seventy eight story 存在
ガタ
写真を持ったまま棚にもたれかかる神田。
その目はまだ写真に向いていた。
「さて、問題です。この中で、私のお父さんと、お母さんはどれでしょう?」
神田は手に持っていた写真を、俺のほうへ向けた。
声は、いつもと変わりなかったが、何かが違った。
「はっ・・・?」
何がしたいのか分からない。
そんなん、この写真のなかでそれっぽいのは、あの女とみこを挟んでる男だ。
だいぶ若すぎるのが気になるが。
「コイツか?」
俺はそいつらを指す。
神田は苦笑いをした。
「ぶぶ〜。ざんねんっ!正解は、この中にはいない!でした。」
神田は、写真をがたんと棚の上に戻す。
居ない
そうじゃないかとは思っていたけど、その言葉は胸に刺さった。
「この人たちは、私の本当のお母さん達じゃないんだ。」
「・・・・いま、なんて?」
別に、耳が悪いわけじゃない。
でも、神田が言ったことをあまり信じたくなかった。
「私は、養子なんだ。」
神田がくるっっと、そっぽを向く。
「あは、引いた?こんな、複雑なんしょってたら。」
後ろを向いてるから、どんな顔なのか分からない。
ただ、その声はどう聞いたって、涙声だった。
「わたし、幸せだったよ。別れるんだったら、今のうちなんだか・・・・っ!」
俺は神田を後ろから抱きしめた。
神田はそれを予想していなかったのか、ビクッっと、肩を震わせた。
「阿呆。おまえ、とことん馬鹿だ。俺がそんなこと嫌いになるかよ。」
俺は、ぎゅっと抱きしめる。
「・・・・・。っ。」
神田も、俺の腕をぎゅっと握った。
「お母さん・・・・私が5才のとき、私を・・・捨てて・・・行っちゃったんだ。どっかに。」
泣いてるのだろう。
言葉は途切れ途切れだたが、一生懸命に話そうとしていた。
「私さ・・・感情?みたいなの、分かるじゃん・・・。っ、それ。生まれた頃から・・・だったらしくてぇ・・・。お母さんも、お父さんも・・・・気持ち悪いって・・・。」
ポタ ポタ
と、俺の手に水滴が落ちてくる。
「それで・・。何回か・・・叩かれたり・・・怒鳴られたり・・・。それで・・・5才のとき・・・・で・・・ていっちゃったんだ。」
腕の中にいる細い肩は、小さく震えていた。
「しばらくして、警察に見つかって・・2年ぐらい、孤児院?みたいな・・・ところにいて・・・、拾われたんだ。この人達に・・。」
「この人たち・・・、子供が、好きなのに・・・、医者から、妊娠は・・難しいって、言われたんだって。だから・・・私を引き取ったんだって・・。・・・・それでも、幸せだった。必要とされてるんだって・・・、でも。みこちゃんが生まれて・・・、私は・・・必要ないんだって・・、居づらくなったの・・。いままで、好きだったこの家も、この香りも・・・違うの。」
腕を掴む手に力がこもる。
肩を震わせて泣く神田を、俺は強く抱きしめるしか出来なかった。
「っっ・・・、怖かったの。存在が消されそうで・・・。」
ぎゅっと、ぎゅっと、神田を抱きしめる。
いつまでも、神田は俺の腕の中で泣き続けた。
気のせいだろうケド、俺の視界もぼやけていた。
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