seventy nineth story
「ねぇ、お母さん。」
「何?」
ペットリと、お母さんにくっつく。
お母さんの背中は暖かいんだぁ・・・。
「何困ってるの?」
「えっ?」
お母さんは、悩んでる。
そんな感じが、奈緒の心に来るの。
「・・・・・あら、よっ、よく分かったわね?」
お母さんの顔が引きつる。
どうしたのかな?
奈緒は心配だよ。
こういうことが何度もあった。
奈緒が感じたことを問いたずねると、お母さんは変なものでも見るかのような顔をする。
奈緒、何かおかしいの?
皆、同じでしょ?
「奈緒ちゃん、気持ち悪〜い。」
お友達の佳奈ちゃんに幼稚園に上がってから言われた。
気持ち悪いんだって。
なんで?
奈緒は、いつもみたいに感じたことを言っただけだよ?
なんで、気持ち悪いの?
「ねぇ、お父さん・・・。」
「おっ?奈緒か・・。どうした?」
「何してたの?」
「はっ?」
お父さんから、気持ちの悪い感じがした。
お母さんとは違う人と一緒にいたような・・、なんか、背中がぞわってくるの。
「・・・・、なんで?」
いつの間にか、お母さんも、お父さんも、奈緒に話しかけなくなった。
汚い虫でも見るかのような目で見るようになった。
近づかなくなった。
奈緒が近くに行ったら、怒鳴ったり、叩かれたりするようになった。
嫌いって、感じた。
奈緒は、他の人とは違うみたい。
人の気持ちが分かるのって、おかしいんだって。
お母さんも、お父さんも、佳奈ちゃんも、フミチャンも、美沙子先生も、たかくんも、奈緒が嫌いなんだって、気持ち悪いんだって。
ねぇ、奈緒どうしたらいい?
家でも、幼稚園でも一人だった。
でも、寂しくなかった。
寝てる時のお父さんやお母さんは、奈緒を叩いたり、怒ったりしなかったから。
夜、そっと、お父さんやお母さんの布団に潜り込むんだ。
ちょっと、ちょっとだけ悲しかったけど、奈緒が悪いんだよね?皆と違うから・・。
「ただいまぁ〜・・・」
重い木のドアを、一人で開ける。
前には、お父さんとお母さんがいた。
大きな荷物を持って。
「・・・・・、どっ、どこか行くの?」
叩かれそうで、少し離れて聞いた。
「気持ち悪い。近寄らないで?」
ドンッ。
お母さんに肩を押されて、私は床に倒れこんだ。
「お前みたいな子、要らなかった。」
お父さんに睨まれた。
嫌い
嫌い
嫌い
嫌い
嫌い
嫌い
嫌い
気持ち悪い
なんで?
奈緒、そんなに悪い子だった?
お遊戯も、お絵かきも、皆より頑張ったんだよ?
奈緒、お母さんとお父さんが大好きなのに・・・。
ドアをでようとするお母さんの服のすそを掴む。
「触らないで。」
ペシンと、振り払われた。
お母さんと、お父さんは、そのまま行ってしまった。
痛いよ。
手が、痛いよぉ・・・・。
「君!大丈夫?はやくっ!救急車!!」
何日ぐらい経ったのかな?
奈緒は動けなかった。
悲しかった。
誰もいない家に上がるのはいやだった。
でも、外に行くのもいやだった。
薄れる景色の中で、おまわりさんが奈緒をゆすってた。