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始まりの合図

「それでは、これにて解散します」

 テトランスの森では、モンスター退治を終えた第二部隊と警備部隊が森を抜けようとしていた。

 全員が強くなった実感があるのか、傷一つ無く笑顔で街へ戻ろうとしていた。その中の会話は、帰って一杯飲むか!などと、頭の中は戦いから抜け出していた。しかし、それは意外な出来事で引き戻されてしまう。

 突然、テトランスの森の中を激しい爆音のような音と揺れが包み込んだ。部隊員全員はとっさの事に驚き、頭を抱えその場に縮こまった。

 その音が鳴り止み、暫くの静寂が訪れた後、部隊員からは徐々に慌ただしい声が聞こえてきた。この出来事は普通じゃない。誰もがそう思っていただろう。

「全員静かに!一応行ってみるぞ!冷静になって、周囲にも警戒するんだ!」

 スティーブがその場を冷静にさせた後、森の奥へと足を進めた。

 そして、森の奥でその音の原因を見たスティーブは唖然とした。100メートル近くにわたって森の木が無惨に倒れ、その跡がずっと続き、スティーブの目の前には白い煙を上げる一人乗りの小型船が大きな木に当たり止まっていた。その小型船はこれだけの衝撃を受けながらも原型は保っていた。 

「第二部隊は小型船の調査。警備部隊はこの辺りの調査をしてくれ」

 スティーブの命令で驚いていた部隊員は直ぐに行動に移った。そしてスティーブは通信機を取り出した。

「四聖官!応答願います!」 その数十秒後、グラゼンが対応してきた。

「スティーブか。どうした?」

「グラゼン聖官。テトランスの森に小型船が墜落しました。」

「小型船?そんなものが宇宙に出たという報告は入っていないが…」

 グラゼンは不思議そうに声を出した。スティーブはゆっくりと小型船に近づき手を触れた。

 少し温かいのは墜落したことが原因だとしても、この素材は何だ!?

「いえ、恐らくこの五大惑星、又はジェルラードで造られたものではありません。映像も送ります」

 その映像を見たのか、ジーマが声を出した。

「未確認惑星から来たものかのぉ?技術レベルはどの位じゃ?」

「そうですね…。使われている素材は見たことのない物ですが、ジェルラードと同じ程度はあると思われます」

 そう言ってスティーブが小型船を一回りした時、突然音を出し、ハッチが開いた。

「全員下がれ!!」

 小型船を調べていた人達は作業を中止し、武器を構え距離を取った。

「ゴホッ、ゴホッ」 

「お、女の子…?」

 そこから出てきたのは、まだ16歳程度のあどけない少女だった。髪は長い桃色、服装もこの辺りでは見かけない。

 その少女は煙の中から這いつくばるように出て来ると、乱れた髪を整え、辺りを見回した。そこで武器を構えているスティーブ達に気付くと、ビクッと体を震わせ後ずさった。

 その子の瞳も、髪と同じ桃色だった。間違いなく五大惑星の人間ではない。部隊員は武器を構え、じわりじわりと少女に近付く。少女は桃色の瞳に涙を浮かべた。

「皆、武器を下げろ。怖がってる」

 スティーブはそう命令すると、少し距離を空けた場所でしゃがみ込み、笑顔を向けた。

「大丈夫だよ。何もしないから。君、名前は?」

 少女は喋らない。

「どこから来たの?」

 口を開かない。スティーブは少し困った表情を浮かべた。

「立てる?」

 その質問でやっと少女は頷き、すっと立ち上がった。

「聖官、取りあえずジェルラードに連れて行きます」

「……ああ。頼む」

「ここ……どこ?」

 その時、少女がやっと喋った。幼い声だったがしっかりと聞き取ることが出来た。スティーブは少しほっとした。

「ここはテトランス、ていう惑星だよ。こっちの事も、君の事も詳しく話をしたいから、ジェルラード、ていう惑星に移動したいんだけど…、一緒に来てくれるかな?」

 怖がらせないように優しく話すスティーブ。少女はそれにコクッ、と頷いた。

「よし!じゃあ行こう」

 スティーブは数人に調査を任せ、少女と一緒に森を出て行った。


      ☆


 ジェルラードへ戻ったスティーブは少女を連れ、四聖官の元へ向かった。

「聖官、連れて来ました」

「ご苦労じゃったな」

 その部屋にいたのはジーマとグラゼンの二人だけだった。聖官と言えども、ずっとジェルラードにいる訳ではないが、女性がいたほうが少女にとっても話しやすいだろう、と思っていたのだ。

「今日はお二人だけですか?」

「そうなんだ。ハーリーとダミアはヴァイラの方へ旅行に行ってな」

 グラゼンが苦笑いで答え、それを聞いたスティーブは肩を落とした。

「それで?戦艦の中では何か話したのか?」

「この五大惑星とジェルラードのことを話しておきました。」

「そうか。取りあえず、座ってくれ」

 俯いている少女を椅子に座らせると、スティーブはその隣に座った。ジーマとグラゼンはその正面に座ると、ジーマが一つ咳払いをした。

「それで、君の名前はなんて言うんじゃ?」

「あ、はい。シャルスールと言います」

 シャルスールは少し緊張気味に言葉を出した。

「それじゃあ、どこから来たんだ?」

 その質問で少し俯き、ゆっくりと口を開いた。

「私はスラナラージという惑星からエマスグラスと言われる惑星へ移動している最中だったんですけど、途中でルーランデに襲われたんです。私は他の乗客と同じように脱出用小型船に乗ったんですけど、操作が解らなくて…。一週間さまよった挙げ句、惑星の引力圏に入っちゃって……」

「それがテトランスだったのか…」

 スティーブが納得したように呟いた。

「そのルーランデ、というのは何じゃ?」

「ルーランデというのは私達の場所では名高い宇宙海賊です」

「その宇宙海賊が何故戦艦を襲うんだ?元々そんな過激な連中なのか?」

 ジェルラード付近では宇宙海賊というものを聞いたことが無い。その為、詳しく聞こうと思っていたが、シャルスールも分からない、と言った。

「でも、私は謎の組織にも狙われているんです。その為、エマスグラスの部隊が協力してくれる、と言ってきたのでその惑星に向かうところだったんです。でも、その組織に私がここにいることもいつかはバレてしまいます。そうなれば皆さんにも迷惑がかかります。その前に私はこの星を離れようと思うんです!お願いします。小型船を一機貸して貰えないでしょうか!?」

 シャルスールは徐々に熱が入り、涙ながらにそう訴えた。

 とても信じがたい話だが、今のシャルスールに嘘は微塵も感じなかった。何故狙われているのか?それを聞いたところで自分達には実際何も出来ない。そう思ったジーマは一つの選択をした。

「貸してあげてもいいんじゃが、話を聞く限り君に操縦は出来んだろう。出来たとしても、その組織に撃ち落とされるのは目に見えている」

「それは、そうですけど……」

 確かにジーマの言う通りだった。シャルスールは悲しそうに目を伏せた。

「と、言う事はじゃ。我々の方から送るしか方法は無い」

 その言葉でシャルスールは顔を上げジーマを見た。ジーマはスティーブの方へ目を移した。

「スティーブ、すまんがオペレーター室へ行って宇宙船、レイリアと連絡を取るように言って来てくれんか」

 その言葉でスティーブは勢い良く立ち上がった。

「聖官!それじゃあ…」

「うむ。それしかないじゃろう」

「分かりました!今すぐそう言って来ます!」

 スティーブは笑顔で駆け出して行った。シャルスールにはその笑顔が何なのかわからなかった。

「心使いは有り難いですけど、皆さんに危険が…」

「確かに危険じゃが、彼等なら引き受けてくれる筈じゃ」

「何故狙われているか、などはその時に話してくれればいい。今はゆっくりしとくんだ」

「……はい」

 シャルスールは、嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちの両方でそう小さく返事をした。そして、首に掛けていたペンダントをギュッと握り締めた。

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