fifty nineth story
「なんだよ〜それ?ラブレター?うわっ!!奈緒ちゃんというものがありながら・・・・見損なったわっっ!!」
家に入ったとたん、直哉に手紙をとられ、ご丁寧に朗読された。
「お前、だまされてたの?あっ、あれか。キャッチセールスとか、詐欺とかに騙され易いタイプ。」
違げーよ、馬鹿。
俺はそういって、直哉から手紙を取り返した。
「てか、いつ起きたんだよ。」
俺が新聞取りに行くまで、寝ていた直哉。
でも、俺が部屋から出て5分にも満たない間に、直哉は起きていた。
「いや、お腹が減りすぎて・・・。つーことで、ご飯まだ?」
っ!!
危ない、手が出そうだった。
俺は、肩の上まで上がった手を無理やり収めた。
居候野郎め。
ドンだけ勝手な動きをすれば、気が済むんだ・・・。
「あっちに座ってろっ。」
俺は、リビングの机の方を指差して、キッチンの方へと言った。
小学生の頃から、お腹が減ったら自分で作る。の習慣が身についていた俺は、ご飯を作るのにあまり抵抗は無かった。
「いっただっきまぁぁぁぁす♪」
こんがり焼けたトースト。ベーコンの上に乗ってある目玉焼き。トマトとキャベツのサラダ。ヨーグルト。牛乳。
冷蔵庫の中のものを適当に作ったから、賞味期限の保証は無い。
でも、こいつだったら腹を壊すことは無いだろう。
俺は目の前で、肉食獣のようにかぶりついてる直哉を見つめた。
「何?俺に惚れた?」
「・・・・いっぺん死ね。」
「冗談だっつーに!!」
俺は、トーストにかぶりついた。
何もつけてないそれは、あまり美味しいと言えなかった。
「それで足りるのか?」
直哉が俺のパンを見ながら言う。
いや、後全部賞味期限怪しいから。
俺は声には出さず、そう答えた。
「でさ、月曜日、恵里ちゃんって子に会うの?」
「・・・・・・。」
まるで女子高生のように頬を赤らめながら言う。
そのすがたは、恐ろしくキモかった。
「奈緒ちゃんが居るのに・・・・浮気か!この野郎!!」
馬鹿なことを言う直哉をほっといて、俺は食べ終わった食器を台所に持って行った。
「神田とは、そういう関係じゃない。」
少し、自分に言い聞かせるために言った事なのに、直哉には聞こえていたようだった。
「えっ!!そうなのかっっ!まだ、友達かよ〜。」
そう、つまらなそうに叫んで、俺に背を向け何かをぼそぼそと呟いていた。
「・・・じゃぁ、俺、病院に行ってくるから。誰か来ても、開けるなよ。電話にも出るなよ。」
これ以上、こんなうじ虫みたいな野郎相手にしてても疲れるだけだし、あの人の服を持っていかなくちゃいけないから、俺は靴をはいた。
「・・・行ってきます。・・・って、離せよ。」
立ち上がった時に後ろに感じる重み。
直哉が俺の服のすそを握っていた。
「俺も、・・・・行く。お母さんに挨拶しに行く。」
・・・・なんでだよ!
俺はそう突っ込みかけたが、そうすれば、きっとこいつはもっと駄々こねるだけだろうから、止めた。
「じゃあ、荷物持ちならいい。」
俺は、隣に置いていた大きなバックを指差す。
よっぽど行きたいのか、直哉はそれを素直に持ち上げた。
直哉の車で行くことになって、俺は後ろの席に乗ろうとしたが、直哉に助手席に引っ張られた。
直哉の車には、どこか優しい女物の幸水の匂いがした。