eight sixth story
唇が離れて、龍崎の顔がゆっくりと離れていった。
たった3秒ぐらいの、少しぎこちないキスだったけど、私の顔は真っ赤になった。
また、龍崎の顔も。
「龍崎って、あんまり経験なさそうだね。」
恥ずかしくて、少し話題を変える。
言ってから思ったけど、これであるって答えられたらショックだ。
少し、心配しながら龍崎を見つめる。
さっきのキスでまだなってる心臓が邪魔で、読み取れない。
「経験がないって・・・、いや、あるのか?」
ガッビ〜ン
私の胸に何かが刺さった。
「そりゃ、昔から夜うろついてたから・・・、逆ナンとかにも会ったことあるし、名前も聞かないで付き合ったこともあるし・・・。」
逆ナン
名前不明で付き合った
そりゃ、龍崎は町を歩いたら周りにいる女の子が騒ぎ出すぐらい、イケメンだしさ・・・。
でも・・・、なんか、嫌だなぁ・・・。
「まぁ、ぜんぜん続かなかったし・・・、それに・・・・・・・・・・・・・るんだよ。」
「え?」
龍崎は本当に本当に聞き取れない声で何かを言った。
「だぁかぁらぁ〜、ほっ、本当に好きな奴とすんのは・・、緊張すんだよ!そんぐらい分かれアホが!!」
少し赤くなった顔を私からそらして、デコピンを食らわす龍崎。
そのデコピンは結構痛かったけれど、嬉しかった。
私だけがどきどきしてたんじゃないんだ・・。
「えへへへ〜。」
「なんだよ、気持ち悪い。」
不気味な笑い声と共に、腕に抱きついたけど、龍崎は言葉だけで、拒否らなかった。
数分後、洗い物を終えた龍崎は、手を拭きながら私をじぃっと見て来た。
「なにさ?」
「いや・・・、じゃぁ、俺、そろそろ帰るわ。」
・・・。
かえる?
そうだよ。ここは私の家なんだよね?
龍崎だって帰らなくちゃいけないんだよね。
でも、まだ・・・、
私は振り返って時計を見る。
11時を指していた。
もう・・、遅いじゃん・・・。
「かえらなくちゃ駄目?」
「あ〜・・・、駄目じゃね?」
「なんで?」
「いや、だって、俺、男だし。それに、綾子さんだっけ?あの人からも。『奈緒に、変態行為とかしたら・・・、殺すよ?』って、言われたし。」
龍崎はそういって、少し目をそらす。
変態行為・・・?
「っ!!」
顔が暑くなった。
何言ってんの!!
あのお方は!!!
龍崎は私のおでこを、ピンと弾いて笑う。
目を細めて、柔らかに。
「何考えてんの?・・・変態。」
「な゛っっ!!何も考えてないっっ!!!」
私は、恥ずかしさのあまり、龍崎に向かって腕を振り上げる。
でも、その腕はあっという間に捕まれてしまった。
「ば〜か、・・・、じゃ、また明日、学校で。明日は避けんなよ?」
掴んだ私の手を、優しく下ろすとその手で私の頭をなぜる。
「避けないよ・・・。」
私は、まだ目をそらしたままだった。
龍崎はくくっと、笑って、玄関へと歩いていった。
靴を履き替える音がしたとき、私は玄関まで走った。
「ん?なんか――――」
龍崎がそういい終わらないうちに私は抱きついた。
「おわっっ!」
龍崎からは驚いたような感じがした。
自分の体を通して、龍崎の心臓の音が聞こえてくる。
私と同じぐらいドキドキしてた。
龍崎の香りを吸い込みながら、少しだけ目を閉じる。
そして、ゆっくり離れた。
「ありがと。ちょっと栄養補給。」
少し、涙が出てきて、それを隠すように少し大げさに笑った。
「ごめん。寂しかったら連絡しろよ?電話番号知ってるだろ?あと、頑張れ。」
そういって、また私の頭を叩く。
龍崎には何でもお見通しなんだね。
少し、一人でこの家にいるのが寂しいことも。
綾子さん達のことをお母さんって呼んでみようとしてることも。
「うん。」
龍崎は最後に、私をもう一度抱きしめた。
そして、歩く手を振って、帰っていった。
家は暗くて、寂しくて。
一人って、こんなに寂しかったっけ?
私はそれをごまかすために、テレビをつけた。
片耳に、イヤホンもつけて音楽を聴く。
それでも、寂しさは消えなかった。
少し、うとうとしだした頃、携帯が青の光を照らしながら、メールの着信を知らせた。
大急ぎで携帯を開くと、
『今、家に着いた。
面白いもん見つけたから送る。』
と、言う文と、共に、写真がつけてあった。
開けると、直哉さんのよだれをたらした寝顔が写っていて、笑ってしまった。
私はそのメールを胸に、二階へと上がり、布団にもぐりこんだ。
家の中の暗さも、静かさも変わらなかったけれど、なんだかどこかがとても温かかった。
遅くなってしまい、申し訳ございません!!