防衛三十一回目
「なんで姉の手で僕は死ぬ思いした挙句、それを笑われなきゃいけないんだよ!!」
「ごめんごめん、でもほら、対岸の火事だったから別にいいかなって」
「よくないよ!!下手したら僕はもう水に入ろうとするたびに、今のがトラウマとして蘇るかもしれないんだよ!!彼女が出来たときに海やプールにいけなくなるじゃないか!!」
「あんたに彼女は死んでもできない。よって一生童貞。これは姉ちゃんが保障してあげるよ」
「そんな保障いらないよ!!」
なんて姉さんだ、僕にトラウマを与えただけじゃなく、僕は一生童貞とも言ったな。見てろ!マドイさんと付き合って姉さんを見返してやる!トラウマだって今まで植えつけられたのはちゃんと克服してきたんだから今回も大丈夫…あれ?姉さんと母さんにはトラウマをよく植え付けられてる気がするなぁ。
「それにホラ、あんた彼女出来てもずっと家でゲーム三昧でしょ」
「否定できない!」
「は…ヤマト、そこはちゃんと否定しなさいよ」
クソ、こうやって僕のトラウマ製造機として生きるのはそんなに楽しいのか姉さん!」
「うん、楽しいわね」
「とうとう僕は思考回路まで姉さんに支配されてしまうんだね」
「いや、思いっきり口に出してたわよ」
「…へ?」
僕がうっかり思ったことを口にしたとでも言うのかな?そんなことあるわけないじゃないか
「それで?噴水の水なんて延々と見てどうしたのよ。それのためだけにログインしたんじゃないんでしょ?」
「あ、待ち合わせだよ。僕はこれから合流してお金を稼ぎに行く予定なんだ。だから姉さんも別で気の合う人見つけてパーティーを組むことをおススメするよ?じゃあね」
「いや、私も一緒に行くわね。あんたが普段からお世話になってるんだしちょっと挨拶しなきゃいけないとも思うしね。それと、待ち合わせの人にもちろんいるわよね?」
姉さんが怖い笑みを浮かべて聞いてくる。もちろん察しのいい僕にはすぐ分かった。これはケイのことを指しているのだろう。ここは絶対隠さなきゃ。
「いや、僕ともう一人だけだから姉さんが探している人はいないかな?」
「へえ、そうなんだ。それは残念ね。そうそう、一つ伝えなきゃいけないことがあるわ。嘘はやめましょう。ね?」
「ははは、姉さんはおかしなことを言うね。僕が姉さんに嘘をつくわけないじゃないか」
姉さんはため息を一つ吐くと、自分の頬に片手をあてる。
「あんた自覚してないかもしれないけど、あんたは嘘を吐くときに、相手をしっかり見ていた目が泳ぐのよ」
おっと、ここで動揺したら自分が嘘を吐いたということを姉さんに知らせることになる。だから冷静にいよう。ふふふ、この僕の冷静に対応する技術。姉さんや母さんからトラウマを量産させられる日々を耐え抜いた僕だからこそ出来る技術。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったよ。
僕はしっかりと姉さんと視線を合わせたまま内心細く笑んでいた。
姉さんが
(ぶっちゃけ嘘吐くときって、よく見ると異常なほど小刻みに震えてるのよね。これも母さんと私の教育の賜物ね。分かりやすい分かりやすい)
なんて思っているとは露知らずに…。
しかし困った。姉さんは僕がケイと待ち合わせをしていないと言い、普段世話になってる人にお礼とすると言うたびに突然言われても向こうも困惑するだけと言っているのに、ここから立ち去ろうとしない。なんでだよ!!このままじゃ合流するハメになるじゃないか。
「お待たせ…その人は?」
間に合わなかったみたいだ。僕に話しかけてきたのはもちろんマドイさんである。ほら、姉さんが面白いものを見つけた顔をしてるじゃないか。
「ああ、この人は僕の「彼女でーす」こんなところでくだらない嘘は吐かなくてもいいからね!!」
「え…と?」
「嘘って何よ。あの時あんだけ激しかったくせに。私は所詮遊びだったのね!?」
「誤解を招くようなこと言わないでよ!それにどこかで聞いたことのある言葉ばかりのオンパレードじゃないか!そんなことでだまされるわけがないじゃないか!」
僕はマドイさんの方を見ると。頬を若干赤らめて、1歩2歩と僕から距離を置いている。あるぇ?
「今日はソロ狩りする」
「ちょ、話だけでも聞いてくださいお願いします!!」
「うう、この女に乗り換える気ね!?そうなのね!?」
「姉さんはちょっと黙っててくれないかな!」
「姉さん?」
おお、マドイさんが僕の姉さんと言う発言に気がついてくれた、これで誤解も解けるだろう。しかし、マドイさんはなぜか僕達から距離を取る速度を速める。何で?
「自分の家族とそういう関係になるのはちょっと・・・」
「誤解なんだあぁぁぁぁ!!」
結局誤解が解けたのは30分も後のことだった。それでもちょっと疑わしそうな視線を向けられたのだが、姉さんがその様子を見て、大爆笑をしたので、マドイさんも僕の言うことをようやく信じてくれた。丸く収まって本当によかったよ。
…何か忘れてる気がするけど、今日は町長のところに行ってクエストを受けたら、消耗してたアイテムの購入をする予定だ。僕達は早速町長宅へと足を向ける。
「ってなんで当たり前のようについて来てるのさ姉さん!」
「だってねえ、私は始めたばっかり少しはレクチャーしてくれてもいいんじゃない?」
「別に私は構わない」
「マドイさんが言うなら…姉さんは余計なこととか爆弾発言とかは絶対に言わないでよ」
僕は姉さんにちゃんと釘を刺しておく。こうでもしないと僕のトラウマの原因などがさらけ出され続けてしまう。姉さんの性格上絶対やる。
「了解了解、絶対に私に対して告白してきたことなんて言わないから安心して」
僕の予想が甘かったです。どの道さらけ出されました。
「わぁぁぁぁぁぁ!どれだけ小さい頃の話さ!そう、小さい時の過ちだよ!姉さんが父さんに対して結婚するって言ったのと同じレベルだよ!」
「大丈夫。きっと誰もがそれに近いものを通る道筋」
マドイさんは無表情ながら理解したかのような空気を出している。よかった信じてくれたみたいだ。また誤解を解くのに時間を浪費したくはない。
「初恋がお姉ちゃんだもんね~」
僕は膝から崩れ落ちた。
マドイさんに優しく慰められて元気を取り戻した僕は視界の隅のテキストに通信が入っていることを告げてくる。
僕とフレンド登録をしているのは片手で数えられる程度しかいない。そして、その中の半分が今僕の目の前にいるのだ。…フレンド登録してくれる人でも探そうかな。っと、考えが逸れてた。
だから残りはケイしかいないわけで、姉さんが今すぐそばにいるからあまり出たくない。
うん?そうだ、アバター名で呼べば相手がケイだとは絶対にばれない。それにケイは顔を弄ったって言ってたこれなら大丈夫だ。僕はフレンド通信にでる。
「何?」
『お前今どこにいるの?噴水広場にいねえじゃん』
「ああ、ごめん烏丸。今ちょっと移動してるんだ。って、確か同じ町の中にいるんだったらフレンドの位置が分かるんじゃなかったのか?」
『俺はこの町の地図持ってないんだよ。だからお前の位置が表示されてもどうやって行くかが分からん』
「・・・気合でガンバ」
『待て。これはシャレにならん。頼むから早く場所とそこまでの生き方をを教えてくれ』
「じゃあ、RPGらしく、僕達は町長宅に向かってるから場所は自分で探してね」
『え、ちょ、ま』
僕はフレンド通信を切ると待機していた二人の方を見るが、二人はいつの間にかいなくなっていた。
「・・・おいてかれた!?」
僕は町長の家目指して走る。確かに通信出るときに一声かけなかったけど。確かに一声かけずに通信してたから独り言の激しい変な人みたいになってるし。ほら、NPCの方々がチラチラ見てどこか行くじゃないか。あ、今視線を逸らされたよ。
走ったかいもあり、ちょうど町長宅に入ろうとしている二人に追いつくことができた。
「遅い」
「ごめん。ちょっと通信で話しちゃってて」
「それは分かってる」
「あ、そうなんだ。それで一人増えそうなんだけど大丈夫?」
「・・・別に構わない」
ちょっと間があったのが気になるけど、まあ構わないと言っているし大丈夫だろう。
「それで、その相手は誰なのよ。もしかしてケイ君?もちろんそうよね」
姉さんががっつき過ぎて正直ドン引きしたいです
「違うよ。烏丸って人」
「へえ」
姉さんのテンションが著しく下がってしまっているようです。
「待つ?」
「ああ、大丈夫。どこに向かったかぐらいは伝えておいたから後から来ると思うよ」
「そう」
マドイさんは扉を開けて中に入っていく。僕と姉さんもそれに続いて中に入っていく。
「町長さん。何か困り事無い?」
「おお、よく来たのう。いきなり本題じゃなくてワシはもっとマドイちゃんとお話をしたいビュ!!」
「アンタ、冒険者のお客様にセクハラするんじゃないよ!」
「ワシだってピチピチの女子と楽しく会話がしたいんじゃよ」
「いや~、スイマセンねお客様ちょっと待っててくださいね」
町長の隣りに立っていた女性――おそらく口調からして奥さんだろう――は町長の襟首を掴むと、そのまま引きずって近くの部屋に入って行ってしまった。
僕達はそれをポカンとした表情で見送り、町長の悲鳴が響き始めた辺りでお互いの顔を向け合い、僕とマドイさんはため息、姉さんは戸惑ったのかキョロキョロと辺りを見回している。
しかし、この場にいるのはこのファルフラムの町を拠点にしているプレイヤーかNPC。つまりはこの光景を見慣れているということだ。
そんな皆様方は、またかといった表情でチラリと悲鳴の聞こえてくる部屋を一瞥してプレイヤーはクエスト関連の確認と報告。NPCはそれの処理や事務仕事などの自分の行っていた行動に戻っていく。
「え?え?すごい悲鳴だけど大丈夫なの?」
「いつもの光景」
「うん。ここまで来ると逆に清清しくなってくるよね」
「・・・」
姉さんが黙り込んでしまった。さて、後は町長が戻ってくるのを待つだけだ。NPCにも称号の制度があるのであれば、きっと町長の称号欄には、ギャグパワーとか、ギャグ補正見たいな称号が入ってる可能性が高い。
そんな称号があるかどうかなんて知らないんだけどね。
町長の悲鳴がいまだに止みそうないので、マドイさんと当たり障りのない会話を楽しむ。まあ、内容が今日の町長の折檻が長いこととか、今日はどんなクエストを受けるかの相談なのだが。
「ねえ、別に町長さんから直接受けなくても、事務の人からクエスト受ければいいんじゃないの?」
姉さんからもっともな指摘が入る。僕とマドイさんはチラッと視線を合わせると、不思議と意思疎通が出来た気がした。
「だってねえ」
「町長は暇そう」
「それに比べて周囲の事務の人は忙しそうだから話しかけられなくて」
「セクハラする余裕があるからきっと暇人」
「・・・」
あれ?今日は姉さんよく黙り込むな。なんでだろう?まあ、僕の黒歴史やトラウマを暴露されずに済むからいいことだ。
そう考えていると、扉の開く音が聞こえた。こういう時ってついつい音の方見ちゃうよね。
扉の方を見ると、どこかで見たことあるような気がする顔の男性プレイヤーが入ってきていた。
そいつはキョロキョロと中の様子を伺うと、僕達の方を見てこちらに近づいてくる。こんな知り合いゲーム内に居たっけ?
脳内が疑問で埋め尽くされ始める頃には、もう眼前まで来ていた。本当に誰だこの人
「勇人か?」
「え?」
「だからお前は勇人かって聞いてるんだよ!」
「え?誰?」
「おい、冗談だよな?さっきまでフレンド通信してたじゃん、俺だよ、アバターネーム烏丸。リアルではお前の友達の軽野だよ!」
補足です
町長宅は二階が居住スペースとなっていて、一階は町民からの困り事が一度集められ、内容をまとめたものを宿屋、酒場などの公共の施設や、個人経営の店舗がクエストを自身の店舗においてもいいと契約した場合、そちらにも送られる。
一度クエスト情報が集まっているため、町長宅でクエストを受けるプレイヤーが多目




