防衛三十五回目
マドイさんとケイがログアウトしてからおよそ2時間が経過している。そろそろログインをしてもいいと思うんだけど・・・。女の子である上、お母さんがあの調子のマドイさんは時間がかかるとして、ケイ!お前は男である上に、確かしばらく親がいないとか言ってたよね!?
そろそろ壁の方もヤバイ上に、MPの方がもうアウト。残りが50切った。多分壁を維持していられる時間は、多分1分半も張れれば上出来なレベルだ。やっぱり消費効率が圧倒的に悪いな。もう少し改良点は無いのだろうか。でも、これ以上水流を遅くしたら簡単に突破されてしまうだろうし。
っとこんなこと考えてる場合ではない。壁を消して少しでも反撃するしかない。MPが無くなった魔法使いは本当の役立たずだ。そうなる前に壁を解除する。壁を解除した後は、通路をふさぐようにアイスラインを引き、必死になって相手を杖で殴る。
敵をその場で押し止めているが、MPもそれなりの速度で減っていくのを見て、流石にこれはもう無理だと判断してしまう。
「おいおい、戻ってきたと思ったら、いきなりピンチかよ。もっとしっかりとしろよな」
声が聞こえたと思ったら、僕の顔のすぐ横を何かが通り過ぎ、アイスラインで作った氷の棘を乗り越えようとしてきていたMOBの中の一体が後ろ向きに倒れる。そして、光の粒子を撒き散らしながら消えていく。再度ログインしてきていたケイの投げた投擲武器が、アイスラインでダメージを受けていたMOBのHPを削りきったのだ。
「ここからは俺達のターンだ!!」
「烏丸。カッコよく決めてるつもりだろうけど、何で遅くなったか理由を今すぐ尋ねたい!今すぐ尋ねさせて」
「そんな些細なことより、この場を乗り切ることが先決だろうが!」
くそう、向こうの方が正論だからタチ悪い。さらに向こうの方が強いから、尚更タチ悪い。こうなったら早くこのMOBを倒してケイを質問攻めしてやる!!
「・・・戦闘中に楽しそう」
「うぇぇ!?ま、マドイさん!?び、ビックリさせないでよ」
いつの間にか、僕の後ろにマドイさんが立っていた。あれ?今の僕のリアクションは、マドイさんに失礼だったんじゃないだろうか。無表情で分かりにくいけど、きっと傷ついているはずだ。ど、どどど、どうしよう。
おろおろしている僕をしり目に、溜まっているMOBの群れへと、半ば機械的に矢を放ち、顔や弱点と思しき場所を射抜いていく。
「ヤマト!遊んでないでお前も魔法で援護してくれ!」
「ごめん。MPがもうほとんどないんだ」
「ヤマト君、ちょっとこっち向いてくれる?」
「何?マドイさ!?」
僕の口の中に何かが押し込まれた。口に何が突っ込まれたのかを確認するために、視線を下に向けると、白い何かが僕の口に入っており、舌でそれに触れてみると、丸い、何かの果実のようであった。MPのバーを見てみると、急速に回復していっている。そうか、これは【魔力の果実】かな?それなりの値段がするはずだったけど、お金はやっぱり・・・マドイさんにはしっかりと料金を払っておこう。
って、え?今僕の口の中にあったのって・・・ふぁ!?
・・・落ち着くんだ。落ち着け僕。今は戦闘中なんだ。これが終わってからお礼なり、今の行動の真意を問えばいいのさ。それにしても回復したMPの量は僕の最大値の半分ほどである。やっぱりMP極振りに近いことをするとこうなるのかな?まあ、それでも回復したことに代わりはない。
僕は魔法を敵MOBにガンガンと撃ちこんでいく。これだったらそこまで時間がかからずに殲滅できそうだ。
結局それからMOBの湧きもなく、MOBを全滅させることに成功する。
ようやく休憩することができた。僕はその場に座り込み、大きく息を吐く。意外と疲れたな。こう疲れを感じると、これがVRであることを忘れそうになってしまう。
「さて、一息ついたところで、僕はケ・・・烏丸に聞きたいことがあるんだ」
「ん?なんだ?好きなだけ聞け。ただしめんどくさいと判断したら答えないからな」
「いや、ちゃんと答えようよ。それじゃあ、何で再ログインにあんなに時間かかったの?」
「・・・ああ、本当にすまないとは思う。ただな、飯の準備から片付け。風呂を入れて入浴。それが終わったら洗濯。おまけに親からの連絡の対応のおまけ付だ」
「あ、そうなんだ。じゃあいいかな」
ケイからの話しはここまでにして、早くこのピッケルを使い切らなければ、日付を跨いでしまいそうだ。
「よし、次の採掘ポイントを探そうか」
「おいこら待ちやがれ」
「どうしたのさケイ。急に声を荒げてさ」
「なんでマドイさんに同じ質問をしねえんだよ」
急にケイが声を荒げるけど、答えの決まりきっていることをなんで言わなきゃいけないのだろう。
「マドイさんはホラ、女の子だから色々とすることがあるんじゃないのかな?姉さんなんてよく風呂上がりに――」
姉さんの槍が僕の首に突き付けられる。
「女の子のそういう面は言っちゃだめよ?わかったら首を縦に二回。分からなかったら今すぐここでロボットダンスをしなさい」
僕にロボットダンスの心得なんてあるわけがない。黙って頷くことしかできなかった。恐怖政治に負けてしまった人の気持ちがよくわかる。
僕が頷くと姉さんは疑わしそうな目を向けながらも、槍を引っ込めてくれた。
「マドイさん何をしていたか答えてくれ。頼む‼」
「別に構わない。私から言おうと思ってた」
そう言うと、指で座るように促してくる。
・・・さっきあの指が・・・落ち着け僕。今は話を聞くんだ。さっき同じことを考えた気がするけど、その辺は気にしないでおこう。
「実は疑問を解消するために調べ物をしてた」
「疑問?何かあったの?」
「ヤマト君とユイシロさんがラッシュを受けたのは、私たちがログアウトしてから、どれぐらい時間が経過してから?」
「確か1時間半ぐらいだよね?」
「ええ、そうね。確かにそれぐらいの時間が経ってたわね」
マドイさんは僕たちの返答を聞くと
「こっちのラッシュも同じくらい時間が経ってから。幸いすぐに来てくれたから助かった」
「ってことはアレか。誰かがログアウトして1時間半経つと、ラッシュが始まるって事か?」
マドイさんはうなずくと、指を動かして僕たちの前に一つの表示枠を表示させる。きっと公式サイトからコピーしてきたものだろう。そこに書かれていた情報をまとめると、前回のリセット。つまり今回のゲームに移行してから、ダンジョンやフィールド、防衛戦中など、町、村以外のところでログアウトすると、1時間半の間は近くでMOBが発生しなくなるけど、1時間半経過すると、残っている人数に合わせた量のラッシュが発生する。そして、このラッシュで発生したMOBはほとんどお金を落とさない上、経験値も大分少なく設定されている。
これはフィールドの独占を防ぐためだとか。確かに交代でログアウトをしてずっと狩場を抑えているギルドもあるみたいだし。他のプレイヤーを追い出すために結構アレなこともしているみたいだし、流石に対策をしたみたいだ。
「これがあのラッシュの正体ってことね」
「うん、確かに経験値とかがほとんど入ってないや。アイテムは・・・ほぼ0だね」
「ってことはあれか?これで効率よくアイテム回収とかレベルアップしようとしても、損害が出るだけで得にはならないってことなのか?」
「そう」
運営も色々考えてるんだな。ドロップしてたアイテムも、二束三文にしかならない素材アイテムに、劣化回復薬などの、すぐになくなるか使い物にならないレベルの消耗品。うん僕たち大損害。減ってしまった装備の耐久値の回復させるために必要なお金とあわせると、ギリギリになる計算だ。
普通に冒険していれば装備の耐久値を回復させるのは2日~4日に一度がベストなのである。
「じゃあ他の採掘ポイント探しに行こうか」
「それもそうね」
「はぁ、どの道もう少しでピッケルの耐久値がなくなるんだ。行くしかねえな」
僕らは重くなった腰を持ち上げ、廃坑の奥へと潜っていく。このアルドミド廃坑は基本的に1本道である。基本的にと表したのは、時折左右に逸れる道があるからだ。だが、そこも分岐はなく、すぐに奥へと突き当たる。そしてその突き当りには採掘ポイントがある。
ようするに、横道に逸れれば採掘ポイントを発見できるのだ。だけど、なぜかその横道が発見できない。
「ねえマドイさん。この廃坑ってボスMOBいたっけ」
「いる」
「・・・このまま潜っていったらボスMOBのところに行っちゃうんじゃ・・・」
「・・・気にしたら負けじゃないか?」
「何が出てきても叩き潰せばいいだけよ」
「姉さん、聖騎士の考えからじゃないよ」
「その辺も気にしたら負けよ」
気にするな、考えたら負けと言われたので、考えないようにしながらさらに深くに潜っていく。気を付けなければ気が付かない程度に緩やかな勾配の坂道を下りながら、時折襲ってくるMOBを撃退する。そのMOBの方も徐々に強くなってきた感がある。
僕は先行して歩いている姉さんとケイを視界に収めながら、隣を歩くマドイさんに、先ほどから僕の思考の大半を持って行っているあの行動の真意を問いただそうと思い立った。
「マドイさん。さっきのアレはいったい何だったの?」
「アレ?」
「僕の口に魔力の果実を突っ込んだとき。一緒に指まで入れてきてたけど・・・」
「時間短縮」
「でも他にも色々やり方あったんじゃ・・・いや、あの行為が嫌だったんじゃなくて、むしろ嬉しかったぐらいだけど」
僕は後半誤魔化すようにボソボソと小さな声にしてしまう。そして、声量をもとに戻して続ける。
「ほら、僕に無理やり上を向かせて、その状態で開いた口に突っ込むとか」
「相手から視線を外すのは危険」
「えっと、じゃあ手渡すとか」
「時間がかかりすぎる」
「え?あ、うん?あれ?」
「・・・嫌だった?」
僕が他の方法を考えていると、マドイさんは少しうつむき加減でそんなことを聞いてくる。さっきは小声で誤魔化しちゃったけど、今度こそはちゃんと言おう。
「嫌じゃないよ。むしろ、うん。察してください。それよりも、マドイさんは嫌じゃなかったの?」
僕が返すと。マドイさんは視線を僕から外して、廃坑の壁を見ながら、しょうがない。あれしかなかった。と返してきた。ああ、どうしようもなかったからだったのか。うん、ちょっと残念だ。
返答してきたマドイさんは、僕の方を絶対見ようとしないでそのまま先に進む。先行していた二人がこちらをいつの間にか振り返っていて、ニヤニヤをマドイさんと僕を見てくる。
「二人ともどうしたの?」
「いやいや、どうぞお二人さん、俺たちのことは気にしないで続けちゃってください」
「ああ、ようやく母さんのアレから、ヤマトと烏丸君が解放されるかと思うと、気持ちがスッキリしてくるわね」
マドイさんが二人を追いかけ始めるが、二人とも笑いながら奥へと走っていく。うん、平和だなあ。
「ヤマト、この物々しい雰囲気の部屋ってさ・・・」
「十中八九すぐ近くにボスがいると思うよ」
「だよなあ、正直なんで部屋がこうなってるかの理由が聞きたい」
今まで人が5人ほど並んだら通れなくなってしまいそうなほどの幅だったのが、急に小学校の体育館2つ分の大きな開けた空間に出たのだ、辺りを見回してみると、ところどころに小さなクレーターができており、この広い空間で何があったのか考えさせるような状態となっている。そして、爆発の余波なのだろう。落盤が起こっており、その周辺に骨のような物が転がっている。このゲームはお子様にも遊んでもらうことができるようにしているからか、骨の方はデフォルメされている。
「ボスMOBが爆発系の攻撃をしてくる?」
「または純粋に火力が高くて攻撃のたびに地面が陥没しちゃうか」
「後はボスMOBが超重量級の可能性」
「うわ、考えるだけでもいやになってきた気がするのは僕だけなのかな?」
「奇遇だな。俺もだ」
僕たちは神妙な顔でお互いの顔を見合すと、各自で回復薬や、MP回復薬、武器の耐久値を若干回復させる簡易砥石を使い始める。これでボス対策はバッチリである。
僕もHP、MP共にMAXまで回復したので、お互いが回復したことを確認して、奥に進む。
すると、広間になっている部屋に続く道の、今僕らがいるとは違う方。つまり、この先に続く道の方から奇妙な音が聞こえてくる。
「来たかな?」
「来る」
「じゃあ試しにヤマト頼んだぞ」
「了解」
僕は、奇妙な音が聞こえてくる通路に向けて、ウォーターウォールを発動。道をふさぐ。
だけど、その張った壁を、いともたやすく破り、水を撒き散らかしながら、ボスMOBが姿を現した。
鋭い爪に、手の甲などを守っているのだろう。鉄製と思しき小手を装着している。少し長めの胴体に胸当てを装備しており、その特徴的な長めの突き出た鼻。そしてヒゲ!!
ここのボスMOBは、巨大な、3メートルは体長がありそうなモグラであった。名前は・・・【鉄鉱土竜】である。なんとも開発陣の安直過ぎるネーミングセンスが伺える。大丈夫かなこのゲーム。
茶番
ヤマト(以後ヤ)「ねえ、作者さん。僕の扱いが酷すぎる気がするんだけど」
現実↓逃避(以後↓)「なに、そんなことないさ。だから今回はちょっとしたサプライズを用意したじゃないか」
ヤ「だからってね、何で僕の黒歴史とかをばらそうとするのさ!納得がいかないよ」
↓「実はここだけの話な、ダグロが出てこないだろ?だから弄る相手がいないんだわw」
ヤ「だからって僕を使わないでよ!!」
↓「HA~HAッHAッHAッHAッHA☆」
ヤ「笑い事じゃない上に、その笑いから気持ち悪いよ!!」
↓「自覚してるんだから、そのつらい現実を改めてぶつけるんじゃない!!よし、今度どこかで更なる黒歴史をばらしてくれようぞ!!」
ヤ「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
はい、つまらない茶番でした。次回は戦闘パートです・・・難産になる予感しかしないですねwww
今回もお楽しみいただいていたならば幸いです。今後ともよろしくです。




