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sixty sixth story


「・・・・奈緒、早く顔洗ってきたら?」


水性だから、すぐ落ちるよ。と、優香はため息交じりで言ってきた。


周りからは、くすくすと笑い声が聞こえた。



「うん。行ってくる。」


私はスクッと立ち上がって、トイレへと向かった。


廊下は生徒達でにぎわっていたけど、私が現れた瞬間静まって、その後笑い出した。



「・・・・失礼な・・・。」


笑う気持ちも分かるけど、失礼だ・・。




私はトイレまで走った。



あと少しでトイレ!!

私は少しスピードをあげる。


後3メートル


2メートル


いちっ・・・・・どすっ!




「・・・いったぁ・・・。」


どうやら私は、後一歩のときに、誰かにぶつかって跳ね飛ばされたらしい。


痛むお尻をさすって、恐る恐る顔を上げた。


「あっ・・・神田。わりぃ。」


「・・・・・・龍崎じゃん!」


私は勢いよく立ち上がった。



「・・・・屋上には・・・もう、行ったの?」


怖いなぁ・・。


聞きたいけど、聞きたくない。


「屋上?ああ、今からだけど?」


「そっかぁ・・。」


良かった。

心臓がバクバク言っていた。


「だから、大丈夫だって。何があっても、俺は・・・え〜っと・・・。」


「?なに?」


片手を頭に回して、目を合わせず、少し顔を赤くして龍崎はごにょごにょ言っている。


≪・・・龍崎じゃん!カッコイイけど、怖いね・・・。≫


≪うわっ!何で来てんの?あいつ。≫


≪・・・目合わせたら・・・殺される・・・。≫



龍崎が何考えてるのか、知りたかったけど、回りの生徒のぼそぼそ声や恐怖の感情が強すぎて、分からない。



だまれよ!こんちくしょ〜!!


そう叫ぼうかと思ったとき、



「・・・・お前を信じるから。」


「えっ・・・。」



信じられない小さな声で、赤い顔で、龍崎は必死に言っていた。



「うん!龍崎、顔赤いよぉぉ」


「な゛!!うるさい!お前こそ、顔中落書きだらけだぞっっ!!」


・・・・・・・・・・・あっ!


「忘れてたっっ!」



顔の温度が急上昇して、私はトイレに駆け込んだ。


ドアの外から、バーカという声が聞こえて、私はドアを軽く?蹴った。


2、3回顔を洗っても、なぜか≪肉≫だけはなかなか取れなかった。


私は、水を諦めてハンカチを取り出してこすった。



「龍崎の照れた顔、可愛かったなぁ・・・。」


鏡に映る、思い出し笑いをしている私の顔は、少し不気味だった。


それでも、龍崎の顔を思いだしてはにやけていた。




『なに?さっきの龍崎の顔!!』

『めっちゃ、赤くて可愛かったんだけどっっ!!』

『うわっ、やばいね。』


外で、こんな会話がされていることに気づかずに・・・。
















どうやら、おでこに書かれた≪肉≫だけは油性ペンだったそうだ。


どうりで何やっても消えないわけだ。



私は前髪で何とか文字を隠した。


今日体躯が無いのが唯一の救いだった。





龍崎、屋上に行ったのかな・・・?


時間が進むにつれ、どんどん不安になっていく。

私が走って屋上に行って、恵里の告白を止めさせられればいいのかもしれない。


でも、それは出来なかった。
























「起立、姿勢、礼。」


日直がそう声をかけて、授業が全て終わった。


私は、荷物も用意せず、教室を飛び出した。


屋上に向かって。








屋上と校舎を区切る鉄の扉。

私は深呼吸をして、ノブに手をかける。


ゆっくり開けると、明るい光と共に信じられない光景が目に飛び込んできた。












少し赤みを帯びた光の中で、恵里が龍崎に抱きついていた。


まるで、恋人同士の様に。



たった10秒の時間が、私にはとてつもなく長く感じた。


ゆっくりと恵里が、龍崎から離れた。


その後、恵里と龍崎は何か喋って、恵里は手を振っていた。


まるで、恋人同士のように。


私はドアを閉めて、階段の裏に隠れた。


すぐ後に、恵里が屋上から出てきて、何事も無かったように階段を下りていった。


どうやら私には気づいてなかったようだ。



私は恵里の姿が視界から消えるまで動かなかった。


動けなかった。








恵里がいなくなった後、私はもう一度深呼吸をした。


そして、またひんやりとしたドアノブを握った。







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