防衛二十一回目
「食らえ!!」
「だから先走るなってば」
目の前で手斧を振りかぶったゴブリンが、さらにその上から叩きつけられるように振り下ろされたダグロの剣の餌食となって消滅していく。
剣を振り下ろしたダグロに群がるゴブリン達を、素早く動き回って殴り、けん制していくフォックス。
MP回復薬を口に含みながら、その状況を僕は見ている。早いところMPを回復させて、またアイスフォールの魔法を使って、今の守りに回ってしまっている現状の打破をしたいとは思う。
しかし、一発目に使ったような効果は望めないと思ってしまう。
なぜなら、新しく出てきたMOBたちは、明らかにレベルが一段階は上がってしまっているからだ。
今の今まで粗末な剣などを持ち、ボロボロな布切れを纏っていたゴブリンは全滅したけど、新しく出てきたゴブリンは、皮製の鎧を着込み、粗末な剣が、しっかりとした銅製の武器に代わっている。
今の今まで乗っていたハウンドボアから、サイズの大きい甲殻虫に代わっていて、防御力が上がっていることが伺える。
挙句の果てには今の今まで出てこなかった豚面のオークなどまで出てきてしまった。
そのせいで戦線が一気に町側へと押し戻されてしまったが、演説していた女性プレイヤーの指揮で戦線は下がったものの、また安定してきた。しかし、ずっと前線で戦っているプレイヤーもいるわけで、こっちはジリ貧となってしまっている。
MPが回復するまでまだ時間がかかりそうだ。このゲームの回復薬は、HPを一気に回復するのではなく、自己治癒力を高めるという設定なのか、徐々に回復するというものため、回復に時間がかかってしまう。
そして、回復中にHPなら攻撃を受ける、MPならMPを消費する行動を取ると、回復薬の効果はなくなってしまうのがまた厄介である。
「MP回復した?」
「あと少しかな?」
前線ではちょうどHPが危なくなった人と回復した人がローテーションしているところである。下がった人たちの中にダグロとフォックスもいたみたいで、こっちに駆け寄ってくる。
「そろそろいいかな?」
「まだだめ」
会話をしている間にMPが回復したので、早速魔法を唱えようとしたが、マドイさんに止められてしまった。
「なんでさ」
「今混戦状態。味方にも被害が出る」
確かに今は敵と味方が入り乱れている状態のため、この魔法を使ったら十中八九巻き込んでしまうだろう。
「じゃあ、僕が指揮取ってる人に伝えてくるよ。確か氷の塊が振ってくるまでにタイムラグあったよね。どれぐらい?」
近づいてきたフォックスが伝言を頼まれてくれるみたいだ。
「だいたい15秒ぐらいです」
「了解、じゃあ、合図出してもらうから、そしたら唱えてね」
フォックスはそういい残すと、指揮官のところへと走り始めた。
少しすると、指揮官のところで話していたフォックスが手を挙げ、振り下ろした。きっとこれが合図だろう。
「行け!!『アイスフォール』」
僕が魔法を唱えると、氷の粒が上空に飛んでいく。
「15秒持ちこたえろ!!それまで絶対引くな、戦線を維持、敵を集めろ!!」
指揮官がそう叫び、回りのプレイヤー達がそれに答えると、徐々に下がっていた人たちはその場に踏みとどまり、始めから少し下がっていた人たちは無理やりでも前に出ようとする。
しかし、残り10秒というところで、先ほど先陣を切って攻めてきたジャイアントを一回り小さくしたサイズのオークが出現し、自分の仲間でもあるMOB達を手にしたメイスで吹き飛ばしながら突っ込んでき始めた。
そして、残りが5秒というところで最前線の人たちと接触、二人のプレイヤーがメイスでなぎ払われてしまった。しかし、そのプレイヤー達もただではやられなかった。
吹き飛ばされた方の一人が特技を発動。剣線をなぞるように斬撃が飛び、オークの豚耳を片方切り飛ばした。
痛みからなのか、オークは大声で叫びながらメイスを右へ左へとブン回し始めた。敵味方関係なく振るため、そのオークの周囲だけポッカリと無人地帯が出来上がってしまった。これで3秒経過。
残り2秒
自分の周りに人がいなくなったことを理解したオークは、一気に戦線を突破しようと走る。それを遮るように指揮役の女性プレイヤーが振るわれたメイスを、レイピアを突きこむ事で弾こうとするが、拮抗は一瞬、メイスの軌道を僅かに上方に向けるに止まった。しかし、それじゃあオークの突進は止められるわけもなく、バランスを崩しながらも足を止めようとはしない。そして、僕の魔法の範囲を抜け出してしまった。
そこへ、いつの間に接近したのか分からないが、フォックスがオークの顔に向けて飛び出していた。
フォックスは両膝を揃えると、そのまま弾丸のようにオークの顔へと突っ込み、それは遮られることなくオークの顔面へと吸い込まれていく。
両膝蹴りを顔面で受けたオークは後ろによろける。だが、それでもまだ魔法の範囲には入らない。そこに、ダグロが小楯を構えた状態で近づき、特技のパッシュを使う。これは確かウェイルズさんと戦ってたとき、最後に使ってたやつだったかな?
パッシュを食らったオークは、二歩三歩と後退し、仰向けに倒れこむ。
ここで時間が来た。15秒だ。
上空より氷の粒が固まりに変わり、降り注ぐ。と言っても合計で10しかないが。
それはキッチリとMOB達の頭上へと降り注ぎ、破片を撒き散らしながら砕け、光の粒子に変換されながら消滅していく。
MOBの約4分の3は残ってしまったが、それなりにダメージを与えることができ、前線の人たちも少しはマシになるはずだ。
「全軍かかれ!!相手が体勢を立て直す前に叩くぞ!!」
女性プレイヤーはそう叫ぶと、率先して敵に突撃を敢行する。もちろん指揮官を倒させるわけにも行かないので、そのギルドを中心に、引きずられるように突撃していく。
こうなると、少しでも多く倒したい欲が生まれたのか、プレイヤー達は次から次へとMOBに襲い掛からんと駆け出す。
けど、後衛職の僕とマドイさんは、その場から動かずに、僕はMPの回復。マドイさんは矢の残りも少ないのか、攻撃がだいぶ散発的になってしまっている。
「マドイさんまだMP回復薬持ってる?」
「持ってない」
「じゃあ、この後どうする?もうここでできることなんてないと思うんだけど」
「・・・破られた門のほうに行く」
マドイさんは黙考すると、すぐにそう結論を出した。僕はそれを拒否する気も無いので、一緒に行くことにした。その間に僕のMPは多少なりとも回復するはずだ。僕とマドイさんは、MOBが逃げ始め、それをプレイヤーの方々が討ち漏らしのないように掃討していく終結しつつある戦場を後に、走り始めた。
「そういえば門って終わるまで開かないんだっけ?」
「そう」
「じゃあ外壁をたどるように行かなきゃいけないって事か」
「それが分かってるならちゃんと走る」
「これが僕の全力疾走だよ?」
どれだけの距離があるか皆目検討も付かない。マドイさんはともかく、僕は完全に魔法系の後衛職のため、走る速度はそんなに速くない。しかし、流石VR。脳が疲れたのでもない限り、動きが鈍ることもない。なんせ現実ではベッドや布団で寝っ転がっているだけだ。体力なんて消費するわけが無い。
あるのは精神的な労費だけだ。なので、VRゲームをプレイする前や、した後は炭水化物の摂取が開発会社より推奨されている。
っとそんなことを考えているうちに、だいぶマドイさんと距離が開いてしまった。近くに門があることから、ちょうど中間地点まで来ていることが分かる。
マドイさんとの開いてしまった距離を詰めようとしたが、何かそう、いやな感じ?曖昧な感覚だけど、このまま走り続けたら確実に何か起こる気がしたので、とりあえず足を止めてみると、僕の目の前に矢が突き立った。
これは僕がこのまま走り続けていたのならば確実に打ち抜かれていた。
矢の飛んできた方角を見ると、別働隊や遊撃の小隊なのか、10体ほどの装備のいいゴブリンが立っていた。
「マドイさんは先に行っててよ。町の中に入れば矢とかの補充も出来るかもしれないし」
「ヤマト君は?」
「ここで門の上で待機してるNPCと一緒に撃退かな。大丈夫だよ。接近される前に倒しちゃえばいいんだから」
「分かった」
マドイさんはうなずくと、そのまま走り去ってしまった。さてと、僕は僕のやるべきことをするかな?というよりも、ものの見事にパーティー組んだのに皆バラバラなっちゃったな。組んだ意味無いやん。まあ、マドイさん以外は急遽組んだ感じだったし、皆さん我がちょっと強いみたいだからしょうがないかな。
とりあえず僕はゴブリンの放ってくる矢から逃げるように門に近寄り、見張りのNPCに声をかける事にした。
「スイマセン、ちょっとそこから援護射撃してくれませんか」
「あいつらが門を敗れるとは思えないから、あんたは今すぐここから逃げろ!!」
「いえいえ、僕だってやれば出来るんですよ!!」
僕はいまだに逃げるように説得をしようとしてくるNPCの前で魔法を使い、ゴブリン――――上等になっている装備からきっとゴブリン兵士と言えるだろう――――の中の一体に命中させる。
しかし、ダメージは入ったが威力が低かったみたいで、体勢を崩しながらも、こちらへと近づいてくるのを止められない。むしろ怒りを買って進行速度が速まったぐらいだ。
慌てたようにNPCからの援護射撃が入るが、なかなかゴブリンに当たらない。その間にもどんどんと接近してくる。
僕は後先の事をあまり考えずに魔法を打ち込みまくる。しかし、MPのほうが敵の殲滅よりも先になくなってしまった。敵はまだ8体は残っている上に、厄介なアーチャータイプが全員残っているのが一番痛い。
あれ?これって僕だいぶヤバイ?




