one hundred seventeenth story
「お前さ、ほんとにガキだよな。」
「うるせっ!ほっとけアホ。」
車の中。
隣には神田が俺にもたれかかって眠っている。
だいぶ泣いたのだろう。目は赤くはれていた。
そっと、神田の髪の毛を一房手に取り指に流す。
サラサラとそれは落ちていった。
俺は、神田をみながらそっと目を閉じた。
病院から帰った時、薄暗いリビングで神田が倒れていて、一瞬怖くなった。
お袋が倒れた時とあまりにも似ていて。
すごく不安だった。
『りゅ・・・うざき・・・・』
横たわっている神田から、弱々しい声がした。
その声でわれに返り、そっと、カンダに触れてみた。
その体は、氷のように冷え切っていた。
ばっかじゃねえの・・・・。
いつからここに居たんだよ・・・。
俺は急いで神田を俺の部屋のベットに寝かした。
ストーブも、エアコンも入れた。
青かった神田の顔は徐々に戻っていった。
そっと、頬に手を触れる。
懐かしい神田の香りが鼻をかすめる。
ゆっくりと、起こさないようにキスをした。
離れたくない。
でも、傷つけたくない。
「どうすりゃぁ、いいんだよ・・・。」
ほとんど声にならない叫びが部屋に響いた。
布団を神田にかけなおすとゆっくり部屋を出た。
あれ以上近くに居たら、自分が制御できなくなってしまいそうだった。
一度壊れたら、もう二度と戻すことは出来ない。
今まで我慢していたものが水の泡になる。
そう、自分に言い聞かせた。
静かな廊下に俺の足音が響く。
冷たい床が、孤独感を更に膨らませた。
冷たい水で顔を洗う。
久しぶりに鏡で自分の顔を見た。
酷い有様だった。
俺にとって、神田がどれほど大きな存在だったか、また思い知らされた。
どたどたと階段を駆け下りる音が聞こえた。
心臓が少し大きく鳴った。
「直也さん!!」
あの声が、響く。
俺はゆっくり、そこに向かった。
「なんで、うちに居たの?」
力なくしゃがみこんでいた神田にそう声をかける。
出来るだけ、低く、鋭い声で。
神田は潤んだ目で俺を見つめながら、何も答えなかった。
もう一度聞いて、神田はゆっくりと答えた。
直也が居なくなった。と。
知ってるよ。
俺はポストの中に入っていた手紙を渡す。
呼んだと言ったけど、本当は読んでなかった。読むのが怖かった。
その手紙を読む神田の傍に居たくなくて、また洗面所へとむかう。
暫くして神田がテガミを俺に押し付けに来た。
「龍崎は・・読んだの?これ。」
「・・・・ああ。」
「じゃぁ、何でここに居るの?」
「・・・・・・・・」
「直也さん、どっかに行っちゃうよ!」
「・・・・みたいだな」
「・・・・・・・っ!?」
頬に鈍い痛みが走る。
「なにっ。それ・・・。龍崎は・・・何を考えてるんだよぉ!!直也さんは家族じゃなかったの?直也さんは、龍崎の大切な人じゃなかったの?!」
俺の型に手を置いて、神田は泣きながら言った。
そうだよ。
アイツは、直也は俺にとってお前と同じぐらい大切だよ。
そう叫びたいのを必死で押さえた。
ふっと笑う。
「なんだよ、それ。意味わかんねぇし。あいつと俺が兄弟?大切な人?そんなこと「違う!!」」
言葉を遮って、神田は大声で叫びだした。
「ほんとは、そんなこと思ってないくせに。今にも寂しくて泣き出しそうなくせに。町中走り回って直也さんを探し出したいくせに。分かってるよ!もう、隠そうとしたって無駄なんだから!」
「・・・私にはわかるんだから・・・。」
ボソッと呟く声が聞き取れた。
その言葉が胸に刺さる。
「・・・・・・・」
俺は黙っていた。
・・・・言葉が出なかった。
「ねぇ、何を考えてるの?何がそんなに不安なの?何におびえてるの?」
そっと、神田の手が伸びて触れる。
懐かしい感触に、制御が効かなくなりそうになるのを必死で我慢した。
「龍崎、ごめんね?」
神田が俺をゆっくり抱きしめる。
「話さなくてもいい。龍崎が私と居ない方が楽なら、私は龍崎の近くにはもう、二度と行かない。でもね、直也さんは違うんだよ。」
ちがう。そんなんじゃない・・・。
そっと神田が離れていくのを感じた。
じっと、神田の目は俺を捕らえていた。
全て見透かすような瞳に目が離せなくなった。
「直也さんは龍崎の大切な人なんだよ。」
視界が潤んだと思ったら、すでに頬に流れていた。
俺はそれをふけなかった。
「じゃぁね。」
それだけ言って、神田は玄関へと向かった。
「あとね、龍崎のお父さんに会ったよ。」
玄関のドアノブに手をかけながら神田は言った。
俺のほうを振り向かずに。
「話、聞いて上げて。絶対に。最初は憎しみが収まらないかもしれない。でも、いつかは消えていくから。」
神田は一息置いて
「チャンスをあげてよ。」
そう言った。
その言葉は、俺に向けてもいいのか?
「うん。最後の頼みだよ。お父さんの話を聞いて上げて。」
玄関のドアを開けて、神田は手をひらひらと振った。
そして、ばたんとドアが閉まり、神田は消えた。
一気に部屋が暗くなった。
俺は止まらない涙をそのままに、足元に落ちた手紙を拾った。
ゆっくりと二つに折れたそれを開き、読んだ。
手紙がカサッと床に落ちた。
俺は必死で携帯を探す。
何度か堅いものをけった。
机の上に携帯を見つけ、焦りながら直也の番号を押す。
しばらくベルがなる。
5回、6回、7回、・・・・・10回。。
早く出ろよ・・・・。
ブッ
『もしもし「お前、今どこだよ!?」
俺は直也が話す前に怒鳴った。
『どこって・・・・・・・まぁ、色々?』
ぎゅっと手を握る。
つめが刺さって痛かった。
「戻ってこいよ・・・・。」
「お前の居場所はここなんだよ!!!!」
しばらくの沈黙が続いて、直也はいきなり笑った。
『おう、戻るわ。』
なんだかかすれて聞こえたのは気のせいか?
その言葉に安心したのか、俺は必死で神田のことも言った。
どうすればいいのか。
自分が何を言ってるのかも分からなかった。
『お前がやりたいようにやれよ。』
少し落ち着いた声で言った。
『今か先のこと考えてたって、どうなるかわかんないだろ?それに、今、奈緒ちゃん幸せそうか?』
浮かぶのは神田の泣き顔だけ。
「・・・・・探してくる。」
俺はそういうと、走って外へでた。
真っ暗で、目が慣れず、なんどか人にぶつかった。
必死に走り回る。
神田に似ている人を見つけては声をかけて、また走り出す。
居ない・・・。
どこに居るんだよ!!
「馨!」
赤いスポーツカーから声がした。
直也だった。
「馨、こっちに奈緒ちゃん居た!!早く乗れ!」
スポーツカーに乗り込むと、俺は貧乏ゆすりしながら車が止まるのをまった。
ふと、窓を見ると、ベンチに座り込む神田を見つけた。
まだ止まりきらない車を飛び降りて、走った。
直也が何か言っていた。
ここら辺は、危ない奴多いのに・・・。
俺は神田を抱きしめた。
懐かしい匂いだった。
懐かしい温かさだった。
俺が必要としている人だった。
「・・・っ・・・・・馨!」
直也に起こされた。
どうやら家に着いたみたいだった。
というか、寝てたみたいだった。
横を見ると、神田がまだ静かに寝息を立てていた。
旅行に言ってましたぁぁぁぁ!!
なんか、カイソウに挑戦してみたんですが・・・難しい。。。です。