防衛三十六回目
目の前に現れたメタグラ。マドイさんが矢を射るが、小手で片っ端らから弾いていく。中には弾ききれずに当たるものもあるが、ある程度突き刺さりはするが、メタグラはそれを気にせずに攻撃してくる。どれだけのHPがあるんだろう。メタグラの頭上に表示されている2段のHPバーの上が、僅かに減る。気が遠くなりそうだ。
適当に攻撃してきたメタグラだが、急に土の中に潜っていくと、土煙を上げながら、まっすぐにマドイさんの方へと向かってくる。マドイさんがその場を離れた直後、土が盛り上がって飛び出してくる。どうやら攻撃したのがマドイさんだけだったから、タゲを取ってしまったらしい。それと、こんな攻撃方法を取ってくる相手だと、僕の魔法の半分は無力化されたことになってしまう。というよりも、既に一つ無効化されてました。はい。
飛び出したメタグラが迷うことなくマドイさんに襲い掛かるが、そこに槍を構えた狂戦士と、小太刀とダガーを構えた烏丸が突っ込み、攻撃を仕掛けていく。
それでタゲはマドイさんから二人に移動したみたいで、二人に攻撃をし始める。しかし、ケイはAGIが高くなっているのか、ほとんどの攻撃を回避している。だが、相手の攻撃が当たると、HPを一気に持ってかれてしまっている。
姉さんは槍を回転させながら使い、相手の鋭い爪を穂先ではじくと、石突で追撃を仕掛けていくが、元々槍の優位性はその攻撃範囲にある。それを半分の長さで扱って攻撃速度と、攻撃弾きの速度を上げて、敵の攻撃に対処しているため、相手に攻撃が当てられていない。
僕とマドイさん?僕は魔法、マドイさんは矢を射って相手の弱点を探すけど、まず当たることの方が少ない。僕の魔法は効果範囲が大きめの円だけど、速度が少し遅めだから回避されてしまう。矢は小さい点の攻撃のため、当たりやすいと思っていたけど、いかんせん攻撃範囲が点。つまり、そこさえ外されてしまうと、僕みたいに範囲内で巻き込むことができないのだ。そのため、現在一番のダメージソースはケイとなっている。
「クソ、土の中に潜ってくるのがウザったい!」
「同意するわね。これ何の嫌がらせよ!」
「運営さ~ん。ゲームバランス大丈夫~?」
しかし、攻撃力もそこそこあるし、土の中に潜って攻撃してくるからめんどくさいことこの上ない。これはもう運営に文句でも言ってなければやってられない。そもそも僕の魔法はほとんど、効かない、あたらない、意味が無い。の、三拍子が綺麗にそろってしまっている。もっと考えて魔法作るべきだったかな?いや、これはきっとレベル。そう、レベル不足なんだ!!
・・・そういえばこの辺適正だったなぁ・・・。
と、無駄な考えをする程度に僕は役立たずとなっている。完全にいらない子である。姉さんたちは戦い方を少しずつ変え、姉さんが味方を守るために相手の攻撃を弾く盾役となり、ケイが攻撃役。マドイさんは要所要所で嫌がらせのごとく、敵の攻撃を妨害しようとしている。役割的には補助約となっている。うん。やぱり僕いらない子化してるね。
メタグラとマドイさん達の戦闘を観察していると、メタグラの行動パターンが段々と分かってくる。やはりリアルっぽさが出てもAI。行動に決まりがあったりするみたいだ。
マドイさんは行動パターンを把握し始めているけど、メタグラと至近距離で戦闘している姉さんとケイは、体全体を見ているわけではないため、相手の攻撃が始まってから姉さんが攻撃を弾いているという感じだ。対応が後手に回っている感がある。
そのとき、メタグラがその場に留まって少し力を籠める。
「烏丸!姉さん!メタグラが土の中に潜るよ!!」
「え?」
「それマジか?」
僕がそう言った直後、ケイと姉さんは疑問の声を上げながらもすぐにメタグラから距離を取る。そして、姉さんとケイが離れるのとほぼ同時に、メタグラが両手を高く掲げて地面に叩きつけ、そのまま地面の中に潜っていく。
ケイ達は真下から攻撃を食らわないように、メタグラの潜った位置を凝視しながらも動きを止めずに動き続ける。僕とマドイさんはタゲを取ってはいないけど、念のため足音を立てないようにその場から動かずに待機する。
メタグラが潜ってから少しすると、土煙がケイの方へと伸び始める。ケイはそれに反応、土煙が自分の足元に来るまでその場に留まり、一気にその場から離脱する。僕はケイが飛びのいた直後にウォーターウォールを使ってみる。
メタグラが飛び出した瞬間に魔法が発動。上から下への激しい水流でメタグラは、飛び出してきた穴に無理やり流されてしまう。潜った位置から間欠泉のように水が吹き上がるが、その中にメタグラの姿は見当たらない。きっとどこかで詰まったのだろう。このまま窒息死してくれると、とても助かる。
「・・・ヤマト何したんだよ」
「ちょっと飛び出してきたタイミングで穴に水を流し込んだらどうなるかなと思って・・・思っていた以上に効果あるのかな?」
「なんか相手が哀れに思えてくるから不思議だ」
「このまま倒せないのかしらね」
「たぶん無理」
マドイさんの予想通り、地面が盛り上がったかと思うと、メタグラが顔を出してきた。顔を出しているとこ以外は水流に揉まれているのか、這い出してくるのに時間がかかっている。ケイと姉さんは、これがチャンスとばかりに攻撃を加えていく。マドイさんも攻撃をしているが、僕はウォーターウォールの維持のため、攻撃に加わることができないでいる。正直攻撃に参加できなくて寂しい。
「ヤマト君は敵が這い出てくるまで維持。ユイシロさんと烏丸君は、出来るだけ攻撃してダメージとタゲ取って!!」
「了解だ」
「分かったわ」
「・・・うん」
これが一番効率がいいって分かってるよ?分かってるけど・・・ねえ。なんか釈然としない。
メタグラが這い出す頃には、姉さんとケイの攻撃のおかげで、HPバーが残り一段となっていた。意外とどうにかなるもんなんだね。
・・・あれ?確かここの適正ってちょうど今の僕とマドイさんぐらいだったよね。なんで明らかにレベルが下の姉さんとケイがあんなに暴れられるんだろう。理不尽すぎてちょっと悲しくなってきた。確かにケイは対人メインのVRゲームばっかりやっていたのは知ってるから納得できるけど、姉さんがこういうゲームをやったことあるなんて僕は聞いた事ないよ!?リアルでもそこまで運動が得意なイメージはないし・・・どういうこと?
そうしているうちにHPバーが黄色に変わる。HPバーの色が変わったところで急にメタグラの動きが止まる。こういった行動に出るときはたいてい相手の行動パターンが変化するときだ。ケイは攻撃方法を投擲武器にして、攻撃を散発的に行うことで様子をみている。マドイさんもと僕は、魔法や矢を様々なところに放つ。しかし、姉さんはここで一気に決めるつもりなのか一気に近寄って槍を回転させ、ダメージを稼ぐ。
「姉さん下がって!!」
「何言ってるのよ!今がチャンスじゃない。相手の動きは止まってるのよ!!」
「違うんだ姉さん!こういうHPが減って不自然な行動を取り始めるあいt」
最後まで言うことは出来なかった。動きを止めていたメタグラが、急にその短い足を使ってその場でストンプし始めたのだ。強い衝撃が発生したからか、姉さんはメタグラに近い位置で動きをとれずに、フラフラと体を揺らす。
「え?ちょ、動けない!?」
戸惑った声で姉さんがそう声を漏らすけど、その隙にメタグラは地面に潜っていく。そして、定期的に地面の下から響く音が地震レベルの振動となり、そのほぼ真上に立っている姉さんは転倒。揺れがひどくて立ち上がれないみたいだ。
「こんなところまでリアル思考じゃなくてもいいじゃない!!ステータス補正とかで立てないの!?」
「姉さんのレベル的に無理だと思うけど・・・」
「レベル適正より下回っているのに、暴れることが出来ていたことに驚愕」
「そうだよね。ケ・・・烏丸だったら分かるんだけどね」
「ちょっと!!そこでのんきに話してないで。ヘルプ!!」
尻餅をついた体勢でこちらに手を伸ばしてくるけど、僕らも迂闊には動けない。いまだに潜り続けてるメタグラが何をしてくるか分からないからだ。
「ごめん姉さん。たぶん一撃で死ぬことは無いと思うから、頑張って耐えて!!」
「ヤマトォォォォォォ!!」
思わず姉さんを様子見のための生贄に捧げてしまった感があるけど、今まで受けたトラウマの数々を思い出すと、不思議と助ける気がなくなってきた。そして、先ほど姉さんが僕の名前を叫んだのが決め手になったのか、視界から姉さんが消えた。ついでに下から上に何か巨大なものが通り過ぎていった気がした。
視界の端に映る姉さんのHPバーがごっそりと減る。今ので、HPのおよそ8割を持っていかれてしまっている。僕からお金を徴収して買った装備が無ければHPは0。よくて数ドット分のHPが残る程度であったはずだ。それを考えると結果オーライって奴なのかな?
天井に穴を開けて僕たちの目の前に戻ってきたメタグラは、少し長いなと感じる程度だった胴体が、恰幅よくなっている。まあ、太ってるね。今の短時間で何が起きたんだろう。
そう思って出てきたメタグラを見ていると、地面の穴の真上に出来ていた天井の穴から、姉さんが降って来た。複数の星が固まって、姉さんの頭の周囲を旋回しているエフェクトが出ている。短時間で大ダメージを受けたため、気絶が発生しているみたいだ。
「烏丸!姉さんをあそこから退避させて!僕とマドイさんでアイツを引き付けておくから!」
「分かった。お前らもユイシロさんの二の舞になるなよ」
ケイはそう言うと、姉さんの方へと走り始める。しかし、まだタゲがケイにあるため、メタグラもそちらを狙う。なぜか土に潜って接近するのではなく、その重たそうなお腹を揺らしながら走っていく。見た目はでかいモグラなので、結構シュールだ。
「今はこっちを狙え!『アイスフィールド』!!」
僕が魔法を唱えると、メタグラの足元が急速に凍りつき始める。急に足元が凍りついたからか、メタグラは滑って転び、さらにその転んで氷と接した面が薄っすらと凍り付き、メタグラは動けなくなる。そして、そこにマドイさんが矢を射続ける
僕が唱えた魔法は、地面を凍りつかせて、その部分がくっついている場所も一緒に凍らせてしまうため、相手を動けなくする拘束系の魔法だ。ただし、一度凍りついた地面の上を歩いても拘束力を持たなくなる上、意外とすぐに拘束効果が切れてしまう。まあ、確かに薄皮一枚程度だからなぁ・・・でもきっと対人戦だったら、無理やり拘束から逃れることでダメージを負うはずだ。・・・きっと。うん、きっとね。
予想通り拘束から抜け出したメタグラは、矢でダメージを与え続けていたマドイさんを狙い始める。タゲが移ったみたいだ。
マドイさんは一度ゴブリンと戦った時のような動きをして、逃げながら時間を稼ぐ。僕も魔法をぶつけるが、タゲが僕に移るほどではない。
攻撃が当たらないことに苛立ち始めたのか、メタグラが動きを止め、力を貯めるそぶりを見せると、天井に向かって飛び上がり、そのまま穴を作って姿をくらます。
「マドイさん気をつけて!」
地面に潜るのと違って、土煙が一切起きない。そのため、非常に避けにくいと思う。僕とマドイさんは固まらずに、それぞれ別方向へと走る。仮にこれでどちらかを狙われても、両方動けなくなるということは無くなった。
メタグラの開けた穴から少し離れたところから、メタグラがマドイさんに向かって飛び出して来た。
まさに射出この表現がピッタリな速度で、マドイさんに向かって突っ込んでいく。かろうじて直撃は無かったみたいだけど、衝撃でマドイさんは壁に叩きつけられる。僅かな間に、マドイさんのHPが4割削れる。しかも、メタグラの方は地面から出てこないで、まだこの攻撃に続きがあるといわんばかりに、この部屋を、土煙を上げながら移動している。なので、僕は、
先ほどと同じようにウォーターウォールで生じる水流を、穴の中に注ぎ込むことにした。
土煙の移動速度が上がったかと思うと、メチャクチャに動き、沈黙した。そして、入りきらなくなった分の水が少しずつ溢れ出してくる。水流の量の割りに、溢れてる量が少ないのは、奥の方では効果切れで消滅しているからと推測する。
結局這い出そうともがいているところを、姉さんが怒りの表情で槍を振るい、ケイがダガーと小太刀でダメージを与えていくことで倒してしまった。
最後、幕切れがあっけなかったのは、気にしない事にしよう。




