fifty third story
病院のドアをくぐると、冬の冷たい風が俺に降りかかってきた。
それはハリのようにちくちくと刺してきて、俺は慌ててフードをかぶった。
ふと、後ろを振り返るとあの人の居る病室の窓が開いていて、そこからあの人が身を乗り出しながら手を振っていた。
俺は、右手を少し持ち上げて軽く振った。
そして、そのまま歩き出した。
人から見れば、変な光景かもしれない。
それでも、俺は少し嬉しかった。
さっきまで、痛いほど感じていた風が、優しく感じた。
寄り道をしたせいか、家に着く頃、辺りは暗くなっていた。
あの曲がり角を曲がれば、着く。
俺は、家の鍵を指でくるくる回す。
「・・・・・・は?」
ガチョン
不気味な音をたてて、鍵が地面に落ちた。
俺の目の前には、見慣れたくらい家と、その前にドカンと置いてある赤いスポーツカー。
その車は、3年前のみたものと同じだった。
「・・・・・まさかな。」
俺は鼻で笑って、落ちた鍵を拾おうと腰をかがめた。
・・・・・・・無い。
・・・・・・・・・・鍵がない。
さっき、そこに落とした。はずの鍵がない。
俺は視界を広げるため、腰を上げる。
ぞわわ
まさに、背中の真ん中を指でなぞられる感覚と共に、
「よお、少年。お探し物はこれかい?」
聞き覚えのある声と、鍵がオレの目の前に現れた。
「・・・・・・・・。」
夢だ。
悪夢だ。
幻覚だ。
幻聴だ。
俺は鍵をりんごをもぐようにむしりとり、そのまま家に向かって走り出した。
はず。
でもそれは一本の手によって実行されなかった。
ゆっくり後ろを向くと、あの顔があった。
「何逃げようとしてるのかなぁ?馨。」
3年前、俺を人間不信にした奴がにまぁと笑っていた。
「・・・・・・・・。」
「なんか言えよ。」
「ダレデスカ アナタ カワイイコドモナラ ココニハ イマセン ユウカイハ ホカヲアタッテクダサイ 」
俺は見事強弱をつけずに言うことができた。
「何だよその片言は!?つーかしっかり覚えてんじゃネーか!!」
そういうと直哉は俺の頭をぐりぐりしてきた。
「いっ」
あまりの痛さに、俺は声が出なかった。
「へぇぇ。ホントに仲良かったんだ。直哉さんと、龍崎。」
その声と共に、神田がスポーツカーから出てきた。
「あの子、お前の彼女?公園でぼおっとしてたから、保護してきた。」
ニヤニヤと笑いながら直哉は俺を見る。
「・・・・あんた、そういう趣味もあったのか。」
俺は冷たい眼を向けた。