one hundred fourth story
そこに立っていたのは、田上 恵里と吉野 優香だった。
吉野は俺の視線に気づくと、にこやかに笑った。
うわべだけの顔で、にこやかに。
「・・・・、こんにちわ。龍崎君。・・・、屋上で昼寝なんて・・、気持ちよさそうね。」
っ?!
吉野の顔つきが変わった。
一歩づつ、ゆっくりと、俺に近づいてくる。
「優香。・・・、私が聞くから。・・・・らしくないよ?」
後、5歩にまで俺と吉野の距離が縮まった時、田上が吉野の腕を掴み動きを止める。
吉野は一つため息をつき、ごめんと言った。
「ねぇ馨君?・・・、奈緒を振ったって本当?」
やっぱり、そのことかよ。
俺を見る目から、その態度から、大体は分かっていた。
でも、そう率直に聞かれるとつらいものがあった。
《振った》という言葉が俺の全身をちくちくと刺していく。
まるで、茨の中に飛び込んだかのように。
「聞いてる?てか、本当なのは分かってるけど・・・、なんで?」
気がつけば、田上は俺の目の前に居た。
どうやら、意識が飛んでたようだ。
「関係ないだろ。」
俺は立ち上がって、ドアの方へと歩き出そうと足を上げた。
「待ってよ」
田上が俺の腕を掴んだ。
「関係なくなんか・・、無いんだから・・。だって、私と奈緒は「友達。とでも言うつもりか?くだらねぇ。」
俺は田上の言葉を遮っていった。
田上と吉野は目を見開いて、俺を見る。
「ワリィけど、俺もそんなに暇じゃないんだ。お前らのくだらない友達ごっこに付き合ってやる時間は。他を当たってくれ。」
鼻で少し笑って、俺は歩き出した。
何言ってんだろ。・・・俺は。
「・・・、何がそんなに不安なの?」
「!?」
急に聞こえた声に振り向くと、さっきまで黙っていた吉野が睨んでいた。
「何に対しておびえてるの?」
冷たい、まっすぐな目で俺を睨む。
そのまっすぐさは、誰かを思い出させた。
「何に逃げてるの?・・・奈緒と別れるまでしなきゃいけないこと?」
不安?
怯え?
逃げる?
「ぅるせぇな・・・。ほっとけ!!」
「奈緒は、私達があんたを怒りに行くって言った時・・・、なんていったと思う?」
うるさいうるさいうるさいうるさい
今、神田の名前を出すな。
壊れるんだよ
何もかもが。
「黙れ!」
「龍崎は何か悲しんでるの。怖がってるの。だから龍崎は悪くない!!」
「黙れっ!」
「あんたは・・・、奈緒のことが好きだったじゃない!!」
・・・・黙れよ・・・。
もう、限界なんだよ。
何もかも・・・・。
「・・・アイツは・・、俺と居ない方がいい。俺は・・・絶対いつか・・・アイツを・・・・っ。」
『お前のお袋、それで精神病になって入院してんだろ!』
『親父は不倫中!』
『親がそんなんだから、お前も将来そうなるんじゃねぇの!?』
ぎゅっと、自分の腕を掴む。
壊れそうになる自分を必死で守る。
・・・俺は、自分を守ることで精一杯なんだ。
でも、それすらも・・・・満足にできていない。
俺に・・・・資格は無いんだ。
「・・・フッ・・・、言っただろ?お友達ごっこは他でやれって。それに、俺はあんな奴・・・・嫌いだ。」
俺はそうとだけ言って、屋上を後にした。
あいつらは、何も言ってこなかった。
「そんな顔して・・・、何が嫌いだ、よ・・・。」
吉野がそう呟いてることを、知らなかった。
また、雪が降り始めていた。
この雪が、俺の中からあいつの存在を消してくれればいいのに・・・。
そう思ったけど、それはやっぱりつらかった。
白に染め上げられていく町並みを、俺は進みだした。