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おまけの話〜3〜

「俺・・・あの人・・・。」


言葉が続かない。

ドクン。ドクン。という音が、体中をめぐっていた。


怖い。俺は、言ってもいいのだろうか?

こいつに話してもいいんだろうか?


自分の中で自問してみるが、答えは返ってこなかった。



ポス ポス


直哉は俺の頭を叩くように撫ぜてきた。

久しぶりに感じる感触に、少し戸惑った。



「言えない事か?そうだったら、別に言わなくてもいいぞ。」


直哉は、優しくそう言った。



気がつけば、頬に水が流れていた。

ゆっくりと流れていった。



「おわっ!泣くなよ!!」


俺の涙に気づいた直哉は、慌ててベンチの方に戻った。

そして、ダッコの状態のまま座った。


きっと、何したらいいか分からなかったんだろう。



「あの人たちが、怖いんだ・・。」


話すことにした。

と、いうより聞いて欲しかった。



あの人たちが喧嘩をするようになった事。

あの人たちが俺を見てくれなくなった事。

あの人たちが俺を忘れていく事。


―自分が壊れていく事―






全て話し終わったとき、俺は眼を開けてても何も見えないぐらい泣いていた。


その顔を直哉に見られたくなくて、そのままうつむいていた。



「・・・・ガキだな。」


「!!」


ふつー、こうゆう時は励ましたりするんじゃないのか?


「要するに、かまって欲しいって事だろ?ガキじゃん。」


分かってる。分かってるけど・・・・。


「お前はガキなんだから、溜め込むなよ。今俺に言ったみたいに、父ちゃんや母ちゃんに言えよ。ガキはガキらしく、我侭言ってればいいだろ。この、生意気ボーズがっ!」


そういいながら、直哉は俺の頭をぐりぐりしてきた。


ムカつく・・・はずなのに、何も言えなかった。

ただ、涙を止めようとギュッと、眼をつぶるだけだった。




「しょうがない。俺の個人情報も、漏らしてやろう。」


ちらっっと直哉を見てみると、無理やり笑ったような顔だった。



「俺も、薬使ってたんだ。高校受験に失敗して、いろんな奴らから馬鹿にされたり、見捨てられたりしてさ。もう、今のお前のような状態だった。」


直哉は、俺のでこにデコピンをしてきた。

当たり前だけど、された場所が痛かった。


「もう、人生なんかクソ喰らえって感じでさ。族にも入ったし・・・とにかく暴れまくったんだよ。でも、ある女と運命的な出会いをしてさ・・・・。アイツだけは俺をかばってくれた。『一緒に頑張ろう』って、言ってくれた・・・。」



静かな公園で、鳥の鳴き声が響いていた。

遠くを見つめる直哉の目には光が無かった。


「なのに、人間って怖いよなぁ〜。一度の失敗で崩れるんだから。いや、俺だけか?ははっ。

とにかく、止めてた薬をまた、始めちゃったんだよね。もち、彼女には秘密で。彼女はめっちゃ俺を心配してくれて、励ましてくれたんだけど・・・・薬は手放せなかった。・・・・・その後、俺らは付き合って、いつプロポーズしようか?ってところまで来たんだよね〜。でもさ、俺って馬鹿だよなぁ。・・・薬を・・・さ、彼女が飲んでる風邪薬の近くに置いちゃってたんだよね・・・。」



話している声はかすれてきた。


「アイツさ・・・。知らずに飲んじゃって・・・。気づいた時には、ゲームオーバー。副作用で、道路に飛び出て・・・・トラックにだってさ・・・。」


その声が耳に入ったとたん、俺は苦しかった。

赤の他人の俺が、こんなにショックを受けるなら、直哉はどれだけ苦しんで、どれだけ泣いたんだろう?



「・・・・・あとで、彼女のお母さんから聞いたんだけどよ・・・。アイツ、妊娠してたんだって。もちろん、俺の子供。・・・・・・いっぺんに、二人も失ったんだ。」



俺の頭に、水が落ちてくる。

俺は何も言わなかった。

何も言えなかった。




「ボーズ、10分だけ俺の胸かしちゃる。思いっきり泣け。」


泣きたいのはお前の方だろ。って、言ってやりたかったが、無理やり胸を押し付けられ何も言えれなかった。


直哉が泣いてるのを気づかないことにしてやってるだけなんだからな。

俺が好きでお前の胸で泣いてるんじゃないからな。


心の中でそう思いながら、俺は流し続けた。







周りが明るくなって、俺らはようやく泣きやんだ。


「これ、やる。俺様、愛用の煙草だ。薬よか、よっぽど心にしみるぜ。肺にもだけど・・・。」


俺に向かって差し出された手の上には、新品の煙草が乗っていた。


【薬は止めろ】


そういう意味だろうケド、嫌な感じはしなかった。


「もらっといてやろう。」


俺がそういうと、直哉は血管を浮かび上がらせた。



「・・・・明日も・・・・ココにいるか?」


俺がそういうと、直哉が一瞬驚いたような顔をして、笑った。


「ああ。来てやろう。」


俺の頭をなぜながら、直哉はけらけらと笑った。


「おまっ、可愛いところもあるんじゃねーか。」


その言いぐさにムカついた俺は、直哉の手をはじいてやった。


「うっせっ!」


けらけら笑っている、直哉を後ろに俺は帰った。



見慣れた町はいつもより光って見えた。












次の夜、直哉が約束を守っているか確かめに公園へ向かった。



『よう。ボーズ。いい夜だな。』


と、言ってくれると思ってた人はまだいなかった。


その後、いくら待っても来なかった。

毎日、行っても来なかった。



直哉とは、もう二度と会うことは無かった。



一度でも、心を許した俺が馬鹿だったんだ・・・。




               *おまけの話 fin*

はい〜。おまけの話やっと、終わりました。

終わりがちょっと悲しげですが、もしかしたら本編に影響するかも・・・?です。


読んでいただきありがとうございました。

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