあえずこの苛立ちはヤマトにぶつけるわね。なんせ受けた張本人なだしね。大丈夫。パーティー内だったら味方に当たっても大丈夫だったわよね?ちょっとストレス発散に付き合ってもらうわね」
「なんでさ。うぇ!?」
姉さんがいきなり僕に槍を突き出してきた。僕は地面を転がってそれを回避する。姉さんの顔が結構マジだったので、このままだと新しいトラウマを生みかねない。
僕が回避したことで、背にしていた扉に姉さんの槍が深々と突き刺さる。槍を引き抜いた姉さんが僕に追撃を仕掛けてくるのを、僕は必死になってかわし続けている。そのため、扉に次々と穴が開いていく。
「ユイシロさんストップ」
「マドイさん何!?ちょっと今忙しい」
「それでもストップ」
マドイさんのおかげで、姉さんが止まった。よかった、トラウマは生成されなかったみたいだ。
「ユイシロさん。扉壊せる?」
「壊せるわけないだろ?こういう先に進むのに鍵が必要なタイプの扉は破壊不能オブジェクトじゃなかったか?」
「傷ついてる」
確かに姉さんの攻撃で扉に穴が開き、扉の先を穴から窺えるようになっている。あれ?確かにおかしいな。それに壊せるということは、力技で突破できるということなのか?
「どのみち、ヤマトでストレス発散する予定だったのよね。まあ、標的を私の妨害をしているこの扉に向けるというのもまた一驚かしら。それに、こんな扉を壊せる機会なんてそうそう無いから、きっとスッキリできるわね」
姉さんはそう言うと、槍を回転させ始める。
・・・障害は力で吹き飛ばせみたいな脳筋な考え方って絶対聖騎士の考え方じゃなくて狂戦士の考え方だよね。
言ったら余計な心の傷を負うだけだから、絶対に言わないけどね。
兎にも角にも、姉さんがすごい勢いで扉を攻撃し始めた結果、30秒経たずに扉は四散して、粒子を巻き散らかしながら消滅していった。
「これで先に進めるわね」
「そ、そうですね」
「ん」
ケイは姉さんのことを若干ビビりながら、マドイさんはいつも通りの調子を崩さずに返事をして、さらに奥へと進み始める。姉さん。これ以上ボロが出る前にこのゲームから離れた方がいいんじゃないかな?正直、家にいる姉さんよりも酷いことになっているかもしれないよ?
途中までは、天井が崩落しないように、少しだけ人の手が入った感じがしていたけど、それも無くなった。
きっとここまでが、ファルフラムの町がまだこの鉱山が使えた時に掘った位置がここまでなのだろう。じゃあ、この先は一体誰が掘ったんだ?メタグラが掘ったと言われればそれで納得できるんだけど、それでもなんか違和感が残る。なんか綺麗過ぎるんだよな。
さらに奥に進むと、坑道に再び人の手が入ったような後が残っている。しかも、こちらはもっと立派になっている。それこそ、木材ではなく、精錬したのか、鉄のようなものが柱となって、坑道を補強。支えている。
「ねえ、これって・・・」
「明らかに誰かいるだろ」
「とりあえずシバキ倒せばいいかしら?」
「最初に話すべき」
おかしいな。何で姉さんはこんなに、筋肉ヒャッホイ。見たいな思考回路になってしまっているんだろう。家ではもっとおとなしかったように思うんだけどな・・・。
後日このことを聞いたとき、顔を赤くしながら、僕に間接技をキメながら説明してくれた。どうやら、VRとはいえ、ケイと一緒に冒険出来た上に、普段なら出来ないようなことが色々と出来たため、つい浮かれてしまったのだとか。姉さんは完全にゲームと現実での性格を分けているみたいだ。
進むにつれて、なにやら様々な物が転がっている。デフォルメされた骨だったり、何かのMOBが持っていたと思しき武器。折れたピッケルから日常品まで。たぶんもっと詳しく観察したら色々あると思う。
「なんか生活感が溢れてるな」
「・・・そうだね」
少し広がった空間に、何かで作った布団のようなものが複数敷いてあり、先ほどまで誰かいたのか、金床には熱せられたままの、まさにこれから製錬するであろう鉱石が置かれている。
「奥にまだ繋がってるみたいだけど?どうするの?行くの?」
「行くしかなさそうだね。採掘ポイントも見つからないし」
「まあ、そうなるな」
奥に続く道は、人が横に二人並べばいっぱいに程度の幅の通路で、僕たちは昔の有名な国民的RPGよろしく。一列になって進む。
ケイが先頭を歩き、次にマドイさん、僕と続き、後ろの警戒は姉さんが行っている。ケイとマドイさんだったら前方から敵が来ても柔軟に対処してくれるはずだ。姉さんだったら背後からの敵も全部倒せそうだし、何より僕がこの位置にいないと、マドイさんによからぬことを吹き込むかもしれないから、必然的にこの順番になった。
「ケ・・・烏丸。まだ何か奥は続いてるの?」
「ああ、まだ奥に続いてるみたいだぜ。なんかこういうところ進んでると不安感が膨らむよな」
「分かる」
「不安感でいっぱいになったら私の胸に飛び込んできなさい」
「そ、それはまた今度。機会があったらで」
「よし、約束ね。約束よ!」
「は、はい」
姉さんがすごい勢いで食いついたからケイが引き気味に答えている。ああ、こうやって姉さんの恋路は遠ざかっていくんだね。僕としてはケイから離れていくから万々歳だよ。ケイを義兄さんと呼ぶ日が来ないことに、不安感を抱いているケイとは対照的に、安堵感が広がる。
「お、分岐点だ」
「どんな感じ?」
「そうだな、Y字みたいな感じになって、右側は緩やかに上に向かってるな。反対に左側はそのまま高低差もほとんどなく奥に続いてる感じだ」
「僕はそのまま左側の方がいいと思うけど」
「同意」
「え?上の方がいいんじゃないの?烏丸君」
「いや、上に行ったら、どこか別のところから地上に出ることになると思う。それによる採掘ポイントのない確率の方が高くなる」
「そういうものなの?」
姉さんが疑問に思ったことをケイに聞いたけど、間に僕やマドイさんがいるんだから、そこで聞こうという発想はなかったのか?まあいいや。めんどくさくなるし。
「それに奥に進んだ方が、いい鉱石とかある確率が高くなるじゃないですか。報酬受け取るときに上乗せされるかもしれませんよ」
その一言が決め手になったのか、姉さんは文句を一切言わずについてくる。ケイが言ったから文句がないのかな?考えるのは止そう。
いろいろと考えているうちに、採掘ポイントを発見したのか、ケイのテンション高めの声と、ピッケルを打ちつける音が鳴り始める。
「ようやくこのクエストも終わるかと思うと、元気が出てくるわね」
「姉さん。この後町長のところまで戻らなきゃいけないんだよ?」
「はあ、ヤマトがこのクエストを受けるから・・・」
「そう言うことはあんまり言わない方がいいよ。僕は姉さんからそう言う扱いうけるから慣れてるけど、他のパーティーとかで言うと、弾かれるから」
「私は軽野君がいれば満足よ」
「ケイにも嫌われるかもよ」
「今後このようなことを言わないことを、心の底から誓います」
姉さんが僕にまで敬語を使った!?ちょくちょくこうやって姉さんの行動を抑えよう。うん、出来るはずだ。正直このゲームを始めてから、ケイと姉さんの距離が確実に開いてきてるからね。僕は満足さ。
そんなことを思っていると、前方で何かが壊れる音がして、ケイと、珍しくテンション高めのマドイさんの声が聞こえてくる。
「やったピッケルが壊れた。これでこのクエストも終わりだ!!」
「あれ・そういえば、まだそれなりに残ってたよね?」
「思ってた以上に採掘ポイントが硬かった」
「ああ、なるほど。だから壊れたのね」
「いい鉱石ゴロゴロ」
「報酬が上がるといいわね」
姉さんが締めくくって、もと来た道を引き返そうとすると、剣や斧が空気を切り裂く時に鳴る、あの独特の音が聞こえたかと思うと、僕の顔のすぐ横を何かが通り過ぎ、ケイの顔に当たった。
ケイのHPバーが3割ほど削れた。ケイの顔には手斧が突き立っていて、中々シュールな光景が出来上がっている。
いきなりの事に、皆反応が出来ずにいる。
そして、その間に再び同じ音。
今度は僕の肩に突き立った。僕の方がケイよりレベルが少し高かったはずなのに、ケイとほぼ同じぐらいHPが減ってしまった。
ここでようやく姉さんが怒声を発しながら、手斧が飛んできた方向へと走り始める。飛んできた手斧を、マドイさんが矢を当てて弾こうとするも、弾ききれずに姉さんの顔を掠める。姉さんはそれも一切気にせず手斧が飛んできている廃坑の、少し影になっているところに走っていく。
それに続くようにケイが、シュールな状態のまま、姉さんの後を走って追いかける。マドイさんも援護が出来なくなる位置になる前に動き始める。僕も特にやることが見当たらないけど、追いかける。ああ、姉さんのストッパーにならなきゃな。姉さんが怒ったときは、どこまでも暴走を始めるからなぁ・・・。
鬼のような形相で迫ってくる姉さんを見て逃げ出したのか、それなりの距離走ったけどまだ追いつく気配が無い。確かに坑道は整備されているわけではないので、デコボコしていて非常に走りにくい。
これは相手も同じ条件のはずなのにまだ追いつけない。きっと相手の方がAGIが高いのだろう。なんせ、時折手斧を投げてくるほどなのだ。余裕ありすぎるだろ。
他に考えられる可能性は、やたら生活感溢れていたあの空間。あそこで生活をしている奴が犯人なのか?でもそう考えると納得できるところも少しはある。
「見つけた!今チラッと背中ッポイ影が見えた!」
流石に見える距離まで詰められたら攻撃してくる暇は無いのか、手斧は飛んでこなくなった。
姉さんはしっかりと見えるみたいで、一本道を爆走している。正直女性としては終わってしまっているかもしれない。
ケイは顔に突き立っていた手斧をいつの間にか抜いており、顔に真っ赤な切り傷を表現したエフェクトが走っている。見れば見るほど笑いが込み上げてきてしまう。ここで笑うわけには行かないよね。
とうとう僕にも犯人の影が目視できる距離まで追いついた。やっぱり廃校の中は明るくないから発見が大変だなぁ。そういえば、攻撃して来た奴は、来るときに見たY字の、なだらかに上へと通じている、右側の道を走っているため、一本道でなければ迷っていただろう。
「『ウォーターウォール』!」
僕は早く追いつけるように、水、正確には水流で壁を作る魔法を、影の目の前に作り上げる。
影は無理やり突破しようと壁に飛び込むが、結局は流されて、僕たちのほうへ押し戻されている。しかし、その影の動きを見てると、人型で知恵があるように見える・・・もしかしてNPC?
僕は影がNPCであることを考慮して、滅多打ちにするためか、槍を回し始める姉さんを、ケイに頼んで羽交い絞めにしてもらう。
「え?何?急に後ろからなんて・・・ダメよ。弟たちが見てる前でなんて・・・でも軽野君が望むなら・・・エヘ・・・ウヘヘへ・・・・・・ウェヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」
「おい、ユイシロさん壊れたぞ!ヤマトヘルプ!」
ヤバイ笑い方を始めた姉さんをなるべく無視しながら、影にたいまつの光を当てる。
ケイが何か言ってるけど、僕は知りませんなぁ。
↓「第二回茶番のコーナー!今回のゲストはヤマト君の姉こと、アバターネームユイシロさんでございマース!」
ユイシロ(以後ユ)「こんなことしてる暇があるなら、さっさと続き書きなさいよ」
↓「いきなり手厳しすぎる!?」
ユ「それにこんなことしてるけど、一切合切そう言う指摘ないんでしょ?早く続き書いて、私と軽野君のイチャラブを書きなさいよ」
↓「もう俺の精神ダメージがウナギ昇りだな。だれかヘルプ!」
ユ「それに次回から他の人の視点の予定だったんでしょ?なのになんで続くみたいになってんのよ。もっとしっかり計算して予約やりなさいよ」
↓「・・・」
ユ「完全に固まっちゃったわね。取り合えず攻撃すれば復活するかしら」ブンブン、グサ
↓「ノオォォォォォォォォォ!!」
ユ「復活したんだったら、色々説明しなさい」
↓「クソ痛え。ぶっちゃけるとウェイルズ君の出番は次回の後半からか、次々回の可能性が高いんだよね」
ユ「最後に言い残すことがあるかしら?」
↓「なんか物騒だな。じゃあ・・・今回もお楽しみいただけたら幸いです。次回もよろしくお願いします」
ユ「それが最期の言葉ね。分かったわ。私のキャラがブレブレなのはどういった訳よぉぉぉぉぉぉぉ!!」ブンブン
↓「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」




