sixty third story
俺はその熱が広がる前にそぉっと、手を離した。
神田が、一瞬不思議そうな顔をした。
不自然だったか?
「あ〜・・・。お前何してんだ?」
場を変えようと思って、別の話題を口にする。
「・・・・・・・ご飯買いに・・・。」
どんどん声が小さくなってるのは気のせいか?
嘘付いてるな、コイツ・・・。
神田とは、そんなに長い付き合いじゃないけど、分かる。
声がどんどん小さくなって、目をあわさない。
本当に分かりやすい。
「嘘付け。」
俺はそういって。神田の頭をコツク。
「嘘じゃないかもしれない・・・けど、嘘かもしれない・・・。」
でこをさすりながら言うその言葉に、どっちだよと、思わず突っ込んだ。
行こうと言ったわけでもなく、目的地があるわけでもなく、俺たちはいつの間にか並んで歩いていた。
「龍崎、お母さんの調子はどう?」
「ああ、だいぶ良い。もう少ししたら、退院だって。あのひと・・・お袋、お前に会いたがってた。何したんだ?」
・・・・知ってるけど。
でも、俺の言葉で顔が真っ青になっていく神田を見るのは楽しい。
「あっ、えっと、あの、神田さんは、顔が見れないようなことをしてしまって、あのっ。・・・・・なに、笑ってんの?」
「えっ?ああ、わりぃ、笑ってた?」
ムキ―――!!
ボコボコと赤い顔して俺を殴ってくる神田。
Mじゃないけど、少し楽しい。
この時間が続けばいいのに。
「あっ、そうだ。お前、田上と喧嘩してたのか?」
手紙のことを思い出して言うと、神田は目を見開いて黙った。
まだ、喧嘩中か?
でも、仲直りしたって・・・。
「・・・・もしかして呼び出された・・・?」
口が半開きのまま問いかけてくる神田。
アホ面だった。
「呼び出し・・・、まぁ、された。」
あんぐりと口を開ける。
その姿は固まっていて、指でつついたら倒れてしまいそうだった。
「・・・・・ぃで。」
「何?」
「行かないで!!」
―――行かないで?
なんで?
何で、そんな涙目になるわけ?
田上は何かたくらんでるのか?
「・・・わかっ「やっぱ、行って!!」
――た。
と、言う前に覆された意見。
なんなんだ?
「・・・行かないで・・やっぱ、行って!でも・・・、うぅ〜・・・。」
最後には頭を抱えてしゃがみこむ始末。
「お前は何を知ってるんだ?」
ガバッっと、顔を上げた。
でも、その口はパクパク動くだけで、音を発しない。
「・・・・はぁぁぁ・・。・・・一応いく。何考えてるか知らないけど、心配するな。」
だいぶ前に神田が言っていた、人の感情が分かる能力?みたいなのが、今本気で欲しかった。
ポスポスと、頭をなぜると、神田は何か不安を残したような顔でまたひざに顔を埋めた。
「・・・龍崎は何でここに居たの?」
さっきまでのパニックは何処に行ったのか、けろっとした顔で聞いてきた。
そういえば、何でだっけ・・・?
ナ オ ヤ
忘れてた。
俺は神田に一言言って、コンビニへと戻って朝飯を買った。
戻ると案の定、ナオヤが泣きながら俺の帰りを待っていた。
そして、昨日のことなんか忘れたように俺を責めてきた。
用に見えたけど・・・
机の上には、ごめんなさいと、面白くするために俺には黙っていたと、いう変な文章が書かれた手紙が乗っていた。