防衛二十三回目
ゴブリンと剣を交わしているおっちゃんは、勢いよく剣を振るっているが、全部防がれ、敵の返す剣戟をかろうじて防いでいる状態だ。お世辞にも有利ではない。せいぜい善戦しているといったところだろう。
僕の手に杖は無い。先ほどの自分の魔法の余波でどこかに行ってしまったみたいだ。辺りをキョロキョロと見回していると、
「おい、気がついたんならとっとと逃げろボウズ!!このままここにいられたら俺がやられるだろうが!」
おっちゃんがなにやら叫んでいるが、僕は引く気は更々無い。そのまま周囲をしばらく確認していると、近くに先ほどまで僕の装備に刺さっていたものだろう。僕はそれを回収に行こうとしたが、僕の足元に矢が突き刺さる。
飛んできた方角を見ると、矢を番えた弓を持つゴブリンが立っている。僕は緩急を付けた移動で矢が当たらないように走る。緩急付けたほうが飛び道具に当たりづらいのは他のMMORPGをプレイしたときに経験済みである。
僕はたいして高くないAGIで必死に避ける。その間に、櫓の上からの援護射撃でじわじわと敵のHPを削っていく。元々僕の魔法でHPをだいぶ削っていたので、割とすぐに倒せた。急いで落ちていた矢を回収してゴブリンと戦っているはずのおっちゃんの方を見ると、傷だらけになりながらもその場で踏みとどまり、ゴブリンと切り結んでいた。表情も辛そうなものになってしまっていて目の前で傷を増やし続けている。
NPCは負った傷によっては傷跡が残るし、部位欠損すると欠損した部位はそのままである。まあ、ゲームらしく血は出ないんだけどね。
僕は少し拾った矢を手に、迂回するようにゴブリンの背後に回り込んでいく。櫓の上のNPC達が僕の意図を察したのか、矢を放つ速度を上げる。ちなみに命中率は度外視なのか、危うくおっちゃんにも当たりそうになっている。
「手前らは俺を殺す気うおぅっ?」
「キキャー!」
奇声を上げながらゴブリンがおっちゃんに攻撃を仕掛けている。幸い僕の存在には気がついていないみたいである。
手に持っていた矢を、僕は口にくわえ、動きやすいようにすると、僕は気づかれないように、背後からゴブリンの首筋に腕を回して動きを制限すると、そのまま地面に引き倒し馬乗りになる。
そして、口にくわえていた矢をゴブリンの目にめがけて振り下ろす。
ゴブリンはそれを両手で無理やり押さえて自身の目に刺さらないように抑えている。そして、徐々に押し返され始めてしまった。
「・・・っくぅ」
やはり片手じゃ両手には勝てないのか?
一時はゴブリンの目前まで迫っていた鏃は、むしろ僕に近づいてきてしまっている。
「そのまま押さえ込んでおけ!」
駆け寄ってきたおっちゃんが剣を振りかぶると、ゴブリンのHPがなくなるまで何度も剣を振りかぶっては振り下ろす。そして、剣を振り下ろされるたびにゴブリンの抵抗が弱まっていく。そしてついにHPがなくなったのか、消滅していく。
「たく、いきなり飛び出してるんじゃねえぞボウズ。こっちが焦るだろうが」
「結果オーライって事でいいですか?」
「何が結果オーライだ。下手したら死んで・・・そうか、冒険者の連中には神様の加護だかなんだかついてて死なないんだっけか?」
「加護かどうかは知らないけど、一応死にませんね。アイテムが無くなりますけど」
「それくらいで済むとか羨ましすぎるだろうが。死ななきゃまた集められるんだからな。まあ、だからと言って自分の身を進んで危険に晒すのはよくねえな」
「す、スイマセンでした」
おっちゃんがメチャクチャ睨んできたため、反射的に謝ってしまった。僕の謝罪を受け取ったおっちゃんは少し納得いかない表情をしたが、まあいいか、と言うと、門の方へと戻っていく。
僕はそれを眺めていると、早く来いと怒鳴られてしまった。きっと門の内側に入れてもらえるかもしれないから付いて行く事にしよう。次は中からマドイさんとウェイルズさんを探さなくてはいけないみたいだしね。
おっちゃんに追いつくと、照れながらありがとうと言われた。男、それもいい年したおっさんのツンデレ感謝の言葉ほど、なんと言うか…不快感の強いものは無かった。
俺はダークマジシャンの集団の中の内の一体の首を刎ねる。
「オラァ!」
「グギャゥ」
続いてもう一体の体を真っ二つにする。そこでようやくダークマジシャン共が反応してきた。
小さな火球をいくつも飛ばしてくる。
余裕をもって回避をするが、中には回避しきれないもののあるため、剣を振るって打ち消す。だが、予想外の方向から飛んできた火球に当たってしまった。
レベルが低いときは、当たった箇所が炭化するんじゃないかと思うほどの痛みが発生したけど、今はレベルが上がったからなのか、装備がよくなったからなのか、ちょっと熱めのお湯にいきなり手を突っ込んだ程度の熱さとなっている。
「ぬるすぎるんだよ!」
こんな一撃でHPを削りきれる相手に特技を使う必要は感じない。それに、敵が固まっているのでいともたやすくなぎ払える。
再び剣を横なぎに振るい、敵を三体ほど屠る。これで残りはおよそ15体ほど。遠くの方でジャイアントオークと戦っていた一人の冒険者が、20体ほどに囲まれてリンチを受け、HPがなくなったのか消滅していく。最後に目があったが、なぜか若干満足げな表情であった。
確かあれは【烈風騎士団】の団長だったな。
ジャイアントオーク達は団長が消滅したのを確認すると、辺りに散らばっている冒険者達が落としたアイテムを一箇所に集めると、それを一体のジャイアントオークが布のようなもので包むと、どこかに持っていってしまった。
包まれたアイテムの中には、だいぶレアなものも混ざっていたみたいで、銀製品の装備や、オーダーメイドと思しき連接剣。中には銀色の液体が入った小瓶などがあった。
俺はダークマジシャンを放っておいてそいつを追いかけて潰すのと、こいつらを全滅させる方のどちらが自分のリスクが少ないかを考えると、ダークマジシャンの掃討から行うことにした。こいつらの使うサポート系の魔法や、攻撃魔法の方がよっぽど厄介である。
方針を決めた俺は、片っ端らからダークマジシャンを切り伏せ、吹き飛ばし、葬っていく。
そして、ようやくこちらの惨状に気がついたジャイアントオークが重そうな足音を響かせ、奇声を発しながら突っ込んでくる。
突っ込んでくるジャイアントオーク達のほうを見たときに気がついてしまった。突進してくる奴らの奥に、刃が血で染まり、折れた槍が転がっていることに。そして、その槍に俺は見覚えがあった。最近そう約一月ほど前に世界が再びリセットされたとき、自警団の団長が俺に入れ替わったときに、ようやく好きだった奴に告白できて、来月結婚できると言って微笑んでいた先輩の自警団員に、おめでとうと言いながら手渡したもので、あと数日で結婚式だと言っていた。だから彼には中の警備の方がいいだろうと思い、そんなことで中に回されるのには納得できないと憤る彼を、会議が始まる前になだめた。
俺の中で確実に何かのスイッチが入ってしまった。
「テメエらごときがぁぁぁぁぁ!」
もはや自分でもなんと言っているか理解できないことを叫びながら、まだ5体ほど残っていたダークマジシャンを無視してジャイアントオークの方へと剣を振りかぶりながら接近する。
「死ね!」
確かジャイアントオークはHPが異常なほど高かったはずなので、一撃じゃ倒せないだろう。だが、一撃で終わらせる気も無い。こいつらは一撃で、一瞬で終わらすなんてマネは絶対にさせない。
まずは先頭にいたジャイアントオークの表皮を浅く切り裂き、裂傷を全身に刻み込むと、オーク種の象徴でもあるその豚鼻を切り飛ばし、鼻を抑えてのけぞるオークの右腕を切り落とす。そして、そのままの流れで、のけぞったジャイアントオークの背後から迫ってくる、ジャイアントオークの中の一体の足を切断する。
普段だったら俺はここで止めを刺すが、あえてここでは止めを刺さない。部位欠損状態にしてジャイアントオークのHPが自動で減っていくのに任せる。部位欠損したジャイアントオークは情けない悲鳴をのようなものを上げながらのた打ち回っている。
二体目の方は片足だけの傷なのでまだまだ動けるようだが、移動はままならないだろう。
俺はそう判断し、次に襲い掛かってきたジャイアントオークの腹を深々と剣で抉ると、そいつはうつ伏せに倒れこんでしまい、一瞬殺してしまったかと思ったが、ビクビクとしていることからまだ息があることが伺える。
そして、先ほど片足を切ったジャイアントオークが両刃の戦斧を振り下ろしてくる。
俺はそれにタイミングを合わせて、バトルアックスを持っている手を狙って剣を振るう。そして、思い描いたとおりの軌跡を描き、ジャイアントオークの手がバトルアックスを持ったまま回転しながら宙を舞っている。
それを呆然とした表情なのか分からないが、間抜けな表情で見ているジャイアントオークに蹴りをぶち込むと、まだ背後にいたジャイアントオークを巻き込みながら飛んでいく。
そこで攻撃した三体が消滅していった。
ここでようやく俺を単体では倒せないと判断した奴らは俺を囲むように包囲し始めた。俺はあえてその包囲網が完成するまで待つことにする。そういえばダークマジシャン共がいなくなっている。逃げたのか移動しただけなのかは分からない。だが、それを考えている間に包囲網が完成した。
完成した包囲網を見ると、ジャイアントオークの巨体ゆえ囲める人数も限られてしまっているため、そこは足りない知識を総動員したのか二重の包囲網となっている。
俺はそれを一瞥すると、侮蔑をこめた声で、
「なんだ?そんな鳥よりも小さい頭でよくそんなことが出来たな。まあ、褒めるに値しないけどな。そんなことよりも、お前らが楽に死ねると思うなよ?痛みと苦しみを十全まで全部出し切ってから殺してやるよ」
そこまで言うと、右手で握りこぶしを作り、親指だけを突き出す形にすると、自分の首の左側に親指を突き立てるように持っていくと、
「かかってこいよ家畜に劣る豚共」
そう言いながら右手を首の右側へと引く。
ジャイアントオークに人間の言葉が理解できるとは思わないが、手の意味は伝わったみたいで怒りの声を上げながら我先にと武器を掲げてこちらへと走ってきた。
これはあくまでも健全なVRゲームです。そのため血が飛び出る表現をしてはいませんよ?
次もウェイルズのターンでございます。




