始動
誰もいない休憩室で一人椅子に座り俯いていたシャルスールは色々と考え事をしていた。
私を乗せてくれたスラナラージの部隊の人は大丈夫だったのかな?私がいなくなって心配してないかな?
そこでシャルスールは苦笑いを浮かべた。
私を心配してくれる人なんて、一人もいないじゃない。…何故私が襲われるの?平穏に生きたいよ…。お父さん、お母さん。
シャルスールの瞳から涙が零れ落ちた。
「考え事?」
突如聞こえてきた声に驚き顔をあげた。そこにはスティーブが立っていた。シャルスールは慌てて涙を拭う。
「スティーブさん!…まあ、そんなとこです」
「君を送ってくれる人達が到着したよ。四聖官の所に行こう」
シャルスールは顔を伏せた。
「…はい」
小さくそう言ってからスティーブを見上げる。
「スティーブさん。本当にいいんでしょうか?本当に私をエマスグラスへ送ってくれるんでしょうか?私のせいで危険な目に遭うかもしれないんですよ!」
シャルスールの目は真っ直ぐスティーブを捉えていた。
「シャルスールちゃん、僕はきっと協力してくれると思う。彼等はこの惑星を救ってくれた人達なんだ。きっと君も救ってもらえる!」
真剣にそう言ったスティーブだが、少し照れた後、
「まあ僕が行くわけでもないんだけどね」と、付け加えた。
その後、まだ不安そうなシャルスールを連れ、聖官と話し合った部屋へと移動した。
そこには既に、レイド、シリア、ディオの姿があり、聖官も久々の再会を喜んでいた。スティーブも久々の再会に心を躍らせた。
「お、スティーブ。噂は聞いたぞ。随分成長したみたいだな!」
レイドが懐かしい笑顔を向けてくる。懐かしい、と言ってもほんの一年前帰って来た時にも会ったのだが、スティーブはそう感じた。
「まだまだ、これからですよ!」
「それよりスティーブ。この子ね。例の少女は」
シリアはシャルスールに目線を下ろした。
「相変わらずシリアさんはさばさばしてますね。そうです。この子をエマスグラスという惑星へ送ってほしいんです」
「名前は?」
スティーブの最初の言葉を敢えて流し、シャルスール自身に言葉をかけた。
「シャルスール。シャルスール・ミールメイラです」
シャルスールは緊張した面持ちで答えた。スティーブとの会話の中で、少なからず二人の特別的なオーラを感じていたのだ。
「じゃあシャルでいいな!これから少しばかり一緒になるんだから」
レイドの言葉にシャルスールとスティーブの表情が明るくなった。
「それじゃあレイドさん!送ってくれるんですか!?」
「あ?そういう話だったんだろ?」
首を傾げるレイドにジーマが口を開いた。
「実はだな……」
全員が椅子に座り、ジーマ、グラゼン、スティーブが中心になり、今までの経緯を話した。 真剣に聞いていたレイド達だが、その中で一つ気になるものがあった。
「宇宙海賊…?もしかして、ルーランデ?」
「確かそう言ってたな…」
グラゼンがシャルスールの方を見ると、驚いた様子で頷いた。
「ルーランデを知っているんですか?」
シャルスールが尋ねる。
「一度マラドールという惑星で逢ったことがあるわ。その時、色々話もしたんだけど、ルーランデが意味もなく襲ったりすると思う?」
シリアはレイドに顔を向けた。
「思えないな!宇宙海賊といっても俺達と同じように宇宙を旅しているだけの連中だ。そんな事をする奴らじゃ無いと思う」
「でも、現にスラナラージの宇宙船を襲ったのはルーランデでした」
シャルスールの言葉で少しの静寂が流れる。
「まあその事は後で考えましょう。それで?あなたは何故狙われているの?」
「………わかりません。」
そう言って俯き、ペンダントを握り締めた。
「そのペンダントは?」
シリアはシャルスールの首に掛けられ、今握り締めたペンダントに目を付けた。
そのペンダントにはとても綺麗とは言えない黒い石が付いている。それを大事そうにしているシャルスールが不思議だったのだ。
「これは、両親から貰った唯一の形見なんです」
「ということは、あなたの両親は……」
「……はい。一年前に、何者かに殺されました。私が家に帰ると、全てが壊されていたんです。それからです。私が謎の連中に狙われ始めたのは」
「そうだったの…」
シリアにはシャルスールの気持ちが痛いほど分かった。シリアも父親をあんな形で失っている。その時、レイドがいたから立ち直れたのだ。だが、今のシャルスールには頼れる人が近くにいない。何としても助けてあげたい。シリアはそう思っていた。
「――しでも…」
「え?」
シャルスールが何か口に出したがシリアには聞き取る事が出来なかった。
「そんな私でも!…皆さんはいいんですか!?危険な目に遭うかもしれないんですよ!」
シャルスールは涙ながらに言った。
シリアはそれに笑顔で返す。
「私達なら大丈夫よ。あなたは何も心配しなくていいわ」
「まあ俺達も暇人だからな。逆に嬉しいくらいだよ!楽しく行こうぜ、シャル!」
レイドもにやっと微笑んだ。
「あ、ありがとうございます!」
シャルの笑顔を見たレイドはよし!と言って立ち上がった。
「ディオ、シャルをレイリアの場所まで案内してやれ」
「了解。行こう、シャル」
ディオはシャルを促し、部屋を出て行った。
「…どう思う?」
シャルが出ていったのを確認した後、シリアがレイドに尋ねる。
「シャルスールを襲う謎の連中、そしてルーランデ海賊の行動。襲われる理由も分からない。この先、何もなければいいが……」
レイドは少し間をあけた後、
「良い予感はしない」
と険しい顔で言った。シリアもそれに頷いた。
「私達であの子を助けてあげられればいいんだけどね」
その後、ジーマとグラゼンに別れを告げ二人は部屋を出て行った。
☆
「これがレイリアだよ」
ディオ、シャル、スティーブはレイリアの前で足を止めた。シャルはそれをまじまじと見つめる。
「すごい…。でも、思ったより小さいんですね」
「機動力重視で造られたからね。高速空間移動も出来るし攻撃性も高い。最高の戦艦だよ!」
ディオが誇らしげにそう言った後、レイリアの中から四人の男女が出て来た。
「あら、スティーブ!久し振りね」
マラノアが笑顔で言った。
「お久し振りですね、皆さん。どうですか?宇宙の旅は?」
「なかなか楽しいぜ!マラドールと言う惑星も見つけたしな」
レイリアの一員、グラーノが言った。
半年前、レイリアは一つの惑星を見つけた。そこは五大惑星で言うとテトランスのような人の多い惑星で、技術レベルも大差ない。ルーランデと出会ったのもこのマラドールだ。
「それで、例の少女はこの子っすか?」
レイリアの一員、テイルが口を挟む。
スティーブはそうです、と言って簡単に経緯を話した。その後、簡単に自己紹介を済ませた。
イリーナはシャルのことが気に入った様子で、さっきからずっと頭を撫でている。
「本当に可愛い子ね。こんな子を娘にしたいわ!」
「イリーナじゃ無理だな!料理も出来ないし、部屋もあの状況だしな…」
グラーノはイリーナの部屋の様子を思い浮かべた。イリーナの部屋は服やら雑貨やらで足の踏み所も無い状態だ。おまけに不味く作ることのほうが難しい簡単な料理でさえ作れない。
それは全員が承知していることで、グラーノの言葉で静かに頷く。イリーナも必死に言い訳を考えるが無駄であった。
その様子を見ていたシャルは小さく笑った。
「皆さん、仲良いんですね」
シャルにはここ最近、こんな和んだ気持ちになることは無かった為、グラーノ達の普段の会話でさえとても新鮮に感じていた。
「自己紹介は終わったみたいだな」
「すぐに出発するから準備をして」
少し遅れてやって来たレイドとシリアの声で早々と行動に移るグラーノ達。二人もレイリアの中に入ろうとするが、スティーブが止めた。
「あの子、休憩室で独り泣いていたんです。お願いします!あの子を助けてあげて下さい!」
頭を下げるスティーブに、二人は顔を見合わせ笑みを浮かべる。
「分かってるわ。私達もそのつもりよ」
それだけ言うと二人はスティーブに背を向けた。スティーブはシャルの平穏を祈りながら離れていくレイリアを見送った。
申し訳ありませんが、行き詰まりと多忙な為に暫く更新出来ません。ご了承下さい。