防衛三十四回目
結局僕たちはお互いの手元に残ったお金を集めてもランタンを買うことは出来なかった。そのためたいまつを一本購入し、燃え続ける時間を延長させるためのアイテム、【オイル】も一緒に購入したところで手持ちがなくなってしまった。これだけで本当にピッケル一本分消費する時間もぐり続けられるのだろうか?疑問が止まらない。もうなるようになってくれ!!
「じゃあ、とりあえず廃坑に行こうか。姉さんと烏丸はそのときに戦闘して感覚を掴むということで」
「おいおい、ヤマトよ、俺を誰だと思っていやがる。VRの格ゲーや、PK上等のVRMMOをやってきた男だぜ?戦闘は任せろ」
「私も合流する前に、少し素手で狩りで出てたから問題ないわね」
「・・・」
なんでしょうか。この人たちが戦闘民族だったなんて僕は知らなかったですよ?
実際に道中危なげなくMOBを殲滅していく二人を見て、僕の初日の姿と重ね合わせてみる。うん、ものすごい勢いで落ち込んでいくね。
二人の戦闘の仕方を見る限り、ケイは右手で短刀を使って攻撃を重ね、左手には投擲武器を握っている。そして、時折投擲武器ではなく小太刀を使い、不規則な二刀流でMOBを蹴散らしていく。
そんなアサシンに近いスタイルをとっているケイだが、なぜか黄色などの明るい色をした防具に、赤い、派手な外套を着ている。まあ、プレイの仕方は人それぞれだしね、問題は一切ないよね。
姉さんの方は槍を使い、距離を測りながらの刺突をし、ここぞという時に一気に踏み込み、豪快にMOBを薙ぎ払う。
そんな明らかにパワータイプの戦い方をしている姉さんだが、白く染色された軽鎧を装備しており、その鎧のところどころに、金色の線が引かれたりしている。姉さん曰く、聖騎士をイメージしたそうな・・・戦い方が似合っていないと思っているのは僕だけじゃないはずだ。
そして、正直僕とマドイさんの出番がまるでない。いや、マドイさんも時折矢を放ち、援護をしている。僕の魔法はマドイさんの矢の、点の攻撃と比べるとどうしても範囲が大きくなってしまう。そのため、仲間を巻き込んでしまうと攻撃することすら許されなかった。僕は完全にいらない子です。
廃坑の前についたけど、ここにたどり着くまでの間に大分MOBが強くなってきている気がする。でも、僕のレベルは、ここの攻略推奨レベルを上回っているから、きっと大丈夫だろう。ここに至るまで暇だったから、新しい魔法も作ってたし。
今回の魔法は中々いい感じに出来た気がする。
「ハッハッハ、他のVRゲームで慣らした俺の敵ではなぁい!!」
「・・・テンション高いね」
「逆にヤマトは何でそんなにテンションが低いんだ?もっとガンガンいこうぜ!」
「そりゃぁ、僕は一回しか戦闘に参加できてないもんね!!」
「それはヤマトの魔法がダメージを与えないにしても、パーティーを巻き込むからでしょ。もっと無難なものを作ればよかったじゃない」
「ああ、確かにそうだよな。防衛戦の時に他の人巻き込まなかったのかよ」
「巻き込んだ気もするし、巻き込まなかった気もするよ。でも、僕はこのスタイルを崩す気はないよ。なんせ、一撃での広域殲滅は男のロマンだ!!」
「俺には理解できないな」
「あ、これ分からないの私が女だからじゃないのね」
「・・・ごめん」
理解されませんでした。あれ?こう、一撃でMOBがドンドン吹き飛んでいって、それを見ながら、見ろよMOBがまるで紙ふぶきのようではないか!って言いたくならないのかな?
「まあ、それは置いといて。そういえばヤマトが炎系の魔法を使えるようにしておけばよかったんじゃねえの?」
「ああ、それは無理な相談だよ。なんせ魔法を使うにはその属性の触媒が必要になるんだよ。それに、この杖は炎系の魔法の効果が下がるんだ」
「実際に助かったことある」
「じゃあ、いいか。とりあえず中に入ってからたいまつを使うか。片手で戦えるヤマトが持っててくれよ」
「分かったよ。姉さんは何か・・・」
姉さんの方を見ると、小声で何かを言っているが、僕の精神安定上、聞かない方がいいと判断。即座に廃坑内へと向かうが、やっぱり近くにいたので、耳に声が入ってくる。
「ああ、やっぱりケイ君カッコいい。カッコいいカッコいい。もう結婚したい既成事実いつ作ろう――――」
あーあー、僕は何も聞いてません聞く気もありません。姉さんが病んでいるなんて知~り~ま~せ~ん~。
廃坑の中に入ると、すぐに真っ暗になってしまった。たいまつを点けてはみたが、やはりたいまつ一本だとどこか頼りなく思える。
MOBも先ほどまでとはちがい、状態異常系の攻撃をしてきたり、ステータスのどれかが極端に突出していたりと、一癖も二癖もあるMOBとなっている。中でも一番辛いのは、採掘しているときだ。一人は採掘。一人はたいまつを落とさないように激しい動きをできない。それなのに音に反応するMOBが大量に襲い掛かってくるのだ。
なので、この中では一番レベルが低いであろう二人がMOBを食い止めなければならない。まあ、その二人が優秀すぎて、どの道僕に出来ることは少ないんだけどね。挟撃を受けた時に相手を押さえるとか以外はただの明かり係だもんよ。
そして追い討ちをかけるように冒頭の部分である。残り耐久値がまだ結構残ってるって・・・。
「それで、耐久値の減少に見合うように、ずいぶん不覚まで潜った気がするけど、そろそろ時間的に晩御飯の時間じゃないかしら。このままだとこんなダンジョンの奥地でログアウト。または 外から強制的に機器を外されることになると思うけど」
「ああ、俺はまだ時間あるから、ローテーション組みますか」
「じゃあ、最初は私とヤマトが落ちるわね。晩御飯とお風呂が終わり次第すぐに戻るわね。ほら、ヤマト、早くログアウトしなさい。早く終わらせるべきことを終わらせて戻るわよ!」
「え?分かったよ」
珍しく父さんが時間通りに帰ってきていた。本当に珍しい話だ。おかげで予定していたより早く再度ログインが出来た。ログインすると、マドイさんとケイがMOBとの戦闘をしていた。パーティーの名前が表示してある横に、それぞれのHPバーが表示されているのだが、どちらもHPバーが半分を切っている。その代わりに、僕たちのアバターはダメージを一切受けていないみたいだ。
「援護するよ!!」
「意外と早かったな!こっちは今見ての通りだ正直助かる!」
「・・・」
あれ?姉さんが無言で一気に敵に詰め寄ったぞ?
「何してくれとんじゃこのMOB共がぁぁぁぁぁぁ!!」
姉さんが女性にあるまじき雄叫びを上げながら敵のMOBを槍で突き、その状態で振り回して周囲にいた3体のMOBをまとめて廃坑の壁に叩きつける。これで槍を突き刺した方含めて2体が消えていく。
壁に叩きつけられたMOBが反撃しようとするが、姉さんの蹴りが飛び、反撃の機会を潰され、さらなる追撃であっという間に消滅していく。
結局残りのMOBは姉さんが全滅させてしまった。僕たちはその様子を観賞していただけだ。姉さん。聖騎士はそんな戦い方絶対しないよ。むしろ喧嘩。泥臭い戦い方の方が近かったよ。狂戦士の方が表現的にはピッタリだったよ。まあ、本人に言ったらどうなるか分からないから絶対に言わないんだけどね。
「さて、こっちは片付いたみたいだし、マドイさん達もご飯とか食べてきたら?」
「そうする」
「烏丸君、私の体を守ってくれてありがとうね」
「ちょ、抱きつかないでくださいよ、ログアウトボタンに触れないじゃないですか」
向こうも何かしているみたいだけど、マドイさんはそちらを見ずに、ログアウトしていく。ふっ、と目から光がなくなり倒れこむ。
向こうでもケイが地面に倒れこんだ。僕はケイの体が姉さんの手によって傷物にならないようにするのが今回の任務だね。分かったよ。
・・・実際待つのって暇なんだね。マドイさんとケイがログアウトしてから、一度もMOBの襲撃を受けることもなく、時折ゆっくりと獲物を狙ったような目で、倒れているケイのところに向かった姉さんを押さえ込むぐらいである。
あまりに暇なので、あまり離れない範囲で新しい発見がないか探してみても、すでに二人が探しているわけで、目新しいものも発見できなかった。っと、ここでようやくMOBのお出ましだ。これで暇から開放されるんだ・・・。
ああ、あんな、暇から開放されると思っていた頃が懐かしい。今、僕と姉さんは、MOBからの猛攻を受けていた。倒しても倒しても、次々とMOBが湧き、攻めてくる。とりあえず挟撃されることだけは避けてるけど、僕のMPが半分を切ってしまう。そろそろ戻ってきてくれなきゃヤバイね。
うーん。でも姉さんの敵を撃破するスピードが一向に落ちないな。ボクがしていることといったら、敵が押し寄せてくる道の一つを魔法でふさいで、通り抜けてきそうになったら蹴って水の壁の向こう側に押し戻してるだけなので、反対側の、姉さんの援護は一切出来ていないのに、HPバーの消費があまりない。
僕側の攻勢が一旦落ち着いたときに見た感じだと、槍でMOBを突き、距離を測りながら戦い、敵が複数接近してきたら槍を振るって弾き飛ばす。
槍を潜り抜けて接近してきたMOBに対しては、槍をそのまま1回転。石突で打ち上げてから蹴りを放ち、再び距離を開ける。敵MOBに近寄らせないということを徹底的に行っている。それでいて、急に思いついたようにMOB集団に急接近し、縦横無尽に槍を振り回して、ダメージを与えてから離脱してくる。
仮にこれの相手がプレイヤーだったら、僕はそのプレイヤーにご愁傷様と言ったことだろう。
「ねえ、これっていつ終わるの?」
「さあ、でもまだ30分戦ってないよ」
「もういい加減しんどいのよね」
「ぼやいてもしょうがないよ。このまま全滅するわけにも行かないしね。それにこのまま全滅ということは・・・」
「軽野君の安全は私が守る!!」
うん。ケイがいる時の姉さんは扱いやすいね。後々めんどくさくなるけど。
姉さんが向こうで無双ゲーしている間、僕は壁を突破されないように蹴ったり押したりしながら抑えてきたわけだけど、もう自分で張ってる壁の方を見たくない。
だって、今僕が張っている水の壁は、滝みたいに上から下に大量の水が流れている仕様なんだけど、水の透明度が意外と高いんだよ。それでね、その水の向こう側には超大量のMOBが溜まってるんだ。押しても押しても意味がないレベル。ぶっちゃけ水の中で窒息者が出ているぐらいである。
水の中から光の粒子が飛び散っていくのは、なんとも幻想的な光景だ。
・・・現実逃避はここまでにして、対策を考えなきゃいけない。
とりあえず壁から距離を取ることにしよう。これだといつ突破されるか分かったもんじゃないからね。
「姉さん!そっちは大丈夫?」
「ヤマト!アンタは私より先に自分の心配をしなさい!その壁の向こうのMOBはどうする気よ」
「姉さんヘルプ!」
「自分でやりなさい」
うむ、キッパリと断られてしまった。それでも自分の敵はしっかりと処理し続けているのだから、僕よりプレイヤースキルが高いことがよく分かる。
僕は下がった状態で、今にも破られそうな水の壁を解除し、素早く次の魔法を唱える。
「『アイスライン』!」
ふふふ、この魔法は新しく作った魔法で、杖を振った後をなぞるように、およそ30センチ前後の長さの氷の棘が地面から生えてくる魔法だ。生えてきた氷の棘は、一定時間消えずにその場に残るため、足止めなんかにピッタリな魔法である。これと『ウォーターウォール』を組み合わせれば・・・そういえばケイに、名前をつけるセンスがまるでないと言われたけど、ちょっと語呂が悪いだけでいいじゃんかウォーターウォール。カッコいいじゃないか。
っと、ウォーターウォールとアイスラインを合わせると、きっと敵MOBをサクサク倒せるはずなんだ。なんせ氷の棘に、上から下にそれなりの勢いで流れる水の壁だもんね。大ダメージが入るはずだよ。
しかし、予期せぬことが起こってしまった。本来なら一定時間。それなりの長さで最低でも1分はその場に残り続けるはずの氷の棘が、僅か20秒で砕けてしまったのだ。
そんな予想外のことが起きたけど、敵が密集していたのもあり、MOBを大体1/4ほど削った。後はこれを複数回繰り返すだけで全滅させることができる。
少し余裕が出来たので、姉さんの方を見ると、敵の圧力が増したのか、少し押し込まれてしまっている。HPバーを確認する限りだとダメージはほとんど受けていないように思えるけど、これはあまりよろしくない状況だ。
このままだと、姉さんが自由に動ける範囲が無くなり、ログアウト中のケイとマドイさん含めて全滅してしまう。
そして、僕も先ほどのような攻撃の仕方で敵を倒すことができなくなってしまう。
姉さんもそれを理解しているのか、先ほどまでの狂戦士じみた動きではなく、その場にどっしりと構えて敵と対峙し、一歩も引かない構えだ。
僕も敵を絶対にこれ以上進ませないように、壁を抜けてこようとしてくるMOBに、蹴りを加えて押し戻す。
さあ、後はマドイさんとケイが戻ってくるまで耐えるだけだ。
見返してみると、一話の中に矛盾点があるお話があったりするように思えましたが、まあ、おいおい直すとしましょう。
それと、今回はヤマト君が他の人とは違う感性を持っていることが露呈しました。これでこそ主人公もどき(勝手な思い込み)
それと、ウェイルズさんの番は、もう少し先です。多分3話ぐらい先になってしまいそうです(これは予定です。変わることがあります)
それではまた次回。ノシ
ヤマト「僕の扱いが酷い気がするぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
評価。感想なんて言ってくれたら嬉しいです。




