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最強は自我を持つNPC?  作者: 現実↓逃避
第2章 種族間の問題と移動要塞
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防衛三十二回目

 ケイはリアルだと天パに悩む友人だったはずだ。周囲からの認識は、ケイと言ったら見事な天パ。見事な天パと言えばケイ。といった感じですぐに連想できるレベルだったはずだ。

 それなのに嘘だろ?ケイの天パがアバターだと縮毛矯正(ストレートパーマ)を掛けられている!?

 こんなの、こんなの。


「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 僕の短い人生の中でトップ5に入るぐらいの驚きである。

 隣りで事の成り行きを見守っていたマドイさんも目を丸くしている。マドイさんのアバターは表情が出にくいように設定されているはずなのに、思いっきり目を丸くしたということは、それだけ衝撃が大きかったことを意味している。

 姉さんは俯いてプルプル震えている。やっぱりこっちも衝撃が大きかったのかな?


「なあ、お前らは何で俺の頭を見てそんなに驚いてんだよ。アレか?まさかとは思うが、俺がアバターで天パじゃないから驚いてるとかだったら、どうなるか分かるよな?」

 ケイはニコニコ笑っている。だが、僕はその裏ではめちゃめちゃ怒り狂っていることを知っている。なんせ、僕が一度リアルでケイに頭のことを言ったら、今と同じ現象が起きたからね。


「まさか、僕が同じ過ちを犯すわけないじゃないか。それに僕はそのアバターもありだとは思うよ?」

「へへ、このアバター作るのに時間かけたからなぁ」


 ケイは照れたように鼻を軽く掻く。照れてるとこ悪いけど、内心僕は違和感がありすぎて困っている。あれだね、大半の人がアバターの顔をそこまで弄らない理由を垣間見た気がしましたはい。

 そういえば、姉さんがさっきからずっと俯いているけど、どこか具合でも悪いのかな?


 マドイさんの方を盗み見ると、心配そうな空気を醸し出しながら、無表情で姉さんの方を見ている。うん表情が出ないってアレだね。多少大変なこととかありそうだよね。

 視線を姉さんに戻すと、その場から姉さんが消えていた。あれ?どこ行った?


「軽野くぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「へ?うわぁ!」


 ケイの情けない悲鳴と倒れこむ音が町長宅に響いた。いやな予感と共にそちらを向くと、姉さんがケイを押し倒していた。

 そうだよ、姉さんが居ることをケイに伝え忘れてた。さっきの通信でもっと綿密に作戦を練っておけばこうなることはなかったのに。これは未然に防げたはずだ!


「ヤマト、何でここに結城さんがいるんだ?このゲームプレイしてたっけ?」

「今日からプレイを始めたのよ」

 うん?今ケイは僕に尋ねたはずなのに姉さんが当たり前のように返答したぞ?


「ああ、そうなんですか奇遇ですね。俺も今日からなんですよ」

「実は軽野君に大事な話があります」

「大事な話?そんなことよりここではリアルネームは厳禁ですよ。ゲーム内では烏丸です」

「実は烏丸君に大事なお話があるの」

「姉さん。それは後でやって」


 いつの間にか響き渡っていた町長の悲鳴が止んでいるため、そろそろ出てくるはずだ。

 町長の連れて行かれた部屋の扉が静かにゆっくりと開く。中からは町長の奥さんが先に出てきて、黙々と事務作業に戻っていく。あれ?町長は?


「町長どうしたんだろうね」

「町長?今出てきたのじゃないのか?」

「いや、もっと年食ってる男だけど・・・」

「そんなことより烏丸君今すぐお話を「姉さん、今は町長の心配しようよ」あんなオッサンの心配するぐらいだったら烏丸君との・・・危ない危ない。こんなところでばれるわけにはいかない」

「・・・」


 うん?さっきからマドイさんが一言もしゃべってない。


「あの、マドイさん?」

「・・・」

 あれ?僕と目線をあわせようともしてくれませんよ?無表情だけど拗ねているのがなんとなくだが分かってしまう。うんうん。僕も大分マドイさんのことが分かるようになって来た気がするよ。


「マドイさん。町長遅いですね」

「・・・」

 マドイさんが返事をしてくれません。誰か助けて。いや、でも今チラリと僕を見たぞ?もしかして・・・。


「寂しかった?」

「!?」

 思わず声に出してしまっていたみたいだ。マドイさんは僕に背を向ける形になった。その行動のおかげで僕の発言が正しかったことを悟る。そして、いつの間にか僕とマドイさんのやり取り?をニヤニヤしながら眺める姉さんと、にこやかな笑みを浮かべているが、僕に向かって中指を立てているケイの姿。なんでケイにそんなことをやられなきゃいけないんだ!!


 どうすればいいか分からなくなった時って、ついつい辺りをキョロキョロ見ちゃうよね。思わず辺りを見回す僕の視界に、書類を落とした町長の奥さんが、それを拾い上げる過程で床に手を着き、なぜかその体勢で目を瞑っている。そのまま見ていると、おもむろに床に耳をつける。その体勢でおよそ10秒間固まると立ち上がり、僕達の方へと歩いてくる。な、何?


「スイマセン、ちょっとそこをどいてもらえないでしょうか?」

「あ、ひゃい」

 変な声が出てしまった。僕はそれをごまかすように平静を装って


「た、確かに部屋のど真ん中にいたら邪魔だろうし端っこ行こうか」

「分かったわ。・・・烏丸君端っこでイチャラブってどこか危ない響きがしない?」

「・・・そ、そうですね。そういった話は、もっと中がよくってそれを受け入れてくれる人と話した方がいいかと」

「・・・」


 うん。姉さんが頭の悪いことを言ったこと以外何が起こるわけでもなく、皆で壁際に移動した。マドイさんは一応僕の言葉にうなずく形で反応してくれた。ちょっと嬉しかったです。


 先ほど僕達が立っていた場所には奥さんが何をするわけでもなく、ただその場に立っている。何がしたいんだろうか。僕がそう疑問に思っていると、すぐにその疑問が解決した。


「冒険者諸君ワシが足元から光臨じゃ!ビックリしたかねビュルゥ!!」


 突如床から町長がバンザイの体勢で飛び出してきた。なぜバンザイだったかというと、その手の上には正方形の木の板が乗っている。どうやら元からそこには隠し通路があり、それを隠すためのものが、今町長の手の上に乗っている板なのだろう。もちろん穴から胴体を出しているので胸の辺りから上しか出ていない。

 そして最後の言葉がおかしくなったのは、奥さんが町長の手にした板を上から押さえ込み、ちょうどいい高さになったところで、足を高く掲げ、一気に振り下ろしたため、町長が穴に無理やり押し戻された時に発されたものだ。バンッと大きな音がして町長の手にしていた板が綺麗にハメ戻され、奥さんがテキパキとその上に物を置いていく。


 僕達や他のプレイヤー達。それと事務をしていたNPCはそれを呆然と見る。

 静かになった空間に、したからドンドンと叩く音と、町長の、出してくれ~、という声。それと外の賑わいの音が虚しく響きわたる。何これ。クエスト受けに来ただけなのに、こんなものを見せられているのだろう。

 町長とまともな会話が出来るようになったのはそれからもう少ししてからだった。



「それで、お主等は何か困り事がないかをワシに聞きに来たということでいいんじゃな?」

 落ち着いてから町長はそう切り出してきた。ちなみに後ろにはものすごい表情をした奥さんが仁王立ちをしていて、町長だけでなく僕たちまで威圧してくる。


「そう」

「ちょうど今この町は復興に向けて活動してはいるんじゃがの、どうしても物資の方が不足しているんじゃよ。幸い木の方は近くに良質で巨大なものがあるから困らないんじゃが、問題は鉄などの鉱石類なんじゃよ。なんせ近くに鉱山はないからのう。いや、正確にはあったかのう」


 不自然なところで言葉を切ってこちらをチラチラ見てくる。明らかにこちらから聞いて欲しそうな顔をしているので、ここで何かを聞かなきゃ話しは進まないのだろう。


「はぁ、何か問題でも生じたんですか?」

「なんでため息交じりなのかは後で追求するとして、過去この町からある程度離れた位置に一つの鉱山があったんじゃ。そこの鉱山からは良質な鉱石が大量に取れて、まだまだ貯蔵量も膨大だったんじゃ。しかしのう、鉱山の中に大量のモンスターが現れるようになって採掘どころではなくなってしまったんじゃ。おかげで何人もの犠牲者が出て、仕方がないのでその鉱山は破棄。それ以来この町で使う鉱物は、時折初級者冒険者に採掘を依頼するのと、この町の良質な木と物々交換でまかなってきたんじゃよ」

「じゃあ僕達には鉱石を採ってきてほしいということですか?」


 町長はうなずくと、話が早くてのう、と言う。

 僕達は顔を突き合わせて受けるかどうかの相談をする。そんな場所でもマドイさんは僕から視線を外し、姉さんはケイから視線を外さない。実質僕とケイの二人での相談だ。


「どうするのさ」

「そりゃあ、受けるだろう。ほら、初級者用って言ってたから、多分俺とか結城さんに向けてのクエストだと思うんだ」

「なるほど。じゃあマドイさんどうする?」

「・・・好きにすればいい」

「じゃあパーティー組もうか。ほら、姉さんも」


 僕達はパーティーを組むと、町長にそのクエストを受ける旨を伝える。すると。僕の視界の端のテキストに『採掘クエスト【物資不足】を受理しました』と表示される。多分これはパーティーメンバー全員に告知されることなのだろう。パーティーリーダーは僕じゃないのに表示されてるからね。


「ではこれを受け取ってもらえぬかのう」

 そういった町長の手には、ピッケルと書類が握られている。ピッケルの方は鋼鉄で出来ているとても頑丈なもので、大抵の鉱物は採掘できそうだ。

 パサッっと紙が床に落ちる音がして、そちらを見ると、マドイさんの手から書類が落ちた音だった。訝しげに思ってマドイさんの顔を見ると、なぜか泣きそうな表情になっている。感情の出にくいマドイさんが泣きそうになってるのって尋常じゃないぞ!?


 僕はマドイさんの落とした書類を拾って中に目を通すそこにはとんでもないことが書かれていた。



『採掘クエスト【物資不足】の概要』

 ファルフラムの町から森を抜け、しばらく行った所にある【アルドミド廃坑】から鉱物を採掘。

 なお、このクエストは町の管理者やその代行人から渡されたピッケルの耐久値がなくなるまで鉱石を掘り続けてもらうものとする。



 急に震え始めた手の中に納まっているピッケルを見る。そこには変わらず鋼鉄製の頑丈そうなピッケルが鎮座している。震えの収まらない手でピッケルの情報を表示すると、予想通りの耐久値の高さである。

 僕はその場に崩れ落ち、勝手に涙がこぼれてきた。


 その後ケイやマドイさん達に攻められたのは言うまでもない。やっぱりあれだね。町長はいいクエストを回してくれることあるけど、油断するとこんなとんでもないクエスト回してくるね。もうおかしな行動をした後の町長は信用しないようにしよう。僕は心に強くそれを刻み込んだ。

ヤマト君がいろいろやらかした回となりました。

うん、相変らずキャラの方々が勝手に暴走し始めますね。始めは床下からの町長ドッキリはなかったはずなのに。


 それでも楽しんでいただければ幸いです。


 さて、ここで次回はヤマト君の懐が寂しくなった原因でも・・・。

 え?想像ついてるって?まさか、そんな予想通りの展開になんてするわけないじゃないですか(震え声)

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