seventy sixth story 捕獲完了
『明日はねぇ・・・、私達、旅行に行く日なの。奈緒は来ないみたいだけど・・・。だから、明日は家の中で待っててもいいわよ。鍵、貸してあげる。』
昨日家の前であいつを待ってたときにいわれた言葉。
無理やり押し付けられたような鍵を見て、俺はその女の人を少し可笑しいんじゃないかと思った。
2週間近く、家の前で娘を待ってるから顔が分かるといったって。
名前が分かるといったって、こんな他人に簡単に鍵を渡すなんて・・・・。
どんだけ無防備なんだよ?
でも、それで神田に会える確立が少しでも高くなるんだったら・・・、と、俺はありがたく鍵を受け取ることにした。
そして今、その鍵を手に、神田の家の前に来た。
今までの様子から、神田が家に帰りたがらないのは家族のことでだろう。
そして、その家族のいない今日、いつ神田が帰ってくるか定かでない俺は、朝の10時ごろから待ち伏せてみた。
やっと、神田が帰ってきたのは4時30分ごろだった。
「あっ、あら・・・、龍崎くん・・・。お早いおつきで・・。」
そういいながら、後ずさりする神田に少しムカついた。
何で避けんだよ・・・・。
俺は、神田の腕をつかむ。
神田は一瞬驚いたような顔をして、次に不思議そうな顔をした。
でも、俺はそんな神田の顔の変化にかまっているほどの、余裕は無かった。
会えた嬉しさと、避けられてる悔しさと、焦りが俺の中で渦巻いていた。
「・・・・・・龍崎・・・。」
神田が俺をみながら言う。
「ごめん、私、まだ・・・・・・・・・・・・・・おめでとうって、いえないや。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?
何言ってるのかつかめなくて、神田を凝視していると、神田の顔は見る見るうちに赤くなっていった。
「・・・っ!いや・・、そのね・・・、別に言いたくないってわけじゃないけど・・、自分の気持ちに整理が付いてないっていうか・・・、あっ!あれ、その、龍崎が好きって事じゃないから、恵里は大事にして欲しい・・、あれ、服の襟じゃないよ。・・・・。」
神田は一瞬と待って、少し息を吸い込んだ。
「決して、好きだから認めたくないとかじゃないから!!」
ばっかじゃねーの?
そんな赤い顔して、動揺して、好きじゃないわけ無いだろ、俺のこと。
涙目になって訴える神田を、俺は抱きしめた。
「ほわっ!!」
意味不明な奇声を上げたが、俺は気にせず抱きしめた。
「いや、あの、龍崎?」
俺はいったん、腕の中でバタバタする神田から離れると、家のほうへ向かって引っ張った。
でかすぎる、ドアの前で、女の人にもらった鍵をドアに突き刺した。
ガチャリという音が鳴って、ドアがギィッと、重い音をたててあいた。
「何で、鍵持ってんの?」
神田の声を、俺は無視する。
でかい玄関で靴を脱ぐと、一番近い部屋に引っ張った。
そこはどうやらリビングのようだ。
豪華なソファーや、テレビ、・・・いろんなものがきれいに置いてあった。
ソファーに神田を無理やり座らせると、俺は逃げられないように手をつかむ。
「話を・・・聞け。」
神田が泣きそうな顔になる。
結局無理やりじゃん。
少し自分で自分を責めてみる。
でも、言わなきゃいけないことだから。
俺は話しだした。
「俺の大切な奴は・・・・・・お前だ、馬鹿。」