ninety nine story
「ああ。」
峯元が影の方から俺のほうに向かって歩いてきた。
「なに?まだ文句あんの?」
俺がそういうと、峯元はズボンの端をぎゅっと握って俺を睨み返した。
「・・・俺は・・・、神田が好きだ。」
そう、力強く言ってくる峯元に少し驚いた。
でも・・・、俺だって・・・。
「だから・・・・・?」
「きっと・・、
絶対俺のほうが好きなんだ・・・。だから・・・、別れろ。」
峯元はそういって、俺を睨んでくる。
その姿に、無性に腹が立った。
「誰が、俺より神田がすきだって?そんなの、何でお前が分かるんだよ。」
俺のほうが・・・・。
コブシに力を入れて、何とか理性を保つ。
「俺は、中学校の時から神田が好きだった!!だから、すっげ、勉強して、同じ高校に入ったんだよ!!」
俺の胸元を掴む。
俺はそれを軽くはずして峯元を押し、距離をとった。
なんだよ。それ・・・、
「時間かよ。んなん、そいつとであった時が違うんだからカンケーねーだろ!!」
峯元が詰まる。
「それに、なんだよ。そんなに好きだったんなら、さっさと告白しとけばよかったんじゃねぇの!?恥ずかしいからって、告白せずにいたお前が、人のことグチグチ言えんのかよ!!」
殴りかかりそうになった手を止めて、俺は怒鳴った。
図星なのだろう。
峯元の顔は赤くなっていった。
「・・・・・・、うるさい・・・。お前だって・・・
お袋と親父の喧嘩で拗ねてグレテタガキのくせに!!」
―――――はっ?
「お前のお袋、それで精神病になって入院してんだろ!で、親父は不倫中!親がそんなんだから、お前も将来そうなるんじゃねぇの!?」
俺の中で何かが音をたてて切れた。
「不倫して・・・、精神病にかかって・・・ッ!!」
気がついたら、峯元は地面に倒れていた。
頬が、赤くなっていた。
イッテッと、もがく峯元の上に俺が乗りかかる。
自分で自分の制御が効かなくなった。
殴ろうと腕を上げた。
「リュウザキィィィ!!」
俺の手がぴたっと止まる。
・・・・・・・、何してんだ・・・、俺は。
自分が自分に戻った気がした。
「ヒィッ!!」
峯元が俺のしたから逃げて、壁にぶつかる。
「ごめん。」
声の主、神田は俺の隣へ来て手を握り、そう一言謝った。
そして峯元に近寄った。
「かっ・・・、神田・・・。あいつ・・・、やばいぞ・・・。」
峯元は神田の手を掴んで必死に訴えた。
・・・、でも・・・、本当に俺ヤバイな・・・。
神田も、愛想尽かしたかもしんねぇ・・・。
パシンッ
周りに乾いた音が響く。
「ありえないよ。」
神田が峯元に向かって呟く。
助けられると思ってたのだろう。峯元は目を丸くして神田を見ていた。
「意味分かんない。親とかで好きな人とか制限されなきゃなんないの?」
「龍崎がつらい思いしてたら、私は龍崎を好きになっちゃいけないの?」
「龍崎のお母さんだって、あんたが言うような弱い人じゃない。自分がどんな状況になったって、息子を心配する優しい人なんだよ!お父さんだって・・・、きっと・・・。だから、あんたがけなしていい人じゃない!!」
峯元が涙をこぼす。
それが、悲しみからなのか、神田の言葉が響いたからなのかは分からない。
「・・・・・、でも、峯元が私を好きでいてくれてたのは嬉しい。・・・・ありがとう。でも、私は龍崎が好きなんだ。ごめん。」
そういって神田は峯元に背を向け、俺のほうに歩いてくる。
神田は泣いていた。
峯元は神田の背中を少し見つめ、涙をふき取ってどこかへ行った。
まだ立ち尽くす俺を、神田が抱きしめた。
「ごめんね。ごめんね。」
俺の胸に顔を埋めて、神田は何度もそう呟いた。
俺も、いつからなのか、涙が出ていた。