one hundred tenth story 優しい人
「・・・・・みちる・・?」
私はペンダントを見ながら呟く。
みちるって・・・、誰だろう?
・・・・・、思い返してみれば、直哉さんのこと・・・あんまり知らないや・・・。
直哉さんもあんまり話さなかったし、私もそこまで聞こうって思ってなかったから。
でも、今は気になる。
みちるって・・・、誰だろう?
「・・・まだ居たんだ?・・・・・それ・・・、気になる?」
「っうあっ?!」
いきなり後ろから声がした。
それはとても予想外なことで、私は自分でも意味の分からない声を出した。
振り向くと、いなくなったはずの直哉さんがいた。
いつもの優しい笑顔を浮かべて。
でもね・・・、駄目だよ。
私には、わかるんだ。
直哉さんはとても悲しんでる。自分を責めてる。
顔に出して無くても、私にはわかるんだ。
「春日 満。俺の・・・・愛する人。・・・いや、だった人。」
そっと私の手からペンダントを取ると、ほられた文字をいとおしそうに指でなぜる直哉さん。
とても・・・・、とても辛そうだった。
「俺さ・・・、薬、やってたんだよね。・・・・・。」
直哉さんの話は、そこから始まった。
薬にはまってたこと。
満サンにあったこと。
満さんが大好きだったこと。
付き合ってから、また薬をはじめてしまったこと。
そして・・・、
満サンと、子どもを殺してしまったと悔やんでること。
直哉さんは、その話をしてる間、まっすぐにペンダントの中で笑う満さんを見ていた。
泣くことも無く、操られているかのように淡々と話してくれた。
「なおや・・・さん・・。」
そんな直哉さんの話を聞いて、私だけがボロボロ泣いていた。
「でも・・・、龍崎に声をかけたのは・・・・、きっと、仲間を探したかっただけだったかもしんねぇ・・・。」
初めてペンダントから目を離して、私に悲しそうな顔で笑いかけた。
「奈緒ちゃんは、俺を優しいって思ってるかもだけど、・・・・違うよ?
・・・・・・俺も・・・、人間なんだよ。」
最後に、直哉さんは私に悲しい笑みを向けた。
その顔を見たとたん、私の中で何かがはち切れた。
「そんなこと無い!!」
がしっと、直哉さんのエプロンを握って、ぐらぐら揺らす。
私は出るがままに叫んだ。
「直哉さんはめっちゃ良い人だよ!仲間見つけたくて、声かけたとしても・・・、龍崎は直哉さんに救われたんだから!!」
「それに・・・、直哉さんは、いつも私を助けてくれたじゃん・・・。私を助けたって・・・、メリットなんか無いのに・・・。」
「・・・・・、直哉さんは・・・、優しい人なんだよ・・・。」
私は、ゆっくりエプロンから手を離す。
もう泣きすぎて、前が見えない。
「・・・・・・ありがとう、奈緒ちゃん・・・。そういってくれたのは・・・、満以来だよ・・・。」
直哉さんの大きな手が、私の頭に乗る。
そっと直哉さんの顔を覗いてみると、優しい顔で笑っていた。
そして、私を、誰かと重ねあわしたかのように、愛しそうに見ていた。
「満さんって・・・、良い人だね・・。」
「ああ。」
私は、涙を拭いてぱちんと自分の頬を叩く。
「直哉さん!私・・・、龍崎と仲直りしたい!頑張ってみるよ。」
ピースを前に突き出す。
「それに、龍崎のさっきの言葉・・・・・本心じゃないよ?龍崎は、直哉さんが大好きなんだから!」
ねっ?っと、私が笑いかけると、直哉さんはクスッと笑った。
「ありがとう。俺は、奈緒ちゃんの味方だからね。」
直哉さんは私のピースに自分のピースを重ねあわした。
「フフッ。じゃぁ、病院に行って来る!直哉さんはゆっくりしてて!」
私は、直哉さんに手をふって、龍崎の家を飛び出した。
もしかしたら、龍崎も病院にいるかもしれない。
それに、龍崎のお母さんの具合も気になる・・・。
私は溶け出している雪の上を、走った。