防衛十九回目
「情報ありがとな」
『ん。別に大丈夫』
それで通信が切れる。どうやらモンスターが攻めてきたらしい。地響きが近づいてきているし、やっぱりモンスター共か。ジャイアントが先行してきているみたいだし、ジャイアントを一撃で潰せば、きっとスムーズに倒せるようになるかもしれないな。
すると、背後で大きな声がしたので、そちらをチラッと確認すると、だいぶ離れたところにヤマトがいて、魔法を唱えたのかヤマトの背後に複数の小さな氷の粒が出現した。そして、その小さな粒は上空へと上がっていく。俺の目でも見えない距離まで飛んでいってしまった。あいつはいったい何がしたかったのだろうか。
そっちを見ているうちに敵がもう細部まで視認できる距離まで近づいてきていた。確かにジャイアントがダッシュで近づいてきている。
「ここは俺たちの町だ。冒険者のものでもないし、ましてやモンスターごときが攻めて来ていい場所じゃねえんだよ」
うっかり声を出していたみたいだ。周囲にいた冒険者共が軽く睨んでくる。だが、気にしてはいられない。
駆け出そうとしたところ、空に光が見えた気がする。念のために立ち止まると、空から何かが降ってくるのが見えたと思った瞬間、大音量を立てながら、サイズが直径3メートルほどの氷の塊が、10個ほどジャイアントの背後のゴブリン部隊に降り注ぐ。
これには敵だけでなく、味方も驚いたみたいでたたらを踏んでしまっている。でも、遠距離攻撃の役の味方は冷静に攻撃を続けている。
降り注いだ氷の塊の中のひとつを、ジャイアントが手にした棍棒で弾き、その弾いたものがこちらに、俺のほうへと一直線に飛んでくる。
俺は腰を捻ると、捻って貯めた力を解放するように大剣を横なぎに振るい、氷の塊を二つに叩き切る。叩き切った氷が他の冒険者を潰した気がするが、俺には関係ない。むしろ被害を軽減したんだからいいだろうが。
『うちのヤマトが申し訳ない』
「どうした急に連絡なんかしてきて」
『さっきの魔法はヤマトの仕業』
「なんで今それを言ってくるんだ?」
『迷惑かけた。ごめんなさい』
「後でヤマト本人に謝らせればいいんじゃないか?」
『じゃあ、私は射撃に戻るからしばらく連絡できない』
「ああ、分かった」
別に連絡してくる必要なかったんだけどな。…それよりヤマトはもう一回あの魔法使ってくれねえかな。敵の殲滅スピードが上がりそうだ。
そこで、ジャイアントが棍棒を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてこようとしていることに気づき、剣を構えて対抗しようとしたが、
「切り込み隊長に俺はなる!!っていうかもう切り込み隊長!?」
奇妙なことを叫びながらダグロが、棍棒を振り上げたジャイアントの顔面に向かって飛び掛っている。どうやってあいつあそこまで飛んだんだ?
ダグロの飛んできた方向を確認すると、その疑問が解決された。フォックスのほうが組んだ両手を頭上に高く掲げていたのだ。どうやらあの二人はフォックスが土台になってダグロを飛ばしたみたいだ。
「どらぁぁぁぁぁ!!」
ダグロはそう声を張り上げながらジャイアントを切りつける。そして、それは一度だけではなく、重力にしたがって落下しているときも、絶えずジャイアントを切り続ける。
そして、着地に失敗して転んでしまった。
HPがまだ十分残っているジャイアントは、自分を切りつけた不埒者を、許さんとばかりに足で潰そうとする。
ダグロが足に潰される直前、素早く近づいたフォックスが、移動エネルギーと体重を乗せた拳を、ジャイアントが上げた足に叩き込む。
ジャイアントの思い描いていた軌道から無理やり逸らされた足は、ダグロの真横に突き刺さり、土を巻き上げるだけの結果になって終わった。
ダグロは慌ててその場から距離を取り始める。ジャイアントと、冒険者の衝突があっちこっちで発生しているが、中にはジャイアントの攻撃を小楯で防ごうとして吹き飛ばされる冒険者がいたりする。ぶっちゃけそいつらはバカじゃないかと本気で思う。
通常だったら、ここでジャイアントが暴れている間に、ゴブリン共が横をすり抜けていくのだろうが、ヤマトの使った魔法で、倒されたり、倒れていなくてもそれなりにHPが減っているので、ジャイアントとの戦闘の余波や、ジャイアントと戦っていない冒険者、遠距離部隊の攻撃で一体も抜けられない状況になっている。
「ジャイアントの処理は今戦っているものたちに任せ、我々はその背後に隠れているゴブリン共を狩るぞ!!私に続け!!」
門の内側から、そのような声が聞こえ、門が開くと、冒険者が一気に飛び出してきた。その先頭を走るのは、テーリアだ。先ほどまでの挙動不審な姿からは想像出来ないほど凛々しい姿で走っていく。
それを止めようとジャイアントが棍棒をなぎ払う形で振るうが、テーリアは跳躍することでそれを回避する。後ろに続いていた冒険者達の中から、タワーシールドを構えたものが数人飛び出すと、振るわれた棍棒を受け止め、押さえ込むことで、他の冒険者達が通る道を開ける。
無事ジャイアントの隣りを通過した冒険者の集団は、隠れていたゴブリンを狩り始める。それに対して、ジャイアントがそれを防ごうと動くが、ジャイアントに張り付いていた冒険者達の手により、ジャイアントの動きを阻害する。
「ダグロ、回避!!」
「うお、危ねえ!?クソが、食らいやがれ!!」
例の二人組みは、ジャイアント相手に善戦をしている。ジャイアントは、攻撃力とHPが多いだけで、特殊な攻撃はしてこない。だから、レベルが低くても時間さえあれば倒せる。
でも、
「そろそろ俺も参加してもいいよな?」
俺はダグロとフォックスの戦っているジャイアントへと、突貫する。俺の突貫に気が付いたジャイアントは、棍棒を激しく振り回して、二人を遠ざけると、俺に打ちかかってきた。俺は真っ向から大剣で受け止め、力任せに弾く。
弾かれた衝撃で体勢を崩したジャイアントに、ダグロが特技で腹を攻撃をし、フォックスがその拳で相手の足首の辺りを連打する。
ボキッ。
鈍い音がしたかと思うと、ジャイアントが突然倒れこみ、絶叫をしながら暴れ始める。
「うるせえよ」
俺はそう呟くと、倒れてもまだ暴れているジャイアントの首を大剣で叩き切った。
ジャイアントは光の粒子になって消えていくと、
「おい、いいとこ取りってどうなんだよ!!」
「まあまあ、助かったんだしいいじゃないか」
「そんな問題じゃねえ。もう少しで俺たち二人で倒せたはずなんだよ!!」
「無駄口叩いてないで次来るぞ。敵は待ってはくれないぞ。それにお前らの手際が悪すぎる。特にダグロ。お前フォックスがいなかったらとっくに死んでるぞ?」
「それが俺たちのスタイルですから。ダグロが突っ込んで僕がそれをフォローする。これが俺たちの勝利の方程式です」
「…まあいい。来るぞ!!」
次の俺たちの相手は、ハウンドボアに跨ったゴブリンの群れである。
雑魚の群れほど面倒なものは無いな。これだったらジャイアント3体のほうがよっぽどマシだと思ってしまう。
「オラァ!!転げ落ちやがれ!」
「ちょっと待て。こんな乱戦中に大振りな攻撃なんてするなよ」
「ハッハァ!無様に転げ落ちて、ざまあ、グエッ!?」
「言わんこっちゃ無い。くそ、そっちに行けない」
俺は一つヤマトに謝らなければならないことが出来たみたいだ。バカと言ってスイマセン。本物のバカは、目の前で戦っている黒髪の男だ。何も考えていないのが分かる。
さて、思考に没頭している場合ではなかったな。俺の元にもゴブリンが何体か攻撃を加えようとしてくる。
俺は優先的にゴブリンを乗せているハウンドボアを攻撃。ゴブリンを落馬?させる。そして、落馬して倒れたゴブリンが起き上がる前に、止めを刺して行く。
「なんだこの程度か?雑魚共が、俺たちの言語を理解できるならかかって来い、一匹残さず狩りつくしてこの町を攻めてきたことを後悔さしてやるよ」
俺の言葉が伝わったかどうかは分からない。だが、ゴブリンは確かに俺の方を向き、突撃を敢行してくる。そして、そのゴブリンたちの背後からゴブリン将軍も追加で来た。
俺は大剣を振り回し、振り回した勢いをなくさないように、自身を軸としてコマのように回る。
速度をだんだんと上昇させながら振り回していると、将軍が近づいてきたため、回っていた体を無理やり押さえ込み、遠心力がたっぷりと乗った一撃を放つ。この攻撃は、敵の持っていた剣で防がれてしまったが、防ぐのに使われた将軍の剣は、半ばから叩き折ったのか、刀身が半分ほどになってしまっていた。
「ブモゥ!?プギィィィ!!」
将軍は、みっともなく奇声を上げながら、俺に向かって指を指して来る。すると、それに呼応するように、ほかのホブゴブリンや、ゴブリンが襲い掛かってくる。俺はそれの相手をしなければならなくなり、その間に将軍は後ろに下がろうとする。
トン。と音を立て、将軍の首に矢が突き刺さった。将軍派呆けたような、無様な表情をすると、だんだんと怒りの感情を強くしていき、狂ったような雄たけびを上げながら首に刺さった矢を無理やり引き抜く。が、将軍が矢を抜くと、まったく同じところにもう一度矢が突き立てられた。
将軍はその場で暴れまくるが、矢は変わらずに首に集中して当たり続けている。この町にいる知り合いで、矢を使っているのは一人しか知らない。果たして…。
開戦前に立ち寄った櫓を確かめると、焚かれた篝火の光が髪に当たり、元々は銀髪一色であろう髪がすこし透き通ったオレンジ色に代わっており、その髪が風でなびいている。そして、矢を番えては放ちを放ち続ける行動を淡々と行っている。
それが戦場での的確な援護攻撃となっている。
他の冒険者の連中もその光景を見上げ、見惚れてしまい、ゴブリンの攻撃を受けてしまっているものもいる。
俺は工房の連中が言っていた事を思い出し、周囲の冒険者も小声だが、確かに工房の連中と同じ事を言い始めた。
戦乙女と。
当のマドイはというと、大勢の冒険者達が自分の方を見ていることに気が付き、櫓をスルスルと降り始めてしまった。




