防衛十八回目
『パーティー編成の方は終わったようですし、話を進めます。今回から敵の行動パターンが代わるかもしれないということで、前回の防衛戦で敵の行動パターンの変化を感じ取ったと言っている【烈風騎士団】の方々もギルド単位で参加してくれている。なお、【烈風騎士団】には、最初にMOBの攻めてきた方向以外の、3箇所の門を固めてもらう。これは、この町の町長や、団長殿と話し合った結果であるため、異論は認めない』
あ、確かによく見ると、副団長だといっていた人が、壇上の下に立っている。
『それじゃあ、そろそろMOB連中が来るはずだから、各自健闘を祈る』
壇上の女性プレイヤーはそのまま壇上から降り、端っこの方でぐったりとしていたプレイヤーや町民達は、きびきびと動き始め、後片付けをしていき、何人かのギルドメンバーであろう人たちが、その女性プレイヤーへと話しかける。その話の内容が僕の耳にも飛び込んでくる。
「首尾はどうだ」
「はい、非戦闘員の町民の避難は95%が完了しました。避難していない町民は、なんかしらの雑事が残っているものだけです」
「そうか、それじゃあギルドホームで作成、管理をしていた防衛装置は設置したか?」
「いえ、そっちは敵がどこから攻めてくるのか分からないため設置はまだです。しかし、すぐに設置できるようにはなっています」
「あなた方は馬鹿ですか?どこから奇襲があるか分からないんだから全体的に配置しておけと言わなかった?それだけ配置できるように十分な数をそろえていたはずですよね」
「しかし、それだと殲滅スピードが下がり」
「乱戦になったら、もう使えなくなるんだからいいんですよ。理解が出来たなら早く設置してきなさい」
「は、はい!!」
そして女性プレイヤーの数位に集まっていたプレイヤー達は、散っていく。さて、これは…。
「マドイさん、どの門に行ったらいいと思う?」
「…順当に考えればファルフラムの森がある方角の門に行けばいいと思う、確かクエストはそっち側に集中してた」
「へえ、そんなクエストあったんだ」
「僕達はほとんどクエスト受けなかったッスからね」
「え?じゃあ、どうやってレベルを上げてるんですか?」
「そりゃあもちろんMOBを狩りまくってだよ。人の話し聞くの嫌いだから、クエストの説明とか、NPCと義務的なこと話してると眠くなっちまうんだよ」
「それに付き合わされる僕の身にもなってくれよ。クエスト受けたほうが早くレベル上がるしさ」
「そう、それに、ものによってはストーリーが盛り込まれてるから面白い」
「…おい、行かないのかお前ら」
「そういやどこから攻めて来るんだ?」
「まだ分からないから、クエストが多かった森方面行くんじゃなかったか」
「早速行くぜ!!」
なんかダグロが急に走り出した。が、場所分かってるのかな?
「あの、場所って分かってるんですか?」
「ああ、僕達二人は行ったことが無いからね、分からないと思うッスよ。まあ、僕は一応場所ぐらいは知ってるから、連れて来るね」
「あ、はい」
フォックスは先に走っていったダグロの後を追っていく。いきなりパーティーの位置がバラバラになってしまったようだ。このパーティー大丈夫なのかな…。
そんな僕の心配をよそに、マドイさんとウェイルズは無言で僕の前を歩いている。いや、別にね、僕は誰かといるときに無言になるのに対して、プレッシャーを感じるタイプじゃないんだよ?むしろ自分の考えに集中できるから、相手によってはウェルカムなんだけどね。でもね、さすがにこれにはプレッシャーを感じる。
だって、なぜか当たり前のように、さっきまで壇上に立ってた女性プレイヤーが付いて来てるんだもんよ。まあ、同じ方向に目をつけただったらいいんだけど、僕達と付かず離れずの距離を保ってるんだよ、しかも、ウェイルズさんのほうをチラチラ見ては、話したそうにしているが話せず、僕の方に話題を振れといった感じの視線を向けてくるため、普段なら絶対感じない重度のプレッシャーが僕に襲い掛かっている。
しかも、二人とも絶対気がついているはずなのに、反応を示さないから、僕は話題を振るに振れない。きっと社会人の方はこうやって神経をすり減らしていき、胃潰瘍などになってしまうのだろう。…社会人になるって怖いな。
女性プレイヤーの方もこの沈黙に耐え切れなくなってきたのか、視線をあっちこっちへと彷徨わせている。そんな僕達に救いの神が現れた。
「なんだ?そんな重苦しい空気出して。何かあったのか?」
裏路地から、ササが出てきたのである。
裏路地から出てきたササは、僕達の重苦しい空気を察すると、声を掛けてしまったことを後悔するように、少しずつ距離を取っていく。
「待って待って。声を掛けてきたって事は何か用があるって事だよね!?」
「いや、偶然。本当に偶然だ。ほら、私は急いでるから。それじゃあな」
「おいササ!!」
踵を返して立ち去ろうとするササの背中に、ウェイルズが声を掛ける。ササは振り返りつつも、少しずつ距離を取っていく。
「アリシアの事を頼んだぞ!!」
ウェイルズはそんなササの態度を気にも留めずに、そんなことを頼む。頼まれたササは、片手を軽く上げるてそれに答えると、裏路地へと消えていった。
「アリシアさんって確か、たまにクエストを出してくれる花屋のことでしたよね」
話題を見つけたとばかりに女性プレイヤーがウェイルズに質問をする。
「ああ、そうだが、なんでここにいる」
「そりゃあ、さっきの会話を聞いてたからな」
「・・・総指揮だったら広場で待機してた方がよかったんじゃね」
しまったといった感じの表情をした女性プレイヤーは、広場へと慌てて戻っていった。
「「・・・」」
「行かないの?」
「「・・・いいえ。行きます」」
僕とウェイルズさんはマドイさんに促されるままに門へと向かう。あの女性プレイヤーは何がしたかったんだろうか。でも、気にしたら負けな気がしてきた。
そんなことをしている間に門へとたどり着いた。門の内側には左右で一対の櫓が組み立てられていた。
「なあ、お前らもこれに登るか?こんなときに言うのもあれだが、遠くまで見渡せるから景色はいいぞ。敵の発見も出来るし」
「登る!」
「そ、そうか」
即答だった。即答でマドイさんが登ると答えた。即答過ぎてウェイルズさんが若干引いてしまっている。まあ…僕も登ってみたいけどさ。
そして、ウェイルズさんの後に付いて櫓を登っていく。なんだか思っていた以上に高さってあるんだな。まだ登っている途中なのに、下を駆け回っている人たちが、それなりに小さく見える。たぶん10~15メートルぐらいあるだろう。というか、この世界の文明レベルで、これだけのものを即興で作れるものなのか?
「ウェイルズさん。これってどうやって作ったんですか?」
「俺も詳しくは知らないが、森から取ってきた木を一度この形に彫り出すみたいなんだよ。それで次はその彫り出した櫓を、すぐに組み立てが出来るように穴を開けたり溝を彫ったりしながら解体するんだよ。だから、次に組み立てるときは手順に沿って組み上げるだけだから、割と簡単に出来るみたいだぞ。それなりに慣れたやつが5人がかりで2時間っていったところかな」
「…これだけの高さの物を2時間ですか」
この高さのものを2時間で建築するのは、やっぱりファンタジーのゲームならではなのかな。
そんなことを考えていると、先に櫓を登りきったマドイさんが僕に手を差し出してくる。しまった僕が先に上っていたら、僕がマドイさんを引き上げるというイベントが発生していたかもしれないのに。
過ぎ去ったことをクヨクヨ嘆いてもしかたがないと考え直し、素直にマドイさんの手を借りて櫓の上へと上がる。
そこには、太陽が森の向こう側に隠れてしまっており、その太陽光が木々の隙間から漏れ出ているため、それが幻想的な景色を生み出している。
僕はその光景に見とれてしまった。しかし、ウェイルズさんとマドイさんは別のものを見ていたようで、
「やったな。ドンピシャだ。モンスター共がうようよいるぜ」
そう言いながらウェイルズさんが指し示す方向には、森があり、その草原との境の辺りにゴブリンが集結している。ゴブリン将軍や、他にもまだ僕の見たことのないやたら巨大な図体をしたMOBが何体かいる。
「私はここから矢を放てばいい?」
「そうだな。敵がある程度近づいてきたらここから降りて、乱戦の少し外から矢を放ち続けてくれ。まあ、別に自由に動いてくれて構わないがな」
「別に大丈夫。その動きが一番効率的」
「それなら別に構わないんだが。じゃあ、俺は一足先に行くぜ。敵の姿も確認できたし」
ウェイルズさんはそう言うと、櫓を素早く降り始める。
「じゃあ、僕も行くよ。下の方が狙いがつけやすいし、何よりも消費MPの少ない魔法で長時間戦えるからね」
「分かった。無茶だけはしない」
「了解。じゃあ、行くね」
僕はマドイさんにそう告げると、櫓を降り始める。さすがにウェイルズさんほどスムーズには降りられないけど、たぶんそれなりの速度で降りられているはずだ。
門を出ると、情報が伝わり始めているのか、徐々にプレイヤー達が集まり始めていた。見知った顔は…まだ無いと。
マドイさんから急にフレンド通信が入ってきた。
「マドイさんどうしたの?」
『来た』
「来たって言うと…MOBが?」
『そう、でかいのを先行させてる』
確かに地響きが僅かだけどここまで届いている。そうか、始まったのか。
「マドイさんありがとう。それと、ウェイルズさんと連絡は?」
『取れる。これから行う』
そこでマドイさんとの通信を切る。さあ、僕としては初めてまともに参加する防衛戦だ。
視界の端にテキストが表示され、そこには『防衛クエスト【ファルフラムの町の防衛】が発生しました』と、表示されていた。
それを確認している間に、地響きが大きくなってきた。そろそろ新しい魔法の射程範囲に入るかな?でも、消費MPがそれなりに多いんだよね。今の僕だったら、たぶん最大値の3分の2は持っていかれてしまうだろう。しかし、こういうときにしか使い道の無い、防衛戦専用のロマン魔法のため、出し惜しみはなしで行こう。
「じゃあ、やりますか。『アイスフォール』」
僕は覚えたての魔法を大声で唱えた。




