fourty sixth story
朝日が眼にしみる。
薄明るい道に人影は見えない。
あと少し。
あと少しで馨君の家。
優香が屋上に来た日から、私は屋上に行ってない。
もう、馨君は来ないだろうから。
無駄な感じがしてきたから。
孤独感に押しつぶされそうになったから。
何で奈緒は一人で待ち続けられたんだろう?
何で、奈緒似は出来て、私には出来ないの?
優香は私にどうして欲しかったの?
屋上に行かなくなっても、馨君には会いたかった。
会って、仲良くなりたかった。
だって、好きなんだから。
馨君の家の前にたどり着き、一番に目に付いたのは、おばさんたちの軍団だった。
こんなに朝早いのに、ぺちゃくちゃ喋っている。
その表情から、あまりいい事ではないのだろうということだけが感じられた。
『やっぱりねぇ・・・。前々から、おかしいと思ってたのよ。』
『離婚寸前だったんでしょ?』
『あの人の旦那さん、この前若い女の人と手を組んで歩いてたわよ。』
『時々、お皿を投げつけるような音が聞こえたのよ。』
かすかに聞こえる言葉に、私は嫌な予感がした。
「あの〜・・・。ココの方、どうかされたんですか?」
一番近くに居た口の軽そうなおばさんに聞く。
案の定、嬉しそうに喋りだした。
「ココの奥さん、倒れて、たった今病院に運ばれたのよ。ココの人たち、とっても仲悪くてねぇ・・・。」
そのままほうっておくと、永遠に喋りそうな勢いだった。
「あの・・・。何処の病院だかわかりますか?」
「ええ・・・。確か・・・本村病院って、行ってたけど・・・。どうする気?貴女・・・って、ちょっと!」
私は最後まで聞かずに、走り出した。
本村病院なら走って12分。
私は走った。
だって、お母さんが倒れて不安な馨君に、優しい言葉を掛けたら・・・きっと・・ううん。絶対仲良くなれる。
待ち望んでたチャンスなんだもん。
緩みそうな顔を必死に我慢して走る。
そこまで、運動が得意ではないけれど、全然疲れなかった。
「すみません。龍崎 早苗さんは何処にいらっしゃるのでしょうか?」
名前はさっき、馨君の家で確認してきた。
「えぇっと、確か、102です。・・・・失礼ですが、お名前は・・・?」
「龍崎 恵里です。娘なんです。」
良かった。受付のナースが、新米で。
私は、102号室を目指して走った。
この病院には、かつておばあちゃんが入院してたから、道には問題なかった。
顔は緩んでいた。
この角を曲がれば、102号室があるロビーのようなところに出る。
私は嬉しさでいっぱいだった。
でも、それはもろくも崩れた。
「なんで・・・。何で奈緒が居るの?」
目の前に、馨君と奈緒が抱きあって、泣いていた。
まるで、恋人同士のように。
「なんで?私は・・・引き離したのに・・・。あの二人を。騙して・・・。」
私はもと来た道を帰り始めた。